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日本にとってエイズはまだ対岸の火事なのか [ビデオニュース・ドットコム]
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投稿者 white 日時 2007 年 1 月 05 日 12:41:32: QYBiAyr6jr5Ac
 

□日本にとってエイズはまだ対岸の火事なのか [ビデオニュース・ドットコム]

▽「日本にとってエイズはまだ対岸の火事なのか(1)」

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070104-01-0901.html

2007年1月4日
「日本にとってエイズはまだ対岸の火事なのか(1)」
ゲスト:(国立感染症研究所エイズ研究センター長)
 最初のエイズ患者が報告されてから今年は25年目にあたる。近年、有効な治療方法がみつかり、「エイズ=死」ではなくなりつつある。しかし、エイズによる死亡者の数はすでに延べ3000万人を超え、エイズを完治できる薬もエイズを引き起こすHIVウイルスの感染を阻止する予防ワクチンも未だ開発されていない。また、現在、世界のHIV感染者とエイズ患者を合わせた数は4000万人を超え、2006年には新たに400万人以上が感染している。感染が最も深刻なのはアフリカ大陸だが、ウィルス学の専門家である山本氏は、これから「エイズはアジアの時代」になる、と予測する。
 ところが日本では、エイズに対する関心が異様なほどに低い。日本で報告されているHIV感染者とエイズ患者は合わせて約1000人と、この数字を見る限り、日本ではまだエイズはそれほど懸念を要する事態には至っていないかに見える。しかし、この数は、実際のエイズ検査の受検者が人口の0.07%に過ぎないことを前提とした数であることを忘れてはならない。実際にはその数百倍の感染者がいても不思議はないということだ。その上、日本の新規HIV感染報告件数は、01年には90年代の2倍を超え、現在も右肩上がりに増えている。
 山本氏は、当初エイズは同性愛者だけがかかる特殊な病気という誤解が広まったことで、多くの人が「自分には関係ない」と思い込んだままになっている上、潜伏期間の長いエイズはウィルスへの感染から実際の発症まで長ければ10年間もほとんど症状が出ないため、自覚のないまま感染源になっている人が少なくないと言う。近年、エイズが発症して初めて感染の事実に気がつく「突然エイズ」が、日本では中高年の男性に増えているという。
 また、性教育とエイズ予防は切り離せない関係にあると主張する山本氏は、日本における性教育に対する消極姿勢は、若年層のエイズ感染を防ぐうえでマイナスになっていると警鐘をならす。ティーンネージャーにコンドームの使用を奨励することが、セックス容認につながるとの理由から、積極的な性教育に反対する声が、むしろ社会の保守化の流れの中で強まっているという現実もある。
 四半世紀を迎えたエイズが、世界と日本で今どのような状態になり、どのような課題を抱えてるのかを、山本氏に聞いた。

エイズはアジアの時代へ
神保 統計を見ると、エイズによって死んだ世界の死亡者数は、既に第一次世界大戦と第二次世界大戦を合わせた死者の数を上回っているのですね。2つの世界大戦で約2500万人が亡くなっていますが、すでに世界でエイズによって死亡した人が2003年までで3100万人を超えています。そこまで深刻な状況になっているのに、メディアではあまりとりあげられてないですよね。今HIVの状況はどうなっているのでしょうか。
 
山本 まず、感染者が今までトータルで6000万人。多い見込みでは7000万人が感染されていると言われています。その中で生存している方は4000万弱です。感染者が一番多い所は、アフリカのサハラ砂漠以南です。2006年の新規HIV感染者数は、アフリカサハラ砂漠以南で280万人、ラテンアメリカで140万人、南・東南アジアで86万人です。アフリカがなぜこんなに多いかというと、いくつも理由はありますが、もともとエイズはアフリカから伝わってきたからです。それで非常にアフリカに注目が集まっていますが、実はアジアが危ないのです。
 世界で一番感染者が多い国は、南アフリカ共和国ですが、今年になってインドが抜いてしまいました。インドも凄いですが、さらに人口の多い中国では、すでに約100万人が感染していて、2010年には中国だけで感染者が1000万人になるだろうと言われており、21世紀は、アジアの時代になると危惧しています。日本はまだ少ないとはいえ、やはり右肩上がりの傾向にあります。感染症には国境がないですから、世界との傾向が合致したときに日本も非常に危険なことになるだろうと思います。
 
神保 日本のような先進国でも増えているというお話ですが、アフリカでこれだけ多いということは貧困の問題と表裏一体だと思うんですけど、まず現段階でアフリカが主要な感染地域となっている背景にはどのような理由があるのですか。
 
山本 世界で流行しているエイズの問題は、もともとアフリカにしかいないチンパンジーから出てきたものです。そして80年の始めのアメリカ合衆国で男性同性愛の病気として報告されました。実は1950年代の頃にはアフリカで、今のエイズの症状とそのままのスリムディジーズ(やせ病)というものが、じわじわと広がっていました。もちろんその間は、ウイルスが猿からきたわけですから、より増えやすくなるための離陸の期間だったろうと思いますが、そんなにいっぺんに広がる状況でもありませんでした。最初に見付かった欧米、先進国での状況と違って、アフリカでは明らかに男性専門の病気でした。男性同性、麻薬、これは女性もいるわけですが、男が多いことが間違いないです。だから男性専門の病気が、むしろ欧米のエイズの特徴でした。これがすぐに分かったのが、実は起源はアフリカにあり、男女比がほとんど一対一で性行為により広がっていくと判明したからです。感染は主に異性間、母子感染が多いです。
 
神保 アフリカでは、麻薬、ドラッグの注射針をシェアすることによる感染比率はどうですか。
 
山本 極めて少ないです。ドラッグに費やすようなお金もありません。基本的にはアフリカは異性間交渉による感染が中心です。むしろ欧米と違って、女性が性の道具に使われていますから女性のほうが多いですね。若い世代でいいますと、男性よりも女性の比率が高いです。
 
神保 一方でさっきおっしゃっていた、これからどうも爆発しそうな気配があるアジアは、アフリカのパターンと何か違いはありますか。
 
山本 多いのは麻薬です。中国で男性同性愛が問題になっているとは聞いてないですけど、台湾は明らかに問題になっています。日本は新規感染者の7割近くが、男性同性愛者ですね。

エイズに対する偏見の背景
宮台 エイズは最初に男性同性愛者の病気として紹介され、いまでも先進国では男性同性愛者の感染が高いため、同性愛者だから天罰だという理解があります。このステレオタイプが異性愛者の多くに、自分は関係ないという意識をもたらしている気がします。なぜ先進各国では同性愛者の感染比率が高いんでしょうか。
 
山本 エイズの原因となるHIVウイルスは粘膜から、それも体液から感染します。これは男性同性愛の方が行っている行為と密接に関係があります。グループで性行為をするときに、その集団の中に感染者が入っていた場合、非常に速やかに広がっていくんです。これが日本の男性愛者の中で広がっていることに関係していると思います。
 
神保 もし感染者が一人いた場合、異性間交渉よりも同性間交渉のほうが感染しやすいんですか。
 
山本 行為の内容によります。セックスの回数が多いとか、やり方が出血を伴うような乱暴なセックスだとか、そういうことがあるとすると感染しやすいですね。
 
宮台 具体的にいいますと、異性愛の場合には、避妊ということでスキンをつけますけど、男性同性愛者は、基本的には避妊をする必要がないからスキンをつけないというのが大きいです。
 偏見の基になるから一概には言えませんけど、僕も90年前後に発展場とか二丁目を取材していましたが、当時は異性愛の流動性に比べると男性愛の流動性、つまり出入りの激しさ、相手を変える頻度、あるいは発展場などで出会う頻度はずっと大きかったです。
 もちろん異性愛にも商業的性行為があります。買売春に関わっている人は、流動性の高い振る舞いに及んでいるといえますが、今から15年以上前は、発展場と商業的性交をする所を同じような所だとすれば、同性愛者のほうがずっと割合が高かったです。
 
神保 異性愛は一応彼氏彼女という関係があって、付き合っているとなると他の人と性行為するのはルール違反みたいなとこがありますが、同性愛の場合はそういう縛りの度合いが低かったりするんですか。
 
宮台 それはどんどん同じレベルに近づいていますが、出発点としてはそういうことがありました。やはり、発展場で出会うとセックスから入ってしまいます。セックスから入るとなかなか相手と続かないし、むしろセックスするまでに時間があるとコミュニケーションを通じて関係性が作れます。関係性が作れないと絆が作れませんから、ステディがいるのからという話にならないのです。だから、「出会ってすぐセックスするのをやめましょう」みたいな話が、90年代半ばの同性愛者から広まったと言われています。また逆に90年代以降は、異性愛の方が出会いがしらにセックスするような方向に移動しつつあるわけです。
 
神保 世界のHIV感染原因を見ると、世界全体の8割はアフリカやアジアでの異性間交渉が多く、先進国特有の麻薬や輸血、同性間交渉は、1割程度しかありません。当初は同性愛者、麻薬、輸血から始まりましたが、異性間交渉にシフトしてきているんですね。
 
宮台 いろんなデータに書いてありますけど、性感染症の増え方って10代後半、20代前半が凄いです。クラミジアの感染率は10代に限ると2割、3割っていう話もある程です。
 
山本 最初は麻薬とゲイの人たちから広がりだしたことから、非常に大きな差別が生まれました。この差別が、後の対策作りや、いろんなことに影響しています。例えば、「輸血による良いエイズ」と、「性行為による悪いエイズ」といったような分け方です。どういう感染方法であろうが感染をとにかく予防しようという姿勢でやる必要があります。

早期治療がカギ
山本 発見が早ければ、かなり発症が抑えられたり、生存率が高くなりますが、知らないで放っとくと、当然生存率が下がります。日本の問題点は、エイズが発症してから自分が感染していたと気付く「いきなりエイズ」が増えていることです。やせ細り、症状がでてから病院に行き、検査してエイズだったということが多いです。もちろんその間に性交を繰り返していますから、いろんな人にうつしている可能性があります。
 
神保 潜伏期間は通常どれくらいですか。
 
山本 大人でだいたい8〜10年くらいです。このウイルスの恐ろしいところは、感染直後に風邪の症状に似たようなものが出ることがある程度で、ほとんど症状がないところです。ウイルス学的には、非常にすさまじいウイルスの増殖とそれに対抗する免疫との大きなバトルが起こっていますが、実際の症状としては出てきません。
 
神保 疲れやすくなったりしないんですか。
 
山本 ほとんどありません。知らないままエイズをうつしてしまうのです。
HIV検査は、ウイルスの増殖、抗体で感染しているか判断します。感染した直後には分かりませんが、通常2、3ヶ月で分かり、感度の良い方法でやると1ヶ月で分かります。
 
神保 ただ、1、2年してからでないと分からないというわけですね。発見が早ければ、どんな対策ができますか。
 
山本 早期発見でのメリットは、第一は自分の信頼できる医者と、モニターが出来ることです。エイズの発症は、ウイルス量で分かります。ウイルス量がだんだん上がってくると、エイズの発症の前兆ですので、それも分かります。治療が上手くいけば検出限界以下までウイルス量を下げることも出来ます。 
 もう一つ大事なのは、奥さん、彼女、子供といった自分の愛する人たちに、うつるかもしれないということです。その人たちにうつさないために、検査をきちんと受けて自分の状態を知ってほしいです。
 
神保 特効薬のようなものはありますか。
 
山本 一応イエスと言っていいです。これはHAART療法(抗HIV剤を多剤併用する療法)といいます。これは薬のコンビネーションカクテルです。 
 2つのウイルスをターゲットにしています。ひとつは逆転写酵素、もうひとつはプロテアーゼ。タンパク分解酵素です。この2つの動きを封じてしまうと、このウイルスは増えられなくなります。これらに対して効く薬を組み合わせることで、少なくても当初は検出限界以下まで下がります。
 ここまでは非常に良いのですが、HIVの恐ろしいところは、ウイルスにとって都合の悪い存在、薬があると、その薬が効かないように変異を遂げて、薬が効かなくなってしまうことです。コンビにすることで長持ちはしますが、いずれ効かなくなります。薬に適応してしまう、いわゆる薬剤耐性ウイルスです。
 
神保 そうするとまた薬を変えていくのですか。
 
山本 「いたちごっこ」です。だから我々としては、逆転写酵素阻害剤を数種類じゃなくて出来るだけ多くして、オプションを増しています。プロテアーゼ阻害剤も増やし、そのコンビの数を増やすことが大だと考えています。
 
宮台 そこに一つ、波及効果という問題がありますよね。一回薬を作れば、特効薬で使う人が増えれば量産効果で価格が下がるのに、次々に新しい薬をつくっていかないと対処できないということですから、絶えず金をつぎ込んでいかなければならないですよね。
 
山本 HAART療法が95年から拡がり出しまして、先進国でもそれまで30%だった死亡率が数%まで落ちました。しかし、ウイルスは、感染者の体の中で完全にとり除くことはできません。そのウイルスを持ったまま眠らしておくという方法で、治療を行います。薬の投薬をしっかりと続ければ、今のところコントロールは出来るのです。
 しかし、HAART治療法が始まってからまだ11年しか経っていません。薬の投薬を止めれば一挙に耐性ウイルスが広がっていくので、薬の投薬は絶対に止められません。そうすると慢性の属性の問題があり、この先思いもかけない副作用が出てくるかもしれません。今、分かっている問題は、脂肪がいろんなところに付く、骨髄抑制や貧血などがありますが、もしかすると、薬によるとんでもない癌がじわじわと広がっている可能性もあります。
 
神保 まだ人類はエイズとの戦いに勝利していないのですね。
 
山本 勝利してはいませんが、専門家として言いたいことは、HAART治療薬は、大成功で評価すべきことだと考えています。膨大な資金と研究を重ねている癌の治療と比べてみれば、頑張っているといえるでしょう。ただし、このウイルスが不幸なことに非常に狡猾で特殊なウイルスなんですよ。だから難しいターゲットなんです。(PART2へ続く)


▽「日本にとってエイズはまだ対岸の火事なのか(2)」

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070104-02-0901.html

2007年1月4日
「日本にとってエイズはまだ対岸の火事なのか(2)」
ゲスト:(国立感染症研究所エイズ研究センター長)
日本のエイズ感染の現状
神保 今日本のHIV感染者数は、右肩上がりと言われています。HIV感染者は検査で陽性と判定された人で、エイズ患者は症状がでた人のことですよね。この2つを合わせた数字が、現在日本で1000人という数字についてはどうですか。
 
山本 先進国の中では極めて少ないです。ただし世界的な増加傾向は、要注意です。アメリカでは81年くらいから増加していますから、日本は他の先進国に遅れて起きています。
 
宮台 日本でアウトブレーク(急激な患者の増加)が非常に遅かったのは、まず同性愛者の割合の問題が一つあります。日本は、先進国の中では少ないと言われていますが、実はバイセクシャルの方たちが同性愛のほうに踏み出していない可能性があります。
例えばフランスは、同性愛について言うとつい最近まで法的に禁止していたところです。ところが今は法的に最も寛容なシステムになっていて、パックスにしても同性パートナーシップにしてもなかなかいいところまでいっています。
これは良く間違えるところですが、フランスの場合、個人主義ですよね。フランス人は同性愛に寛容だと言い方をしますが、個人的には同性愛を嫌悪する人が多いです。でもそれがやりたい人とか、同性愛だという人がいるならしょうがないし、いるならば差別すべきではないという風に、社会の次元と個人の実存の次元を分けて考える文化的伝統があるんです。
日本は全く逆に、もともとカトリシズムのような宗教がないので、同性愛を嫌悪するようなタイプの人は欧州、アメリカに比べれば少ないです。しかし公共マインドが低いので、自分は差別したいとは思わないけど、世間はそれを許さないというように、世間体を気にしてしまいます。性の買売春についても全く同じで、個人としては、誰も本格的に性の商業化について反対はしてないけど、ある種のバーチャルな世間イメージの中で、それじゃ世間には通らないだろうと思って、カミングアウトしにくいし、おおっぴらに議論がしにくくなっているんです。これは、公共政策上非常に大きな障害です。
 
山本 日本でのHIV感染者の内訳は、男性同性愛者はもちろん多いわけですけど、50代の男性の感染がどんどん増えています。それから女性の場合は10代が多いです。10代世代では、女性が圧倒的に多くて7割も占めています。50代の男性が多いのは、経済的に裕福な50代の男性たちが、風俗を利用したり援助交際をしたりしているというわけです。
これはアフリカでも同じで、感染しているのは経済的に豊かな医者や弁護士の方がほとんどです。平均寿命ももちろん下がってきていますが、経済的にもっとも重要な年齢層で、しかも教育を受けた人の命がどんどんと失われていることは、国家的にも大きな損失になります。
 
宮台 前にバディというゲイの雑誌の編集者の人たちと、イベントをやったことがあります。大変面白いイベントで、セーフセックスの意識はこれほど高まったのに、なぜみんな「生出し」をするのかを議論しました。これは大問題で、パブリックマインドの問題がと、ある種の実存主義的な立ち位置の問題があります。平たく言いますと、年をとるともうどうせ俺は余生が長くないと、だったら別にエイズになっても10年もつならいいやと、発症しても60か70歳だったらそれでいいじゃないかと考えてしまうことです。
 
山本 今までは「エイズ=死の病」でした。ところがさっきのHAART療法で不死の病になりました。これがどれだけ影響しているかは分からないですけど、そう考えてもおかしくないです。お金はあるし、今の薬でずいぶん生きられるし、自分が発症するときには、もっと良い薬が出来ていると考えてもおかしくはないです。
 
宮台 同性愛者とか若い異性愛者の方の中には、他の先進国と比べても刹那的な人たちの割合が多い気がします。仮説ですが、あるゾーンに限って刹那的な人が多いのではなくて、全体的に多いような感じがします。今はこうだけど、どんどんステージを上がっていって最後には幸せになるんだというように、自分の将来像を肯定的に描けなくなってきているのではないでしょうか。将来の夢とか希望がなくなってくると、基本的には刹那的になりやすいですよね。今を楽しむしかない、10年後20年後死んだからってなんなんだよっていうような感受性が広がっている可能性もあります。
 
神保 しかし性を商品としている女性は、ティーンエイジャーが中心ではないのに、感染者にティーンエイジャーに多いというのは、ある程度年がいっている女性は分別がついているので、きちんと防御しているということですか。
 
宮台 風俗産業でいうと、セーフセックスについてのオブリゲーション(義務)がかなりちゃんとしています。合法的なところだとオブリゲーションがちゃんとしているけど、違法にしているところが危ないです。
ただこれも難しくて、いわゆる店舗風俗を規制した結果、派遣風俗が増えてしまい、中で行われていることをケツモチしているやつらが感知できなくなってしまいました。最終的にはデリヘルが派遣風俗化したせいで、本番競争になっているわけです。本番だけならいいですけど、中にはスキンをつけないことが勝負になったりしています。楽観は出来ないですが、10代のすき放題セックスと20代の商業的セックスでいえば、商業的セックスのほうがまだ管理されているといえるでしょう。
 
神保 感染者は感染していれば、発症していなくても性行為で移りますか。
 
山本 性交すれば必ずうつるというものではありません。むしろ確率は少ないです。しかし、行為の中で他の性病があったり、血液の中にいる病気ですから出血したりすると確率は上がります。
 
宮台 10代の未熟は大きなファクター(要素)です。これは知的に未熟なのではなく、知識としては分かっていても、具体的な性交渉の場で、自分の好きな人に「生でしたい」と言われた場合、きちんと断われるかというコミュニケーションファクターが非常に大きいです。
ご存知のように性体験率でいいますと、若い世代については女性のほうが圧倒的に上です。そのことも非常に大きなことです。これは、3つのレイヤーがあります。まず知識を上手く伝達するレイヤーがあります。もう一つはコミュニケーションを上手く行うことです。つまり、相手に押されないためのコミュニケーションをするという意味です。これは商業的セックスの場合も同じで、客がそういったときにどういう風にそれをあしらうかが問題です。これは訓練するとかなり出来きます。最後は、知識もある、コミュニケーションする力もある、でも俺はナマでやることにしたみたいな実存の問題ですね。
 
山本 今、性体験のある10代の女の子の2割がクラミジアに感染しています。クラミジアに限らず他の感染症などに感染していると、粘膜が薄くなり、傷が出来るとエイズに感染しやすくなります。つまり性器の中に炎症などがあったりすると、脆弱性がきわめて増し、そこからウイルスが入りやすくなります。炎症とは免疫細胞が集まってくることです。その免疫細胞をターゲットにするのがエイズウイルスです。自ら手招きをしている状態になってしまいます。
 
神保 エイズの検査も大事だけど、性病に罹ることで、自動的にエイズへの感受性が高くなるということですから、クラミジアや他の性病とかもちゃんと検査しとかないといけないわけですね。今までの話を聞いていると、爆発的に増加しそうな危ない感じがしますね。
 
宮台 実はすでに急増しているかもしれません。増えていたとしても、10年潜伏だからデータに表れるはずがないですし、日本的な文化の背景もありますからね。その人たちはその間に性行為をしていますから、データとして出る前に、もっともっと増えているかもしれないです。いわばねずみ講ですよ。 
 僕は小さいとき、恐竜の知能は凄く低いものだと思われていたので、ステゴザウルスは、脳が梅干の大きさで、シッポの上に岩が落ちても15秒間気が付かないと言われていました。
今ではこれは嘘とわかっていますが、そのときに読んだ本には、まず危機が訪れて、シッポの上に石が落ちても15秒間気が付かないので、その間に土砂が落ちてきて埋まってしまうと書いてありました。エイズの現状もそれに近いものですよ。よく似たことで、危機が起こっているということと、それを感じる、ちゃんとセンシング(判別)出来るっていうことの間には随分落差があるんです。だからもう大きな石が落ちているかもしれない。
 

これからのエイズ対策
山本 日本の対策は、男性同性愛者を中心に行われていると思います。これはもちろん大事ですし、否定しないですけど、エイズの治療が上手く行き出したのは基礎研究があったからです。文科省も厚労省もエイズに対しては手薄になっていますし、基礎研究にもっと力を注ぐべきだと思います。
世界で行われているエイズ研究のデータは、国際学会などでシェアしています。とくにエイズのワクチンは凄くハードルが高いので、民間の医薬品メーカーと政府研究者が、協力してやろうとしています。その協力関係は、WHOなどが主導して徐々に出来つつあります。
 
神保 アフリカなどの途上国では、コンドームを配ったり、麻薬の回し打ちの危険性などのレベルからの教育が必要ですが、日本ではエイズを知らない人はいないし、性教育も行われています。それでもエイズが増えているという日本日本では、これからどういった対策が必要でしょうか。
 
山本 性教育とエイズの問題は切っても切り離せないです。しかし、今でも古めかしい考え方の人々とせめぎ合いが明らかにあることが問題です。
 
神保 性教育を行うことが、性を奨励していることに間接的になってしまう、と。
 
宮台 そういう勢力が、新聞なんかを使っていろんな反対運動をしています。巨大な障害ですよ。これは、知らせなければ始まらないし、知らせた上で、コミュニケーションの能力を付けなければいけない。しかし、未だに論争は、性についてのコミュニケーション能力とは何か、若いやつにセックスを奨励することか、といったレベルです。今は残念ながらバックラッシュ派のほうが優勢になっています。
 
神保 つまり、あまり性教育なんてすべきじゃないと。それは先生的には非常にまずい状況なんじゃないですか。
 
山本 エイズの専門家としては、間違いなく害ですね。若年層の純潔・貞操教育を重視するエイズ予防策(ABCアプローチ)というのがありまして、「A」abstain禁欲、「B」Be faithfulパートナーだけ、「C」Condomise, counseling&Testingでコンドームとカウンセリングです。
この前のトロントの会議で、新たに加わった中で非常に重要なのは、女性を守るための女性用のコンドーム「D」diaphragmです。アフリカで今一番行われているのが、マイクロビサイド(殺ウイルス剤)で、女性が性交の前後に使うことが出来ます。絶対的なものではないですが、3割〜4割程度減らせます。一番良い方法は、一つの方法だけじゃなく、男性にもコンドームを付けてもらって、様々な方法で対策することが大事です。
 
神保 エイズの薬は、常に投資が必要となり、医薬品メーカーは、当然その投資分を回収するために特許料を上乗せしますが、そうなると、途上国の所得水準では到底払えないような金額になってしまいます。今、アフリカではどういう状況ですか。
 
山本 ジェネリック品がどんどん売られているのが、ブラジル、タイ、インドです。アフリカよりはインドのほうが多いと思います。欧米の大会社には、アフリカや発展途上国の病気を治療する薬は金にならないという考えがあります。やっと薬を開発しても、次々にジェネリック品として出てきますから余計です。
 
神保 しかし、先進国政府による支援が必要になりますよね。
 
山本 WHO主導のUNAIDSが、2005年までに300万人を治療し、治療薬を行き渡らせる取り組みを行いました。結果は、300万人までいきませんでしたが、目標の半分くらいは達成しました。今度はグローバルアクセスという、必要とするすべてに与えようと次の取り組みを始めています。結局はアフリカやアジアから欧米の列強白人が搾取したその結果なので、それをサポートするのは当然の考え方なんです。実際に、特許料は下がってきてはいます。
 
神保 それでもまだまだ高いわけですね。私は40歳を過ぎてますが、南アフリカの平均寿命は40歳を切っていますから、私が南アフリカに行けば、すでに長生きの分類に入っています。乳幼児死亡率とも関係ありますが、30代ではエイズが圧倒的な死亡の原因になっています。また貧困も問題で、新たな一要素として出てきていると思います。

日本のパブリックマインド
 神保 表面的には出ていませんが、たくさんの人がエイズに感染している可能性があり、10年後にはとんでもないことになっているかもしれないのに、日本人は検査も受けないし、メディアもあまり報道していません。なぜでしょうか。
 
宮台 教育基本法の言葉を使えば、パトリオット(愛国者)がいないからですよ。基本法に愛国心を書いている暇があれば、人の幸せを考える政治家や役人をもう少し作らないとダメですよ。そういう役人や政治家がいないこと自体が問題です。子供に愛国心を教える、教えないの問題じゃなくて、まずこの国の民度はどうなんだという話ですよ。子々孫々の問題ですよ。しかも地球温暖化とかの問題じゃなくて、5年後、10年後に出てくる問題なんですから、それをケアすることほど公共性なことはないのに、それをやっても人気がらない、関心が低いからといってコミットしないのであれば、この国のパブリックな民度は低いということですよね。
 
神保 政治家は、何かをやらない理由として、よく「票にならない」を理由にします。でも、票にならない原因は世の中の関心が低いからですよね。そして、世の中の関心が低い理由の一つは、メディアが報じないからですよね。でも、同じ質問をメディアの人間にすると、そういう問題をメディアで扱っても売れないからといいます。これでは堂々巡りで、どうにもなりませんね。
 
宮台 そこは、パブリックマインドを持った役人や政治家を作るしかありません。あるいは、そういう役人に票を入れるパブリックマインドを持った市民層が、分厚くないとダメです。でもこれは、学者がどうこう言っても解決する話ではないので、大変なことです。みんなこうやってありとあらゆる場で実践するしかないんです。
 
神保 エイズ問題を扱っている新聞社の記者たちの座談会の話で、とても興味深い記事を読みました。ベテランの記者が、エイズ問題をずっとやっているんだけど、なかなか若い人で自分に継ぐ人が育たないと、ぼやいているんです。彼は、若いやつにエイズ問題をやれとは言いにくい。若いやつは、彼自身エイズをやってきて社内でどんな冷や飯を食わされているか知っているので、お前もそれをやれとは言いにくいって言うんですよ。仮にパブリックマインドを持っている記者がいたとしても、社内で冷遇されることがわかっていれば、なかなかその選択は難しそうですよね。
 
宮台 その意味で言えば偉い人のパブリックマインドですね。下々のパブリックマインドは簡単につぶされちゃいます。
 
山本 一人一人の個々のレベルがそこまで到達していないと言えます。その国民があって、レベルの低い政治家がのうのうとしているということじゃないですかね。明治の政治家は、全体を見渡して、自分のためじゃなくて国のために、将来を見越していたと思います。
 
神保 最近先進国では、予防よりもむしろ治療薬の開発に、より多くの資金が使われているそうです。治療薬を開発している分には、セックスとかコンドームとか同性愛などのタブーに踏み込む必要がないから、やりやすいというのが最大の理由だそうです。しかし、実際はエイズが猛威を奮っているアフリカやアジアの途上国では、むしろ予防の推進が求められています。エイズがちょっとした先進国病の餌食になっている感がありますが、この捻れも困りものですね。
 
山本 ビル・ゲイツさんは、多額のお金を予防薬とかワクチン、マイクロビザイドを投入しています。間違いなく結果は出るでしょう。
 
宮台 テクノロジーに引き付けていうと、ワクチンにしろ、特効薬にしろ、使うのに金が掛かります。簡単に言えばそのモータリティー(致死率)をコントロールする力が、金の問題になるわけです。
エイズに限らず、臓器移植の問題、遺伝子操作が出来るとか、ありとあらゆるテクノロジーが人間の死すべき性質については、もちろんイモータリティー、死なない存在にはできないけれど、かなりの人の寿命を延ばせます。臓器移植とか適切な処理があると、脳が生きているから人体は200年持つと言われています。そうすると金のある国々の人たちが長生きをして、あるいは技術を開発するような資本がないところは、早く死ぬということになります。
エイズ問題について公正なパブリックマインドを発揮できるかは、一つの試金石ですよ。これが出来ないとすると、技術が様々な格差を生み放題になっていくでしょう。
 
神保 宮台さんはエイズ問題がもっているスティグマの根底にあるものは何だと思いますか。治療にお金が集まり易い理由も、予防だと結局コンドームだとか、セックスの仕方だとか、あんまりおおっぴらにメディアで言いにくいようなタブー感のある話をしなければならないが、治療だと非常に分かりやすいからですよね。そこにあるハードルは何ですか。
 
宮台 難しいですよね。スーザン・ソンタグという人は、喩としての病をずっと唱えています。その観点でいうと、社会の癌だって言い方で、癌もさまざまなメタファーとして使われています。
エイズも実は、おおっぴらには差別用語として使われなくなってきていますが、天罰だとか、世の中のいろんなメタファーとしてまだ機能していると思います。そうすると、コミュニケーションすること自体がリスクになります。治療だとかかったやつだけがターゲットになりますが、予防だとかかってないやつ全員がターゲットになります。つまり、コミュニケーションのリスクがかなり上がり、不人気になり、性教育の問題が典型で社会的問題を引き起こす問題もあります。だったら、治療に金使うしかないでしょうということになっています。
 
神保 日本では10年後にはエイズ感染者が10万人を超えると言われていますが、そうならない前に具体的な対策はありますか。
 
山本 なんらかの方法でアウェアネス(認識)を高めることです。もちろん基礎研究、社会学的な研究をサポートすることが一番大事です。エイズはボーダレスで、日本だけの問題ではないですから、いろんなコミュニケーションをしていくことが重要です。

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