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http://nikkeibp.jp/sj2005/contribute/f/01/index.html より引用
第1回
ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(1)
〜1兆円の時価総額はなぜ可能になったか〜
耐震偽装では生活の安全が、そしてライブドアの会計偽装では株価が揺れています。いずれも、経済取引でもっとも重要な基盤である「信用」を裏切る詐欺行為です。
本稿の目的は、ライブドア事件を素材に、およそ80年代の米国発の「株価資本主義」の淵源と、利益の乗数が株価の時価総額になるメカニズム、そしてその展開を、明らかにすることです。なぜ、ライブドアが市場の熱の頂点では、1兆円の時価総額にもなりえたかを明らかにします。
<ライブドアのビジネスモデルとは何だったのか(1)>
【目次】
1. 耐震偽装が明らかにしたこと
2. 偽計取引と粉飾会計
3. 本シリーズを書く目的
4. 株券はマネー
5. マネーの創造
6. 制度改革
7. ビジネスモデル
(次回へ続く)
1.耐震偽装が明らかにしたこと
▼1050万軒
国土交通省の推計では、現在の基準に照らすと、耐震性に不備がある住宅は1050万軒(25%)と発表されています。(既存不適格の住宅を含めたものです。これは、控えめな数字でしょうね。)
住宅以外の学校・店舗・商業ビル・オフィスビル等の特定建物でも、9万棟(25%)が耐震性を満たしていないと国交省は言います。(日経新聞06.01.26)
日本の住まいの4軒に1軒、住宅以外の建物も4棟に1棟が、耐震性に問題があります。一方で、日本列島は、地震の活性期です。耐震問題は、国民の生活全体に係わります。
11月に発覚して以降、新築と中古マンションや住宅では、契約のキャンセルが起こり、販売数は急に減少しているようです。
新築住宅の着工は、年間で18兆円(130万戸:05年)です。
05年12月のマンションの契約率(業者発表の政府集計)では、明確な低下は見えませんが、今は予断を許しません。
大手ディベロッパーに、同様の偽装販売が波及すれば、事態は一挙に深刻です。
▼確認検査機関
耐震偽装では「公と民の確認検査機関」が機能を果たしていなかったことが本質です。制度を悪用した人だけを摘発し(一罰百戒という検察手法)、右代表になる特定の人に罪をかぶせれば終わる問題ではない。
確認検査は、妙な言葉です。事実上の「建築許可」であるにもかかわらず、「当方は確認し、検査するだけである。許可には近いが、許可とは言わない。」という官僚的な責任回避があります。
▼結論
行政の不作為の罪を含んだ、法と制度の不備です。住宅、国防、食の安全は、国家の基本政策であるべきことですが、いずれもないがしろにされていたということの一端が、露呈しています。
2.偽計取引と粉飾会計
ライブドアの偽計取引と粉飾会計では、監査役と、監査法人(公認会計士)も、機能を果たしていません。
▼金融庁、東証、証券取引監視委員会
金融庁、東証、証券取引監視委員会(1992年に発足した日本版SEC)も、偽装取引や粉飾があれば摘発し、未然に防ぐ立場でなければならない。起こった後に、検察に任せるべきことではないのです。
(証券取引監視委員会:SESC)
http://www.fsa.go.jp/sesc/
会計のフェアネス(公正)は、資本主義の根幹です。株式取引も、フェアネスのルールで築かねばならない。
今後、こうした、監視すべき機関の「空洞化」の問題が浮上します。
▼付帯して、内部告発
耐震問題とライブドア問題の不正の発覚は「内部告発」からです。
耐震偽装では、官僚内部の反小泉、反民営化勢力でした。ライブドアでは、幹部の行動に反発を感じていた人たちです。
スキャンダルの露呈は、組織内部の抗争からです。ブログは、メディアを個人に与えています。
▼原理的なこと
官僚組織も、会社を含む組織も、長期雇用を保証する「生活共同体」ではなくなったこと、これが、当世です。
こうなると、ムラの暗黙のルールや価値観が、外部規範(法、制度、社会倫理)に反していれば、内部からの告発を受けることが多くなります。組織は、内部に外部社会を抱えるように変わったのです。
3.本シリーズを書く目的
本稿の目的は、ライブドア事件を素材に、およそ80年代の米国発の「株価資本主義」の淵源と、利益の乗数が株価の時価総額になるメカニズム、そしてその展開を明らかにすることです。
なぜ、ライブドアが市場の熱の頂点では、1兆円の時価総額にもなりえたかを明らかにします。
▼時価総額の思想
今は、会社価値=株主価値=株の時価総額とされています。
これは一種の「思想」です。
思想とは「社会や人間に関する、全体的な思考の体系」です。
醒めれば、なぜあんなばかばかしい認識にとらわれていたのかと思うことになります。
多くの人が共通にもつ、時代の認識の枠組みと言ってもいい。認識の枠組み(パラダイム)は、国、時代、社会、集団で異なります。宗教的な認識にも似ています。
70年代ころまでは、株価の時価総額が、会社の価値として、もっとも重要だとすることはなかったのです。
売上高の大きさ、生産する商品の価値、社員の質、そして利益を総合したものが会社価値と思われていました。
米国であっても「一流企業」は時価総額が高いという意味ではなかったのです。
株式市場はうさんくさいものであって、特定の投機家が売買に参加する人気投票と思われていました。
その投機マーケットがつけた株価が、会社価値であるとは思えなかったのです。
▼3要素
これが変わり始めたのは、およそ80年代の米国からです。
(1)金融と資本の自由化、
(2)確率論を応用した金融工学の発達、
(3)LBOの手法を含むM&Aの増加の3要素から、次第に「会社価値=株主価値=株の時価総額」ということにされてきました。
(注)この件は、次号で書きます。
▼時価総額
株価の時価総額が高ければ、時価総額の小さな会社を併合し、買収(M&A)ができる。したがって、時価総額が大きな会社が、価値が高いということに変わって行きます。
米ビジネスウィークやフォーブスは、会社のランキングとして、世界の企業の、TOP500や1000をのせるようになります。
理由は何であれ、時価総額を上げたCEOが、もっとも高い評価を受ける経営者とされる風潮が生まれます。
▼CEO
CEOや執行役員という肩書きも、株価主義とともに誕生します。
・株主から預かった資本を運用し、
・成長人気を高めることで株価を高め、
・株主価値(=時価総額)を高くするのがCEOと執行役員のもっとも重要な使命(ミッション)とされます。
【タレント化】
これとともに株価を上げたCEOが、「スター化、タレント化」してゆきます。ビジネス誌のスターが社会のスターにもなった。
▼ホリエモン
「ホリエモン」はそうした文化と価値観の中で生まれた、一人の「鬼っこ」です。
創業7年で、ピークでは1兆円(1株1000円×10億株)の会社の価値(時価総額)を生みます。
利益だけで、1兆円は生めません。しかし株式市場はそれを与えたのです。
(1)時価総額が劣る企業は、価値が低い。
(2)だから買収する。
(3)事業創造は、マネーを生むことである。
利益によるキャッシュではなく、株券がマネーになる。
(4)手段は、商品の創造ではなく、買収である。
市場が評価するようにうまくM&A(買収・併合)をすれば、会社価値(=時価総額)を上げることができる。
そのために法と制度の不備を探して突き、制度が慌てて整備される前に、すばやく実行する。
4.株券はマネー
▼製品創造の、位相を変える
根底は以下です。
<わが社が成長してゆくためには、製品のラインアップ(製品種類)を常に拡大してゆかねばならない。しかし大きい「乗数」のおかげで新しい製品をゼロから開発する必要はない。(『チェンジ・ザ・ルール』:エリヤフ・ゴールドラット:2000年:邦訳三本木亮:ダイアモンド社>
鍵はこの乗数です。1年の税引き後純益は、例えば1億円であれば、1億円にすぎない。しかし株式市場は、これを、株の時価として乗数化します。
【PERという乗数】
これがPER(株価÷1株当たり純利益=PER)です。
PERの計算式は、以下のように変形できます。
株価=PER倍率×1株当たり純利益
両辺に、発行する株式数を掛ければ、以下になります。
株価時価総額=PER倍率(乗数)×会社の純利益
会社の純利益が1億円/年なら、これを50年続けて、資本に属する純利益はやっと50億円に達します。50年の仕事は長すぎます。
ところが・・・株式市場は、インターネット関連の成長企業には将来を期待し、PERという純利益への「乗数」として、例えば50倍を与えているとします。
株価時価総額=50倍×1億円=50億円
50年も継続し、苦労して毎年1億円の純利益を上げる必要はない。今日の株価の総額として50億円という時価総額をマーケットが与えます。
ルールが変わったのです。
ここで、苦労した製品創造や、製品を買う顧客の獲得とは違う位相の経営が現れます。
純益は、当面、わずかでもいい。株式市場に成長期待を与えることがすべてだと考える人々が出てきます。
最初は、80年代のシリコンバレーでした。20年後の今は、中国、インド、ブラジルを含め、世界が同じになっています。
<新製品を開発したり、新しいノウハウを蓄積するのに、わざわざ、長い時間を費やす必要がないんだ。各分野でトップの企業を探し、買収するだけでいい。相手の言い値でかまわない。なにしろキャッシュで払う必要がない。株で払えばいい。株価が高いから、その一部を少しわけてやるだけで済むんだ。(同書)>
株価を上げ、50社余の(トップ企業ではないジャンク会社の)ベンチャーの買収で、堀江氏が行ったことです。
ゴールドラットは、全体最適、スループット会計、そして制約理論(TOC:Theory Of Constraints)を小説形式で発表したイスラエルの物理学者です。
5.マネーの創造
以下は、堀江貴文氏の内観を想定して書きます。
(1)自社の時価総額を高く保てば、製品を開発する必要はない。
↓
(2)株式交換で、キャッシュも要らず、買収すればいい。
↓
(3)株式市場は、それを歓迎し、更に株価を上げるだろう。
↓
(4)そうすると時価総額が増え、株式交換で次の買収ができる。
↓
(5)これを継続する。
商品開発には、長い期間とコストがかかり消耗と徒労だ。
商品開発の目的は、利益というマネーだろう。
しかし・・・
自分で苦労し、新しい商品の開発や顧客の獲得をする必要はない。毎年の節約で生まれる利益を、積み重ね、キャッシュを貯める必要もない。
マーケットが株価を評価するという条件を、経営計画で作れば、株券の印刷だけで、数千億円のマネーも「創造」できるだろう。
上場すれば、日銀だけがもつ紙幣印刷機が、会社にあることと事実上は等しい。株券がマネーになる。自分はこれをやる。
会社にとって利益蓄積の意味が、変わった。
株式市場は、将来の利益見込みを、DCF(Discount Cash Flow)法で、現在のマネーに変換してくれる。
ベンチャーに市場は期待し、高いPER(利益の乗数)を与える。
根底の理由は、小金をもち一攫千金の幸運を狙う個人投資家が、株式市場に増えたからだ。
6.制度改革
銀行の、企業育成のための融資機能が働かなくなった90年代に、政府は、米国の90年代発展を作ったナスダックをモデルに、制度改革を行った。
▼マザーズ、ヘラクレス、株式交換、株式分割
政府は以下の3つを法制化した。
・株式上場の超がつく規制緩和(マザーズ、ヘラクレスの創設)を行い、
・99年からは、株式交換による買収を認め、
・01年からは、株式分割による株の水割りも可能にした。
多くの人は上場(株式公開)を過去の基準で見ている。
マザーズやヘラクレスが、どんなに上場基準を下げたか多くの人は、まだ知らない。
マザーズであっても「上場企業=信用のある企業」と見ている。
【700兆円の預金】
そして日本政府は、米国の要請を受け700兆円の個人預金を株式市場に流そうとする意図も、もっている。
小泉首相の積年の念願である郵政の民営化もそのためのひとつである。株式市場にとってチャンスである。
【401K】
米国の、退職金を自主運用する401Kが、米国の株価を上げ、米国経済を活性化させたことを、日本政府は真似ようとしている。
401Kで、それまで株に縁がなかった50%の世帯(5000万世帯)が、株を買うようになった。1世帯100万円分($1万)で株を買っても、株式市場への資金流入の総額は50兆円になる。
50兆円の資金流入があれば、株価指数は数倍に上がるだろう。
事実、この401Kで株は隅々にまで大衆化し、マーケットへの資金流入が増え、95年から米国株は、急に上がった。数倍になった。
米国株の上昇につられ、貿易黒字の国と、利益に抜け目のない西欧は、米国に資金を流入させた。
貿易赤字がどんなに大きくなっても、世界は、米国の債券と株を買った。米国はマネーがなくても、世界が与えてくれるから、それでモノを輸入し、買って使えるようになった。
米国は「90年代の金融革命」で再生した。産業が再生したのではない。金融の技術がマネーを生んだ。
米国人の3000兆円余の、世帯の金融資産では、今、50%の1500兆円が株である。
一方、日本では、1400兆円の個人金融資産のうち50%(700兆円)が預金として固定されている。
今後、この預金が、株式市場に流れることを、利用する。
▼上場基準の低さ
マザーズの上場基準は、信じられないくらい低い。
1年前に新設したばかりの会社も上場ができる。
将来利益の裏付が薄い株にも、
・成長見込みの作文と、 ・ビジネスモデルがあれば値段がつく。
つまり経営企画書がマネーになる。
唯一の条件は、上場日の時価総額(株価×発行株数)が10億円以上になる見込みがあり、株主を300名以上作れる可能性があることだ。
<マザーズは、高い成長可能性を有していると認められる企業を上場対象としています。したがって、業種に関係なく、優れた技術やノーハウを持ち、成長の可能性が認められるすべての企業はマザーズの上場対象会社ということになります。(東証マザーズのホームページの公告)>
必要な書類を作ればいい。たった1期の、売上があればいい。今は赤字でも、将来の成長力があると認められればかまわないというのだから驚く。
マザーズやヘラクレスの株を買うのは、主に個人投資家だ。会社の中身(貸借対照表や損益計算書)を調べて買う人は少数だ。
パソコンの画面で、激しく変わる今日の値動きしか見ていない。貸借対照表を読んでいる人は少ない。話題を作り、個人投資家の人気を得ればいい。
会社経営では、毎月の資金繰りに苦労した。銀行は、どんなに可能性のある投資であっても、実現性のある実行計画書があっても担保と保証人がなければ貸してくれなかった。
真面目に商品開発し苦労して販売しても、1000万円の融資を丁寧に断られ、銀行から帰るときは、世の矛盾を感じた。
創業した自分がもつ1000株(額面5万円)の株に、8倍の40万円の値段がつけば、4億円にもなる。
それを少しずつ売って会社に貸せば、資金繰りはできる。突然に個人資産もでき、リッチな生活もできる。フェラリーも買おうと思えば買える。人の心も買える。
しかも、株式市場からもらったお金は返済の必要がない。そして、1000万円の融資を断った銀行も、マザーズに上場したとなれば、昨日までのことは忘れ、借りてくれと日参するだろう。
自分も、5年、いや3年あれば勝者になることができる。
それが、チェックと監理がゆるゆるの、マザーズだ。
7.ビジネスモデル
<消費税のように、個人から広く浅く、日本中、そして世界のマネーを集める。そのために、史上かつて、誰も行っていない規模の株式分割を実行する。>
1株500円なら100株を買っても5万円にすぎない。5万円なら、ためしに、誰でも買えるだろう。
(注)これが、ライブドアが狙ったことです。
5万円が2万円になっても、株は自分の失敗である。小泉内閣が言うように自己責任だ。誰も文句は言わない。話題をつくって上げれば、もっと買うだろう。コストは、株券の印刷費だけだ。
売る商品は分割した株券である。公式には言えないが、ライブドアのビジネスの本質は、株券の印刷販売業である。
そして株券を印刷し、次々に会社を買う。同世代は皆会社に勤め、わずかな給料をもらう方法しか知らない。
マザーズが何をもたらすか、知っている人は少数だろう。
ライブドアの株式発行数は、1万倍への分割によって、当初の10万株が、10億株という異常な数になっています。
例えば時価総額9兆円のNTTドコモは、4870万株とライブドアの株数の20分の1です。
会計ブレーンを宮内氏とし、堀江貴文氏が作ったのは「株券の印刷・販売のビジネスモデル」でした。
5分割くらいはあってもまさか1株を1万株にも分割する考えをもっている人はいなかった。ライブドアは2000年以降の、わが国の、抜け穴だらけの制度改革を利用するのに大胆でした。
80年代までは、法を超えた「行政指導」にあれほど熱心だった官僚と財務省も、90年代にあいついだスキャンダルと、規制緩和の思潮の下で、「法に、明文化した定めがなければ、規制はできない。適法ではなくても違法ではない。」というところに逃げ込みます。
ライブドアほどではなくても、新興市場には、堀江氏と同じような、株券の印刷がマネー創造という考えをもっている創業者が多い。
もちろん公式には言いません。行動で見るしかない。
次稿では、なぜこのようなことが可能になったのか、そして、会社価値=株主価値=時価総額=という、それぞれに異質のものをつなぐパラダイムがどういう経緯と方法で定着したのかを見ます。
NYでアメリカ人のシステム・エンジニアと話していたとき、商品価値の話題になって、話がかみ合いませんでした。(私の英語表現の下手さもあったかもしれません)
彼は、商品バリュー=価格と理解していました。
バリューは価格だったのです。
会社の価値=時価総額と同じ構造です。このとき感じた違和を、忘れません。
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