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http://d.hatena.ne.jp/Nylon/20060824#p1
迷走する医療政策…あるべき道を照らす超新星☆ミあらわる
| なぜ医療経済学なのか? 医療費削減…超メンドクサイ…
増大する医療レベル向上の要求に答えるには何かとコストがかかるのは当たり前。一方で医療費削減を推し進める力は一体何処から湧いてくるのかとどまるところを知らない状態…私たちは今、医療にどう向きあうべきなのか?
このように昏迷を極めた現在の医療を取り巻く環境なわけですが、よく考えてみるとわからない事も多いです。医療費はどの程度に抑えるべきなの? その方法は? そもそも医療費高騰の原因は? 医療費に無駄があるの? あるとすれば何処に? ていうか、医療費を削減する政策方針は広くコンセンサスが得られてるの? そんな疑問がしがない一医師である私の頭の中をグルグル回って夜も眠れないため、医療関連書籍を色々と漁っていたのですが、信頼のおける回答は一つも得られず、そんな事忘れて海にでも行こうか…と不貞腐れていたところ、つい最近この新刊に遭遇。これがもう忘れられない"ひと夏の経験"になりました。
「改革」のための医療経済学 (単行本) 兪 炳匡 価格: ¥ 1,995 (税込み)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4840417598/terminal0c-22/ref=nosim
| 兪炳匡(ゆう へいきょう)氏は医師の経歴を持つ新進気鋭の医療経済学者
まずは著者のプロフィールをご紹介。平成5年卒という比較的ヤングな兪氏ですが履歴が半端ではありません。メッカであるアメリカで医療経済学の素養を徹底的に磨かれました。また本書の語り口には厳密な実証分析のメスをふるう冷徹さとは対照的な氏の温かい人柄と倫理観を感じます。
1967年 大阪府生まれ
1993年 北海道大学医学部卒
1993〜95年 国立大阪病院にて臨床研修
1997年 ハーバード大学にて修士号
(医療政策・管理学)取得
2002年 ジョンズ・ホプキンス大学にて博士号
(PhD, 医療経済学)取得
2002〜04年 スタンフォード大学医療政策センター研究員
2004〜06年 米国厚生省疾病・管理予防センター
(CDC)エコノミスト
2006年より ニューヨーク州ロチェスター大学医学部
地域・予防医学科助教授(医療経済学)
「今の日本にはエコノミストと経済理論を根拠にした医療政策を議論できる、経済学の正式な博士課程(PhD)の教育を受けた医師が1人もいない」とは氏が研修医時代に聞いた当時の厚労省の行政官や政策研究者の言葉だそうですが、兪氏はまさに奇跡に近い人材なのです。
医師の初期研修を2年で抜けるという大きなリスクを取って留学された理由には、医師の仕事を始めてから医療システム・制度に疑問と不安を抱いた事が大きかったそうですが、今になってようやく医療のかかえる矛盾をリアライズしつつある私は、手をこまねいて目の前の診療にただひたすら携わるのみという現実に、こんな人間が生きてて良いものか小一時間ほど悩んでしまったことをここに告白いたします…さて、気を取り直して内容をご紹介しましょう。
| 医療経済学って何じゃろ?
厳密には、経済学は、「希少な資源・財・サービスを、競合する目的のために配分・選択する仕方を研究する学問」と定義されるとあります。「経済学」と聞いて「市場万能主義→民営化→弱者切り捨て→医療崩壊…お金儲けの学問で医療に何ができるのさ?」…というアレルギー回路が出来上がっているかもしれない方のために、1章を丸々割いて丁寧に医療経済学を定義付けすることにより妄信を取り除いてくれます。「お金儲けとは関係ない」「会計学の知識は必須ではない」「経営学とは同じではない」という消去法を用いた解説はとてもユニークです。医療経済学を系統的に学んだ最大のご利益は「少なくとも医療分野に関しては経済学者の発言に惑わされなくなった」ことだそうですが、これが私にとって最もシビれたフレーズとなりました。医療に関わる者にとってなんと頼もしい言葉でしょう。
| 衝撃の事実! 医療費高騰の犯人はことごとく冤罪?!
4章では「医療費高騰の犯人探し」で実際に集めたデータを検証する実証的研究の真骨頂を垣間見る事ができます。これはある種のサスペンスよりも興奮しますし、つくづく学問とは面白いものだと思い知らされます。根拠のあいまいな通説を、厳密なデータ分析の結果に基づいて覆すことは、筆者には知的興奮であり、ある種の快感でした。…という筆者の述懐は決して大げさではないでしょう。私が紹介すると「トンデモ学説?」などと誤解を受けそうで心配ですが批判にも引用にも堪える歴とした学術論文です。さて疑われた容疑者のみなさんは…
意外に思われる読者も多いかと思いますが、国際的な医療経済学者の間では、少なくとも、総医療支出と急性期医療支出(現時点で総医療支出の大部を占める)については、「医療費高騰の犯人探し」はすでに終了しています。…(中略)…「犯人」として疑われた5つの要因は、いずれも「小物」であったということです。この5つの要因とは、
@ 人口の高齢化
A 医療保険の普及
B 国民所得の影響
C 医師供給数増加(ないし医師誘発需要)
D 医療分野と他の産業分野の生産性上昇率の格差
医療費高騰の主犯格については、「医療技術の進歩」ということでほぼコンセンサスが得られています。
いきなりネタバレですけれどもわりと衝撃的な事実。特に「@人口の高齢化の影響」が実はそれほど大きくないというのは知っておくべきかも。1990年代前半の論文の引用も多く以前から示唆されていた事だったのではないでしょうか。研究手法の信頼性も厳密に検証されており、医療問題を論じるのに医学と経済学両方の専門知識の必要性は侮れません。
| 医療制度改革にはどう取り組むべき?
「医療」と「経済」について書かれた書籍は最近にも*2,*3いくつか出版されていますが、本書のように筆者の透徹した分析に基づいた提言が多面的になされたものは殆どありません。逆に医療経済学自体がこれから社会からの要請が増すであろう比較的新しい学問のように理解しました。ここに筆者の提言のほんの一部を紹介いたします。
制度改革の前提として「最低限の医療は、政府が保証すべきか」といった理念の問題に何らかの答えを用意しておくべきであるとし、「政策は誤る可能性が高い」ものであり、制度改革の実施に必要なインフラストラクチャーとして、政策の立案、実施、事後評価の過程でチェック機構の整備が急がれるべき、としています。改革に前進する出発点と途中の砦を確実に築くことの重要性は意外にも見落とされがちなのかもしれません。
李啓充氏のアメリカ医療に関する著作などでご存知の方も多いと思いますが、医療を実施する主体が民間営利組織に移った際の悪影響にも十分に触れられていて、安易な民営化は「制度の二層化」に繋がり、後戻りできないまま「コスト上昇」になる可能性が大きいと繰り返し述べられています。さらに筆者は、欧米のNPO病院を参考に、政府機関、医療提供者、地域住民の3者が相互にチェックする体制を整備することを通じて、経営方針の決定課程における少数者の暴走を予防し、最終的に効率を改善できるようなNPOの医療機関を日本でも実現するため、NPOの関連法をさらに整備することが求められる、と述べています。
声高に「医療崩壊」が叫ばれる昨今、政府機関、医療提供者、地域住民の3者の間でいつのまにか出来上がってしまった対立図式を解消し、新たな関係性が見い出されるべき(…と私は読み取りたい!)という提言はとても新鮮で希望に溢れたものであり鳥肌が立つ思いです。本書は医療従事者のみならず、健康や医療に興味のあるみなさんにも是非オススメしたい一冊です。
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