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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070315/121116/
厚生労働省は2009年度までの3年間に審査官を現在の約200人から倍増し、新薬審査の迅速化を進める。外国との新薬開発時期のタイムラグを縮めるためだが、「問題の根は非常に深い」と日本製薬工業協会・医薬産業政策研究所の安田邦章・主任研究員は指摘する。(聞き手は、日経ビジネスオンライン記者=谷川 博)
NBO 厚生労働省が新薬承認審査を迅速化するために審査担当者の倍増を決定しました。本当に効果はあるのですか?
安田 確実に審査の迅速化は期待できると思います。というのは、欧米と比べて日本では審査官が圧倒的に少ないからです。米国には約2000人いますが、日本には10分の1の約200人しかいません。英国と比べても3分の1の規模で、先進国では最も少ないのです。
審査官のマンパワーの差は個人の能力だけでは埋めがたい。現在は審査官1人当たりの担当品目が非常に多く、製薬会社の申請書類が机の上に山積みになっているのではないかと推測します。審査人員が増えれば、そうした状況は改善されるはずです。
世界トップ100の医薬品のうち約3割が日本で販売されず
そもそも厚労省の決定の背景には、欧米で売られている医薬品の多くが日本では使用が認められていない現実があります。世界中で販売されている医薬品のうち、売り上げが多い上位100品目について調査したところ、約3割が日本では承認されていないことが分かりました。
欧米の医薬品が日本での使用を認められるまでには、非常に長い時間がかかります。海外で新薬が発売されてから日本で発売されるまでの時間差は約4年と言われていて、“ドラッグラグ”と呼ばれています。その原因の1つが新薬審査期間が長いことであり、それを改善しようというのが今回の厚労省の決定です。
ただし、だからといってドラッグラグがすべて解消できるわけではありません。日本のこれまでの状況と比べれば事態は改善するでしょう。しかし、欧米と比べるとまだ物足りなさはあります。新薬審査を迅速化するだけで解決できる問題はではないのです。
審査官の増員は、あくまでドラッグラグ解消に向けた第1歩です。問題の根っこは非常に深く、どれか1つを改善すればすべて良くなるということではありません。恐らく厚労省をはじめ医薬関係者の多くがそのことを認識していると思います。
遅い、高い、質が悪い」──三拍子揃った日本の治験
NBO ドラッグラグ解消のためには、ほかにどんな課題があるのですか。
安田 例えば、治験(承認審査申請前に新薬の有効性や安全性について製薬会社が患者データを集めて検証すること)の問題です。日本の治験は「遅い、高い、質が悪い」と言われています。新薬開発に欠かせない治験環境が十分に整っていないのです。
それが、「世界に先駆けて日本で新薬を開発したい」という製薬会社の意欲をそいでしまうのです。医薬品開発にもグローバル化の時代です。欧米の有力製薬会社は世界中、いたるところで新薬開発の拠点を設けてスピードアップを図っています。ところが、そうしたグローバル企業にとって日本の優先順位は決して高くありません。それどころか、日本の有力医薬品メーカーでさえ、日本国内ではなく、欧米での開発に力を入れているというのが実状です。
日本企業を含め世界の製薬業界では、新薬の治験がやりやすくて審査も速い欧米でまず承認を受けて発売し、その実績を基に日本での製品承認・発売に踏み切るという行動パターンが定着しています。こうした状況を変えない限り、ドラッグラグを解消することはできません。
NBO 以前から言われていたことですが、医薬分野で世界から孤立する日本の状況は、より深刻化しているようですね。
国際共同治験」では20年の遅れ
安田 今、医薬関係者の間で注目されているのが、日本では実施例が非常に少ない「国際共同治験」の議論です。これは多国で同時に治験を行うことですが、今や欧米企業では既に当たり前になっています。なにしろ、20年以上前から取り組みが始まっているのですから。
「世界中で新薬を販売したい」と考えている製薬会社にとって国際共同治験のメリットは非常に大きい。様々な人種の治験データを一斉に集められるうえに、新薬開発コストを低減できるからです。例えば、ある人種のデータを集めたい場合に、人件費をはじめコストの安い国や地域を選んで治験を行えばいいのです。
世界的製薬会社の中には、30カ国とか40カ国という規模で国際共同治験を行った例が既にあります。そうした国の中に、日本は含まれていないのです。国を挙げて医薬業界の発展に取り組み始めている韓国や中国などアジア諸国は積極的に国際共同治験に参加しています。
日本は世界的な新薬開発のトレンドから取り残されつつあります。こうした構造的な問題がある限り、ドラッグラグはいつまでたっても解消できないでしょう。ドラッグラグは、医薬業界の国際競争力の問題だけでなく、世界の良薬が病に苦しむ日本の人たちの手になかなか届かないという大問題でもあります。抜本的な変革が必要だと思います。
安田 邦章(やすだ・くにあき)氏
日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所主任研究員
1970年神奈川県生まれ。95年東京薬科大学大学院修士課程修了、日本グラクソ(現グラクソ・スミスクライン)入社。呼吸器、ウイルス感染症、中枢神経領域の臨床開発業務に従事、2005年10月から同研究所に出向し主任研究員を務める。
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