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「ガン宣告」で体験したおかしな日本の医療【NBonline】
http://www.asyura2.com/0601/health12/msg/460.html
投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 1 月 29 日 12:54:32: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070109/116579/?P=2

 第1回では、ガンというテーマについて触れてみたいと思う。「生きる」という題名なのに、最初から死と関わるテーマを取り上げるのが不思議だと思う人がいても無理もない。しかし現在ガンとともに生きる人はますます増えている。私もその一人。ガン診断は必ずしも死の判決ではないのだ。

 私が1回目のがん宣告をされたのは十年ぐらい前のこと。ある日、血尿が続くので専門医に相談したら膀胱ガンだといわれた。多くのガン患者と同様に最初に「これは死刑判決だ」と感じた。今から考えるとそこから私の取った行動はかなり変わっていた。

 私はワインが大好きで、どうせ死ぬんだったらワインをけちるもんじゃないと考えた。ホルコム家が飲むワインのレベルが一気に上がった。それまで手が出なかったシャトーオブリオンなどボルドーの高級品を毎晩水のように飲んだ。

 まわり(=妻)は文句を言いたくてもなかなか言えない状況で本人は楽しかった。ガンに感謝した。問題は、簡単な内視鏡手術で腫瘍を取り除かれ、どうもこいつは死なないぞということが明らかになったことだった。生きられると分かって喜んだ反面、ガンを口実に世界最高のワインが飲めなくなるのは困った。1回目のガンとの出会いはあっけなく終わった。ワンランクダウンのワインにもどって生き続けた。

 2回目のガンは、もっと厄介なやつだった。おかげさまで現在も続行中のガン治療を通じて、日本の医療制度の良い面も悪い面も身近に体験できた。

 2001年6月のことだった。急に足の付け根のリンパ腺が風船のように膨らんだ。以前、足の付け根にしこりを感じたとき、膀胱ガンを担当していた泌尿器科医に相談したことがあった。先生は、担当の場所じゃないから分からないとおっしゃった。

 膀胱としこりの場所は10センチほど離れていた。他の専門医も紹介してくれなかった。何科に行けばいいのか見当がつかなかった。これが1つ目の教訓となった。日本のお医者さんは、良く言えば非常に専門化されている職人だ。悪く言えば体全体のケアにあまり目が向かない。日本の縦社会と同様、他の科の同僚との横のつながりはあまりないようだ。

 急にリンパ腺が膨らんだのは、運悪く土曜日だった。それが2つ目の教訓となった。週末にはほとんどの病院には入院できない。要するに、どうせ病院に入るなら平日を選んだ方がいい。私の場合、緊急だったためにそんな余裕がなかった。

 仕方なく近所の病院に入院したが、さらにショックが待っていた。診察を受けたところ、バイオプシー(生体組織検査)が必要だといわれた。それまで何回も局所麻酔で簡単なバイオプシーの処置を受けたことがあったので、たいしたことではないと思った。

 しかし、バイオプシー当日の朝、現れた看護師は、さっさと私の陰毛を剃って、私をベッドに乗せて、スタスタと手術室へ運んで行くではないか。検査当日のことに関して、先生から全く一言も説明を受けていない。

 何をされるのかと不安でいっぱいになった。手術室に入ったら、ちょっとした仕切りの向こう側になんと手術中の患者が見えた。失礼な言い方だが、自分は発展途上国の病院にいるような感じでさえした。この病院はいったいプライバシーについてどう思っているのか。

 私は背骨に半身麻酔のための注射を受けて、生体を採取するための本格的な手術を受けた後、病棟に戻った。看護師に軽くクレームをつけたら、「ホルコムさん、あなたが気にされているのはinformed consent(納得いく説明)だと思います。

 日本では一部の先生たちはまだそれを十分理解していません。おそらく私たち看護師の方が分かっているかもしれません」

 結局この病院の先生は、私の病気の診断に三カ月をかけた上、最後に言われたのは「とにかくガンは否定できます」

 幸い、その診断を鵜呑みにしなかったひねくれ者の私は、別のすばらしい病院と医者を見つけることが出来た。その病院で出会ったU先生、そして外人の目から見た日本のガン病棟の生活を次回紹介させていただきたいと思う。


 前回と少し焦点を変えて日本の病院、特にガン病棟の課題に触れてみたいと思う。
私の経験からだと3つのことが目立つ。第一に日本のガン病棟は必要以上に暗いこと。第二に入院期間が驚くほど長いこと。第三に自分の病気に対して、患者の好奇心と知識が少なすぎることが挙げられる。

 まず雰囲気だ。ガン病棟に入ったとたんに暗い雰囲気が漂ってくる。多くの患者は無表情で、ちっとも生き生きしていないように見える。これはなぜか男性の患者に特に多い。

 おそらく一部の読者はこの言葉は厳しすぎるのではないかと思うかもしれない。確かにガンは大変な病気で、場合によっては耐えられないほどの痛みも伴う。私も、どんなに痛み止めの薬を使っても眠れず、男泣きするほどの痛みを経験している。隣のベッドの方が亡くなってしまうという経験も一度ではない。痛く、つらく、不安で、苦しくて、楽しいはずがない。

 だからこそ、できる限り明るく生き生きした場所にすべきではないかと思う。人間は生まれて、死に向かって生きる。生まれた日から死に始めるようなものだ。生きるために他の命を食べる。そして次の世代を生かすために前の世代が死んでいく。実際は至る所で、我々は死に囲まれているわけである。

 だからといって常に死を意識して暗くなったり、受身的に生きるべきであろうか。とんでもない! その意味で管理側がもう少し積極的かつ明るい精神で病院を運営すればいかがであろうか。

 患者のために小さなコンサ−トを行う、病院の中でも映画を見られるようにする、そして面白い講演会や落語も企画しよう。ふらりと寄りたくなるような雰囲気の良いコーヒーショップを開店しよう。明るい色の壁にして、花や飾り物に多少お金を使おう。病院の独特の匂いが消えればなお良いけれど。

 例として、東京世田谷区の国立生育医療センターでは、子供や親の視点でいろいろなことが実践されていると感心した。役所の管轄や予算、天下りやしがらみなど、クリアーしなければならない現実問題は多いのだろうが、今後に期待したい。

 第二に入院期間の問題である。これを取り上げる前に一言欧米の事情を説明しておいたほうがよいと思う。

 現在、欧米特にアメリカやオーストラリアなどの医療システムを支配しているのは保険会社だ。多くの人は国の健康保険制度ではなく保険会社の健康保険プランに加入している。できるだけ入院期間を短くするのが利益を追求する組織である保険会社にとっては有利だ。

 ご存知の通り、欧米ではお母さんが子供を生んでから3日ぐらいで退院するのが当たり前である。入院期間は極めて短い。日本は逆だ。ガンの化学療法のために六カ月入院するのはごく普通のこと。欧米では化学療法のために通院するのが珍しくない。

 私の場合は相当無理をお願いして、理解ある主治医との妥協案として2回目のクールが終わるまでは「入院してあげる」ことにした。2回目のクールが終わり、退院する段になって、良く世話をしてくれた研修医が駆けつけてきた。

 この若く熱い研修医は、私を退院させまいと必死だった。血液検査の結果がどうの、免疫が下がるからこうの、退院したら即肺炎になってしまうと言って、力ずくでがんばった。

 私はとうとう爆発してしまった。病院は新宿駅のように人の出入りが激しく、既に私は入院中に肺炎を患った。なぜこいつはこんなに馬鹿げたことを言ってるんだと思った。

 彼が私の身を案じてくれたのならありがたく思うが、私は主治医と良く話し合い、自分の体調を判断し、自己責任の上で家に帰り、治療を続けることを選択したのだ。結果的に、家に帰って通院しながら残りのクールを無事に完了した。

 入院期間に関してはアメリカのように危ないくらい短くしたほうが良いと思っていない。しかし現在の日本の平均入院期間はあまりにも長く医療システムに対して大きな負担をかけていると思っている。医師あるいは病院関係者はおそらく同意しないかもしれないが、医療改革は健康保険料を上げることからではなく、必要以上の長い入院期間のようなシステムの無駄をなくすことから始めるべきだと思う。

 第三の課題は患者自身の責任にあるのではないかと思う。自分の病気に対して関心や知識を持たない患者が少なくないような感じがする。1つの例しかないけれども、一緒にガン病棟にいた若い患者にどういう治療を受けているかと聞いたところ「よく知らない」という答だった。

 結局標準的なCHOPという化学療法を受けていた。医師に提示される治療法の選択肢からうまく選ぶために、自分の抱えている病気について患者自身が調べる努力が必要である。

 国民性かもしれないが日本人は命がかかっているとお医者さんに任せようという傾向があるような気がする。私は西洋人だからかもしれないが、その態度は無責任だと思う。患者は自分の痛みや自分の症状が一番よく分かっているわけである。自分の病気をできるだけ分かった上でその情報を医師に伝えるのが患者の大きな役割だと思う。

 最後に英語を読む方のために医師の資格をもっているマイケル・クライトン(Michael Crichton、映画にもなった『ジュラシック・パーク』の作者でもある)の「Five Patients」という本を推薦したい。古い本ではあるが素人から見てなかなか面白いことを書いている。

 そして日本の医療関係者の名誉のために申し上げると、私はおおよそ日本の病院、お医者さんおよび看護士さんから非常に立派なケアを受けていると信じている。深く感謝している。

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