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http://www.asahi.com/column/wakamiya/TKY200512260067.html
「戦後60年」も残りわずかとなり、封切られたばかりの映画『男たちの大和』を観(み)た。戦艦大和で死の航海に出る若い兵士らの生きざまが、迫真の戦闘シーンとともに胸を揺する。
映画のあと、軍部が犯した壮大な罪をつくづく考えながら、今年亡くなった2人の長老政治家に思いを寄せた。どちらも、取材を通じて縁を得た方である。
8月に没した山本政弘氏は元社会党副委員長。海軍主計大尉だった彼は、終戦前後の1年ほどフィリピン・ネグロス島で部下を率い、死地をさまよった。レイテ島で捕虜生活を送り、危うく処刑されそうにもなる。軍隊への抜きがたい不信から、戦後は平和主義者として政治の道を歩んだ。
晩年、生々しい体験をつづった『昭和への遺恨』(しらかば工房)は、次のような記述であふれている。
「暗い密林で、大蛇、毒蛇、猿、トカゲ、万年筆そっくりの毒虫、山蛭(やまひる)の類がいた」。吸血虫が「皮膚について離れない。わずかな隙(すき)からでも這(は)いり込み……朝起きると眼(め)や口の中まで吸いつき、丸くなって離れない」。
米軍の攻撃にやられて「右田上曹は飛び出した腸を無言のまま腹の中に押し込もうとしている。富田一水は『足がないよう、足がないよう』と、泣くように叫んでいる。ふくら脛(はぎ)からアキレス腱(けん)まで削り取られ、足の甲が後ろ向きになっている」。
米兵が戦場に残した抗生物質で命拾いしたことがある。それに比べ、どんな苦境に追い込まれようが、何の対策も手当てもないまま、ただ「死守せよ」の命令を下す自軍の司令部……。戦後も半世紀以上、ずっと精神的傷跡にさいなまれてきたと述懐していた。
◇
9月に亡くなった後藤田正晴氏は、台湾で敗戦を迎えたとき陸軍主計大尉だった。警察官僚から政界に入り、副総理までした保守の超エリートだが、旧軍批判は痛烈だった。初年兵を殴ってこき使う非合理の体験からだけではない。見通しなくも対米戦争に走り、無為に収束を遅らせた軍部に「何と愚かな」の思いがぬぐえないからだ。
戦後、自衛隊の前身となる警察予備隊の設立にかかわって以来、軍とは違う自衛隊のありようをずっと気にしていた。海外での武力行使に絶対反対の立場を貫き、最近ではイラクへの自衛隊派遣にも強く異を唱えた。「いまの政治家は本当の歴史を知らないなあ」とよく嘆いたものだ。
重なった2人の死に「戦後」の終わりを感じるのだが、ふと思えば私が若かったころ、政界にも軍隊の経験者があちこちにいた。世の中がそうだったのだろう。取材の合間、私たちも体験談をよく聞かせてもらった。
例えば建設相などを務め、89年に亡くなった亀岡高夫氏は元陸軍少佐。ジャワ、ガダルカナル、インパールなどの激戦で何度も部隊の指揮をとり、部下の大部分を失った。自らも重傷を負い、体にはなお弾片が残っていたが、こうした痛恨の体験こそが政治活動の原点だと言っていた。
自民党幹事長をして85年に没した田中六助氏は、特攻隊で教官をした話をよくした。83年、衆院本会議で中曽根首相に質問してこう述べている。
「私は特攻隊員として実戦に参加しました。多くの戦友、同僚、教え子、部下を雲流るる果てに散華させました。無残なことです」。失った同僚の中に中曽根氏の実弟がいたことも明かして、議場がしんみりしたものだ。
亀岡氏も田中氏も、自民党にあって憲法9条を大事にする平和主義者だと自任していた。
◇
少し新しいところでは、98年の自民党総裁選に立候補し、2年後に亡くなった梶山静六氏を思い出す。党内抗争では武闘派と言われたが、安保政策ではハト派に属した。陸軍航空士官学校を出た従軍体験が骨身に染みていて、戦争を知らぬ政治家たちにしばしば苦言を呈していた。
似たタイプの実力者に野中広務氏がいるが、03年に引退してしまった。19歳で召集され、「国の盾になり、男子の本懐をとげようと思った」という軍国青年は、内地の部隊で本土決戦に備える訓練を重ねた。出撃を控えた特攻隊員たちも間近に見たという。
イラク戦争に反対し、引退直前は自衛隊派遣の特措法に慎重姿勢をとった野中氏は、沖縄の基地問題にも何かと意を用いたものだ。
こういう政治家は現役にはもういない。国会はいまや戦場を知らぬ者の集まりになった。それだけ平和が長く続いたと考えれば喜ぶべきだが、与党も野党も、ハト派もタカ派も、軍隊や戦争をめぐる議論が薄っぺらになったようで気にかかる。
中国や韓国の強い反対をよそに、A級戦犯が祀(まつ)られた靖国神社に参拝を繰り返す小泉首相のもと、結党50年を迎えた自民党は先月、党の憲法草案を決めた。その第9条に「自衛軍」の保持が明記してある。
軍隊の経験者が消えたところで、新たな軍隊の登場か……。そこに戦後60年の一断面を見る思いがする。
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