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(回答先: 宮沢賢治 『世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない』 (農民芸術概論綱要) 投稿者 hou 日時 2006 年 6 月 14 日 01:18:56)
銀河鉄道の夜には次のやふな一節もござ居ますですね。宮沢賢治らしい文章と云ふべきでせう。
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「蠍(さそり)いい虫じゃないよ。僕(ぼく)博物館(はくぶつかん)でアルコールにつけてあるの見た。尾(お)にこんなかぎがあってそれで螫(さ)されると死(し)ぬって先生が言(い)ってたよ」
「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さんこう言(い)ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蠍(さそり)がいて小さな虫やなんか殺(ころ)してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見つかって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命(めい)にげてにげたけど、とうとういたちに押(おさ)えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸(いど)があってその中に落(お)ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないで、さそりはおぼれはじめたのよ。そのときさそりはこう言(い)ってお祈(いの)りしたというの。
ああ、わたしはいままで、いくつのものの命(いのち)をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命(めい)にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだを、だまっていたちにくれてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神(かみ)さま。私の心をごらんください。こんなにむなしく命(いのち)をすてず、どうかこの次(つぎ)には、まことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかいください。って言(い)ったというの。
そしたらいつか蠍(さそり)はじぶんのからだが、まっ赤なうつくしい火になって燃(も)えて、よるのやみを照(て)らしているのを見たって。いまでも燃(も)えてるってお父さんおっしゃったわ。ほんとうにあの火、それだわ」