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【誤記修正版】[暴政]日本の「格差社会の拡大」を助長する「情報の非対象性」の問題
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投稿者 鷹眼乃見物 日時 2006 年 3 月 16 日 06:42:55: YqqS.BdzuYk56
 

【誤記修正版】[暴政]日本の「格差社会の拡大」を助長する「情報の非対象性」の問題

<注>この記事は「 2004.5.18付・ベスのひとりごと(New Ser.)『情報の対象性』と『情報処理』という言葉の軽さ」をリメイクしたものです。

  2006年3月13日に読売新聞が発表した世論調査の結果によると“所得等の格差が広がりつつあると思う人は、計81%に達した”ということです。一方、同じ読売新聞社が11、12の両日に実施した全国世論調査によると、小泉内閣の支持率は54.9%で、2月の前回調査に比べ、1.4ポイント増えたそうです。これらの調査が正しく行われたことを前提とすれば、この二つの結果から、日本国民の意識の中には明らかに大きな矛盾(ルサンチマンが炎上する可能性を秘めた情念の塊/http://learning.xrea.jp/%A5%EB%A5%B5%A5%F3%A5%C1%A5%DE%A5%F3.html)が潜んでいることが分かります。それは、小泉政権が“ヘタレB層”と定義する人々を中心とする経済的に圧迫されているはずの大多数の人々が、“自分たちをそのような困難に追い込んだ当事者である、その肝心の国会議員たちに高い支持を与える一方で、必要以上の高給を食みながら国会議員たちと癒着してきた高給官僚たちを崇め奉る”という矛盾した意識です。そこで、我われは、このような『格差の受け止め方に関する国民一般の矛盾した意識』の根本原因が何処にあるのかを十分考える必要があります。そこで浮上するのが日本社会における「情報の非対象性」という問題です。この傾向は何処の国でも見られますが、特に日本の深刻な特殊事情が考えられます。

  同じく、2006年3月11日の読売新聞によると、自民党の久間総務会長は、この3月11日に東京都立川市内で講演した時、次のようなことを話しています。・・・『官民格差をなくせ』と言って官を叩いて一番困るのは国民自身だ。公務員は中間よりも上の連中(人材)を使わなければならない。だから、官民格差はあって当たり前ではないか。自衛隊や警察官などが危険な仕事をして、ほとんど格差がないなら彼らは民間に行ってしまう。・・・これは聞き様によっては、権力者たる政治家から国民に対する“恫喝”です。なぜなら、基本的な立場の違いから見れば、政治権力者たる国会議員・官憲(およびマスメディア)は一般国民に対し「情報力」(情報収集力・保持力)で有利な立場に立つのは当たり前だからです。このことを意識的に無視して、権力者たる与党国会議員が一般社会における格差論まで肯定するかのような言説を意図的に発するのは「国民に対する恫喝」以外の何物でもありません。そして、明らかにこれは“公正な情報の収集・評価に消極的で右往左往するばかりのヘタレB層らを含む多くの気弱な国民”(参照、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060312)をターゲットにした発言だと思われます。

 ところで、「物理学の視点」で経済学を実証的に研究する「経済物理学」という新しい学問分野があります。この新たなアプローチである「経済物理学」の研究が三つの結論を出しており、それは従来型の「経済理論上の常識」に疑問を呈しています。[出典:2003.1.30/日本経済新聞/経済教室/ソニー・コンピュータサイエンス研究所、シニア・リサーチャー・高安秀樹氏]

(1)「情報の対象性」を前提とする「完全競争市場」と「一物一価の法則」は現実的に成立し得ない。

(2)市場における「需要と供給の安定均衡」という概念も否定される。需要と供給が釣り合った状態とは、例えれば、それは「100℃の水」のようなもので、そこでは均衡するどころか“潜熱”によって予測不能の“ゆらぎ”現象が起こりやすく、最も不安定な状態になっている。

(3)金融工学の有効性の拠り所となってきた、「無裁定条件」を小さくできるという考え方は成立し得ない。

<注>経済物理学の目的は、経済世界の価格変動や価格の暴落などの現象について、物理学が培った多様な概念・解析手法などを使って、それらの法則性を解き明かし、従来の経済学や金融工学の弱点を補完することにある。日本における当分野の先駆者は高安秀樹氏である(http://info.linkclub.or.jp/nl/2002_06/digital/)。また、下記(★)は世界最初の経済物理学のテキストとして注目されている。
★Mantegna&Stanley著、中嶋眞澄訳『経済物理学入門、ファイナンスにおける相関と複雑性』(2000年・刊、エコノミスト社)

<注>「無裁定条件」とは、リスクをとることなく利益を稼ぐ(即ち、裁定の機会がある) ことはあり得ないと いう命題である。なお、高度な金融工学的手法を使ってマーケット分析を行ったり、投資戦略や金融商品を考案・開発する専門家をクオンツ(Quants/http://www.nomura.co.jp/terms/japan/ku/kuontsu.html)と呼ぶが、大学でのポジションを捨てたクオンツ、エマニュエル・ダーマンの自伝(下記★)は、従来型の金融工学で市場の動きを完全にモデル化することが絶望的であることを赤裸々に告白している。
★Emanuel Derman著/森谷 博之 監訳『物理学者、ウォール街を往く、クオンツへの転進』(2005年・刊、東洋経済新報社)

 特に重要なのは(1)と(2)です。伝統的なミクロ経済学は“完全な情報”を活用して市場に参加する供給サイドと需要サイドを想定しており、そこで需要者は“あらゆる選択肢”の中から“最適な行動を選択”するという、いわば「合理的経済人による合理的選択」を前提としてきました。しかし、この仮説が成立するための大前提である「情報の対象性」、つまり供給側と需要側が全く同じ情報(それ故に情報の“対象性”と呼ぶ)を持って均衡するということが「経済物理学」によって否定された訳です。伝統的な経済学の理論では“あり得ないとされてきた選択”が現実の経済では起こっていることが経済物理学によって明らかにされたのです。また、もう一つの新しい経済学研究の分野に「行動経済学」がありますが、これは、時と場所が異なれば人間の思考や態度は変わり得るという、人間行動の非合理性を前提とした新しい経済学の分野です。これはカール・ポランニーの経済人類学(http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060227)への親近性と市場原理主義への批判力となる可能性を窺わせます。なお、このような「非合理な需要者の行動」を分析する「行動経済学」を提唱したプリンストン大学のカーネマン教授は2002年度のノーベル経済学賞を受賞しています。[2003.1.31/日本経済新聞/経済教室/一橋大学助教授・三隅隆司氏]

  また、生物学者・清水博氏が著書『生命を捕えなおす』(中公新書)で「情報」に関するユニークな見方を紹介しています。清水氏は、まず、これからの科学は「人間そのものを含めて“生きている自然”とは何かを明らかにすべき」だと言います。今までの科学は、“生きている自然”の材料、すなわち生命のハードウエアとしての素材の性質を解明してきました。しかし、これからは発想を逆転させ、その生命のソフトウエア、すなわち“生きたままの自然の仕組み”を明らかにすることが大切だと言うのです。清水氏によると、“生きたままの自然”は、どうやらエネルギーよりも「情報」の影響の方をより大きく受けているようです。近年の医学分野で強く意識されつつあることですが、病気や怪我の治療が、より効果をあげるためには局所的・部分的治療だけでなく、その個体が置かれる環境条件や全身体的な条件を視野に入れるべきだと言われるようになっています。一例をあげると、人間には792の筋がありますが、仮に骨折した足首をリハビリで動かそうとするような場合には、ほんの少しでも身体を動かそうとすると全身の関節と792の筋が全てかかわる“協働の仕事”が行われることになるのです。この場合、関節や筋を動かすためのエネルギーが必要であることは当然ですが、より重要なのが全身に隈なく“協働の指令”を伝える「情報」の役割です(これは、かつて骨折・入院したことがある鷹眼乃見物の経験的な自覚でもあります)。

  コンピュータの発明にかかわった重要な数学者であるチューリング(A.M.Turing/1912-54/イギリス出身の数学者/ケンブリッジを経てアメリカ・プリンストン大学で活躍し、電算機による計算理論の基礎づけに貢献した)が唱えた「チューリングの仮説」というものがあります。チューリングは、生物の発生・分化の初期の段階で植物や動物の形が少しづつ決まっていく時に、モルホジェンという誘導物質が存在し、それが動植物の形の形成にかかわっていると仮説したのです。この時、生物の体内の各所には一定の「秩序の場」がつくられているはずで、各細胞はモルホジェンがつくる「位置の情報」によって「協働的な作業」を行っているらしいのです。いずれにしても、「情報」には従来の科学が得意としてきた要素還元主義的な考え方だけで割り切ることができない「価値の世界」が付き纏っているようです。一方、シャノンの情報理論による「情報」の定義は電気的に信号化されたデジタル・ビット数の「情報」であり、これは「価値の世界」とは無関係です。現在のコンピュータ技術にかかわる「情報」は基本的にはシャノンの定義による「情報」です。従って、「情報リテラシー」「情報技術」「情報管理」「情報処理」などが想定する「情報」はシャノンの定義に従うものです。しかし人間・生物・細胞など何らかの“生命”が、あることがらを「情報」として受け取る場合には、必ず受け取る側の“生命”の内側で生理的・戦略的・功利的・感覚的・美的などの価値判断が行われているはずです。従って、このような生命現象にかかわる「情報」と現在のコンピュータ技術にかかわる「情報」との間には大きな溝が存在するのです。

  このような溝を乗り越えるため、例えば「情報」という言葉の二つの語源、すなわちインフォメーション(一般的な知識としての情報)とインテリジェンス(ある目的に役立つ情報/功利的で有効な知恵情報)を意識的に区別しつつ「情報」を受け取り、処理するという「経営情報管理」などの手法が色々と考案されています。しかし、これも情報量が膨大になった場合やターゲットを見失った途端に、結局はシャノンの定義に飲み込まれてしまいます。また、医療の最先端では、このような“価値の世界”と“無価値の世界”の間の「情報の大きな溝」が深刻な問題を投げかけています。それは、要素還元主義的なバイオ技術の最先端に立つ「人間の遺伝子解読」の問題です。今や遺伝子を解読する研究がかなり進み、人間についても相当のところまで解明されています。ガン・心臓病あるいは関節リウマチなどいくつかの病気をもたらす遺伝子が特定できるようになっています。

  今、アイスランドでは、家系図をもとに何世代か前まで遡り病気と遺伝子の関係を調べることで特定の病気の遺伝子を解明できるという発想で、家系図と血液を集めて分析する試みが行われています。アイスランドは人口の移動が少ないので、約1,000年前のバイキングの時代まで遡る家系図が容易に入手出来ます。このため、血縁関係・遺伝子・病気の関係を解明し易い条件にあることに目をつけたアメリカの民間研究所(アメリカのデコード・ジェネティクス社(deCODE genetics/http://www.decode.com/)が、全国民の遺伝子情報を集めて、その特異性を分析・解明するプロジェクトに着手しています。すでに全国民27万人の内1.3万人分の遺伝子と数万世帯分の家系図が集めらています(2003年の時点)。アイスランド政府の保健担当部局では、このプロジェクトにより国民医療費の相当部分を削減できるという“合理的な判断”を下しています。ところが、一方で、ある病気にかかりやすい遺伝子は、一定の環境条件の下では別の障害に対する免疫として有効に働く可能性をもっていることが明らかになりつつあります。『人間の遺伝子を解明し、老化の原因を取除き、病気をもたらす遺伝子を排除する遺伝子操作を行って病気を無くし、病人や障害者介護などの社会的負担を減らすことができれば人間は幸福になる』という考えは、どうやら“現在の人間の浅知恵”に終わりそうな気配です。従って、今求められるのは、一刻も早く、人間も自然の一部であるという謙虚な考えを取り戻し、そのような分野での役割を担うべきものとして「情報」の役割を再定義することです。なお、アイスランドの遺伝子解析では、アイスランド全国民の遺伝子が「国民健康データベース法」の大義名分の下で商品化される可能性が懸念されています(『人体改造の世紀、第一編:ヒトゲノム編』http://moura.jp/clickjapan/genome/cap1_3/1_3a.html)。

  残念ながら、このような訳で現状のコンピュータ技術レベルでの「情報」は、『記号化された情報』と『生命を含む価値情報』との間の『大きな溝』を埋めることができません。つまり、未だに人間は「人間のための情報化社会」のレベルに到達したとは言えないのです。従って、“今や人類は自由競争原理主義的な観点で情報化技術を活用することによって生命現象を含めた凡ゆる事象の問題解決が可能になった”と考えるのは余りにも浅はかな了見です。しかし、現実には、このように傲慢不遜なイデオロギー(新自由主義思想)が世界で大手を振っています。特に、日本の「小泉=竹中擬装改革政権」は、アメリカ型(シャノン情報万能型)の市場原理主義の「極端な部分」(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E6%94%B9%E9%9D%A9%E8%A6%81%E6%9C%9B%E6%9B%B8))に日本の未来を殆んど全面的に託してしまいました。その結果が、現在の『格差社会の深化』という悲劇的な現象です。そして、このような政治権力サイドの傲慢・不遜なスタンスの中から出てきたのが、冒頭で述べた自民党の久間総務会長の「(官民)格差是認論」です。しかし、政治家が『権力に対する飽くなき情念と欲望』を抱くと同じように、一般国民の身体の奥深くにも『ルサンチマンの情念』が渦巻いているという現実を忘れるべきではないでしょう。このような意味でも、今の日本では、「政官の権力サイド」と「主権者たる一般国民」の間に深刻な「情報の非対象性」の問題が存在するのです。この意味で日本の民主主義は未だ道半ばなのです。

<参考>官民における「情報の非対象性」の古典的問題=政官による情報毀損・廃棄の問題
・・・これは「日本の貧弱なアーカイブ事情」がもたらす問題であり、簡単に言ってしまえば政官(権力サイド)が都合の悪い情報(公文書等)を毀損・廃棄することによって「政官の格差」(=政官における「情報の非対象性」)を保持しようとする傾向があること。無論、このことが公になれば渦中の「民主党・永田メール問題」どころの騒ぎではないが、現実に発生し続けてきたことであり、これからは起こらぬという保障もない。残念ながら、日本は未だ『アーカイブの重要性に関する認知レベル』の水準が低く、『国家の品格』以前の深刻な問題を抱える国なのである。詳細は下記のブログ記事(★)を参照のこと。
★『toxandoriaの日記、2005-03-07、アーカイブの役割とは何か?(U)』
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20050307

(参考URL)http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/

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