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教育基本法改正案
お茶の水女子大教授 藤原正彦氏に聞く
大難産の末、自民、公明両党で決着した教育基本法改正案の協議。両党の主張が衝突した「愛国心」をめぐる表現は、結局、双方の顔を立てる「国対的」な妥協で文章がまとまった。しかし、この表現は「教育の憲法」といわれる同法の条文として、ふさわしい内容なのだろうか。ベストセラー「国家の品格」の著者・藤原正彦お茶の水女子大教授の話を聞きながら、読み解いてみたい。 (政治部・新開浩)
――与党で合意した表現をどう評価しますか。
「下手な文章ですね。これじゃあ、事務屋の文章。政治家や役人にはこの程度の作文能力しかないのでしょう。憲法も教育基本法も、直すなら凛(りん)とした格調のある文にしないといけない。やはり、作家が加わらないとダメだと思う」
――具体的に、どこが問題でしょう。
「例えば、『国際社会の平和と発展』なんて、何の意味もない。『自由と民主主義』などというのと同じ。言葉は人に言われすぎると、意味を失う。そういう言葉を使うということは、プロの作家ではありえない」
――文章が長くて、ちょっと難解ですよね。
「前半と後半が、関係がない。全然別の内容になっている」
――問題となった「我が国と郷土を愛する」という表現はどうですか。
「私は『家族、郷土、祖国、人類』の順番で愛を教えるべきだと言っている。真ん中の二つが入っているのは、いいんですが、身近なものから教えるのが教育だから、『国』が『郷土』よりも先に来るのはおかしい」
――公明党は「国を」と「愛する」の間に「郷土」が入ったことで「国と愛を遠ざけられた」と評価している。
「それは気分の問題。政治的な落としどころなんでしょう」
――今回の協議では「国家の品格」で述べられた「祖国愛」が随分取り上げられました。
「私は本で『祖国愛』を自国の文化、伝統、情緒、自然を愛することだと定義したんです。だから、この文でいうと『伝統と文化を尊重』することがまさに『国を愛する』ことなんですよ。内容が重複してしまっている」
――自民、公明両党の議論では「愛国心」をめぐって膨大な時間を費やしました。
「愛国心なんて今すぐ廃語にすべき言葉です。この言葉は明治以来の失敗の最大の原因でしょ。愛国心という言葉には、二つの相反する異質なものが混じっている。一つはナショナリズム。これは国益主義で、他国はどうでもいいという考え方。二つ目はパトリオティズム。つまり祖国愛。これはすべての人間が当たり前に持っていないといけない。でも、戦後の日本は両方を捨てた。それで、今ごろになって、汚い手あかの付いた愛国心という言葉を使おうとしている」
――どういう表現がいいのでしょうか。
「『自国の文化、伝統、情緒、自然をこよなく愛する』。これでいいんです。趣味の問題ですけど。でも、私が首相じゃないから、『書き直せ』というわけにもいきませんしね」
■著書『国家の品格』 論争に影響
藤原教授の著書「国家の品格」は自民、公明両党内にも愛読者が多く両党の「愛国心論争」にも少なからぬ影響を与えた。
藤原教授は著書で「愛国心」という言葉には自国の伝統や情緒を愛する「祖国愛」と、自国の国益だけを考える「ナショナリズム」の二つの意味が含まれると指摘。ナショナリズムは、戦争につながりやすい不潔な考え方だと批判している。
公明党が「愛国心」に反発した理由も「戦前の国家主義を連想させる」からで、藤原教授の主張と一致していた。
一方、長引く論争に終止符を打ちたかった自民党側も、藤原教授の主張に着目。今月に入ってからは、自民党がこだわる「愛国心」が、藤原教授の言う「祖国愛」と同じ内容であることを訴えて公明党側の理解を得ようという動きを見せた。
自民党内の「藤原ファン」からは「『愛国心』が無理なら、法案に盛り込むのは『祖国愛』にしてもいい」という意見もあったほどだ。
自公双方にとって「国家の品格」は、理論武装のための格好のテキストだったようだ。
<ふじわら・まさひこ> 数学者。旧満州生まれ。作家の故・新田次郎氏と、藤原ていさんの二男。著書は「国家の品格」以外に「祖国とは国語」「若き数学者のアメリカ」など。62歳。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060415/mng_____kakushin000.shtml
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