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青森の品格 [AERA]
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投稿者 white 日時 2007 年 3 月 19 日 20:42:56: QYBiAyr6jr5Ac
 

□青森の品格 [AERA]

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070319-01-0101.html

2007年3月19日
青森の品格
まじめに義務を果たした人が損をする。
そんな不条理なことに、最近よく出くわす。
青森の街に、学ぶべき「品格」があった。
 全国トップの「名誉」なのに、青森県庁の担当者は戸惑った様子だった。
「理由が説明できないんです。何かの施策の効果というのなら、胸を張れるんですが……」
 トップだったのは、給食費納入率。都道府県別で見ると、全国で一番まじめに給食費を払ったのは青森県民だった。
 逆に、納入率が最低だったのは沖縄県。1人当たりの県民所得も最低だったから、数字上は「家計に余裕がないから、給食費を払えない」となる。
 その理屈で考えると、給食費をきちんと払う青森県は、所得が全国トップ水準のはず。では、実際は――。
 青森の県民所得は沖縄に次いで全国で2番目に低いのだ。貧しくても、義務は果たす。「貧しても鈍しない」ってことなのか。
 給食費の未納額は全国で22億円にのぼる。未納の原因について、学校の6割は「保護者としての責任感や規範意識」と考えている。実際、ベンツに乗ったり、高層マンションに住んだりしても、月額3千〜4千円ほどの給食費を払わない親はいる。未納者のほとんどが「払えない」のではなく、「払わない」のが現状だ。

津軽地方が「優秀」
 未納のつけは、給食の量・質の低下や、別の予算からの補填でまかなわれる。回り回って、まじめに納めている人が損をする。そんな今だから、青森人のまじめさの理由が知りたくなった。
 青森県によると、県内でも特に津軽地方の納入率が高かった。県内で「3市」と呼ばれる青森市、弘前市、八戸市をみると、最も納入率が高かったのは、津軽藩の藩都・弘前市だった。児童生徒1万5220人のうち、未納者は7人だけ。市給食業務推進室の藤本裕彦室長は言う。
「この7人も調査時点の数字です。遅れて納めた人もいるので、実際はもっと少ないと思います」
 つまり、ほぼ完納。どうして納入率が高いのか。理由を聞くと、藤本室長も困った顔をした。
「納めるのは義務ですからねぇ。理由はわからないですよ」
 青森県内の国立大学は、県庁所在地の青森市ではなく、弘前市にある。だから、青森市の「商都」に対し、弘前市は「学都」と呼ばれる。
 弘前市出身のルポライター鎌田慧さんは、
「弘前は、学校に対する尊敬というのは昔から強かった」
 と言って、こう付け加えた。
「弘前では給食費を教室で集金袋で集めるから、親が子どもに恥ずかしい思いをさせまいと思うんでしょう。『他者の目を気にする』という封建的な側面もあるかもしれません」
 確かに、給食費の徴収方法は、全国の小中学校の71%が口座引き落とし・振り込みで、先生が子どもたちから直接集めるのは12・9%。青森県内のほとんどの学校は「直接式」で集めている。
 直接式だと、納めた人と納めない人の区別が子どもからも一目瞭然。子どもには恥をかかせたくない、という無言のプレッシャーが親にかかるだろう。
 しかし、他にも「直接式」の地域はあるから、徴収法だけで津軽の「高納入率」は説明しきれない。
 津軽の選挙はかつて、金による票の買収が横行し、「津軽選挙」とも呼ばれた。弘前市を含む青森4区選出の木村太郎衆院議員はこう話す。
「もはや津軽選挙も過去の話ですが、昔は大変だったようです」
 祖父の代からの政治家一族。そんな名門の出というイメージをもたれがちだが、2003年まで県知事だった父は国政選挙に8回立ち、4勝4敗と勝率は5割だった。選挙に負けるたびに、実家の田畑は減っていった。地元の人たちはそういう実情を承知していたようだ。
「津軽では『津軽の足引っ張り』と言って、出る杭は打たれる風潮も確かにあると思います。妙に目立つのはだめ。給食費を納めないと教室でも目立つでしょう」

「さんふり」に潜む気質
 青森の失業率は全国で4番目に高くて、求人倍率も全国最低。それでも、実労働時間数は全国トップ。木村さんは言う。
「雪国はハンディがあるが、経済的に苦しくても負けない、という生きる上での誇りを津軽人は持っている。『払うべきものは払う』と決めたら払う。『我が子のためには』という親心がしっかりしている地域なのでしょう。そんな強情っ張りさに給食費の納入率が高い理由があるんじゃないでしょうか。『じょっぱり』はマイナス的視点だけではなく、プラス的視点からも使われる津軽人の気質です」
 青森で活動を続ける弘前出身の方言詩人、伊奈かっぺいさんに青森市内で出会った。伊奈さんは謎を解くヒントをくれた。
「面白い場所があるから行ってみたらどうですか」
 言われた道を行くと、小さな飲み屋が軒を連ねる屋台村があった。看板には「さんふり横丁」と書いてあった。ネーミングの理由を、伊奈さんは説明してくれた。
「『さんふり』は、津軽人の気質を表す津軽弁ですよ」
 この店主によれば、「さんふり」は「三つのふり」だという。
▽えふり=いいカッコすること。
▽あるふり=金を持っているふりをすること。
▽おべだふり=博識ぶること。
 要は、何事につけ見えっ張りでかっこつけ、ってことだ。伊奈さんは言う。
「津軽人にとって、他人から貧乏人に見られることは屈辱的なことだから、意地でも給食費は払うんですよ」

「時」が止まったまま
 伊奈さんも80年代、地元放送局の社員を続けながら、東京でタレントとしてレギュラー番組を持っていた。でも、津軽への愛着があった。津軽弁を話し、東京からの誘いも断って青森で暮らした。
 4年前、脳梗塞で入院した。当時、ラジオなどレギュラー番組が三つあったが、わずか2週間入院している間に、すべての番組を降板させられた。その時、今年4月の定年までは会社を辞めないと決めた。いじめられるほど仕返そうというエネルギーがわいた。自分が津軽人だなぁと実感する時でもある。
「そんな見えっ張りさは生きていく上で大事なことですよね。落語を聞いていると、戦後は江戸っ子も、貧乏でも踏ん張ってきた古き良き日本人だった。いまは、大事な日本人気質が薄れて、給食費すら払わなくなってしまったと考えたらいいんじゃないですか」
 時が流れ、人は行き交い、気質もうつろう。なのに、青森は時が止まったかのように見える。
 興味深い数字がある。
▽他区市町村への通勤者比率=17・6%
▽他区市町村からの通勤者比率=17・7%
 いずれも全国平均(41・8%)を大きく下回って、青森は全国最下位。同じ人がずっと同じ地で暮らす「人の行き交い」や「価値観の混乱」が少ない地域なのだ。
 青森県の政治家一家をモチーフにした小説を書き続けている作家高村薫さんは、執筆にあたって青森を取材した。
「青森は、いい意味でも悪い意味でも、他の国内の街の20年前の姿を見ている感じがする」

「年金は納めず」のわけ
 いい意味でいえば、「古き良き日本人」だが、悪い意味でいえば、権力には従うという封建的心情を残しているとも言える。
「青森は格差社会が凝り固まっているんです」
 高村さんによれば、大半の地域では戦後、大地主が没落したのに、青森では没落しなかったため、いまも旧態依然とした格差社会が残った。その格差社会の矛盾に気づいた津軽人は、バランスを崩してしまうのだという。
 代表格は太宰治だ。太宰は大地主の家に育った。だが、太宰は学生時代、左翼運動にのめり込み、その後も薬におぼれた。高村さんは「太宰は、固定化された格差に疑問を持ったことで、自分の立場が引き裂かれていった」とみる。
 一方、地主ではない「下流の人」はどうか。使用済み核燃料の再処理工場は青森県六ケ所村に、国内初の原子力船「むつ」の母港も青森県むつ市にあった。いずれも、どの地域も受け入れたくない施設だが、見返りの補償金で地域は潤った。
「長いものに巻かれ続けてきたことで屈折し、郷土愛はあるが、その裏に、あきらめがあるというか。いかんともしがたい哀しみがあるように見える」
 青森は給食費納入率が全国一なのに、国民年金納付率(05年度)は全国37位で、全国平均を下回っている。高村さんは言う。
「『自分たちは格差社会の壁を崩せずにいるが、せめて子どもは学問で身を立ててほしい』。そんな願いが給食費を納めようとする行動に表れているのかもしれない」
 品格のことは、この人に聞かなければいけない。『国家の品格』の著者、藤原正彦さんは戦後、母と兄妹の4人で満州から引き揚げてきた。道中、貧しそうな家ほど食べ物を恵んでくれたのを覚えている。それに引きかえ、いまの日本は、金のために援助交際する若者や、生き馬の目を抜くビジネスが横行しすぎているように見える。
「拝金主義の中で、日本人は大事な道徳心をなくした。青森は数字上、貧しいかもしれないが、大事な『日本人の品格』を忘れていない。あっぱれですよ」
編集部 河野正一郎

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