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◇人口流出に拍車
かつての炭鉱とメロンで知られる北海道夕張市。民間企業でいえば倒産状態となり、来年度から「財政再建団体」となることが決まった。国の厳しい監視の下、住民は行政サービス低下や増税にさらされることになる。世帯によっては年15万円を超える負担増で、市職員の平均年収は4割減となる見通しだ。05年の国勢調査で、同市は高齢化率が39・7%と全国で最も高い。将来への不安から人口流出の兆しもあり、再建計画により地域崩壊を危惧(きぐ)する声さえでている。【有田浩子、横田愛】
◇保育料、最大12万円増/小中11校→2/市職員1/3に
「協力してくれって言ったって、(市の)破たんの責任はどうなっているんだ」「孫や子にまで責任を負わすのはかわいそうだ」。夕張市は、再建計画に伴う市民負担の試算を発表した17日以降、市内各地で住民説明会を続けている。18日はあいまいな市の説明に出席者の怒りが爆発。開始から3時間半で約200人が一斉に退席し説明会が中断する場面もあった。
市の計画に最も衝撃を受けたのは子育て世帯だ。同市はこれまで独自の所得区分を設け、実質的に保育料を軽減してきた。これを国の基準に改めると、保育料だけで最大で年約12万円の負担増になる世帯が出る。
市役所近くにある新夕張保育園に3歳と6カ月の子どもを預ける広永綾さん(23)の場合、2人で月約1万円アップするという。「市民税などとあわせて、月々の負担がいくらになるかはまだわからない。来年4月から実施というが、毎日がいっぱいいっぱいで、心の準備ができていない」と話す。市が今年6月、「再建団体」となることを表明後、「将来が不安」「仕事がない」と5人の園児が同保育園を退園し、保護者とともに夕張を離れた。
保育料は前年の収入で決まる。そのため来年は給料は下がりながら、保育料は上がる二重負担に苦しむ世帯が出る。稲村孝子園長(52)は「せめて1年間アップを猶予してほしい。このままでは若い人たちがどんどん夕張を出て行ってしまう」と訴える。2人の子どもを別の保育園に通わせる市職員(37)は年収が200万円近く減るため市役所を辞めるつもりだ。
夕張市は少子高齢化の進展が全国一で、計画の前提としている人口は現在の約1万3000人から2030年には約6300人に減ると見込んでいる。しかし、市民負担が大きくなれば、夕張を出ていく人が増えると考えられ、試算以上に人口が減る可能性は大きい。
住民説明会に参加した男性(70)は「20年後には我々は死に、誰もいなくなってしまう」とため息をついた。
◇粉飾のツケ、赤字360億円−−年18億円返済へ
夕張市は来年度から通常の年収(標準財政規模)の8倍に上る約360億円の赤字を20年程度で解消する考えだ。直近で再建団体となった福岡県旧赤池町(現福智町、92〜01年指定)は、標準財政規模の1・3倍の赤字(約32億円)を10年かけて解消した。夕張市の赤字は旧赤池町の約10倍で再建期間も長期にわたるため、住民や市職員がこうむる負担も過酷なのだ。
炭鉱閉山後、夕張市は生き残りをかけた観光事業で失敗。残された巨額の赤字を隠すために、市は短期資金(一時借入金)として金融機関から融資を受け、決算を黒字に粉飾し続けた。結果として赤字は雪だるま式に膨れ上がった。
粉飾決算を続ける中、市の人口はピーク時(1960年、約12万人)の10分の1まで減ったが、行政改革は後手に回り、職員数(220人)は人口や産業の似た自治体(類似団体)の約2倍に上る。
赤字解消のため夕張市が打ち出したのは、職員を3年間で、約3分の1の70人まで減らし、給料も平均30%削るというもの。年平均約18億円の返済が必要で、人件費削減で約8億5000万円を賄うという。増税や保育料増額など市民負担で約1億7000万円の歳入増を見込む。
◇予備軍、全国の2割−−政府、自治体へ「見せしめ」狙い
夕張市だけでなく、財政破たん予備軍の市町村は全国に広がっている。
総務省は8月末までに、自治体の財政健全度を示す新たな指標「実質公債費比率」の算定結果(速報値)を公表した。実質公債費比率は、自治体の収入に対する借金返済額の割合だが、全体の2割が「黄」信号の18%超だった。ちなみに夕張市は28・6%で、赤信号とされる25%超だった。
このほか、上位には歌志内市(40・6%)をはじめ、上砂川町(36・0%)、洞爺湖町(28・2%)と北海道の市町が並ぶ。炭鉱閉山後の経済政策や過去の公共事業費の償還などで苦しんでいるためだ。また、長野県王滝村(33・3%)は村営スキー場の巨額債務、山形県新庄市(29・9%)は山形新幹線延伸に合わせた駅周辺の基盤整備費が重くのしかかっている。
西日本でも、沖縄県座間味村(30・7%)、兵庫県香美町(28・8%)が財政難にあえいでいる。
こうした中、夕張市の過酷とも言える再建プランは政府にとって、全国自治体への「見せしめ」的な意味合いが強いとみられている。総務省は、破たんを回避するため、自治体の財政再建を2段階で進める破たん法制の整備を目指しており、実際に破たんに陥った自治体の惨状を強調することで地方に危機感を広げ、法整備への地ならしとする狙いが透けてみえる。
夕張市が「財政再建の基本的枠組み案」を発表した後の今月21日、菅義偉総務相は記者会見で「現行法の中で再建するには、それなりの厳しいことが必要だと思っている」と言い放ち、新制度導入の必要性を訴えた。【清水隆明、川上克己】
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◇負担のモデルケース
(1)65歳以上夫婦2人暮らし=年2万5400円の負担増
(収入300万円=年金、持ち家なし、軽自動車有)
(2)夫婦40歳代=年16万5880円の負担増
(小学生と3歳以上幼児、収入400万円、持ち家なし軽自動車有)
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◇再建計画で夕張市はこうなる◇
《各種税の引き上げ》
△市民税月額(個人・均等割) 3000円→3500円
△同(所得割) 6.0%→6.5%
△固定資産税 1.40%→1.45%
△軽自動車税 現行税率の1.5倍
△入湯税新設(市内温泉) 150円
《生活全般》
△施設使用料の50%引き上げ
△ごみ有料化の実施
家庭系混合ごみ 2円/リットル、粗大ごみ20円/キロ
△下水道使用料
10立方メートル当たり1470円→2440円
△11の小中学校を2校に
△市道の除雪 降雪10センチ以上から15センチ以上
《市職員》
△職員数、220人(消防職員除く)を09年度当初までに130人程度、さらに10年度には70人程度に
△一般職給与 平均30%削減
△特別職給与 60%削減
△退職金は支給上限(57カ月)を段階的に引き下げ10年には20カ月分に
☆職員の数や給与はすべて全国最低水準に
毎日新聞 2006年11月25日 東京朝刊