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http://nikkeibp.jp/sj2005/contribute/f/02/index.html より引用
吉田 繁治氏(経営コンサルタント)
ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(2)
〜低価格での分割株式販売業はどう成立したか〜
ライブドア事件は、分割後の株価を維持するための「利益粉飾」に絞られつつあります。マーケットにM&A(買収・合併)の情報を公示するまえに、関係者が利益を得ようと株を売買する、堀江氏本人や周辺のインサイダー取引も明らかになるでしょう。最終的に、株取引の犯罪目録を一覧で示すものになる感じです。
<ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(2)>
【目次】
1. 主旨
2. その淵源
3. LBO(レバレッジド・バイ・アウト)から
4. LBOの背景は金融のファンド化
5. 関連してDCFという方法
1.主旨
本稿では、「株主価値(=時価総額)の思想」の源をたどり、株主価値の思想からの脱線として生まれた、「分割した低価格の株券販売業としての、ライブドアのビジネスモデル」を明らかにして行きます。
「不祥事の摘発や悪人探し」とは視点を変えます。それは私の任ではありません。
▼ビジネスモデル
ライブドアのビジネス(利益を上げる方法)は、そのドメイン(主領域)として「株券の販売を行う」ということです。
ライブドアの主商品は、創業時の1株を3万分の1に分割した株券でした。株式分割は、モルトを水割りで薄めることです。成分は変わらず嵩(かさ)だけが増えます。
▼普通のこととの対照
株券の発行は、資本の調達のためです。その資本は、普通なら投資に使われます。
そして経営によって、投資の前より大きな利益を生んだ結果(あるいは利益見込み)として、株価が上がる。あるいは下がる。株価は、「資本のシグナルの機能」を果たします。
株価が上がった企業は、資本調達が容易になります。言い換えれば、同じ資本額で他より利益を上げる企業は、より多くの資本を集めることができます。
株式マーケットの機能によって、社会に分散した資本が優秀な企業に集まり、より効率的に活用されて行く。これが資本の市場機能です。
しかしライブドアは「事業経営で利益を上げる」ことより、個人トレーダーが増えた株式マーケットに受ける話題を作り、経営より、株価を上げることをビジネスとして行っています。
そのための話題作りは、述べる必要はないでしょう。要は「株価を上げる材料になれば何でも行う」ということです。個人トレーダーが何を材料に株を買うか、よく知っていたと言えます。
2.その淵源
▼M&A
ライブドアが選んだ方法はM&A(Merger and Acquisition:合併・併合)です。まずはこのM&Aがどこから出たか、それをたどります。
源は米国の70年代後期に始まり、80年代から急増したLBO(Leveraged Buy Out)です。
▼LBO
LBOは、ファンドが買収相手と決めた会社の、現在あるいは将来のキャッシュフローと資産を担保に、社債(利付き借用証)を発行し、社債で借りた資金で、相手会社を買うことです。
元本がなくても、企業を買うという魔法に思える方法ですが、ライブドアが買収と利益の粉飾に使った「投資事業組合(=ファンド)」の世界的な増加も、LBOととともに始まります。
▼ファンド(投資事業組合)
今の世界の、多くのファンドも投資事業組合です。ライブドアとの関係が取りざたされている村上ファンドも、投資事業組合です。
経済産業省は、米国風の投資事業組合の設立を、日本経済を活性化させるとし、奨励しています。村上氏は経産省の出身です。
スイス、香港、そして租税回避地にある「プライベートバンク」もファンド機能だけではなく資産保全機能が主ですが、特定の人が使う投資事業組合の一種です。
上場していない任意団体ですから、公開の義務がありません。上場とは、事情を知らない一般の人の資金を集めることです。そのため、ディスクロージャー(正当な情報公開)とガバナンス(正当な管理)の義務があります。
プライベートバンクは縁故のある人が使う投資同好会のようなものです。一般のマーケットに、内容を開示する義務はないのです。
税法、商法、企業規則に違反する取引や、違法ではなくても怪しい取引が行われることもあります。
SPC(Special Purpose Company)と言っても同じです。
およそ、こうした特別・特定・特殊という形容詞がつくものには、変なものが混じることも多いのです。特殊法人も同じです。
(蛇足ですが・・・)
金融って、根本が怪しいと思います。マネーを発行する中央銀行を含めて、です。どんな根拠で、通貨が発行できるのか。幕府の藩札や占領軍が発行する軍票も同じです。日銀には100兆円の通貨発行(紙幣70兆円+日銀当座30兆円)の担保としては100兆円の国債しかない。つまり、国民が寄せる政府への信用しかない。政府の財産と借金を示す貸借対照表(財務省作成)は、250兆円くらいの債務超過です。
本稿の基調テーマは、大部分が偽の裏づけしかなかったライブドアの株券が3万倍にも分割され、巨額マネーに変換される仕組みです。
われわれの目の前で、起こったことです。
実は、国家や自治体も、公的会計の中身を分かりにくく付け替え、勘定科目の名目を変えて偽っているなら、粉飾と同様の罪です。
LBOの方法を調べると、金融技術があたかも金融商品のデパートのように使われていることが分かります。
株や会社を買う投資事業組合(ファンド)がどんなものかを知るために、まずこれを整理します。
3.LBO(レバレッジド・バイ・アウト)から
▼源流
マーケットが価格をつける「時価総額」こそが、会社の真の価値であるとする金融思想の淵源は、およそ1980年代の米国からです。
(1)市場は企業の価値評価を誤らないという「市場原理主義」の登場と同時です。
↓
(2)ここから派生し経営者の仕事は株価を上げることとされたのです。この株価を、時価総額にしたとき、株主価値とも言います。
それ以前は、企業の価値は、売上高の大きさ(=顧客数)、商品の価値、品格そして経常利益で評価されていました。
時価総額による企業価値の評価が、もっとも重要なものだという考えは、薄かったと言ってもいいでしょう。
株価は「うさんくさい」ものとされ、経営者も株数×日々の株価の時価=日々の時価総額を最重点と見ることはなかったのです。
▼70年代中期のLBOからだった
変化が起こる端緒は、LBOという企業買収法の発明でした。これで株価の理論価格という概念が生じます。
【LBO】
LBO(Leveraged Buy Out)は、
・買収する相手会社の資産や将来の利益(キャッシュフロー)を担保に、
・金融機関等から資金を借り、
・その借り入れで、目的とする会社の株を買収してしまうことです。
一般的なスキーム(方法)は以下です。
(注)基本手法はライブドアが、投資事業組合(=特定目的会社)を通じて行ったことと、ほぼ同じです。ただしその方法が違法でした。
【LBOのスキーム】
(1)まず買収する側(ファンド等)が出資し、特定目的会社(SPC)を設立します。
↓
(2)特定目的会社が、金融機関から資金を借りるか、または社債等(ジャンク債と言います)を発行し、買収資金を作ります。
↓
(3)特定目的会社は、買収の対象となる会社の株をその資金で買います。そして、その会社と合併した新会社を作ります。
↓
(4)新会社は、合併後の特定目的会社の負債を受け継ぐことになります。この負債は、もともとは買収資金となったものです。
↓
(5)この負債を、買収会社の経営による利益(キャッシュフロー)か、または買収会社の資産売却によって返済します。
このLBOのスキームを最初に作ったのは、ジェローム・コールバーグと言われます。1976年には、現在LBO会社の最大手とされるコールバーグ・グラビス・ロバーツ社を設立しています。
会社の資産内容・収益力・将来性・商品の割には、株価が低い会社を探すことから始まります。ここが肝心な点です。
LBOの方法では、元本マネーが少なくとも信用があれば、相手会社を担保にした借り入れ(社債発行)で買収ができます。
1980年代の米国は、LBOのスキーム(枠組み)を使ったM&A(合併・併合)が吹き荒れます。新しいLBOによって、米国企業が活性化すると見られたのです。ハゲタカファンドの方法も、LBOと同じです。
LBOは、資産や潜在的な収益力はあるのに、十分に活用されていず、株価も低い会社を、探すことから始まります。
例えば優れた商品を作るのに、販売力がなく赤字を続けている会社などです。
買収し、買収した会社のブランド力、販売力、物流網を使えば、この会社は利益が出るようになる。これをシナジー効果(相乗効果)と言っています。
LBOをした会社の株価は、シナジー効果の期待があれば、上昇することが多い。
4.LBOの背景は金融のファンド化
米国の70年代に始まったLBOを可能にした背景は3項です。
▼背景(1):ジャンク債を買う人が多数出てきた
米国で、LBOを行う特定目的会社(ファンド:基金)が発行する利回りの高い「ジャンク債」を買う投資家が、多数登場したこと。
ジャンク債の原義は、格付けが低い「ぼろ債券」です。
買った債券が紙切れになる可能性(リスク)も高いため、そのリスクの確率分(リスクプレミアムと言います)だけ、利回りが高い。
ジャンク債の利回り=市場の金利+リスクプレミアム
▼リスクプレミアム
市場の金利が5%、リスクプレミアムが10%なら、ジャンク債の利回りは15%以上でなければ買われません。このリスクプレミアムをどの程度に設計するかが「曲者(くせもの)」です。
ファンドの利益も損も、このリスクプレミアムの見積もりから生じます。デリバティブのリスクも、まったく同じ性格のものです。
【誤謬のシンボル】
金融工学の天才たちが作ったLTCMが、過去の確率計算をベースにしたためロシアのデフォルトの確率を低く見誤り、デフォルトの危機が実際に起こったとき、数兆円の損失を抱え、瞬時に破綻しています。
【高い利回り】
特定目的会社(ファンド)によるLBOが成功すれば、リスクプレミアムがついた社債は、市場の金利よりはるかに高い利回りが得られます。
米国の富裕者(エンジェル・キャピタル等)は、リスクはあっても高い利回りのものに「分散投資」をするように変わっていました。
【リスク選好の高まり】
マネーが特定の人に集まると、リスクの高い投資が増えます。人は、数十億円、数百億円の金融資産があれば冒険もします。
今、金融資産では、最上位1%の人に、その国の50%分が集中するのも普通です。(所得ではこうした極端なことは起こりませんが)
(注)この金融資産の極度の偏在は、投機を生んで、資本主義の恐慌を生む原因でもありました。例えば$10億の元本で、その何倍もの信用売買をすれば、投機的な相場操作を、度重ねて起こし得ます。
【ポートフォリオ】
分散投資は、ポートフォリオとも言います。金融資産の運用を、合計で確実な利益が得られるよう、リスクはあるが高い利回りのもの、リスクがなく確実ではあるが利回りの低いものと分割することです。
または、反対の値動きをする傾向のあるものを、組み合わせる方法です。多くのファンド(=投資組合)は、ポートフォリオの方法で資金運用しています。複雑になるのは、商品の組み合わせが増えるためです。中身は単純です。
米国企業と経済が、世界から借りたお金で「金融化」して行く端緒になったのが、この高い利回りのジャンク債でした。
(注)05年で言えば、米国企業の全利益の30%は、金融事業によるものです。GEもGMも金融事業が主な収益源です。
(重要な余談)
ところが今、米国の長短の金利は逆転しています。短期金利が長期金利より高い。金融事業とは、一般には短期金利で借り、長期で運用することです。今の長短金利の逆転は、米国企業と米国金融にとって、相当に危険です。
▼背景(2):劣後債と言われる弁済順位の低い債券での資金調達ができるようになったこと。
劣後債は、普通社債と違い、発行元の会社が倒産したとき弁済と利払いの順位が低い債券のことです。
株に似ています。株も、倒産後は純資産の価値(普通はゼロか赤字)しか残らないからです。
劣後債は、弁済順位が低いので、リスクが高い。その分リスクプレミアムが高く、利回りも高くなります。(日本では、銀行や生保の自己資本比率を高めるのに発行されました。)
LBOには不成功のリスクもあります。
そのためLBOをするための特定目的会社(投資事業組合=ファンド)は、金利の高い劣後債も使って、資金を調達します。
劣後債という妙なものも、金融工学で誕生したのです。
▼背景(3):金利上昇の将来リスクを避ける金融保険(デリバティブ)が発達したこと
マーケットの金利は、日々変動しています。この金利を固定化する方法が金利スワップ(金利交換)というデリバティブ(金融派生商品)です。普通の金融商品である金利から派生したものですから、金融派生商品と言われます。
例えば、日本の住宅ローン金利は、今、もっとも低いものでは、最初の実質年率が1%(横浜銀行等)です。実に低い。しかしこれは変動金利です。
他方、35年間を固定する金利では各行が2.8%〜3.5%くらいです。
こうした固定金利を銀行が商品として作るのに、短期変動金利と長期固定金利を、他の金融機関に手数料を払って交換する「金利スワップ」という方法を用いていることが多いのです。そのため固定金利は高くなります。金利スワップも、保険と同じリスクの分散です。
総額で数千兆円と言われるデリバティブ(普通は簿外取引とされます)は、いつの間にか、世界のマネーの全体を覆うものになっています。
(注)デリバティブの総額は、例えば生命保険の契約金のようなものだと理解すればいいでしょう。生命保険や損害保険も仕組みはデリバティブですが、一般向けに販売される点が違います。
生保や損保には、当局の規制がありますが、デリバティブにはなんら規制はない。しかも簿外取引、つまり普通の帳簿ではその内容や時価評価を載せなくていいとされる特権を付与されています。)
最近、「天候デリバティブ」も一般化しました。例えばファッション産業は、天候でのリスクが高い。そのため予想する天候とは違ったとき保険金がおりるよう、デリバティブを手数料(保険金)を払って買います。
損失を隠したり、あるいは利益を増やしたりと、デリバティブは縦横無尽に設計ができます。開発できないものはないと言っていい。(売れるかどうかは別問題ですが)
経済、金利、通貨に、過去の確率を超える予想外の変動が起こると、デリバティブは破綻をし、金融の連鎖構造がリスクに晒されます。地震保険と同じです。
5.関連してDCFという方法
米国の80年代は、DCF(Discount Cash Flow)、言い換えれば、将来のキャッシュフローの割引現在価値という方法を根幹しにし、このデリバティブを含み、金融革命が広がった時期です。
そのため、LBOの特定目的会社(ファンド)が発行する社債(ジャンク債=ボロ債券)にも、リスクプレミアムで割り引いた価格がついたのです。
(注)DCFという、未来の不確実な利益を割り引き、現在化する方法こそが、米国の90年代の金融革命と、世界のマネーを引き寄せる手段を作ったといってもいいでしょう。金融では、未来は現在です。
▼理論価格の登場
株価の時価総額でも、
・企業が生む将来のキャッシュフロー合計を、
・期待金利と、リスクプレミアムで割った(割り引いたもの)が、
「理論価格」であるとされ、現在に至っています。
DCFによって、会社にも商品と同じような値段がつくことになったのです。
もちろんこの値段は、計算上のものです。現実の株価が理論価格であるというわけではない。しかし企業の価値評価では、このDCF法を用います。
企業の理論価格=理論時価総額
={1年目の予測キャッシュフロー÷(1+期待金利+リスクプレミアム)}
+{2年目の予測キャッシュフロー÷(1+期待金利+リスクプレミアム)の2乗}
+{3年目の予測キャッシュフロー÷(1+期待金利+リスクプレミアム)の3乗}+4年目+5年目・・・
(注1)キャッシュフローとは、事業経営で増える資産勘定としての現金(キャッシュ)の増加のことです。一例をあげれば、利益だけではなく、在庫の減少や売掛金の減少もキャッシュフローの増加要因になります。流通の総在庫を減らすSCMも、スループット会計(=キャッシュフロー法)で方法化されます。
▼会社の商品化
DCFは、株価への応用で、会社を住宅のように商品化したということができます。理論価格を計算すれば、どの会社が割安か分かります。
DCF法と、純資産法で企業の理論価格を計算し、
・株式マーケットがそれより低い価格をつけていると見れば、
・ファンドを作ってジャンク債を発行し、
・その資金で、割り安に会社を買うというLBOが可能です。
例えば、フジテレビの大株主であったニッポン放送は、株価純資産倍率(PBR)が極端に低かったのです。一般の株主は、放送は規制産業であり成長余地はないと見ていました。
しかし不動産は多額にもっていました。00年以降、東京の一等地には土地の含み利益ができていました。それに目をつけたのが、最初は村上ファンド、そしてそれを、時間外取引で受けついだライブドアです。
ニッポン放送株の買収資金は、外資ファンドからの借り入れでしたから、LBOの方法となんら変わりません。
ライブドアは、米国のLBOを勉強したと言えます。これが、大胆なM&Aを行った理由でした。ライブドアはハゲタカファンドとも言えます。
もちろん、ライブドアが他の50社余の会社を買ったとき、DCF法で、理論価格を計算したというわけではないでしょう。(おそらく行ってはいないでしょう)
(注)DCF法は、不動産の価値を計る「収益還元法」と全く同じです。日本の土地が、数年後からは再び「実質価格」が下落に向かうというのも、収益還元法から見えてきます。ここで言う実質価格とは、所得との関係で見る価格です。
▼オーソドックスなM&A
株の51%の買収(M&A)によって経営陣を変え、あるいは自分の会社から経営者を派遣し、経営の方法を変えることによって、買収会社のキャッシュフローのレベルを上げることです。
これによって、合併後の株価を上げる。これが、ライブドアが「目指した」方法です。
外資系ファンドも、破綻した日本の金融機関やレジャー施設、そして企業を対象にこれを行っています。
しかしライブドアの問題は、こうした、経営を行うオーソドックスなM&Aではなく、M&Aから生じる株式市場の期待を、株価上昇で先取りすることに使ったことです。
M&Aをしたあとの経営で生む利益より、今日のマーケットのM&Aへの期待を利用し、M&Aの実際の効果が出る前に、株価を上げることに関心を集中させていたのです。
M&Aは買いとされていたからです。そしてM&Aの発表とともに使われたのが、株式分割です。これは、根本ではどんな意味をもっていたのか。
以下次回で。
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