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津軽海峡Xレーダー事情【沖縄・岩国の陰で着々と】―「東京新聞」特報
http://www.asyura2.com/0601/senkyo20/msg/619.html
投稿者 天木ファン 日時 2006 年 3 月 24 日 11:48:25: 2nLReFHhGZ7P6
 

◇津軽海峡Xレーダー事情

 普天間飛行場移転をめぐり、沖縄に視線が集まる中、国内に米軍の再編を担うもう一つの拠点がある。米軍がミサイル防衛(MD)構想で早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」設置方針を決めた青森県つがる市だ。「飛んでくる鉄砲の弾を弾丸で撃ち落とすようなもの」とやゆされる構想に揺れる“津軽海峡レーダー事情”とは。 (坂本充孝)

 「あんまり、わしらあをバカにしていないか!」

 二十二日午後、青森県つがる市の富萢(とみやち)公民館に怒気を含んだ声が響いた。集まったのは周辺地区町内会の役員たち約九十人。防衛庁や仙台防衛施設局の幹部らが「国防のために、どうか皆さんのご理解を賜りたい」と繰り返す中、「なぜ車力なのか」「漁民が電波を毎日浴びても大丈夫か」と質問が浴びせられた。

 津軽平野の最西端に位置し、日本海に面するつがる市車力地区(旧車力村)は砂地を利用したメロンの栽培で有名な静かな農村。車力漁港ではイカなどの水揚げが多く、漁業で生計を立てる人も少なくない。遠くに秀麗な岩木山も見えるのどかな土地だ。しかし一九八〇年に航空自衛隊車力分屯基地が設置されて以来、住民たちは、嫌でも「国防」を意識させられてきた。

 「畑仕事をしていると三沢の基地から爆音を立てて戦闘機が飛んでくる。すると基地の中で『ウィーン、ウィーン』とサイレンが鳴ってレーダーが立ち上がるのよ。訓練なのか。よくは知らんが、そのたびに恐ろしい気持ちにさせられるよ」と七十代の農業男性。

 防衛施設庁は今月三日、この基地にさらに米軍早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」を設置する計画を発表した。青森県は住民投票を実施しない方針を表明。不安感を募らせた住民たちは「車力Xバンド設置反対住民の会」(会長・成田昭三富萢町内会長)を結成し、住民説明会のたびたびの開催を要望してきた。

 ところで「Xバンドレーダー」とは何か。米軍が新たに開発したレーダーシステムで、米国本土以外の同盟国・友好国に飛来する弾道ミサイルを探知、追尾することを目的とする。三十トン前後のコンテナユニット構成で簡単に移動が可能。前方の特定の範囲で電波を放射する点などが特徴だ。今夏以降に車力に設置する予定のユニットは、主に北朝鮮、中国からから飛んで来るミサイルを想定し警戒するという。

 住民らは、強力な電波の住民への影響や、農産物、水産物への風評被害に加え「車力が敵国ミサイルの標的にならないか。米軍の駐留による治安の乱れも考えられる」と不安を募らせる。

 防衛施設庁側は「Xとはいってもレントゲンとは違って安全。設置はむしろ日本への攻撃の抑止となる」と説明し、治安不安にはこう強調した。「米軍に強く規律保持を申し入れる。相談員として防衛施設庁職員を常駐させる」

 富萢町内会役員の鳴海光夫さん(76)はこう語気を強めた。「ハナから決まっていた計画を発表直前まで住民には知らせず、期限までに押し切ろうとしている。住民をなめて、高をくくっていたとしか思えない」

 日本が米国の推進するMDシステムの導入を閣議決定したのは二〇〇三年末。〇六年度末の配備開始を目指しており、Xバンドレーダーは重要な役割を担うことになる。

 ところでなぜ青森県なのか。「一九九八年に北朝鮮から発射された弾道ミサイル・テポドンが、東北地方上空を飛び越え、三陸沖に着弾した。北朝鮮が弾道ミサイルを米国方向に発射する場合、今のところ真東に向けて撃つ技術しかない。このため次回以降の発射に備え、青森を選んだとみられる」と軍事評論家の神浦元彰氏は推測する。

 Xバンドレーダーが米軍施設ではなく、航空自衛隊の基地に設置されることにも重大な意味がある。

 軍事評論家の稲垣治氏は「これまでは自衛隊が対潜哨戒機P3Cで得た潜水艦情報を米軍に提供するという形の協力関係だったが、これからは自衛隊と米軍が机を並べて作業をするというイメージ。“日米両軍”を効率的に統合運用していこうというトランスフォーメーション(再編)の一環」と指摘する。

 しかし、日米両軍の一体化は“住民が米軍と一体化”してしまうという危うさをもはらむ。「MDは迎撃ミサイルだけでなく、レーダーとセットになって初めて意味をもつ。だから“敵”はレーダーを標的にしようとする」と稲垣氏。そこに住民の不安がある。

 MDは日本の安全保障政策の根本原則をも揺るがしかねない。自衛隊法は迎撃対象を「現に日本に飛来する弾道ミサイル等」に限定しているが、それを識別するのは極めて困難で、着弾点が予測できないミサイルを撃ち落とした場合、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に当たる可能性があるからだ。

 前出の神浦氏は「発射されたミサイルは真上に上昇し、途中から東に向きを変える。高度や曲がる角度でどこに向かっているかは判断できるが、仮に北朝鮮からミサイルが発射された場合、日本に着弾するまで十分程度しかない。日本向けのミサイルは迎撃して、米国のグアムに向かうものには手を出さないという撃ち分けの判断など事実上不可能だ」と疑問を投げ掛ける。

 ■集団的自衛権議論ないまま

 青森県議会の渡辺英彦県議(社民・農県民連代表)は「住民が懸念しているレーダーの人体や環境への影響について、住民の不安は何ら解消されていない。それでもゴリ押ししようとする米軍と日本政府のやり方に不信感をもっている」と語気を強める。

 神浦氏も課題を積み残したまま突っ走ることに強い懸念を示す。

 「集団的自衛権の行使をどうクリアするかという憲法上の疑念も国会で論議されないままXバンドレーダーの設置、MDの運用に進んでいけば、日本はますます米軍の戦略拠点になっていく」

 昨年十月末の米軍再編中間報告によると、日本側は今月末までに「地元との調整を完了する」ことを求められている。

 「沖縄や岩国のように反対の声を上げないから青森が甘くみられたんだ」と渡辺県議は怒りを隠さない。

 防衛庁側は二十四日には青森県議会の全員協議会で説明を行い、二十五日にはつがる市全体の住民を対象にした説明会を開き、理解を求めていくという。「反対住民の会」の成田会長は「まだ説明は十分ではない。さらに要望書などを提出していきたい」と話す。

 車力地区出身の白戸勝茂・つがる市議会議員はこう今後の運動姿勢を示した。

 「定期的な健康診断を実施してもらうとか、条件面を煮詰めたい。要望が通らなければ署名運動もある」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060324/mng_____tokuho__000.shtml

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