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http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20060210ddm004070039000c.html から転載。
記者の目:ライブドア事件の意味=北村龍行(論説室)
◇「プロの金融犯罪」の印象−−資金洗浄なら性格一変
ライブドアの堀江貴文容疑者について、法律違反を犯したことは責められるべきだが、彼が果たした功績については評価すべきものもあるのではないか、という議論がある。
確かに、フジテレビとのニッポン放送買収合戦を通じて多くの企業は敵対的買収のリスクを認識するようになった。また、配当の引き上げなど株主の利益についても真剣に考えるようになった。若者が感じていた、大人たちが支配する社会への閉塞(へいそく)感を打ち破ったそう快感もあるかもしれない。
しかし、「風説の流布」や粉飾決算は明らかな犯罪だ。また、事件の展開を見ていると、そうした犯罪さえ超える何かを感じる。
ライブドア事件に関して、海外の投資会社や金融機関の利用、タックスヘイブン(租税回避地)を所在地とする口座の存在などが明らかになってきた。そうなると、この事件はそう単純なものではないのではないか、という疑問がわいてくるのだ。
というのは、こうした手口は、脱税した金を洗浄した上で国内に還流させたり、違法行為で手に入れた金を合法的に手に入れたように見せかける、いわゆるマネーロンダリング(資金洗浄)の際に多用される手口だからだ。
もし、資金洗浄が行われていたとすると、さまざまな疑問が生まれてくる。まず、洗浄しなければならないお金の素性は何なのか。そんなお金を、ライブドアはなぜ、どれだけ持っていたのか。
また、資金洗浄には高度の金融知識が必要である。とても、やんちゃな若者のなし得る行為ではない。金融のプロとしての知識と、それに協力する金融機関の存在が欠かせない。
堀江容疑者らは一体どこで、それだけの金融知識と金融実務を習得したのか。資金洗浄に協力した金融機関とはどこなのか。その金融機関は、資金洗浄であることを承知の上で協力したのか、それとも利用されただけなのか。
また、複雑な資金洗浄の工程を設計したのは誰なのか。洗浄した上で国内に還流された資金は、誰の手に入ったのか。また、どのように使われたのか。
資金洗浄する前のお金と洗浄された後のお金は、ライブドアの財務諸表の中で、どのように扱われていたのか。脱税の可能性はないのか。
思いつくだけでも、そうした疑問がわいてくる。そしてそこから浮かび上がるイメージは、内外のプロが協力しあった金融犯罪である。
ライブドア事件の本質が、もしそうしたものであるのなら、冒頭のような一定の評価論は一掃されてしまう。事件はやんちゃな若者のやり過ぎではなく、プロの金融犯罪グループの犯罪ということになってしまうからだ。プロの犯罪者を肯定的に評価するわけにはいかない。
経済関係者の間では、ライブドア事件について当初から「なぜ金融庁や証券取引等監視委員会による告発ではなく、いきなり東京地検特捜部が強制捜査に入ったのか」という疑問が交わされていた。
ライブドア事件が、プロの金融犯罪グループの行為であるのなら、経済関係者の疑問も氷解することになる。そして、ライブドア事件の位置付けは一変してしまう。
IT(情報技術)業界の若者の拝金主義といった批判は的外れになってしまう。事件は金融犯罪であって、ITとは直接関係がないからだ。
市場原理に基づく経済社会を目指す構造改革路線がライブドア事件の温床になったという議論も説得力を失う。
資金洗浄は、ヒト・モノ・カネ・情報が国境を高速で往来するグローバリゼーションの中で多用されるようになった。金融犯罪者たちは、日本が構造改革に取り組むずっと以前から資金洗浄をやってきたし、今もどこかでやっている。
問題はむしろ、日本の社会がそうしたプロの金融犯罪に無防備であることだ。旧大蔵省の護送船団行政に守られていた日本の金融界は、金融のビジネスモデルを自ら考案する能力に乏しい。他方、金融犯罪グループは法制度のわずかなすきをついて利を得ようとする。自分でビジネスモデルを考案できないようでは、金融犯罪がどのようなすきをついてくるのか、想像もできない。金融犯罪に対抗することは難しい。
ライブドア事件の全容はまだ見えていない。しかし、資金洗浄の疑いが生まれてきたことで、事件の性格と社会的影響が大幅に変わる可能性が出てきた。事件の背景や原因についての議論も一変するかもしれない。
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毎日新聞 2006年2月10日 東京朝刊
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