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http://list.jca.apc.org/public/aml/2006-February/005543.html から転載。
(転載歓迎)
反戦の視点 その20
井上澄夫(市民の意見30の会・東京)
昨年6月に初版が刊行された日高六郎さんの『戦争のなかで考えたこと――ある家族の物語』(筑摩書房)はぜひ広く読まれてほしいが、同書にこういう記述がある。〈15年戦争で、日本はアメリカと闘って敗北しただけではない。それ以前に、中国との闘いで敗北していたということを、いまの日本人はほとんど忘れている。侵略戦争であったことは、もちろん最も重要な問題点である。同時に、その戦争で現実に敗北していたという歴史認識が必要である。〉
日高さんは中国の青島(チンタオ)市で生まれ育った自分の体験からそう語る。先に引用した文章に続けて「私は、その経過を目撃したのだった。」とのべている。
日中戦争、日本の中国に対する侵略戦争で中国は勝った。だが、その勝利を中国の人びとは「惨勝」(ざんしょう)と呼ぶ。勝つには勝ったが、余りに大きな被害を前にして、そう表現するしかなかったのだ。「惨めな勝利」というこの言葉は重い。
中国人、ユン・チアン(張戎)の『ワイルド・スワン』(講談社)にこういう記述がある。〈1945年5月、ドイツが降伏しヨーロッパでの戦争が終結したというニュースが錦州(チンチュウ)一帯に伝わった。アメリカの飛行機が錦州上空に飛来する回数も、ぐんと増えた。B29は満州のあちこちの都市に爆弾を落としたが、さいわい錦州は攻撃の対象にならなかった。日本の降伏が近いという観測が、町じゅうに広がった。8月8日、日本の勝利を祈願するために女学校の生徒は全員神社に参拝せよ、という命令が伝達された。その翌日、ソビエトとモンゴルの軍隊が満州国に進軍してきた。アメリカが日本に原子爆弾を2発落としたというニュースが伝わり、町の人々は手をたたいて喜んだ。それに続く何日かは、空襲におびえながらすごした。母は家で防空壕を掘った。
8月13日、日本が講和を求めているようだというニュースを聞いた。2日後、役所に勤めているとなりの中国人がとびこんできて、ラジオで重大な放送があるらしいと教えてくれた。夏(シャ)先生は仕事を中断し、祖母といっしょに中庭に出てラジオに耳を傾けた。アナウンサーが、日本の天皇が降伏したというニュースを読み上げた。それにつづいて、溥儀が満州国皇帝を退位したというニュースも伝えられた。人々は有頂天になって通りにとびだした。〉
この種の記述は、探せばいろいろある。日本の降伏は、侵略されたり植民地にされていた国々で歓喜の渦を巻き起こした。植民地だった朝鮮と台湾ではそれは「光復」だった。日本の支配から解放されたことを「光が復した(戻った)」と表現したのである。韓国や台湾では現在、「8・15」は光復節である。
だが一方で私たちは、中国で日本が敗北したあとも、「負けていたわけではない。その気になればまだ戦争を続けることができたのだ」と言い張る日本軍幹部がいたことを忘れないようにしたい。中国に負けたという厳然たる事実を多くの日本人が認めていないことは、侵略戦争を反省していない証拠である。しかし中国に敗北したという事実がしっかり認識されれば、大日本帝国政府が「大東亜戦争」と呼んだ大戦争の本質が見えてくる。15年戦争のはじめの10年間、日本は中国侵略を続け、あげくの果て、それが中国における権益を米国と争うことに発展して日本が起こしたのがアジア・太平洋戦争だったのだ。
ところで小泉政権はみごとに末期症状を見せ始めている。現政権の面々が発表されたとき、これはもうあれこれ内部から噴出してガタガタになっていくだろうと予感したのだが、予想を超える展開になってきた。ここであれこれその詳細に触れようと思わないが、現内閣は過去の歴史をまったく反省することなく、内政・外交にかかわらずナニゴトにもただただ開き直る人物で構成されている。麻生外相の「天皇の靖国神社参拝が一番」発言がその象徴だが、《無反省・開き直りの戦後最悪・蒙昧内閣》とでも言うべきか。かつて防衛庁調達本部の組織犯罪で辞任した額賀防衛庁長官は、この度、すさまじい防衛施設庁の組織犯罪が暴露されても引責辞任せず、同庁の解体を宣言した。してみると、米軍再編に反対する自治体が、「解体される庁」によって「理解と協力」を求められるなどということは、戯画以下のことだ。沖縄をはじめとして諸自治体は、同庁の「説明」自体を拒否する根拠を十二分に持っている。
マスメディアは今になって「小泉改革の光と影」などと言う。しかし小泉首相が登場したとき、大騒ぎして彼への期待を煽り立てたのは、その同じマスメディアではないか。「勝ち組」「負け組」(本当にいやな言葉だ)の格差なんぞ言われなくても、否応なく実感させられている。なんでも規制緩和、官から民への政策がもたらしたものは、福祉切り捨て・自己負担の息苦しい生活だ。しかし蓄積を続ける鬱屈した不安や不満は、近隣諸国への排外的な敵意の高揚にこれまた「見事に」誘導されている。
そのお先棒を担いでいるのが、民主党の前原代表だ。彼は中国を「現実的脅威」と呼び、だから米日による「集団的自衛権の行使」が必要で、そのために改憲すべきと声高に主張する。これほど愚昧きわまる人物を代表とする民主党は、もはや野党とは言えまい。あの小泉首相でさえ「現実的脅威」という表現を避けているが(もっとも麻生外相は前原代表と認識を共にしているそうだが)、してみると前原民主党は自民党より右に突出しているわけだ。
そう言うと「いや、そんなことはない」と憤慨する反骨の政治家がもし民主党内にいるなら、大いにけっこう。いま、この瞬間こそ、あなたの出番だよ!
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