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http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20070111/258526/?ST=enterprise
2007年のIT業界は「CES対Macworld」で幕を開ける−−−筆者は1月4日の「記者の眼」でそう書いて,米国に向かった(関連記事:「CES対Macworld」で明ける2007年のIT業界)。CES対Macworldの結果は,言うまでもないだろう。全面タッチパネルのスマートフォン「iPhone」を発表した米Appleは,CESに出展したどのメーカーよりも「家電メーカー」として面白かった。
筆者は米国時間で1月6日から8日にかけてラスベガスで「2007 International CES」を取材し,9日にサンフランシスコの「Macworld」を取材して,10日に再びラスベガスのCESを取材した後,この原稿を書いている。 Macworldの翌日にCESで見た様々な新製品は,各メーカーには申し訳ないがくすんで見えた。
米AppleのiPhone(左)と韓国LG ElectronicsのChocolate(右)
特に,韓国LG Electronicsや韓国Samsung Electronicsが力を入れて展示していた,MP3プレイヤーとしての使い勝手や外見を徹底的に重視した携帯電話機は,気の毒なほどつまらなく見えた(写真)。というのもそれらは,筆者が実物の「iPhone」を見るまで「iPod的な携帯電話機とはこんな感じだろう」と思っていた携帯電話機の姿に,あまりに似ていたからである。
もちろん,499ドルという高額な「iPhone」が,携帯電話機の主流になるとは思えない。実際にAppleのSteve Jobs CEO(最高経営責任者)も,「2008年に,携帯電話市場のシェアで1%を目指す」と語る(といっても年間販売台数9億5700万台の市場なので,販売台数目標に直すと1000万台になるのだが)。残りの99%,10億台近い市場を争う分には,LGやSamsungの携帯電話機はきわめて魅力的だろう。
しかしAppleのiPhoneは,「ソフトウエアの使い勝手(特にユーザー・インターフェース)の優劣が,製品の優劣を決める」ことを痛感させるという点で,CESに並ぶ他者の製品とは「世代」がまるで違って見えた。
iPhoneを見てMSとソニーを思い出す
ソフトウエアが家電の優劣を決めると主張していたのは,何もAppleだけではない。例えば,米MicrosoftのBill Gates会長も,昨年のCES基調講演でこのことを指摘していた(関連記事:【CES2006】Gates会長が基調講演,大幅進化したVistaをデモ)。ただしGates会長の場合「Windowsのユーザー・インターフェース(UI)は優れており,その優れたUIを全ての家電に搭載することで,家電の使い勝手が向上する」という主張になってしまうので,多くの人の心に届いていたとは言いがたい。
ソニーが「Playstation 2」をベースにしたDVDレコーダー「PSX」を製造した狙いも,PS2の画像処理機能を使ってデジタル家電のUIを強化することにあったという。ソニーはPSX用に開発したマルチメディア用UI「XMB(クロス・メディア・バー)」を,「スゴ録」ブランドのDVDレコーダーや液晶テレビにも移植し,デジタル家電のUI強化を図っている。しかしソニーの願いとは裏腹に,DVDレコーダーや液晶テレビは,もっぱら価格で選ばれているのが実情だろう。
正直に言わせてもらうと,筆者はサンフランシスコでiPhoneを目撃して,ようやくMicrosoftとソニーの言い分を理解した。Apple のJobs氏は「電話を再発明する」と宣言するが,iPhoneはあくまで電話機であって,別の何かになったわけではない。それでもiPhoneは,ソフトウエアが違うというだけで,これまでの携帯電話とは全く異なる何かに見えた。
デジタル家電メーカー,Apple
筆者は,今年のMacworldにおけるJobs氏の基調講演レポート(関連記事:「電話を再発明する」---Jobs氏がMac OS X搭載の携帯電話機を発表)をこう締めくくった。
なおAppleは同日,社名をApple ComputerからAppleに変更した。Macworldの基調講演でも,Apple TVとiPhoneの発表が全てで,新OS「Leopard」などには全く触れられなかった。今回の基調講演は,Appleがパソコン・メーカーから,名実ともに総合デジタル家電メーカーに生まれ変わった日だと言える。
筆者は,昨年のMacworldに先立って「Appleが『iTunes Music Store』(当時)で購入した動画コンテンツをテレビで視聴できるハードウエアを出す」と予測して大失敗した(関連記事:Jobs氏の講演終了とともに膝から崩れ落ちる)。その際,古くからのMacウォッチャーに「Jobs氏のテレビ嫌いは有名」「Jobs氏の持つコンピューティングの理想像は,クリエイティブで能動的なものであり,テレビを見るような受動的な行為ではない」と指摘されたものだ。
それから1年が経った。今ならAppleのことを「総合デジタル家電メーカー」と呼んでも,多分誰からも「お叱り」を受けないだろう。
「異質の家電メーカー」と,どう向き合うか
Appleは「ソフトウエアだけで製品の特徴を作り出す」という,他社とは異質な家電メーカーだ。ハードウエア開発そのものが難しい製品(製品ジャンルのライフサイクルが初期段階にある製品)には,なかなか手を出せないだろうが,ハードウエアの開発競争がほぼ終わった製品(例えば2G携帯電話機)では, iPhoneに見られるように恐ろしい力を発揮できるようだ。
対して,Appleと競合することになった日本のデジタル家電メーカーはどうだろうか?
携帯電話機に関しては,そもそもほとんどの日本メーカーが世界展開を断念しているような現状であり,多くは期待できないだろう。
日本メーカーの本丸ともいえるオーディオ・ビジュアル(AV)分野のデジタル家電はどうだろうか。AppleはiPhoneと合わせて,セットトップ・ボックス(STB)の「Apple TV」も発表している。Apple TVは「iTunes」で管理するコンテンツをTVで視聴するためのハードウエアであり,動画コンテンツの流通形態がDVDなどのパッケージからダウンロードに移行しない限りは,AV分野の主流にはなれない製品である。
逆に言えば,動画コンテンツのダウンロード販売が主流になった時に,AV分野の覇権を握るのはApple TVのような「ホーム・ネットワーク製品」になるだろう。そして現在,ホーム・ネットワーク製品向けのミドルウエアやアプリケーションを全て自前で作っている家電メーカーは,世界に3社しか見当たらない。Apple,Microsoft,ソニーだ。それ以外のメーカーは,例えばデジオンのようなサード・パーティからミドルウエアを購入しているのが実情である。筆者はサンフランシスコからラスベガスのCES会場に戻って,なんともいえない寂しい気持ちになった。
「使い勝手の時代」は企業システムにも到来するか?
最後に,ITpro向けの話題で締めくくりたい。「ソフトウエアの使い勝手(UI)の優劣が,製品の優劣を決める」という考え方は,企業情報システム分野において,長らくタブー視されていたように思う。重要なのは安定性や機能であって,「GUIを全面採用した,使い勝手の良いWindows Server」などと記事で書いた日には,読者のお叱りを受けるのが常だった。
1月4日の記者の眼でも書いたように,ITproがCESやMacworldを取り上げたその理由は,ここ数年,IT分野の新技術がまず消費者分野(コンシューマ)で採用され,その後企業分野(エンタープライズ)に波及するという,「ITコンシューマライゼーション」(関連記事)と呼ばれる現象が起きているからだった。企業情報システム分野でも,ソフトウエアの使い勝手(UI)がより重視されるのではないだろうか−−CESとMacworldを取材して,今はそう感じ始めている。
(中田 敦=ITpro) [2007/01/12]