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(回答先: 未来の見えない無資格産科の報道 : 法律的には医師が指示を出し、看護師さんが内診をすることは違法ではない。 投稿者 どっちだ 日時 2006 年 8 月 28 日 22:32:41)
産科における看護師等の業務について 2005-9-5
(社)日本産婦人科医会 会 長 坂元 正一
厚生労働省は、社会保障審議会医療部会より医療提供体制のあり方の検討の結果、看護師等の名称独占、届出義務及び看護師資格を持たない保健師や助産師による看護業務等が検討すべき論点の一つとの指摘を受けた。そしてこれらは患者の視点に立って医療安全を確保するという観点からも重要な問題であるため「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法(保助看法)等のあり方に関する検討会」を設置した。標記は検討項目の一つである。
要約
周産期(分娩周辺期)における医療安全を考えるとき、問題となるのは母体死亡、周産期死亡と脳性麻痺等の後遺症がある。
これらの多くは突発的に起こることが多い。例えば、母体死亡の原因の約半数は出血であり、出血の原因は羊水栓塞、弛緩出血、子宮破裂等であり、これらは全く予知できず、かつ短時間に大量の出血があるため最終的には播種性血管内凝固症候群(DIC)に至ることが多く、一時的には救命できても最後には多臓器不全で死亡することが多い。
このような突発事態に対処するためには一人でも多くのスタッフが必要である。もしそのようなスタッフが足りない施設では救命を図りつつ、スタッフの多くいるかつ設備の整った高次医療施設へ搬送することも必要になる。一方胎児の異常に対しても、医療スタッフが分娩監視装置等により胎児心拍を常時モニターし、いつ起こるか分からぬ異常を逃さず発見し、帝王切開等の急速分娩により、児の安全を確保している。
このように周産期医療の安全は多くの医療スタッフと最新の設備によって維持されている。
ではこれらの周産期異常は戦後の日本においてどのように変化したかを見てみると、戦後のべビーブームの時代には約260 万の出産があったが、その当時の母体死亡率や周産期死亡率は極めて高率であった。そして当然のことながら当時の分娩の99%は自宅分娩であった。
その後の社会の安定化と経済の発展に伴って自宅分娩から医師・助産師の関与する施設分娩へ移行し、それと共に母体死亡・周産期死亡共に減少し、今や世界でトップクラスの低死亡率となっている。
このような周産期の医療安全は、産婦人科医は勿論助産師・看護師等の多くの医療スタッフの日夜を分かたぬ努力の賜物であることは周知の事実である。
しかしながら、現在国民からの医療への一層の安全を望む声が高い。特に周産期医療においては母児の双方の命がかかっているため、特に安全な分娩が望まれている。
しかるに、大学を卒業する医師数は増加傾向にあるにも関わらず、医師の地域並びに科の偏在が顕在化し、若い医師は大都市での勤務を望むと共に、3Kでしかも過重労働であるがそれに見合った収入のない産婦人科を嫌い、新しく産婦人科を希望して入局する医師は年々減少している。
特に医療訴訟の増加と被害者救済の色彩の濃い司法判断による賠償額の高額化により、益々産婦人科医になる者は減少している。一方、現在の産婦人科医の年齢分布を見てみれば一目瞭然の如く、産婦人科医は高齢化しつつあり、あと5〜6年で、多くの産婦人科医はリタイヤーしてしまう。
従ってこのままでは日本の周産期の重要な担い手である産婦人科医は半減してしまう、極めて憂慮すべき事態である。
正常分娩においては自らが出来る立場にあり、かつ異常分娩においても産婦人科医の指示に基づき対応できる助産師の場合を見てみると、助産師学校の相次ぐ閉鎖等により、現実には不足している。大都市のしかも大病院へ勤務を希望するという地域と施設の偏在により、診療所特に地方の診療所では、求人広告を出しても応募者がまったくないのが現状である。
このような産科スタッフの減少は分娩の安全性と快適さを脅かすことになる。
さらには医療スタッフの偏在は最終的には国民の利便性を損なうことにつながり、益々少子化に拍車をかける恐れが大である。
このような現状に鑑み、産婦人科医や助産師の不足を補うために、また多くのスタッフの必要な突発事態に対応するためには、産婦人科医や助産師数の増加と質の向上を図ると共に、比較的偏在の少ない看護師も周産期医療の知識の向上と技術の習得を図り、今まで以上に積極的に周産期医療に関与する必要があると考える。
特に、分娩第T期(陣痛期)の分娩進行状況の観察等、看護師の協力は不可欠であり、周産期医療の安全性の向上と少子化を防ぐ大きな対応策となり得ると信じている。
はじめに
現在のわが国は有史上経験したことのない少子高齢社会であり、この状態が続けば日本国は消滅するという推計がある。明後年には国民総人口が減少に転じるという推計が発表されていたが、すでに本年より減少が始まっているとの報告もある。今こそ全国民が真剣に考え行動すべき時期と考える。我々産婦人科医療の世界に身をおく専門家集団もこの現状を踏まえた大局的見地から少子高齢社会の改善対策に日々協力し努力をしている。全会員が少子化対策として日本の何処に居住していても「より安全でより快適なお産」が提供できるよう考慮していることもその一例である。
日本の明るい将来は過去と現在を十分に分析し事の真理を見極めることに担保されていると考える。すなわち現存する法律等の解釈を考えるのではなく、今後のあるべき姿に導く法律等を検討し作成すべきではなかろうか。さて今回の検討項目である「産科における看護師等の業務について」の「看護師の看護」とはどの様に考えたらよいか。我々産婦人科医師は、「保健師助産師看護師法の解説」(日本医事新報社刊)にある「看護とは健康を主体とする人間の健康保持増進、疾病予防、分娩にともなう必要な処置と前後の世話など生命を守り、これを延長することのために役立つもの」という記載に同意する。今風に言えばクリニカルパス
におけるレーダー的役割を看護師に期待する時代に変化してきていると考える。
現在の分娩を扱う実働医師の減少と医療機関の減少そして産科医をめざす若き医師の減少、助産師の絶対数的不足と偏在等、分娩を取り巻く状況は周産期医療の安全確保に影をおとしている。従って医療安全の確保に向けた早急の取り組みが必要である。ここでは幅広い角度から周産期医療の現状を分析し、今するべき安全対策を考えたい。その中で保助看法等の今後のあり方は重要なポイントである。すなわち超少子化対策を実施する上においても避けられない問題である。
ここでは幅広い角度から周産期医療の現状を分析し、今とるべき保助看法等に関連した安全対策を考えたい。
T 分娩とは(用語の説明を含む)、分娩進行状況について
分娩とは、狭義には胎児娩出を意味し、広義には陣痛発来から胎児とその付属物(胎盤等)の娩出をいう。時には児娩出後さらに2 時間ぐらいまでの産褥期も含める。これを経過によってT〜W期に分ける。
分娩第I 期 :陣痛開始から子宮口全開大までをI 期という。
分娩第II 期 :子宮口全開大から胎児娩出までをU期という。
分娩第III 期:胎児娩出から胎盤ならびに卵膜の排出(後産)が完了するまでをV期という。
分娩W期 :付属物(胎盤)娩出後約2 時間をいう。
分娩所要時間とは陣痛開始から胎盤娩出までの時間であり、初産婦では12〜16時間、経産婦では5〜8 時間である。Williams Obstetrics 19th では分娩第I 期は、初産婦で約8 時間、経産婦で約5 時間、分娩第II 期 は初産で平均50 分、経産で平均20 分である。
欧米では、LDR といわれるように、Labor, Delivery, Recovery と分けられている。陣痛室はlabor room といい、分娩室はdelivery room という。経過時期で言えば、陣痛期、分娩期、回復期(産褥早期)である。つまり狭義のlabor は陣痛期のことをさす。そして日本での「狭義の分娩」はdelivery に相当する。分娩介助の「分娩」はまさにdelivery である。陣痛期には「介助」は存在せず、経過観察が主体である。すなわち、分娩における経過観察のあり方は分娩各期によって異なり、分娩第T期(陣痛期)は介助の必要はなく、母児の健康管理という経過観察の時期といえる。分娩第U期(分娩期:狭義の分娩:delivery)の後半は、会陰保護、会陰切開、胎児娩出介助等の介助を必要とする時期である。
以上の如く長時間に及ぶ「広義の分娩」は各期(進行)によって留意点が異なる。分娩各期における医師・助産師・看護師の業務を考えることは、人材を有効に活用し多くの人が係わる事により安全性が向上するという面からも必要である。
さて「分娩介助」とはどのように考えるか。日本産科婦人科学会の産科婦人科用語集・用語解説集によると「本来分娩はなんらの介助なしにでも自然に行われるはずであるが、母児のより安全をはかるために医師あるいは助産婦が分娩第U期後半に補助的に行う操作をいう。」とある。すなわち分娩期後半での介入である。
それでは「助産」とは何であろうか。残念ながら保助看法では定義されておらず医療とは捉えていないのである。すなわち自然に経過した分娩の介助と付随する世話を助産と考えている。保助看法第3 条により助産は助産師の業とされているが、ひとたび妊娠経過中から分娩経過中に異常(母児の健康を損なう状況)が発生すれば、同法第38 条により管理は助産師の手を離れ医療の範疇に移行し医師の管理下に入る。
より健康な新生児出生を望む現状においては、合併症スクリーニングも含め早期に異常を発見する必要がある。そのためには医師、助産師、看護師の連携が必要である。医療安全の面からも看護師資格を有する助産師や看護師は医師の指示の下での補助行為として積極的に医療に関与することが可能であり必要と考える。
U 保助看法にある業務(分娩介助等)と医師、助産師、看護師の業務
分娩第T期に関して、医療機関にあっては、助産師・看護師は医師の指示の下に、分娩監視装置、超音波診断装置等、これらの医療機器等を用いて児の健康状態及び分娩経過を観察し状態を医師に報告し、医師の判断の下に安全を確保している。
分娩第U期の後半において、助産師は会陰を保護しながら、胎児の娩出介助を行う。しかし、会陰切開を施したり、吸引分娩および鉗子分娩などの医療を行うことはできない。また、産道裂傷縫合などの処置をすることもできない。これらは以下の保助看法の記述をみれば明らかである。
[助産師の定義]
第3 条:助産師とは厚生労働大臣の免許を受けて、助産または妊婦、褥婦もしくは新生児の保健指導をなすことを業とする女子をいう。
[看護師の定義]
第5 条:看護師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者もしくは褥婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすことを業とする者をいう。
[医療行為の禁止]
第37 条:保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は、医薬品について指示をし、その他医師または歯科医師が行なうのでなければ衛生上危害を生ずるところの行為をしてはならない。但し、臨時応急の手当てをなし、又は助産師がへそのお(臍帯)を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然付随する行為をなすことは差し支えない。
[異常妊産婦等の処置禁止]
第38 条:助産師は、妊婦、産婦、褥婦、胎児又は新生児に異常があると認められたときは、医師の診療を求めさせることを要し、自らこれらの者に対して処置をしてはならない。ただし、臨時応急の手当については、この限りではない。
以上の如く保助看法では助産師の医療行為を禁止している。助産師は助産を業とする女子と定義されている。医師法にある医師がおこなう医療行為の一部としての助産行為を、助産師が単独で行うことを助産行為(業)として可能としたものである。助産師は正常な全分娩経過をみることはできるが、分娩経過に異常が発生したときは単独で分娩経過を看ることはできないことは保助看法第38 条で明らかである。医療の介入が必要となった場合は、医師が診るかあるいは医師の指示のもとに看護師の資格を有する助産師あるいは看護師が経過をみることとなる。
すなわち、看護師の資格を持った助産師または看護師は医師の指示の下に医療の補助を行なうことができ、看護師は異常が発生した段階で分娩経過を看ることが可能となる。分娩経過の観察手段の一つである計測も可能と解釈できる。しかし正常から異常への変化の境は明瞭に線引きできるものではなく、異常が発生する可能性がある段階で医師の指示の下に看護師が分娩経過をみるための計測(いわゆる内診)は保助看法に抵触しないと解釈される。
分娩経過ならびにその間の母児の管理、分娩直後の監視については、難易度・危険度を考慮して、個別に判断する必要がある。「操作」と呼べないものについては、医師、助産師に限る必要はなく、看護師の実施も可能と思われる。分娩経過ならびにその間の母児の管理における「操作」には卵膜剥離、ラミナリアやメトロイリンテル・コルポイリンテルの挿入・抜去、破膜などがあり、これらは看護師には行えないが、子宮口開大の程度を測定するためのいわゆる内診(計測)は難易度・危険度(侵襲性はない)を考慮しても「操作」ではなく「測定」と判断する。
V 分娩場所別の分娩数および周産期死亡率の推移
周産期医療の評価は新生児死亡率、妊産婦死亡率等で行われる。保助看法制定後の分娩場所別分娩数の推移と新生児死亡率、妊産婦死亡率の推移を(表1)に示した。保助看法が制定された昭和23 年当時の出生数は約260 万で、ほとんどが自宅分娩(主に助産師が分娩介助)であり、医療機関での分娩は極少数であった。
この当時は分娩監視装置・超音波診断装置・ドップラー聴診器など胎児の健康状態を科学的にチェックする機器はなかった。一方、現在は分娩監視装置・超音波診断装置・ドップラー聴診器等で胎児の健康状態をチェックし、安全な分娩へと誘導している。このように周産期医療を支える機器の発達と医学・医療の進歩は、それを使用できる産婦人科医師および医師の指示のもとに補助行為をしている看護師、助産師の努力および周産期医療システムの整備によって周産期医療の安全は支えられ、その結果、新生児死亡も母体死亡も著しく減少し、世界のトップレベルとなった(表2)。
自宅分娩・助産所分娩が減少し、病院・診療所等医療機関の分娩が増加した昭和55 年以降の周産期医療の向上は顕著である。周産期医療向
上における施設分娩の功績は大きい。平成15 年の出生数は約110 万で、医療機関での出生は99%、助産所の出生は1%である。
表 1:分娩場所別の分娩割合および新生児・妊産婦死亡率の推移
西暦病院診療所助産所自宅その他新生児死亡率a 妊産婦死亡率b
1950 昭和25年2.90% 1.1% 0.5% 95.4% 27.4 161.2
1960 35 24.1 17.5 8.5 49.9 17 117.5
1970 45 43.3 42.1 10.6 3.9 8.7 48.7
1980 55 51.7 44 3.8 0.5 4.9 19.5
1990 平成2年55.8 43.1 1 0.1 2.6 8.2
2000 12 53.7 45.2 1 0.2 1.8 6.3
2002 14 52.3 46.5 1 0.2 1.7 7.1
2003 15 52.2 46.6 1 0.2 1.7 6
a;出生1000対, b;出産100000対
しかも、国民総生産(GDP)にしめる総医療費は世界第17 位にも係わらず、日本の周産期医療レベルは世界でトップである。諸外国に比べれば安い費用で一番安全・安心な周産期医療を国民に提供していることを示唆している(表 2)。
表 2:諸外国の周産期統計
国名年妊婦死亡率新生児死亡率周産期死亡率総医療費/GDP
出生 10万対出生 千対出生 千対の世界順位
日本2003 6.1 1.7 3.6
1999 6.1 1.8 4
1998 7.1 2 4.1 18位
1997 6.5 1.9 4.2
アメリカ1999 4.7 1位
1998 7.1 5.1
フランス1999 2.9 5位
1998 10.1
1997 2.7 7.1
スウェーデン1998 7.9 2.3 5.2
W 周産期医療の現状分析
分娩数、産科従事者数、分娩取り扱い機関数
1)分娩取り扱い機関の分娩数および割合(平成15 年)を(表 3)に示す。診療所の分娩数は524,118 で全分娩1,123,610 の47%を占める。
表 3:出生の場所別出生数及び割合(平成15年)
出生場所出生数割合(%)
病院586000 52.2
診療所524118 46.6
助産所11190 1
自宅・その他2302 0.2
合計1123610 100
分娩様式の多様化を求める現代において助産所での出生は約1%でしかないことより、大多数の国民は医師の管理下での安全な出産を求めていると言える。また診療所での分娩割合が微増していることも重視すべきである。
2)産科医数(平成14 年)を(表 4)に示す。産婦人科10,616、産科416、婦人科1,366 また、助産師数(平成14 年)は24,340 である。
表 4:産婦人科医数(全国;平成14年)
産婦人科10616
産科416
婦人科1366
助産師数24340
3)分娩取り扱い機関数を(表 5)に示す。全国の産婦人科病院数1,590、産婦人科診療所数3,282、産科病院数213、産科診療所658、助産所730 であり、全国の総分娩機関は6,473 である。
表 5:産婦人科医療機関数(全国;平成14年)
産婦人科病院1590
産婦人科診療所3282
産科病院213
産科診療所658
助産所730
合計6473
4)平成15 年の助産師就業者数は総数25,724 で、就業機関を(表 6)に示す。病院は17,684、診療所は4,534 である。
表 6:助産師就業者数および就業場所(平成15年)
就業場所人数割合(%)
保健所216 0.8
市町村437 1.7
病院17684 68.7
診療所4534 17.6
助産所1601 6.2
社会福祉施設15 0.1
事業所12 0
看護師等学校養成所等1020 4
その他205 0.8
合計25724 99.9
助産師の数は不足していると言われているが、分娩場所別出生数と就業助産師の数を検討すると、助産師1 人あたりの出生数は、病院で586,000/17,684=33.1、診療所で524,118/4,534=116、助産所で11,190/1,601=7.0 となる。すなわち、全分娩の47%を担っている診療所においては、助産師・医師に対する加重が多大で増員対策が早急に必要と言える。助産師が圧倒的に不足していることが明らかである。これらは医師のみで解決できる問題ではない。
X 医師・助産師の充足・養成状況
医師・保健師・助産師・看護師の国家試験合格者数と合格率(平成17 年)を(表7)に示した。1,619 名の助産師が合格している。
表 7:医師・助産師養成状況(国家試験合格確率)(平成17年
受験者数合格者数合格率(%)
医師8795 7568 89.1
保健師9134 7440 81.5
助産師1624 1619 99.7
看護師48299 44137 91.4
1)産科医師の状況:
産科に携わる医師は減少している。産科を目指す若き医師の減少と高齢による分娩を取り扱う医師の減少がともに顕著である。新卒医師は毎年約8.000 人、このうち産婦人科に進む者は300 人で、そのうち女性医師が半を占め、時間が不規則な産科を希望しない。従って加重労働と医療訴訟の多い産科(周産期医療)に進む者は僅かに80 人程度である。この要因としては様々な事項が考えられるが、周産期医療が壊滅する前に早急な実効性のある対策が求められる。今回の看護師等の業務見直しも、原因の一つであるかも知れない。
2)助産師の充足状況:
現在、産科を扱っている所謂分娩施設は減少している。分娩数は病院全体では僅かな減少が見られる中、診療所では微増している。しかし診療所に就業している助産師は少ない。仮に、分娩(入院時の内診から分娩経過診察、分娩介助を含む)は必ず医師・助産師が担当するとすれば、その医療機関の分娩数に係らず、3交代制で実施する場合は延べ21 人/週であり、外来における妊婦検診(産科計測など)を担当する助産師・休暇(週休2 日所制)を含めて1 医療機関につき少なくとも約6〜8 人以上の助産師が必要となる。しかも、助産師が2 人ペアで勤務することとすればさらに増加する。仮に、1 人で勤務するとしても、全国分娩取り扱い施設は6,473 施設で、必要な助産師数は51,784 人のところ、現在届け出されている産科施設就業助産師数は23,819 人で27,965 人不足となる。
妊娠・分娩・産後休暇、あるいは病気休業、高齢などで働いていない助産師も多数おり、しかも、実働している助産師は仲間の多い大病院に集中し、さらに資格を持っているものの産科病棟以外で働いている者も多い。一般(一次)分娩医療機関をみてみると3,940 施設あり、1 施設に8 人の助産師が必要とすれば1,520 人必要であり、実際に就業している助産師はわずかに4,534 人と、極めて不足しているのが現状である。このように、助産師数は現在相当数不足していることは明白である。特に、全分娩の47%を扱っている産科診療所の助産師不足は深刻で重大な問題である。
2005 年、医会調査によると産科診療所(回答解析可能医療機関数1094)においては、助産師が0 人(90 機関)、1 人(346)、2 人(182)、3 人(113)、4 人(74)、5-9 人(232)、10 人以上(57)である。助産師4 人以下が805 機関で、74%(805/1094)を占めている。充足率26%となる。平成11 年度の助産師会の調査では、助産師が充足していると答えた病院は33.9%、診療所は25.2%である。複数の助産師を確保できていない産科医療機関の医師への負担は計り知れない。産科医が減少する要因になっている。
Y 保助看法における助産に関する医政局看護課長通知と波紋
ここで行政による指導の現状と我々の対応そして考え方を記載する。
医政看発第1114001 号;平成14 年11 月14 日)にて厚生労働省医政局看護課長より鹿児島県保健福祉部長宛てに回答が送られた。@産婦に対して、内診を行うことにより、子宮口の開大、児頭の回旋等を確認すること並びに分娩進行の状況把握及び正常範囲からの逸脱の有無を判断すること。A産婦に対して、会陰保護等の胎児の娩出の介助を行うこと。B胎児の娩出後に、胎盤等の胎児附属物の娩出を介助すること。以上の行為を看護師はしてはならない、
平成16 年9 月3 日愛媛県保健福祉部長の照会に対して、同じく看護課長が回答した。「産婦に対して、子宮口の開大、児頭の下降度等の確認及び分娩進行の状況把握を目的としての内診を行うことは診療の補助には該当せず、助産に該当する。
但し、その際の正常範囲からの逸脱の有無を判断することは行わない。医政看発第1114001 号を再度確認している。
これらの看護課長通知は、保助看法に明記されてはいない具体的な助産行為についての解釈を示したものである。これらを受けて当産婦人科医会は看護課長の通知を全会員に周知した。
また、看護課長通知がなされて以来、医会の調査では分娩医療機関数が平成14年から16 年の間に、病院は6.5%、診療所は10.3%の減少となっている(表 8;全国)。さらに平成16 年の通知がなされてからは著明に減少している。地方の一例として茨城県の場合をにると、この2 年半の間に、約20%の減少である(表 9)。
分娩医療機関が消滅した地域もある。ひたちなか市以北(茨城県総面積の約1/3)の広大な地域には、分娩医療機関が2 つしかない状況である。
表 8:分娩取り扱い医療機関の推移2005/8/8 35県医会支部統計
平成14年度平成15年度平成16年度合計合計合計
病院診療所病院診療所病院診療所病院診療所
新規開設5 22 4 9 6 21 15 52 67
分娩とりやめ13 46 25 74 33 67 71 187 258
減少数8 24 21 65 27 46 56 135 191
分娩医療機関数H14 病院862 診療所1251
分娩病院の減少率6.5%
産科診療所の減少率11%
表 9:先天性代謝異常検査実績推移(茨城県)
平成14年度平成15年度平成16年度平成17年度
実績(人) 27,926 27,659 26,751 6,267
実施医療機関数94 88 83 76
*17年度実績は中間データです。
Z 分娩経過と医師・助産師・看護師の役割
分娩経過における母児のより安全をはかるために、医師・助産師・看護師の協力は欠かせない。分娩第T期は陣痛・胎児の健康状態、胎児の産道内下降状況を観察する時期で、医師の指導下の看護師が観察することは支障ない。すなわち、分娩介助とは“補助的に行う操作”と考えるが、分娩第T期は分娩進行を観察する時期であり、観察は操作に当たらず、看護師も医師の指導の下に実施可能である。卵膜剥離、破膜等の「操作」は、医師または助産師が実施し(看護師は実施しない)、分娩誘発のためのラミナリアやメトロの挿入・抜去等の「操作」は、医師が実施し(看護師と助産師は行えない)する。子宮口開大の程度を測定するための内診は「操作」ではなく「測定」にすぎないので医師の指示の下に看護師も実施可能と考える。但し、正常よりの逸脱を判断する高度の診断能力が要求されるハイリスク分娩は医師又は医師の管理下で助産師が扱う。また、卵膜剥離、破膜等分娩進行を促すための「操作」は医師または助産師が実施する。分娩第U期は胎児が娩出する時期であり、娩出介助は医師または助産師が実施し、看護師は行えない。
1)(産科要員が不足している)現状を見据えた考え(対応)
このように産科コメディカルが不足している状況下で、多くの産科分娩施設では安全で快適な分娩を行うために医師自らが直接診察したり、分娩介助をしているのが現状である。産婦人科医に益々負担がかかり、このまま進めば産科医は過重労働に耐え切れず、櫛が一つ一つ抜けるが如く、産婦人科診療所医師はもちろん産婦人科勤務医もまた辞めて行くであろう。将来の周産期医療を担うべき医学生あるいは臨床研修医は、産婦人科のこのような現状を知るが故に産婦人科を敬遠して入局せず、ますます産婦人科不足の原因となる。その結果どうなるかといえば、産婦人科医がいない地域も一層増加して、自分たちの市や町では出産出来なくなり、ますます少子化が進行することは火を見るより明らかである。同時に残った施設では過重労働がさらに進み、医療の安全も脅かされる極めて憂慮すべき事態に陥るであろう。このような事態はすでにマスコミ等でも大きく取り上げられている(例:NHK「クローズアップ現代」平成17 年8 月23 日放送)。
医師・助産師等産科に携わる要員が不足している状況下に、母児の安全のために分娩進行を観察する看護師の役割は大きい。医師の指導のもとに看護師にいわゆる内診も含む観察も必要と思われる。但し医療の各分野で、看護師の専門性を配慮した取り組みが進んでおり(エキスパート・ナース)、産科領域に従事する看護師に専門知識・技能を修得させる公的専門研修や、看護師養成時から教育カリキュラムに産科関連項目を多く組み入れることを考える必要がある。医師・助産師・看護師の3者が協調することにより、より安全性の向上が期待できるものと考える。
2)将来を見据えた考え方
上記1)の如く、より安全で快適な周産期医療を国民に提供するためには、絶対的に不足している産科要員、すなわち医師・助産師・周産期専門看護師の養成と、それぞれの役割分担・連携を図るべきである。例えば
1. 医療機関や地域単位においては看護師等を対象として研修を実施する。
2. 看護師等学校養成所においては、薬理作用、静脈注射に関する知識、技術、分娩に携わる看護師に求められる知識・技能、感染、安全対策などの教育を見直し、必要に応じて強化すること。
なども一例である。
おわりに
大病院の産科病棟でさえ(大部分の大学病院でも)、看護体制は、助産師と看護師で構成されており、医師、助産師だけで 陣痛期labor, 胎児娩出期delivery, 産褥期recovery の管理を行っているわけではない。分娩第T期の内診を医師、助産師に限ることは、数時間以上(長い場合は20 時 間以上)続く分娩第I 期を医師または助産師が常時陣痛室または分娩室にいることが要求され、診療所だけでなく、病院においても陣痛室で「内診なしの経過観察・管理」という医療レベルの低下をもたらすことは避けられない。医師が24 時間、常に陣痛室、分娩室にいることのできる施設はほとんどないのが現状である。また、相当数の助産師が確保できない施設では、助産師による交代制がひけないのが現状である。分娩を取り扱う病院数が激減しつつある現在、厚労省の看護課長通知にこだわれば、助産師を確保できていない診療所や大中小の病院等、産科医療機関では分娩をとりやめるようなことになり、地域医療の崩壊を招くこと必至である。昨今起こっている
問題の多くは、分娩という用語を広義に解釈するために起こっており、法律でうたわれている「分娩」は「胎児と胎盤の娩出とその直前・直後」という狭義のdelivery と解釈すべきであり、分娩介助とはこの時期の行為と考える。
これまで、厚労省医政局長通知により禁止されていた看護師による静脈注射が、同じく医政局長通知により平成14 年、医師の指示の下に看護師も実施できる診療の補助行為の範疇として取り扱うこととなった例もある。内診は静脈注射よりもはるかに侵襲が少ないと考える。従って、分娩進行に伴い異常の発生する可能性を常にはらんでいる産科医療において、少ない人的資源を有効に活用し安全で快適な経過を得るためには医師、助産師、看護師の協調が不可欠であり、この見地からも分娩第T期の経過観察に看護師の関与を認め、医師の管理下での内診を診療補助行為とみなすことを希望する。
以上周産期医療が抱える問題の一つである保助看法の解釈につき、我々の考え方を述べた。
今回「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」に「産科における看護師等の業務について」が検討項目に挙げられた背景には、厚労省看護課長通知の「内診問題」のみでなく、様々な問題があると拝察する。医会は看護課長通知に異論はあるものの、現状のルールとして遵守を会員に通知している。また安全で安心な分娩に導くためには医師、助産師、看護師の更なる関与・協調が求められるが、現法が障壁となっている部分もあると考える。
我々産婦人科医は医療安全向上のためには、努力を惜しみません。産科医療の現状と将来像を見据えた立場で、保助看法の再検討がなされることを希望します。
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