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【天木直人 ニッポン外交の迷走】 2006年2月6日 掲載
また始まった日朝協議の欺瞞
2月4日から始まった北朝鮮との包括並行協議ほど国民を欺く外交はない。
拉致問題の解決を優先する日本と、解決済みと言い張る北朝鮮。これが本当であれば交渉はとっくに打ち切られてしかるべき。平壌宣言は破棄されるべきだ。
それにもかかわらず日朝双方が交渉継続に固執するのは、なぜか。そこには小泉首相と金正日総書記の奇妙な利害の一致がある。
小泉首相はとっくの昔に拉致不明者の救出をあきらめている。04年5月の第2回訪朝の際、小泉首相が拉致問題の解決を口にしたとたん、金正日総書記は不快感をあらわにし席を立とうとした。あわてた小泉首相が袂(たもと)をつかまんばかりにこれを引き留めたという。この時点で拉致不明者を本気で救出する意思は小泉首相の頭から完全に消えた。しかしこのまま北朝鮮との交渉を打ち切るわけにはいかない。それは拉致不明者の救出を願うからではない。ノーベル賞ものだと喜んだ日朝国交正常化が自分の手から逃げていくからだ。電撃的訪朝が笑いものになって終わるからだ。何としてでも在任中に格好をつけておきたい。
一方の金正日総書記は1兆円とも囁かれている日本からの援助がのどから手が出るほど欲しい。交渉を打ち切りたくないという小泉首相の弱みを突いて日朝国交正常化の進展を誘っているのだ。「あなたの手柄になるのですよ。拉致問題は引き続き両国で真相を究明するという形で棚上げして歩み寄りを……」と。
考えてもみるがよい。もし拉致問題で進展があるのなら小泉首相がすっ飛んで行くはずだ。核・ミサイル問題の唯一の交渉相手は米国だと決めている北朝鮮が、日本を相手に譲歩するはずはない。そのことは日本も百も承知のはずだ。結局今度の交渉も、援助をちらつかせた国交正常化交渉をエサに、北朝鮮を協議の場につなぎとめる日本の時間稼ぎにしか過ぎない。
それにしても情けないのが外務官僚だ。「あなたが(靖国へ)行くなと言っても私は行く」。昨年11月16日の日米首脳会談で、小泉首相は自分からそうブッシュ大統領に伝えたという。これを聞いた外務省幹部は、「総理がそこまでおっしゃる以上、対中外交でわれわれの出る幕はない」と立ちすくんだという(毎日新聞3日付)。この情けなさが拉致問題の交渉にも表れているのだ。小泉首相の功名心を満たすだけの外交を演出する外務官僚。どこまでも漂流する日本外交である。
●あまき・なおと 元レバノン大使。1947年生まれ、京大法学部中退で外務省入省。イラク戦争に反対する公電を送り、小泉首相の対米追従外交を批判して「勇退」を迫られる。著書に「さらば外務省!」「ウラ読みニッポン」(講談社)など。
http://gendai.net/?m=view&g=syakai&c=020&no=24448
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