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(回答先: 試合もドイツも面白かった/後藤健生 投稿者 white 日時 2006 年 7 月 12 日 08:54:36)
□「kicker」編集長が総括! 2006年ドイツW杯
http://wc2006.yahoo.co.jp/voice/fromg/at00009890.html
第8回
「kicker」編集長が総括! 2006年ドイツW杯
ドラマチックなPK戦の末(1−1、PK戦5−3)、イタリアがフランスを降して4度目のワールドカップ(W杯)優勝を果たした。PK戦で優勝を決したのは、1994年アメリカ大会のブラジル対イタリア戦(0−0、PK戦3−2)以来、W杯史上2度目となる。
期間中にいくつかの問題はあったものの、2006年の世界チャンピオンとなったファビオ・カンナバーロとその仲間たちの戦いぶりは感動を与えた。
おめでとう!
大活躍したドイツチームにも同じ言葉を贈ろう。
■幸福な4週間
今大会はこれまででもっとも美しく、歓喜にあふれ、感情豊かなものとなった。運営、訪問者数、費用、成果の面から見ても大会史上最高である。ジョゼフ・ブラッターやフランツ・ベッケンバウアー、ペレ、FIFA執行委員会のさまざまなメンバー、あるいは数多くの代表チームを率いたボラ・ミルティノビッチといった指導者をはじめとしたサッカー界の人々、また政財界、ショービジネス界なども、4週間にわたってドイツ中を魅了したW杯の雰囲気を堪能した。これこそがW杯で最も重要な側面であろう。ドイツは発想の豊かな国であること、また人々は愉快でみずからを信じる心を持ち、ホスピタリティにあふれていることを世界に示すことができた。これは、幾千の言葉を連ねても、また政治家が身ぶり手ぶりで説明しようとも、とうていなしえないことである。
組織委員会は、大会前にコストのかかり過ぎを非難していた批評家たちの鼻をあかすことができた。とはいえ、批評家たちからは大会を洞察する言葉も、もちろん賞賛の言葉もまったく聞かれないのだが。
すべてのゲームでほぼ満席となったのは、W杯における新記録となった。しかもこれだけには留まらない。バプリックビューイングなどの場所で、ファンはW杯の雰囲気にひたることができた。さらに喜ばしいのは、過激な連中がつけ入るチャンスがほとんどなかったということだ。
4度目のW杯制覇というドイツの夢は、不運にも準決勝でついえてしまったが、ユルゲン・クリンスマンに率いられたメンバーは、大胆でくじけることのないプレーで国民のドイツサッカーへの不信を払拭し、2002年の準優勝や1990年の優勝のときよりも大きな熱狂をもたらした。
クリンスマンについては、2004年の監督就任以来、多くの批評家が疑問視し、W杯直前の退屈でぶざまな親善試合によって彼に対する不信感は最大限にふくらんでいた。巷間はもちろん、ブンデスリーガのトップからも「信用できない」と烙印を押されたクリンスマンの方法論はいまや、適切なものであり、時代に合致し、未来への方向性を示すものであると評価されるようになった。長年にわたった失望の時期を終え、ドイツサッカーは再び規範を獲得したのだ。クリンスマンの方法論は、ブンデスリーガに取り入れられてもいいだろう。たしかにまだ改善の余地はあり、プレーヤーの技術力と運動能力の欠如の問題、またMFとFWの連携にも課題が残されてはいる。しかし、ポルトガル戦でのめざましいまでの勝利は、何人かのレギュラーメンバーを欠きながらも実現させたものだ。このときの出場メンバーには、W杯に先駆けて行われたU−21欧州選手権の出場資格を持つ選手も含まれ、ドイツサッカーに明るい未来が開けていることを印象づけた。
■“スペクタクル”は過去のものに
新しい才能が頭角を現し始めたことも、今大会の特徴だろう。ドイツやスイスを筆頭に、スペインやアルゼンチンにも若い才能のきらめきが見受けられたが、ドイツ以外は比較的早く敗退してしまったために、あまり強くアピールすることはできなかった。
優勝候補であったブラジルとアルゼンチンは、ベテラン選手たちが振るわず不調に終わり、結果的にヨーロッパ勢の躍進につながった。ジネディーヌ・ジダン、パトリック・ヴィエラ、クロード・マケレレ、リリアン・テュラム、ファビオ・カンナバーロ、マルコ・マテラッツィ、ジャンルカ・ザンブロッタのようなスター選手がいつも通りの活躍を見せたという点では、イタリアもフランスもそれほど変わらなかったが、次世代を担う若い選手たちにとっては、2008年の欧州選手権と2010年のW杯に向けて貴重な体験となったはずだ。
多くのゲームで見られた、しびれるような“緊張感”を今大会の特徴として評価する者もいる。今回は僅差で勝利を決する試合がしばしば見られたが、前回大会ほどの数ではなかった。全64試合中36試合が1点差もしくは引き分けだったのに対し、2002年は43試合、1998年は45試合だった。つまり先の2大会は今回以上に“ドラマチック”な試合が多かったともいえる。
監督がより結果重視の戦術をとるようになり、攻撃的なプレーとゴールの大量生産によるスペクタクルがすでに過去のものになってしまったのは明らかだ。そして対照的に、第2の迎撃陣が本来のディフェンスラインの前に置かれることが多くなった。ただ、ドイツ対ポルトガル戦は、選手たちが戦術に束縛され過ぎることなく自由に動き回り、サッカーがいかに興奮に満ちたゲームであるかということを教えてくれた。
5ゴールを決めたミロスラフ・クローゼが今大会の得点王となったが、これほどゴール数が少ないのは1962年以来のことだ(当時の出場チーム数は16)。大会全体でも147ゴール、1ゲーム平均2.30ゴールは、1990年の平均2.21ゴール)に次ぐ数字である。当然ゴールチャンスも708回と、2002年(804回)や1998年(793回)よりも少ない。
専門的な見方をすれば、32か国の成果は期待にはほど遠いものだった。伝説の監督セサル・ルイス・メノッティは、今大会を「リスクなしのW杯」と語り、それに同調するミッシェル・プラティニは「特にハイレベルな戦いはなかった」と言った。世界最高峰の祭典にしては、本当のボールマジックを見せたチームはごくわずかしかなかった。
だからこそ、トリニダード・トバゴやアンゴラのように楽しいサッカーを見せる選手たちが、得点は少ないにもかかわらずサプライズを与えることができたのだ。また、オーストラリアは策士フース・ヒディンクの指揮のもと、本場でなくてもすばらしいサッカーを展開できることを証明した。
一次リーグではマジックが冴えたアルゼンチンだったが、そこで消耗してしまい、決勝トーナメントでは勝ち負けにこだわり過ぎたために早々に敗退してしまった。優勝候補の一角ブラジルは、ロナウジーニョとロナウドというスーパースターを筆頭に、半ダースにものぼる値段も技術も高い選手たちをそろえていたが、コンディションも士気も上がらなかった。フランツ・ベッケンバウアーは「みんな救いようもないほど自信過剰だったね」とばっさりと切り捨てた。オランダはチーム内での役割分担で意見が一致せず、イングランドもルーニーとベッカムをめぐる対立があった。ベッカム、ジェラード、ランパードという夢の中盤は、古き良き時代の思い出となってしまった。
戦術面でも、新しいものはほとんど見出せなかった。監督として世界を渡り歩いたミルティノビッチは24試合を観戦し、「私にとって未知のものは何もなかった」と言った。ダイヤモンド型か平行に配置する4−3−3もしくは4−4−2、1人ないし2人の迎撃手をディフェンスラインの前に置くタイプ、1トップから3トップまでのバリエーション。これらはすべてすでに知られたものであり、何度となく試されてきたものだ。今回、90分間のうちに成果を収めたバリエーションは、例えばクリンスマンによるダヴィッド・オドンコーのサイドへの投入、あるいはマルチェロ・リッピの1トップから3トップへの決断だった。
フランスのジダン、(デコを欠いたときの)ポルトガルのフィーゴ、そしてイタリアのトッティを除けば、本来の意味での司令塔を置いたチームはあまりなかった。この3人の司令塔は動きのあるサッカーを思い出させてくれたが、大会全体に輝きをもたらすようなオーラを放ったスーパースターはいなかった。また目を見張るようなルーキーも現れなかった。ポドルスキーは、競争相手がいなかったおかげでベストヤングプレーヤーに選出されたが、スウェーデン戦まではほとんど頭角を現していなかった。
■歴史に残る、輝かしい大会
上位を占めたのはヨーロッパのチームだった。南米勢は当初予想されたような成績を残すことができず、アフリカの代表は強豪チームとの対戦で、その爆発的な攻撃力を発揮することがほとんどできなかった。しかし、上がってくるものを阻止しようと攻撃するのは言うまでもないことで、ヨーロッパのクラブで発見され、育成されたスターたちが自国のチームでより高いレベルに到達できるかどうかは、その世界をよく知った者にとっては疑わしいところだ。
アジア勢は失意に沈んで帰国の途についた。故国にもたらすことができたのは、全チームをあわせても6ポイントにすぎなかった。
審判についても熱く語られた。死闘が演じられたポルトガル対オランダ戦までは若干のミスジャッジ(例えばイタリア対オーストラリア戦におけるイタリアの理不尽なPK)があったものの、信頼できるものだった。とりわけ、海外の小国から来た異邦人には驚かされるばかりだった。
2006年W杯は歴史に残る、実に輝かしいものとなった。とくにホスト国であるドイツと、ドイツの朋友からの温かい歓迎を受けたすべての人々にとって。だが、すでに注目は隣国オーストリアとスイスで開催される2008年の欧州選手権と2010年のW杯に集まりつつある。
(文:ライナー・ホルツシュー/kicker 編集:メディアアトリエ)
kicker(キッカー)
1954年創刊のドイツを代表するサッカー紙。サッカーファンはもちろん、プレーヤー、監督からも絶大な信頼を集めている。近年はサッカーのみならず、スポーツ全般をカバーする。今回のワールドカップドイツ大会では、地元のトップスポーツメディアとして、大取材チームを結成。32か国全チームに担当記者とカメラマンを配置し、圧倒的なカバレージで報道する。