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小泉政権揺さぶるBLT問題、防衛庁・ライブドア・天皇制。
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/060211_blt/index.html
2006年2月11日
つい1週間前、日本外国特派員協会(外人記者クラブ)に呼ばれて、日本の政治の近未来について語ってきたので、そのとき述べたことを簡単にここに要約しておこう。
それは一言でいうと、日本の政治の潮流が、いま大きく変化しつつあるということだ。どういうことかというと、つい最近まで、小泉首相の意志がすべてであった日本の政治が、必ずしも小泉首相の意志通りには動かなくなったということである。
翳りが見え始めた小泉首相の求心力
このページで前に書いたことだが(第53回キングメーカーの執念と野望)。私は最近まで、小泉首相の最も大きな政治的野心は、闇将軍時代の田中角栄以上の政治力を持つ男になることだと思っていた。
言葉をかえていえば、田中角栄以上のキング・メーカーになるということである。吉田茂以上のキング・メーカーといってもよい。一代限りのキング・メーカーなら、中曽根康弘もそうだった(竹下登を次の総理に指名した)が、数代にわたって総理の座を左右するだけの政治力を持ったキング・メーカーというと、戦後はこの2人しかいない。
昨年の衆院選大勝利のあとの小泉首相は、絶頂期の田中角栄以上の政治権力を持ったかに見えた。
何しろ、ひたすら小泉首相だけに従わんとする、いわゆる小泉チルドレンだけで83名もおり、これに最大派閥である森派の中の親小泉グループを加えたら、100名の大台(田中派の基本的ベースはいつも100名前後だった)を楽々突破していた。それどころか、田中派最盛期の隠れ田中派を入れたマクシマムの数130名も突破してまでいたのである。
田中角栄がいつも言っていたように、政治の世界のパワーは、最終的にはどれだけの数の議員を動かせるかという数の力にある。その点において、小泉首相は角栄に匹敵するだけの数を集めたのだから、その政治力もそれに比例して大きくなった。
前回総選挙後の小泉首相の人気は異常なほど大きくなっていた。小泉首相が国会の壇上に姿をあらわし、何か一言語るごとに小泉チルドレンたちが拍手大喝采をつづけるさまを見ると、まるで一時代前の中国やソ連の党大会で党書記長や党主席が演説をするときとそっくりだった。
あのようなパワーを維持しつづけることができたら、小泉首相が田中角栄をしのぐキング・メーカーになる日もそう遠くなかったにちがいあるまい。
しかし、あのあたりをピークとして、小泉首相のパワーは目に見えて落ちはじめた。
党指導部の一元的な政治指導が通らない
小泉首相の金看板であった、国民の圧倒的な支持すら、どんどん落ちはじめ、最近の世論調査では、支持と不支持がほとんど拮抗するところまで落ちてしまっている。あの選挙直前の、次の選挙では、民主党に政権が移ってしまうかもしれないといわれていた時期に近いところまで支持率が戻ってしまっている。
最近の朝日新聞の調査によると、これまでひたすら小泉首相をあがめ、小泉首相の指導(ないし、竹中平蔵総務相、武部勤幹事長など小泉首相直属の幕僚たちの指導)に文句なしに従っていた小泉チルドレンたちですら、個々の政治的イッシューについての政治的見解がわかれてしまい、小泉チルドレンは四分五裂状況である。
最も重要な、ポスト小泉問題についても意見が割れている。ポスト小泉について、小泉首相が誰かを指名したとしても、その指名に必ずしも従うつもりはない(自分で判断して決める)とする者のほうが多数になってしまっている。いまや小泉首相の決定に無条件に従うとする者のほうが圧倒的に少数になってしまったのだ。
ポスト小泉問題だけではない。他の政治的イッシューにおいても、党指導部の一元的な政治指導が通らない状況があらゆる問題について生まれている。
たとえば、皇室典範の改正問題(女帝、女系天皇を認めるかどうかの問題)で、小泉首相が主張するように、有識者会議の結論を尊重して、女帝、女系天皇を認める方向に皇室典範を改正するという方針に公然と反対する(少なくとももっと時間をかけて慎重に審議すべしとして改正案をただちに出すことには反対する)者が、130余名もあらわれたのである。
小泉首相の政策に反対する者にすぐに抵抗勢力のレッテルを貼って処分ないし排除することがたやすくできた時代をふりかえると、状況はさま変わりしたといわざるをえない。
──小泉首相にとってラッキーなことには、その後、秋篠宮妃紀子さまのご懐妊というビックリニュースが飛び出した。小泉首相はこれ幸いとばかり、皇室典範問題では無理押ししない方向に政策を転換したおかげで、この問題であまり傷を負わないですんだが、小泉首相の政治的見識のなさは、誰の目にも印象づけられてしまった。
防衛省への昇格で公明党と亀裂
外人記者クラブに呼ばれたとき、事前に私が質問を受けていたのは、日本におけるBLT問題の政治的影響はどの程度深刻なものかということだった。
BLT問題のBは、米国からの牛肉輸入解禁・再禁止のBSE問題、Lはライブドア問題、Tは耐震偽装問題ということだった。
それに対して私は、BSEのBはあまり大きな政治問題にならないだろうが、むしろ、防衛庁の談合問題、あるいは防衛庁の防衛省への昇格問題のほうが大きな問題になる可能性を秘めているといった。
防衛庁の談合問題は、はじめ予想されていたよりずっと根が深い深刻な問題で、現に事件として大きな広がりを見せつつあることは知られている通りだが、防衛庁の防衛省への昇格問題も、別の意味で小泉政権に大きな打撃となりうる可能性を秘めた問題である。
それというのも、これまで小泉首相に従順に従うばかりで、反対することがなかった公明党が、この問題に関しては強い反対意見を持ち、もうひとつ強く反対する教育基本法の改正問題とならんで、自民党と公明党の間の蜜月関係にヒビを入らせかねないからだ。
自民党と公明党の間の関係が本格的に悪くなると、もともと公明党がこころよく思っていない靖国参拝問題でも、公明党が公然と反対の態度を取るということも考えられる。というわけで、BSEのBより防衛庁のBのほうが大きな問題だ。
秋篠宮妃のご懐妊でも天皇制問題の本質は変わらない
ライブドアのLはたしかに大きな問題で、これについてはあとから語ることにして、次のTのほうを先に片付けると、この耐震偽装問題もまた社会的インパクトは大きかったが、政治問題として重大化するとは思えない。
外人記者クラブでは、むしろ、政治的に重大問題化する可能性があるのは、天皇問題のTのほうだろうとして、皇室典範の改正問題をあげた。
その問題が、秋篠宮妃紀子さまのご懐妊で一種の休戦状態になったことは先に述べた通りだが、これは問題を棚上げにしただけで、本質的解決には全くなっていない。
9月に出産される子供が女子であれば、再び、女帝・女系天皇容認問題が持ち上がるのは必至だ。
もし男子を出産されたらどうなるか、世論の風向きが「それでは男系優先の現行皇室典範でいきましょう(いずれその男の子が天皇になる)」ということになるのか、それとも、「それでも女帝・女系天皇を認めるように皇室典範を改正しよう(愛子さんを天皇にしようということ)」になるのかどうか。
いまから安易に予測することはできないが、どちらの考え方にも強い支持者がいるから、両派が互いに他を攻撃しあい、いわば一種の姿を変えた「壬申の乱」(兄弟で皇位を争って殺しあった)みたいな騒動になっていく可能性だってないではない。
ライブドアの投資事業組合とブラック社会
もう一つのBLTのL問題、すなわちライブドア問題だが、これは非常に大きな政治問題に化ける可能性がある。
一つは、ライブドア事件の鍵をにぎっているのは、いまだに表に出てこない4つも5つもあったといわれる投資事業組合の正体である。
ライブドア株に姿を変えた巨額の資金が投資事業組合の間をころがされていくうちに、何十倍にも化けてしまうというウソみたいなボロ儲けの話である。
あの仕掛けで損をしたのは、ライブドアの作り話にのせられた大衆投資家たちで、ボロ儲けをしたのは、ライブドアと、ライブドアが最初から投資事業組合に引きこんだ連中である。それが誰であったかまだ全くわからないが、当然ながら当局はすでにその名簿を手に入れている。
その名簿はいわばパンドラの箱で、それが開いたとたん、何が出てくるかわからない。要するに、それはボロ儲けができるにきまっている儲け話に、特定少数の人々を一枚かませてやったという話で、構図としてはリクルート事件の未公開株のバラまき(これもボロ儲けするに決まっている話だった)とよく似ている。
いったいどういう人々にそれだけのボロ儲けをさせてやったのか。
いまいちばんウワサされているのは、ブラック社会のヤミ金融の世界につらなる人々である。
増版の際に堀江本から削られた“過去”
前社長の堀江貴文容疑者がニッポン放送株の買占めをやった頃から、ウラでヤミ金融の世界と深いかかわりがあるというウワサが強くあったことは前にも書いたことがある(第9回 巨額の資金を動かしたライブドア堀江社長の「金脈と人脈」)。
そのときも書いたことだが、堀江容疑者とヤミ金融との付き合いは古いといわれている。ライブドアの前身の「オン・ザ・エッジ」という会社を立ち上げるとき、堀江容疑者はその資金のほとんどを、当時の彼女の父親から借金していた。彼女とうまくいっていた間は、それは借りたままでよかったのだが、そのうち、会社が成功し、お金もできて、堀江容疑者には別の彼女ができてしまった。それが彼女にバレ、堀江容疑者は彼女と別れなければならない羽目におちいった。
当然その借金を返さなければならない(というか、その父親が持っていた株式を時価で買い戻さなければならない)ことになった。それは会社を立ちあげたときは600万円ほどだったといわれるが、彼女と別れるときには、会社が成功して、上場もしていたおかげで、時価にして、5億円近くになっていた。当時の堀江容疑者は、社長とはいえ、所得は1000万円台で、5億円の借金をおいそれと返せるほどの金はなかった。そこで一時しのぎにヤミ金融の金を借りたといわれる。
あの記事を書いた頃私は、堀江容疑者について書くために、いわゆる堀江本を片端から集めて読破していった。すると、その当時は、いろんな本に少しづつ自分の過去のことが書かれてあって、そういう話をつなぎ合わせると、いま書いたような話になったのである。
それがヤミ金融からの借金で、その借金をしたばかりに、その後どれほど苦労することになったかまで、堀江本のあちこちに書かれていた。「ヤミ金融」という言葉そのものは使われていなかったが、それ以外のものではないことがすぐにわかるような表現で書かれていた。
しかし、ニッポン放送の買い占め事件以後、堀江容疑者についていろいろ書きたてられるようになると、堀江本は次々に増版されていったが、増版されるたびに、ヤミ金融との関係にふれた部分は削られていって、いま入手可能な堀江本からは、そういう関係をにおわせる記述はいっさい消えている。しかし、インターネットのページの中には、ヤミ金融と堀江容疑者の関係を相当深く追求するページが前からあったことは前に書いた通りである。
野口元副社長と香港のヤミ金融社会を結ぶ線
こういう予備知識があったので、ライブドア事件が起きて間もなく、ライブドアの投資事業組合を通じてする怪しげな資金ころがしの中枢にいた野口英昭エイチ・エス証券副社長の怪死事件の記事を読んだとき、私はすぐに、ついに本件のブラック部分が出てきたとピンときた。
あの怪死事件の背景をえぐったのは、週刊文春の記事だったが、それとすぐにそれをフォローした週刊ポストの記事を読めば読むほど、警察のとなえる自殺説など全く成り立たない話だということがすぐにわかった。
その死に方はあまりに異常であり、鋭利な包丁で、魚を刺身にするときのように腹を大きく切り裂き、ハラワタを取り出して死体の上にのせてあり、包丁の先は背骨近くまで達していたという。そして、その切っ先は大動脈のところまで達していたという。おまけに、頚動脈を後ろから切り、手首まで切ってあったという。そのすべてを自分自身でやることは物理的にも生理学的にも不可能(大動脈が破裂したら、人間はすぐに運動能力を失う)である。
周辺取材をすればするほど、出てくるのは、ブラック金融社会の影ばかりで、野口副社長が沖縄だけでなく、香港のヤミ金融社会にも深く関係していたことがわかってきている。
事件がはじまってしばらくして、東京地検がこの事件の捜査を数カ月前からはじめており、百人体制という大きな捜査体制をしいていたと報じられた。それを知ったとき、私はこの事件がただの証券取引法違反とか、粉飾決算の事件ではなく、検察が追っているものはもっともっと大きなエモノで、今はまだその本体がチラリとも見えていないのではないかと思った。
ロッキード事件当時の若手筆頭が検察トップで指揮
いま検察のトップにいる松尾邦弘検事総長は、30年前のロッキード事件の捜査検事の若手筆頭で、30そこそこの若さでありながら、事件の核心部分をにぎっていた丸紅の伊藤宏専務を落として名をあげた検事である。
この外人記者クラブで話をした日は、ちょうど、30年前にアメリカ上院のチャーチ委員会でロッキード事件がバクロされた日の1日前の日だった。そこでしばらくロッキード事件の話をした。
30年前のロッキード事件、いまの若い人たちは、政治腐敗が見事にあばかれた事件としてとらえがちだが、実はあの事件は、本体部分がブラックの世界の闇の中に消えてしまって、真相がほとんどわからないままに終わった事件である。
真相がきれいにあばかれたのは、ロッキード事件のうち、もっぱら丸紅ルートの田中角栄元首相につらなる部分だけだった。
しかし、あの事件には、基本的に3つの金の流れがあった。丸紅ルート以外に、児玉ルート(右翼の大物・児玉誉士夫元ロッキード社代理人を経由した金の流れ)と小佐野ルート(小佐野賢治元国際興業社主を経由した金の流れ)があった。
金額でいうと、丸紅ルートは6億2000万円でしかなかった(うち5億円が田中角栄へ行き、残り1億2000万円が全日空経由で一部訴追された政府高官たちと訴追されないで終わった灰色高官たちに流れた)。
ロッキード事件でも解明されなかったブラック社会の闇
丸紅ルートはたしかにほとんどすべてあばかれたが、児玉ルートは、領収書が残された部分だけで23億円と、丸紅ルートの何倍も大きな流れがあったことが明らかだったのに、その流れはほとんど解明されなかった。
その流れの先には、田中角栄クラスの名前が出ないで終わった政府高官がいたにちがいないのに、そこは結局出なかった。児玉誉士夫とロッキード社が交わした契約上、児玉は、P3C対潜哨戒機の売り込みにもかかっていたし、韓国の大韓航空と軍への売り込みにもかかわっていたにちがいないのに、その部分は、まるで明るみに出なかった。
また、小佐野ルートも金額からいっても、かかわっている政府高官からいっても、丸紅ルート以上の話であったのに、これまた、ほとんど明るみに出ないで終わった。
なぜ明るみに出なかったかというと、児玉も小佐野もブラック社会のブラックの部分を代表する人物だった。彼らはブラックのプロフェッショナルとして、口がとことん固く、秘密を決してもらさなかったからである。つまり、ロッキード事件というのは、最も大きな部分がブラック社会の闇に覆われていたために、ついによくわからないままに終わった事件というほうが真相に近いのである。
そういう口惜しさをずっと心の中に秘めてきた検事がいまや検事総長になっている。そして彼の部下の特捜検事たちは、早くから、現代社会最大の悪が経済社会の闇の部分にあると公言していた。そしてこの事件に100人もの検事を動員するくらいの体制をとっているのである。検察は、この際ぜひとも、かつてやろうとしてできなかった、ブラック社会への切り込みを果たしてほしいものである。
外人記者クラブでは、おおむねこんなことを述べた。ライブドア事件、私が見るところ、まだとば口で、本体が出てきたら、堀江など、脇役としてかすんでしまうような展開をするのかもしれないと思っている。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月から東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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