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(回答先: 在日朝鮮閥の方々に告ぐ 投稿者 石工の都仙臺市 日時 2006 年 10 月 26 日 00:17:15)
田中宇の國際ニュース解説
支那が北朝鮮を政權顛覆する？
２００６年１０月１９日
１０月９日の北朝鮮の核實驗以來、支那の北朝鮮に對する態度が以前より敵對的に成つてゐ
る。報道によると、支那當局は、國内の學者などがメディアで「支那は、北朝鮮の政權を顛覆
すべきだ」と云つた主張を展開する事を容認するやうに成つた。
支那外務省は、北朝鮮の政府と國民とを分けて考へてゐるやうな言ひ方を外國の外交官に對
して發するやうに成つたとも指摘されてゐる。今後、北朝鮮でクーデターが起きて金正日政權
が顛覆された場合、支那は「クーデターは民意に基づいてゐるので支持する」と言へるやうに
してゐるかのやうである。
核實驗後、北朝鮮との貿易が集中してゐる支那側の丹東の銀行では、北朝鮮への送金を停止
する措置がとられてゐる。北朝鮮から支那の瀋陽に、ビザを取つて正式なルートで出稼ぎに來
てゐた勞働者たちは、支那當局からビザ更新を拒否され、北朝鮮に歸國してゐる。丹東や瀋陽
の銀行では、北朝鮮から支那への送金にも時間がかかるやうに成り、中朝貿易は打撃を受けて
ゐる。
支那政府が北朝鮮に對する態度を硬化させたのは、核實驗が實施された事が最大の原因では
ない。核實驗は、態度硬化のきつかけでしかない。支那が北朝鮮を批判したり、政權顛覆支援
を示唆したりする本質的な理由はおそらく、支那が北朝鮮にアドバイスした經濟開放政策が進
まず、支那が目指してきた「北朝鮮を支那のやうな社會主義市場經濟に軟着陸させていく」と
云ふ目標が實現してゐないからである。
北朝鮮に關して支那（と韓國）が望んでゐる事は、安定維持や混亂囘避である。北朝鮮の安
定を維持するためには、北朝鮮を貧困から脱出させ、經濟成長する状態にする事が必要だ。支
那は、１９７０年代末から始めた市場經濟化が成功してをり、此の方式を北朝鮮にもやつても
らひ度い。
支那は１９８０年代以來、香港から市場經濟を學ぶため、香港の隣に新たな開發區として深
センを作つた。此れと同樣に中韓は數年前から、中朝國境の支那側の丹東の隣に北朝鮮側の新
義州、南北境界線の韓國側のソウルの隣に北朝鮮側の開城、と云ふぐあひに北朝鮮の南と北に
經濟特區を作らせ、北朝鮮を市場經濟に移行させようとしてゐる。
▼北朝鮮で親中派と反中派の對立
一昨年には、支那から北朝鮮への産業投資が活溌に成つてゐると報じられ、支那式の經濟改
革が北朝鮮で進み出した事をうかがはせた。ところが其の後、中朝間の經濟關係はさほど伸び
てゐない。支那政府によると、支那から北朝鮮への金融以外の直接投資額は、２００４年が１
４１０萬ドル、０５年が１４３７萬ドルと微増である。中朝の貿易總額も０４年が１４億ド
ル、０５年が１６億ドル、０６年１−８月が１０億ドルで、横ばいに近い。
此れらの數字を指摘してゐるアジアタイムスの記事は「中朝貿易は核實驗後も繁盛してゐ
る」と云ふ趣旨で書かれてゐるが、北朝鮮のやうな新興市場は、經濟開放が進んでゐるなら、
もつと數字が伸びる筈だ。支那政府は中朝貿易が擴大してゐると見せるために増加傾向の數字
を出してゐる可能性もある事を考へると、中朝貿易は擴大してゐるとは言ひ難い。
中朝貿易が伸びてゐないのは、北朝鮮政府が經濟開放策（經濟改革、市場經濟化）に對する
積極性を失つてゐる事をうかがはせる。支那の分析者によると、北朝鮮政府内では最近、親支
那派と反支那派との對立が激しくなつてゐる。金正日總書記自身は親支那派で、反支那派は、
金正日一族を政權から引きずりおろさうとしてゐると云ふ。反支那派とは、支那が北朝鮮にや
らせてゐる改革開放に反對する人々である。反支那派が強くなつてゐるため、金正日は、改革
開放の進展を減速せねばならなくなつてゐるわけで、此れが中朝貿易の横ばい状況の背景にあ
りさうだ。
北朝鮮で改革開放に反對してゐる主な勢力は軍である。軍の首腦たちは、經濟開放によつて
北朝鮮と外の世界との緊張關係が緩和されると、自分たちの政治力が失はれてしまふので、改
革開放を「社會主義の理念を忘れた裏切り」として反對してゐる。金正日は、軍の不滿をなだ
めようと待遇改善をしてゐるが、經濟開放が進んでゐないと云ふことは、軍の反對がいまだに
強い事を示してゐる。
此のやうな北朝鮮内の状況と、先日の核實驗との關係を考へると、金正日は、經濟開放を進
める事よりも、寧ろ軍が求める外界との緊張關係を擴大する政策を重視し、核實驗を舉行した
と云ふことに成る。
支那が北朝鮮の政權顛覆を畫策してゐると云ふ話は以前からあつたが、今囘また出てきてゐ
ると云ふことからも、北朝鮮側が改革開放に消極的に成つてゐる事に支那が苛立つてゐる事が
感じられる。
支那が望んでゐるのは、軍内で改革開放に賛成してゐる將軍たちにクーデターを起こさせて
政權をとらせ、北朝鮮の政權内で改革開放を止めてゐる勢力を金正日もろとも政權から外さう
とする動きだらう。だが、支那が嫌ふ北朝鮮の不安定化や、國家としての全崩潰を囘避しつ
つ、此の手のクーデターを成功させるのは難しい。
最近、支那の分析者は１９９０年代後半に平壤で３囘のクーデターがあつた事を明らかにし
たが、此れらは６年以上前の話である。金正日はクーデター防止に盡力してゐるだらうから、
最近もクーデターが起きさうな状況かどうかは不明だ。其の一方で、北の核實驗後、支那が北
朝鮮國境に越境防止用のフェンスを作つた事からは、北朝鮮の崩潰やクーデターが近い事を感
じさせる。
▼支那を入れてアジア版ＮＡＴＯ
北朝鮮をめぐる行き詰まりは今後も續く可能性が大きいが、亞米利加が北朝鮮の問題を支那
に任せる傾向はどんどん強まつてゐる。核實驗を機に、亞米利加政府からは「支那や日本を含
めた東アジア全體と亞米利加で、アジア版ＮＡＴＯのやうな多國間安全保障の枠組みを作るべ
きだ」と云ふ構想が出てきた。
「アジア版ＮＡＴＯ」の構想は以前からあつたが、以前は、支那包圍網としての、日米豪など
を核にした多國間の安保組織としての構想だつた。
ところが今では支那は亞米利加の「敵」から「重要な味方」に變身し、北朝鮮の核問題に象
徴されるアジアの安全にかかはる諸問題を多國間で解決するための枠組みとして、米政府はア
ジア版ＮＡＴＯを提起してゐる。「亞米利加は支那に頼らないと北朝鮮やイランの問題を解決
出來ない」と云ふ論調も、最近亞米利加の新聞によく載るやうに成つた。
安倍首相の支那訪問は、亞米利加が支那を敵から味方へと轉換する節目の時期に行はれてゐ
る。其のことは、前囘の記事に書いた、安倍訪中は亞米利加の壓力を受けたものではないかと
云ふ私の推測を補強してゐる。
支那が北朝鮮を政權顛覆する？
http://tanakanews.com/g1019korea.htm
日本の核武裝と亞米利加
２００６年１０月２４日
最近、私が疑問に思ふことの一つに「亞米利加は日本を核武裝させ度いのか、させ度くない
のか」と云ふのがある。讀者の多くは「亞米利加は日本を支配し續け度いのだから、日本を核
武裝させ度くないに決まつてゐる」と思ふかもしれない。「亞米利加のライス國務長官が日本
に來て、米軍が全力で守つてやるから核武裝するなと言つた許りだ」と云ふ指摘もあるだらう。
然し私は「ライスの宣言は口だけではないか」「若しかすると、安倍首相がライスに頼んで
核武裝するなと言つてもらつたのかもしれない」と勘ぐつてゐる。日本に核武裝させ度くない
と強く思つてゐるのは、亞米利加ではなく、日本の側である。對米從屬は、自主外交するリス
クを負はなくてすむので、外交能力の低い日本にとつて尤も良い國家形態であると思つてゐる
日本の官僚、政治家、財界人は多い。
昨年２月に北朝鮮が核兵器の保有を宣言した後、亞米利加ではチェイニー副大統領を筆頭と
するタカ派・ネオコン筋から「日本を核武裝させ、北朝鮮や支那に對抗させるべきだ」と云ふ
主張が斷續的に出てゐる。昨年５月には、タカ派が大半を占める米上院で「支那が北朝鮮の核
實驗を沮止出來ない場合、支那に對する懲罰として、日本を核武裝させるのが良い」と云ふ考
へ方を盛り込んだ政策提案が發表されてゐる。
同時に亞米利加からは「北朝鮮が核武裝したら、日本も核武裝するのはやむを得ない」と云
ふ意見が多く發せられてゐる。「日本は３カ月で核武裝出來る」と云ふ指摘も出てゐる。亞米
利加のタカ派が「日本を核武裝させろ」と言ひ、現實派が「やむを得ない」と言ふと云ふ、亞
米利加お得意の「ぼけと突つ込み」を組み合はせた言論を受け、日本は核武裝の方向に少しづ
つ押しやられてゐる。
▼日本を核武裝させ、北朝鮮や支那と戰はせる
「日本を核武裝させろ」と云ふ主張は、１０月９日の北朝鮮の核實驗後、再び亞米利加のタカ
派言論人から活溌に出されてゐる。「惡の樞軸」と云ふ言葉を作り、ブッシュに演説で使はせ
たネオコンのデビッド・フラム（David Frum）は「亞米利加がイスラエルに軍事援助してイラ
ンの核施設を先制攻撃させるのが良いのと同樣、日本を核武裝させて北朝鮮を叩かせ、支那に
對抗させるのが良い」と主張してゐる。
またフラムは「日本は核擴散防止條約（ＮＰＴ）を無視して核武裝すればよい」とも言つて
ゐる。此の主張の裏には「ＮＰＴ體制は亞米利加の軍事戰略を縛つてゐるので、日本に破らせ
て壞すのが良い」と云ふネオコンの考へ方があるのだが、まるで「日本は戰前の猛々しさを取
り戻し、國際社會の批判など無視して軍事大國に成り、反米の朝鮮を征伐し、支那を侵掠すれ
ばよい」と言つてゐるかのやうに聞こえる。
日本では、かうした亞米利加内部の意見を「極論」と切り捨てて自らを安心させ度い人が多
いかもしれないが、さうした「見ざる聞かざる」の態度は危險である。フラムは「惡の樞軸」
を發案した人であり、ブッシュを其の氣にさせてイラク侵攻を舉行し、今またイラン攻撃を畫
策してゐる實行力のあるネオコンの代表格の一人である。
同樣に日本人は、ライスの「日本は核武裝するな」と云ふ言葉を聞いて「やつぱり亞米利加
は日本を支配し度いんだ」と安心してしまふ「支配され度い病」からも脱するべきだらう。ネ
オコンが過激なことを言ひ、ライスのやうな現實派が「其れは言ひ過ぎだ」と反論しつつも、
事態は過激な方に流され、結局ネオコンが望んだ通りに成る、と云ふのがブッシュ政權の多く
のケースである。ネオコンとライスは對立してゐない。「ぼけと突つ込み」の役割分擔であり、
結論部分はネオコンが握つてゐる。
ネオコンはイスラエルにイランを攻撃させたがつてゐるが、此れはイスラエルの自滅につな
がりかねない。今年７月のレバノンでの戰爭では、亞米利加はイスラエルを応援しただけで派
兵せず、イスラエルは梯子を外され、潛在的な國力を激減させた。同樣に「日本を核武裝させ
て北朝鮮や支那と戰はせる」と云ふネオコンの提案は、若し日本が本當に北朝鮮や支那と戰つ
た場合、亞米利加は言葉で応援したり武器支援をして呉れるだけで、實際の派兵をせず、日本
に不必要な自滅を強ひる事に成りかねない。非常に危險である。
以前の記事に書いたやうに、私は「ネオコンは單獨覇權主義者のふりをして、實は多極主義
者なのではないか」と感じてゐる。亞米利加の覇權にぶら下がつて自國を強くしようと云ふイ
スラエルと英吉利は、既にブッシュ政權に振り落とされ、自滅しかけてゐる。日本は亞米利加
にぶら下がつてきたものの、イスラエルや英吉利のやうに亞米利加を牛耳ろうとしなかつたた
め、まだ振り落とされてゐないが、今後は分からない。
▼最早幻影の日米軍事同盟
日本人の多くは「日本が核武裝しても、其れは日米軍事同盟の傘下でのことで、寧ろ日米同
盟を強化し、日米を對等な關係に近づけて呉れる」と考へるかもしれない。だが、日本のマス
コミが「日米同盟の強化」を喧傳してゐるのとは全く逆に、實際には日米同盟は可也空洞化し
てをり、最早「幻影」であると云つても良い状態である。
９月末に米陸軍が發表した報告書によると、米軍はイラクとアフガニスタンの占領にかかり
きりで、兵器も兵士もイラクにとられ、朝鮮有事の際に日本や韓國を守り度いと本氣で思つて
も出來ない状態にある。たとへば、米陸軍で朝鮮半島有事に對應する擔當部隊の一つである第
３歩兵師團は、戰車や裝甲車など師團の裝備の殆どすべてをイラクに運んで使用中で、此の師
團の米本國の基地（ジョージア州）は空つぽの状態だ。
朝鮮半島有事に對する米韓兩軍の作戰計劃書「OPLAN 5027」では、有事には６９萬人の地上
軍兵士が動員される事に成つてゐるが、此の内容は今や殆どジョークである。米軍は、イラク
駐留の１４萬人の兵力すら維持出來ず、１−２萬人を削減出來るかどうかをめぐつて米軍と米
政界が何カ月も議論し、其の舉げ句にイラクの情勢が惡化して削減どころか増派せざるを得な
い状況だ。
米軍は、朝鮮半島で戰爭が起きても、地上軍を全く派遣しない可能性が大きい。數千人でも
派兵したら最後、地上戰の泥沼にはまつて増員を餘儀なくされ、長期間派兵せねばならなくな
る。米軍はイラクから撤退しない限り、東アジアに派兵する餘力はない。
米軍が使ひものに成らなくなつてゐる現實をふまへ、韓國政府は、有事の際の軍の指揮權を、
從來の米軍から韓國軍に切り替へる話を亞米利加との間で進めてゐる。米軍に頼れないなら自
國軍で對應するしかないので、韓國では來年の防衞豫算を１０％も増やす豫定に成つてゐる。
此の流れの中で、ラムズフェルド國防長官は８月末に「北朝鮮は韓國を攻めないだらう（だ
から在韓米軍を撤退しても問題はない）。北朝鮮がイランなどに核兵器を賣る事の方が心配
だ」と發言し、亞米利加は北朝鮮との戰爭よりもイランとの戰爭に關心がある事を示唆してゐ
る。
▼韓國を見捨て、いづれ日本も・・・
米軍は、財政的にも全く餘力がない。財政赤字の増加に對應するため、ブッシュ政權は防衞
豫算の削減を試みてゐるが、今年８月の來年度豫算編成計劃に際し、米陸軍は、ホワイトハウ
スが決めた陸軍豫算の額ではイラクの駐留費が足りなくなるとして異例の抵抗を示した。
ブッシュ政權は９１１以來、防衞費を急増してゐるが、其の多くはイラク占領やテロ戰爭の
實際的な作戰には使はれず、戰場に強力な無線ＬＡＮシステムを作つて動畫をやりとりする戰
爭のＩＴ化計劃や、空中戰が得意な最新鋭のＦ２２戰鬪機、ミサイル迎撃システムなど「軍の
ハイテク化」に豫算の多くが費やされてゐる。
テロ戰爭も、イラクとアフガンの戰爭も、テロリストやゲリラとの「地上戰」若しくは「犯
罪搜査」に近い戰ひであり、空中戰や軍のハイテク化とは無縁である。だが、政治資金を呉れ
る軍事産業が儲かるので、米政府はハイテク化に巨額の豫算を投じてゐる。陸軍の歩兵には滿
足な豫算がついてをらず、イラクの米軍兵士の多くは、ゲリラの銃彈が貫通してしまふ輕裝備
の裝甲車に乘つてゐる。
軍事費も兵力も足りない亞米利加では、日本が核武裝したら「最早日本は亞米利加の核の傘
の下にゐないので、亞米利加に頼らず自分で防衞した方が、亞米利加にとつてもコスト安に成
る」と云ふ議論が出てきかねない。既に韓國では、韓國側が亞米利加側に「韓國は亞米利加の
核の傘の下にあると言つてほしい」と求めてゐるのに對し、米側は「前向きに檢討する」とし
か答へない状態に成つてゐる。
日本には「韓國は反米だが、日本は親米なので、亞米利加は韓國を見捨てても日本は見捨て
ない」と云ふ見方が多いが、私から見ると、ブッシュ政權を握る「隱れ多極主義者」たちは、
亞米利加の世界に對する影響力の全體を減退させようとしてをり、相手が反米でも親米でも、
目指すところは同じである。反米の韓國は素早く荒々しく切り捨て、親米の日本はゆつくりひ
そかに切り捨てる、と云ふプロセスの違ひがあるだけである。
▼パトリオットは詐欺かも
軍のハイテク化の中でも、飛んできたミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とさうとする「ミサ
イル防衞計劃」は、北朝鮮のミサイルの脅威に對應出來ると考へる讀者が多いだらう。日本は
最近、巨額の金をかけて亞米利加から迎撃ミサイル「パトリオット」を導入してゐる。
だが、迎撃ミサイルが飛んできた北のミサイルを撃ち落とせる確率がどの程度なのか、多い
に疑問がある。「パトリオット」は１９９１年の灣岸戰爭で使はれ、當初は１００發１００中
のやうに報じられたが、實は殆ど迎撃出來てゐなかつた事が、戰爭後に明らかに成つてゐる。
其の後、米軍は大陸間彈道ミサイルを撃ち落とす迎撃實驗を繰り返してゐるが、此れまで數
囘の實驗はすべて失敗で、今年９月初めに行はれた尤も最近の實驗だけ「成功」と發表された。
從來の失敗を見ると、迎撃システムはまだ實戰使用には耐へない初期の實驗段階でしかない
事が分かる。實際のミサイルは、いつどこからどのくらゐの重さのものが飛んでくるか分から
ないが、實驗では、發射場所と發射日時とミサイルの重さや大きさをすべて事前に迎撃システ
ムに入力し、其れでも迎撃出來ない確率の方が高かつた。
９月の實驗が「成功」と發表されたのは、７月の北朝鮮のミサイル試射後、亞米利加や日本
で「迎撃ミサイルは北朝鮮のミサイルを撃ち落とせないのではないか」と云ふ懸念が廣がつた
事への對策であり、亞米利加から日本に迎撃ミサイルをスムーズに賣り込むためにも「成功」
が宣傳される必要があつたのではないかと勘ぐれる。
本當は迎撃ミサイルが使ひものに成らないのだとすれば、日本政府は亞米利加に騙されてゐ
るのか、と思ふ人もゐるかもしれないが、若しかすると日本政府は、迎撃ミサイルが使ひもの
に成らないかもしれないと知りつつ、巨額の金を亞米利加に拂つてゐるのかもしれない。巨額
の迎撃ミサイル贖入費は、日米關係の「潤滑油」としてうつてつけである。
▼反米勢力の核武裝を煽動する
亞米利加はイラクで自滅し、世界から軍事的な撤退を餘儀なくされてゐる一方で、９１１以
來、北朝鮮やイランなど、世界の反米勢力の核武裝を煽動するやうな行爲をやり續けてきた。
たとへば昨年９月中旬、ブッシュ政權は「核兵器などの大量破壞兵器を持つてゐて亞米利加
に脅威を與へさうな國や勢力に對し、亞米利加は核兵器などを使つて先制攻撃する事がある」
と云ふ新たな軍事戰略を發表したが、此れはイランや北朝鮮に對して「核兵器で先制攻撃する
ぞ」と宣言したに等しい。此の宣言は、昨年９月下旬の北京での６カ國協議の直前、北朝鮮が
協議に乘つてきた矢先に發せられ、北朝鮮に「亞米利加が提案する和平は信用出來ない」と思
はせる效果を生んでゐる。
イランなどは、從來は殆ど核兵器を開發する施設や技術力がなかつたのに、今にも核兵器を
持ちさうだと云ふ濡れ衣をかけられた上、亞米利加から「先制攻撃するぞ」と脅されてゐる。
此れでは「核開發するな」と言ふ方が無理である。此のやうな亞米利加のやり方を見て北朝鮮
は、ひそかに核開發を續け、何とか早く核實驗までこぎ着けようと考へたに違ひない。
もともとソ連の傀儡國家として作られた北朝鮮は、ソ連崩潰で後ろ盾を失ひ、孤立して追ひ
詰められてゐる。さう云ふ勢力に「ぶつ潰すぞ」と脅しをかけたら、死にものぐるいに成つて
「抑止力」を求めるのは當然だ。日本のマスコミでは「金正日は正氣ではない」と云ふ宣傳が
さかんだが、正氣でないのは金正日よりブッシュ政權の方である。
（ブッシュ大統領だけでなく、側近の多くが、北朝鮮やイラク、イラン、アフガン、露西亞な
どに對し、失敗する政策を頑固に推進してゐる。此れは、大統領個人が低能だからと云ふだけ
でなく、意圖的な失敗であるとしか思へない）
追ひ詰められて何をするか分からない勢力に對しては、武器を突きつけるのではなく、まづ
或程度の食ひ物をやつて安心させ、更正していくやう時間をかけて説得するしかない。ブッシ
ュ政權の北朝鮮政策は完全に間違つてをり、クリントン政權の「枠組み合意」や、今の支那の
戰略の方が、はるかにましである。日本のマスコミは「クリントン時代のやり方は間違つてゐ
た」とよく書いてゐるが、此れは亞米利加のタカ派系マスコミのプロパガンダを鵜呑みにして
ゐるにすぎない。
▼核抑止力を無效にしたブッシュ
核兵器をめぐるブッシュ政權の政策のもう一つの特徴は、イランや北朝鮮などの反米國を脅
し、逆に核兵器を持たせてしまふやうに煽動した結果、世界で核保有しさうな國が急増し、從
來の「核抑止力」が無效に成つてしまつた事である。
かつて世界の核保有國は、國連安保理の常任理事國と重なつてをり、核兵器は「強く正しい
大國が合議によつて世界の秩序を守る」と云ふ國際社會の體制を維持する效果を持つてゐた。
其の後、印度・パキスタン・イスラエルなどが核保有したが、核兵器が世界の秩序を守ると云
ふ效果は、何とか維持されてゐた。
ところが、ブッシュ政權の先制攻撃の強硬戰略を受けて「亞米利加にやられる前に核武裝し
なくては」と思ふ國が増えた結果、今や核兵器を持つてゐるか持ちつつある國は３０カ國以上
に成つてゐる。
然も、たとへばイスラム諸國の中で唯一の核保有國であるパキスタンでは、親米のムシャラ
フ政權が、反米のイスラム主義勢力によつていつ倒されても不思議ではない状況だ。今後、パ
キスタンが反米のイスラム主義國に轉換したら、核兵器は他のイスラム主義の國やゲリラ勢力
などにも分配される可能性がある。イスラエルの核に對抗する名目で、パレスチナのハマスが
核を持つかもしれない。
イスラム過激派や北朝鮮は、極貧で「失ふものがない」勢力である。彼らの核武裝に對し
て、日本や亞米利加などの豐かで「失ふものが多い」國が核兵器を持つことは、抑止力に成ら
ない。向かうから攻撃されてこちらが失ふものは巨大だが、こちらからの攻撃で向かうが失ふ
ものは少ない。抑も「アルカイダを先制核攻撃で潰す」と言つても、どこに向けて核ミサイル
を發射すればいいかさへ分からない。
（ブッシュ政權は、歐米先進國が支配する世界體制を意圖的に壞し、途上國に政治力を持たせ
て經濟發展させる事で、投資家としての利益を擴大しようとする「隱れ多極主義者」ではない
かと私は疑つてゐるが、多極主義者にとつては、世界の反米勢力に核兵器をばらまいて歐米先
進國を相對的に弱體化させる事は、合理的な戰略である）
▼核抑止力が失はれた後に核武裝したがる愚
日本と北朝鮮が核戰爭に近づくことは、金正日だけに得をさせる。金正日政權は事態が戰爭
に近づくほど、國内を結束させ、政權顛覆を防げる。一方、日本は、北朝鮮が「東京に核ミサ
イルを落としてやる」と宣言しただけで經濟が打撃を受け、混亂する。日本がミサイル防衞や
核兵器で幾ら武裝しても、此の状況は變はらない。
ブッシュ政權は、核兵器が從來持つてゐた「抑止力」と云ふ政治機能を壞した。日本人は、
此れまで核兵器が「抑止力」だつた時代には核兵器を持たず、日本人が核兵器に反對する運動
を展開しても、抑止力を重視する核保有國に無視されてゐた。ところが日本人は、核兵器が抑
止力を失ひつつある今ごろに成つて、核武裝したがつてゐる。本當は「核兵器は抑止力が失は
れたので、もう全世界で核廢絶した方が良いのではないか」と主張した方が外交的に得策なの
に、世界の變化が見えてゐない。對米從屬の氣樂さが、日本人を淺い考へしか出來ない人々に
してしまつた。
以前の記事に書いたやうに、日本のやうに國土が狹く人口が密集してゐる國は、從來から核
抑止力は薄く、もともと核武裝する意味が少ない。支那と日本が５發づつ核兵器を撃ち合つた
ら、國家全體に占める被害は、日本の方がはるかに大きい。
此の件で「支那が５發撃つなら、日本は１００發撃てばいいのだ」と言ふ人がゐたが、其れ
は「１人殺されたら１０人殺し返す」と言つて戰ひ續けて自滅に向かつてゐるイスラエルのや
うに成る事を意味してゐる。倍返しの報復を表明する事は、敵を増やし、最後には自分たちの
破滅にしか繋がらない。
日本の核武裝と亞米利加
http://tanakanews.com/g1024japan.htm
賢者は歴史に學び、愚者は經驗に學ぶ。
では經驗からも學べぬものは何と呼べばよいのか。
此處ままでは日本人と朝鮮人と呼ぶほかあるまい。
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