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<日々通信 いまを生きる>  2・26事件と永井荷風、「万世一系」 (風邪をひいて時期遅れになってしまったことども)
http://www.asyura2.com/0601/senkyo20/msg/204.html
投稿者 gataro 日時 2006 年 3 月 07 日 07:58:53: KbIx4LOvH6Ccw
 

>>日々通信 いまを生きる 第196号 2006年3月6日<<
http://tizu.cocolog-nifty.com/heiwa/2006/03/19_2006__d3f3.html

2・26事件と永井荷風、「万世一系」

風邪を引いて頭が重く、通信の発行が遅れている。
2・26事件について書いておきたかったが、それも時期おくれになってしまった。3・1のビキニ、万歳事件なども記念しておきたかったが間に合わない。

2・26事件は70年前の1936年のこと、ビキニは1954年、万歳事件は1919年のことである。

1936年は父の転勤で私が家族とともに北九州から東京へと移転した年だ。九州では2・26事件のことなど子供たちの間で話題になることはなかったが、東京の小学生たちは、地元の事件でもあり、ふとしたときに、阿部貞事件などとともにこの事件のことを話題にした。
東京と九州では子供たちの世界にも落差があった気がする。

1936年はまた、ベルリンオリンピックの年で、はじめてNHKがベルリンからラジオで実況放送した年でもあった。
前畑頑張れというアナウンサーの声を聞いたような気もするがたしかではない。
毎朝、ラジオ体操に行く途中で、開け放った家々の窓から聞こえる緊張したアナウンサーの声を聞いた。

ベルリンではマラソンで朝鮮の孫基禎(ソン・キジョン)選手が1位になり、南 昇龍(ナム・スンリョン)選手が3位になった。いずれも日の丸をつけての入賞だった。

永井荷風が「濹東(ぼくとう)綺譚」を書いたのもこの年だ。「濹東綺譚」は、隣家のラジオがうるさいので、家にいられず、ふらふらと玉ノ井までやってきて、東京の場末の淫売宿のお雪と交情を深めることを記している。

翌年7月の蘆溝橋事件を契機に日本は全面的な対中戦争に入り込んでいき、ラジオの声はますます高くなっていく。
声高に報じられる光り輝く日本にそむいて、日のあたりようもないくらい世界に、わずかに残る人情の世界を探し求めるのが荷風の世界ということなのだろう。

ところでいま、皇位継承の問題をめぐって万世一系の皇統というようなことがいわれて、テレビではしきりに神武以来の天皇の歴史が論じられている。

女系天皇になれば男系の男子で守りつづけられた皇統は廃絶されることになる。天皇の名は残っても実体はなくなるのだからどんなことがあっても女系天皇は許してはならないという意見が次第に強まっている。

男系の男子による万世一系の皇統を守るために側室制度を復活すべきだとか、皇統を受け継ぐ適当な男子をさがしだして愛子様の養子にすべきだとか、いろいろな意見が出ている。

愛子様の結婚をそんなことで決めては人権無視ではないかという意見に対して、天皇家の人々に人権などあるのかとまで言い募る評論家がいる。これが天皇家を大事にするひとの意見だからおかしい。

とにかく万世一系があって人間が無視されるというのが万世一系論者の議論の特徴だ。

万世一系の思想は、昭和天皇の人間宣言とともに廃止されたのではなかったか。
あの時から、天皇家は国民から隔絶した存在でなく、理想的な家庭生活をいとなむ家族として、国民に親愛されることを演出してきて、多くの国民の支持を得ているのだと思う。

それがいま、「万世一系の皇統」などということが強調されて、天皇のありかたに変化が生まれようとしている。親愛される天皇から仰ぎ見る天皇、威圧する天皇へと変わるのではないか。親愛される天皇とすれば女性天皇の誕生は歓迎すべきことなのだろう。それが自然だと思われるのに、男系の男子でなければならないとことさらに力むのはなぜだろう。あいまいな形で天皇制が存続したために厄介な問題が残ったことになる。

万世一系の天皇ということが強調されるのは、天皇の威圧的側面が強調されるときのように思う。

2・26事件の蹶起趣意書も、「謹んで惟るに我が神洲たる所以は万世一系たる 天皇陛下御統帥の下に挙国一体生成化育を遂げ遂に八紘一宇を完うするの国体に存す。」という言葉ではじまっている。

対米英戦争の宣戦の詔勅は、次の言葉ではじまる。

「天佑ヲ保有シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有衆ニ示ス

 朕茲ニ米国及英国ニ対シテ戦ヲ宣ス朕カ陸海将兵ハ全力ヲ奮テ交戦ニ従事シ朕カ百僚有司ハ励精職務ヲ奉行シ朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ尽シ億兆一心国家ノ総力ヲ挙ケテ征戦ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ 」

日清戦争のときは

「天佑ヲ保全シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国皇帝ハ忠実勇武ナル汝有衆ニ示ス

 朕茲ニ清国ニ対シテ戦ヲ宣ス 朕カ百僚有司ハ宜ク朕カ意ヲ体シ陸上ニ海面ニ清国ニ対シテ交戦ノ事ニ従ヒ以テ国家ノ目的ヲ達スルニ努力スヘシ 苟モ国際法ニ戻ラサル限リ各々権能ニ応シテ一切ノ手段ヲ尽スニ於テ必ス遺漏ナカラムコトヲ期セヨ 」

日露戦争は

「天佑ヲ保有シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国皇帝ハ忠実勇武ナル汝有衆ニ示ス

朕茲ニ露国ニ対シテ戦ヲ宣ス朕カ陸海軍ハ宜ク全力ヲ極メテ露国ト交戦ノ事ニ従フヘク朕カ百僚有司ハ宜ク各々其ノ職務ニ率ヒ其ノ権能ニ応シテ国家ノ目的ヲ達スルニ努力スヘシ 凡ソ国際条規ノ範囲ニ於テ一切ノ手段ヲ尽シ遺算ナカラムコトヲ期セヨ 」

日露戦争までは「大日本帝国皇帝」といい、国際法の遵守が強調されているが、対米英戦では自らを「大日本帝国天皇」とよび、国際法についての規定がない。 国際法を無視しても自国中心主義を押し通そうとする傾向が強まったことのあらわれではないだろうか。

それにしても「万世一系」の強調は、日本が世界に類例のない特別な国、「神国」であるということの主張であろう。

戦前の日本が「国体の変革」を取り締まる「治安維持法」で、民主主義思想や平和運動を弾圧したことについては前号で書いた。
これに対して、それは思い過ごしで、「万世一系」思想も決して復古思想と結びつくものではないだろうという意見が【コメント】で述べられた。

たしかに、いま、「万世一系」男系の男子による皇統を主張している人たちも、必ずしもそれを自覚してはいないだろう。
しかし、伝統を必要以上に強調し、日本を「特別な国」であると主張するのは、危険なように思われる。

もしこれが杞憂ならいいのだがと思う。老人はともすれば余計な心配をするものだと笑ってほしい。

私の風邪もそろそろおわりになりそうなものだが、なかなか執拗である。煙草も吸えないし、頭もぼんやりしている。文章ももたついている。おゆるしください。
若い人はもっとさっそうと前向きに行動してほしい。

  伊豆利彦 http://homepage2.nifty.com/tizu
以下を参照していただければ幸いである。

日々通信 第137号 2005年3月1日
  2・26、ビキニ被爆、3・1独立運動
http://homepage2.nifty.com/tizu/tusin/tu@137.htm
日々通信 第92号 2004年2月28日
  二・二六事件のころ
http://homepage2.nifty.com/tizu/tusin/tu@92.htm

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