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□「実名報道」が問われている [JANJAN]
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マスコミ料理教室(14) 「実名報道」が問われている 2006/09/14
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「実名報道」が問われている
山口県・徳山高専同級生殺害事件で、遺体で発見された容疑者少年を実名報道するか匿名報道に徹するか、新聞テレビ各社で方針が分かれた。自殺体発見後実名報道に踏み切った新聞は『読売』1紙だけ。テレビは『日本テレビ』と『テレビ朝日』、週刊誌は「少年法タブー」に挑戦する『週刊新潮』が遺体発見前に報道し、『週刊朝日』が1週遅れで続いている。
はじめにお断りしておくが、私は「原則実名報道」論者である。少年だろうが成人だろうが、政治家だろうが市井の人だろうが、あらゆる事件の主役について――どこで生まれ、そんな育ち方をして、いまどこに住み、何をしているのか。なんという名前で、家族・家庭環境はどうなっているのか。どんな顔をしていて、職場・学校・居所ではどんな評判なのか――できる限り知りたい。週刊誌・夕刊紙の記者・編集者をしているときから、「匿名報道派=人権派記者」と論争し、実名報道を前提に取材してきた。
それは、決して警察的な「実名報道による再発防止・防犯的見地」ではない。「読者の知る権利に答えるため」などというきれいごとでもない。「詳細を知りたい、報道したい」という、野次馬的な「覗き見」「好奇心」がこびりついているからである。
だから、「少年法61条(注1)」を葵の印籠のように、少年事件を一律匿名にすることには職業的好奇心から納得いかない。だが今回の実名報道、とりわけ『読売』の報道姿勢には違和感が付きまとうのだ。
「もうすぐ成人」が「死んだから」実名でいいのか
『読売』の説明は、【容疑者が死亡し、少年の更生を図る見地で氏名などの記事掲載を禁じている少年法の規定の対象外となったと判断したことに加え、事件の凶悪さや19歳という年齢などを考慮し、実名で報道】(9月8日付)した、ということだ。テレビ2社のキャスターは「容疑者死亡」を強調していた。
『読売』が加入している日本新聞協会は「少年法第61条の扱いの方針」(注2)を決めている。この「方針」を何度読み返しても、今回のケースが「少年法=匿名報道」の例外例に当てはまるとは思えない。匿名報道を続けているメディアの説明の方が理論的だ。『読売』の説明には、「少年法そのものがおかしい。だから実名報道だ」という『週刊新潮』的な問題提起もない。『読売』西部本社編集局、東京本社編集局、グループ本社法務部などで検討を重ねた結果の実名報道踏み切りの背景説明(読売9日付)には、社会的な議論を喚起しようという意図も読み取れない。むしろ、「グループ本社法務部」が検討に加わったことからして、実名報道の法的根拠とその後の対策を中心に検討したものと思える。
『毎日』は、【新たに重大な罪を犯すなど社会的利益を損なう危険性もなく】との理由で、「例外例に当てはまらない」との見解を発表(9日付朝刊)した。『朝日』も、東京本社粕谷卓志社会部長の文中談話で少年法で実名で報じるケースの【いずれにも当てはまらない】(同)と説明している(もっとも、朝日新聞社出版本部が発行する『週刊朝日』(9月11日発売号)では実名報道をしている。新聞社グループとして、自由というか、統一性がないというか、ダブルスタンダードがまかり通る新聞社だ)
『読売』に聞きたい3つの疑問
『読売』は【「ギネスブック」が認定する世界一の発行部数を誇り、日本を代表する高級紙です。発行部数監査機関である日本ABC協会の報告では、2006年3月の朝刊部数は全国で10,031,848部で、全国紙第2位の新聞に約196万部、第3位紙に約608万部という大差をつけています】(『読売』Web「数字で見る読売新聞」より)。発行部数世界一の『読売』新聞だからこそ、以下の疑問に答えて欲しい。
第1は、実名報道に踏み切る決断をした際、新聞協会の「方針」にそって「除外例とするよう当局に要望」したのかどうか。また「新聞界の慣行として確立」するために新聞協会とどんなやり取りをしたのかだ。実名・匿名報道を考えるに当たって、今回実名報道に踏み切った社内議論をできる限り詳細に公開して欲しい。決して「死んだから」「限りなく20歳に近い19歳少年だから」ですむ話ではない。
第2に事件の真相である。犯人死亡で殺人の動機は藪の中となったが、同級生を絞殺して数時間後の首吊り自殺は「場所と時間がずれた無理心中」の可能性だってある。もちろん無理心中で生き残った場合は殺人罪で裁かれるが、刑法は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」の殺人罪(195条)に対して、「自殺関与及び同意殺人」は「6月以上7年以下の懲役又は禁錮」(202条)と罪は軽い。そのあたりの議論はあったのか、なかったのか。
第3に他の事件での実名・匿名報道との整合性である。『読売』の場合、一番納得がいかないのは、この判断の温度差である。その判断基準はどうなっているのか。社内マニュアルがあるのかないのか。あるなら判断基準を読者に公開すべきだろうし、ないならば早急に作成して公開すべきだろう。
『読売』の最近の不整合例をあげてみよう。
4日付の『読売』朝刊は、証券業の登録がないのに未上場株をセールスしていた投資会社「コーディホールディングス」の代理人を【東京弁護士会副会長の男性弁護士(47)が務めていたことが分かった】とスクープした。弁護士の名は匿名だ。その後、8日付夕刊で【東京弁護士会副会長が辞任】と報じた。ここでも実名は出さない。同じ日の『日経』夕刊が【東京弁護士会副会長の石鍋毅弁護士(47)】と実名報道しているのに、である。
「弁護士の道義的責任と殺人とを一緒にできるか」との反論もあるだろう。だが、この場合の匿名報道は【取材・報道に当たっては、人権の尊重を常に心がけ、個人の名誉を不当に傷つけたり、プライバシーを不当に侵害したりすることがないよう、最大限の配慮をする】との『読売』の「行動規範」に依拠したものと推測できる。ならば、徳山高専事件ではどの程度の「最大限の配慮」をしたのか聞きたい。
政治家・公務員の完全実名報道を
実名・匿名報道のガイドラインが明確でないと、とんでもない「不公正報道」になる恐れがある。事件内容やマスコミ・世論の関心度に応じて使い分けられたり、事件の主役の職業・立場によって使い分けられたとしたら、とんでもない「不正義」「不平等」を生み出す。
そして、事件の主役が政治家や公務員、有名人や「うるさ型」の場合、警察が逮捕を発表するまでは「匿名報道」が常態となる。その警察は個人情報保護法が施行されて以来、極端な匿名発表にシフトチェンジしている。この先行きに匿名報道のご都合主義が垣間見られる。
例えば、各紙が10日付朝刊で報じた「長崎県警捜査2課長セクハラ事件」は全社匿名報道だった。準キャリアの長崎県警捜査2課長といえば立派な公人だ。セクハラであろうと殺人であろうと、実名報道をすべきではないのか。なぜ、匿名にする理由があるのか。私人、ましてや少年を実名報道するならば、こうした公人の触法行為は全て実名報道すべきだと思う。
今年はじめに話題となった「元モーニング娘」の「未成年喫煙」事件では『朝日』『毎日』『産経』は実名報道したが、『読売』『日経』は匿名だった。各社バラバラ、同じ新聞社でもその時々でバラバラ。県警2課長は一斉に匿名……これでは新聞報道の信頼性はますます薄まるだろう。
出版社系週刊誌は「実名・写真入・詳細報道」が販売増に直結する。そのため昔から、新聞が匿名報道をしている事件では、ひたすら実名報道を狙ったものだ。新聞が「自民党の有力議員に疑惑……」と書けば、有力議員の名前と写真を掲載したし、新聞が「大手電機メーカーの部長が痴漢で逮捕」と書けば、社名を報じた。その意味では、実名報道と匿名報道のグレーゾーンの存在が新聞と週刊誌を共存させていたともいえる。だが、宅配制度を基盤にしている日本の新聞は、部数増減にそれほど直結するとは思えない。
それとも『読売』の実名報道は「宅配頭打ち」となった新聞の起死回生の策なのだろうか。インターネット情報化社会の中で「生き残り・勝ち組」となるために、『読売』を先頭とする新聞が「週刊誌化」し、無原則な「暴露趣味」に走る兆しなのだろうか。
今回の実名報道は各地の図書館で混乱を引き起こしている。『読売』や週刊誌の閲覧を停止したり、袋とじにしたり、コピーを禁止などの処置が各地の図書館で行なわれているという。「原則実名報道」論者の私から言わせれば、社会的に“弱い”少年法がらみの実名報道にエネルギーを費やする暇があるなら、政治家、公務員、公人・公職者の実名報道を徹底的に実行すべきだ。そのほうがよほど世の中のためになる。
(注1)記事等の掲載禁止(少年法61条)
家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であること推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。
(注2)日本新聞協会の方針(1958年12月16日)
少年法第61条は、未成熟な少年を保護し、その将来の更生を可能にするためのものであるから、新聞は少年たちの“親”の立場に立って、法の精神を実せんすべきである。罰則がつけられていないのは、新聞の自主的規制に待とうとの趣旨によるものなので、新聞はいっそう社会的責任を痛感しなければならない。すなわち、20歳未満の非行少年の氏名、写真などは、紙面に掲載すべきではない。ただし
1 逃走中で、放火、殺人など凶悪な累犯が明白に予想される場合
2 指名手配中の犯人捜査に協力する場合
など、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合については、氏名、写真の掲載を認める除外例とするよう当局に要望し、かつこれを新聞界の慣行として確立したい。
(松尾信之)
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