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JMM [Japan Mail Media]  竹中平蔵氏、参議院議員辞職選択は正しいのでしょうか?
http://www.asyura2.com/0601/hasan47/msg/727.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 9 月 27 日 07:14:43: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年9月25日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.394 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/

▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第394回】

  ■ 回答者(掲載順)
   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □岡本慎一  :生命保険会社勤務
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授
   □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
   □津田栄   :経済評論家

  ■ 読者からの回答
   □水牛健太郎 :評論家、会社員

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:728への回答ありがとうございました。自民党の新総裁がもうすぐ決まるわ
けですが、総裁選がこれほど大きくまたひんぱんにマスメディアに取り上げられたと
いうのは、あまり例がないのではないでしょうか。政策決定の過程には党内・派閥間
の「調整」があるから誰が総裁になっても同じ、という状況を小泉氏が変えてしまっ
た影響だと思われます。総裁候補三人のメディア露出がすさまじくて、わたしは自分
にも投票権があるような錯覚に陥り、誰に入れようか、と何度か考えてしまいました。
ほぼ自動的に首相に指名されるとはいえ、実は一政党の単なる「総裁」選びです。
「あまり自分には関係ない」という醒めた態度も必要なのかも知れません。

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 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第393回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:729
 竹中総務大臣が、小泉内閣の総辞職に合わせる形で、参議院議員を辞職することを
明らかにしました。竹中大臣の、この選択は正しいのでしょうか

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 竹中総務相は、小泉政権が終焉を迎えることによって、自身の政治的な役割が終わ
るとして議員辞職するといっているようですが、その論理には無理があると思いま
す。何故なら、小泉首相は、今年9月に退陣する=小泉内閣は終焉を迎えることは、
かなり以前から明確になっていました。仮に、竹中氏が言うように、同氏の政治的役
割が、小泉政権を支えることであるならば、参議院議員になる必要はないと考えます。

 参議院議員になるということは、当然、任期を全うすることを前提としているはず
です。その任期は、今年の9月、つまり小泉首相の退任よりも後ですから、同氏の辞
任に関する論法には時間的な齟齬が発生します。たぶん、他の理由があって辞任する
ことを決めたのだと思います。ただ、同氏に辞任を決断させた本当の理由を、前面に
出すことができないため、小泉政権を支えてきた同氏としては、同内閣の総辞職に合
わせて、議員辞職を決断したと考えます。

 次期総裁が有力視されている安倍官房長官は、記者会見の中で、竹中氏が新内閣に
入閣する可能性が低いことを示唆する発言を行ったと報道されているようです。この
辺に、竹中氏辞任の本当の理由があるように思います。小泉内閣の中で竹中氏は、反
対者から厳しい批判を浴びるような政策を、かなり思い切りよく行ったと思います。

 それができたのは、小泉首相の信頼とバックアップがあったからです。有体に言え
ば、後ろ盾である小泉首相が退任し、その後継者と見られる安倍氏が、竹中氏を閣僚
として遇する可能性が低いのであれば、何も、自民党内の激しい批判を受けて政界に
止まる必要がないと考えたとしても不思議ではないでしょう。新聞の政治部の記者連
中に聞いても、そうした感触の返答が帰ってくることが多いようです。

 ここで、竹中氏が議員辞職をすることに戻ります。同氏が任期途中で議員を辞職す
ることは、正しい行動とはいえないと考えます。上にも書きましたが、参議院議員は
立候補するときに、基本的に任期を全うすることを前提にして選ばれているはずです。
健康など止むを得ない事情がある場合は別にして、それ以外のケースでは、任期まで
選ばれた責任を果たすことが本来の姿であり、議員の義務だと考えます。

 それを、任期の途中で、内閣の総辞職に合わせて、自分自身も政界から退出する行
動を正当化することはできないと思います。国に貢献することを標榜して立候補し当
選したわけですから、政権が変わっても、自分の信ずるところに従って政治家として
活動すべきでしょう。同氏に投票した有権者から見ても、同氏に、今後も頑張って欲
しいと考える人が多いはずです。同氏を取り巻く環境の変化は理解できますが、同氏
は、対応可能な能力を持っていると考えます。

 早速、海外のアナリストをしている友人連中から、竹中氏辞任に関していくつかメ
ールが来ました。彼等は、安倍次期首相の経済政策について、元々、かなりの懸念を
持っているようでした。安倍氏は、小泉氏に比較して若くて温厚であるため、これま
での改革路線が転換させられる可能性が高いと見ています。小泉氏のように、既得権
益層からの圧力に抗することが難しそうだと感じているのでしょう。

 それに加えて、小泉政権の中心人物と目されていた竹中氏が辞任することは、彼等
の目には、わが国の改革方針が後退する可能性が高まったと映るようです。ある市場
関係者は、「竹中氏辞任のニュースは、海外投資家の日本株売りのきっかけになるか
もしれない」と心配していました。その意味でも、竹中氏辞任は残念なことだと思い
ます。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 経済に弱かった首相に代わって、竹中大臣は構造改革の顔としての役割を果たしま
した。短い情緒的なキャッチフレーズに終始した首相の言葉を、経済政策として首尾
一貫したものにする機能は重要でした。外人向けには、経済学者の語彙と論理で語ら
れる経済政策はわかりやすかったようで、外人投資家間では構造改革の象徴として人
気がありました。彼らの間では、竹中氏が新政権で閣僚の地位を失うことは、日本の
構造改革路線の後退と受け取られているようです。

 特に、金融機関の不良債権問題の時の活躍は華々しく、強固に早期処理を主張する
ことにより、結果的に銀行の再生を促したといえるでしょう。

 道路公団民営化での出番は少なかったようですが、郵政公社の民営化は主務大臣と
して取り組みました。選挙の争点となるなか、曲がりなりにも分割民営化の道筋はつ
けましたが、巨大な政府関与の金融機関が出来上がる結果になり、オーソドックスな
経済学者の目から見ればどう考えてもアンバランスな結果となりました。学者として
第三者の立場だったら、同じ主張をしたかどうかは疑問符が付きましたが、パワーポ
リティックスのなかで、経済学者としての節操を多少曲げざるを得なかったことと推
察します。

 元来、経済学は政策のための学問の側面が非常に強い学問です。経済学者は8割が
た、国家の財政政策や金融政策、産業政策がどうすれば運営できるかを論じていいま
す。竹中大臣は閣僚としての5年余り、経済学者としての見識を、国家を直に動員し
て実行する機会を得たわけです。実験のできない経済学者としては、最高の舞台で得
がたい経験を積むことができたことになります。

 この時点で、経済学者としての竹中平蔵は、大いに箔が付いた感があります。もし
このまま参議院議員として残っても、小泉的な物へのゆり戻しが起こるとすれば、そ
の経済政策を代表した竹中大臣は標的にされるのは目に見えています。これは、個人
の職業選択の観点からも経済学者に戻るのが賢明です。また、社会のためにも、制約
の多い一自民党参議院議員でいるよりは、経済学者に戻り、貴重な経験をもとに自由
に発言されたほうが有益なのではないかと思います。

 今後は、自ら関与した前政権のことを直接論評するのは、さまざまな制約があるこ
とは理解できます。今後は、教壇、論壇、ジャーナリズムを通じて、歴史的な小泉政
権の政策の帰結を、経済学者の立場で厳しく見守りつつ、またその政策の本来の趣旨
を、原点から解説していただけることを期待します。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 竹中平蔵総務相の議員辞職は、政界や世間では評判が悪いようです。今回の自民党
総裁選にも当初立候補された河野太郎衆院議員はホームページで「ふざけるんじゃね
え!!小泉政権が終わるから議員を辞めますーっ?なにをぬかしやがる」と厳しい言
葉で批判されています。井筒和幸映画監督も「議員辞めて後は悠々。バカにするなよ
 バカボン竹中たちの罪は誰が償う?」と夕刊紙のコラムで批判されました。読売新
聞も「4年もの任期を残しての身勝手な辞職は政治不信や参院不要論にもつながりか
ねない」と批評しました。

 批判のほとんどは、竹中氏は2004年の参院選で72万票を獲得して、トップ当
選したのだから、有権者の期待に応えるために、任期を全うすべきという理屈です。
政治家は選挙で応援してやったのに、挨拶もなく辞めるのはけしからんという理由も
あるようです。竹中大臣は5年半に及ぶ小泉政権で唯一閣僚であり続けた方でした。
安倍政権で閣僚に就けなければ、参院議員1回生として、政治用語でいう雑巾かけを
しないといけなかったかもしれません。

 竹中氏の議員辞職は批判を浴びていますが、当初議員に相応しくない言動が目立っ
た杉村太蔵が議員辞職を表明したらどんな反応でしょうか? 今は自民党の広告塔と
しての重要な役目を果たされていますが、マスコミからは当然との反応が出るかもし
れません。裁判にならなくても、問題行動があった議員に対しては、辞任圧力が有形
無形にかかることが少なからずありました。

 国会議員といえども、憲法で保障された職業選択の自由はあるのではないでしょう
か? 竹中氏の場合、辞任理由が、収入が良い仕事があるとか、5年半の激務で疲れ
たとか、学究生活に戻りたいとか、様々に報じられていますが、理由がどうであろう
と、自ら歩む途を選択する権利は万人に保障されたものでしょう。

 議員在職何十年という老齢議員に比べて、竹中大臣の場合、短い議員生活だったと
はいえ、果たした功績は大きいと評価されます。細く長くより、太く短い実績があっ
たと思います。小泉首相がワンフレーズ政治とか、政策は丸投げと批判される中、竹
中大臣は、前任者が長らく果たせなかった不良債権処理やデフレ脱却という構造問題
の解決に大きな貢献をしました。

 9月15日の株式市場では、竹中氏辞任のニュースが昼頃に流れると、日経平均は
一時100円近く下げました。それだけ株式市場、特に外国人投資家などが竹中氏を
評価していた証しでしょう。株式市場は安倍政権下での、自民党役員人事と閣僚人事
に注目しています。安倍氏自身は経済より政治・外交問題に注力すると予想されるた
め、経済閣僚人事が経済政策運営に大きな影響を与えると思われます。株式市場で
は、中川秀直政調会長や塩崎恭久外務副大臣が主要ポストに就けばプラスで、柳沢伯
夫元金融担当相や与謝野馨経済・金融担当相が主要経済閣僚に就任すればマイナスと
言われています。柳沢氏は不良債権処理に積極的でなかったという印象があります
し、与謝野氏はデフレ退治に熱心でないうえ、金融行政を厳しくしたという印象があ
ります。但し、政治家に対する株式市場の評価は変わりやすいうえ、株式市場が好む
人事と日本社会全体や自民党にとって良い人事は異なる点に留意が必要でしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

 私にとって竹中氏の議員辞職は非常に残念なニュースです。どんな理由があろうと
も72万票という国民からの多大な負託に応える義務が竹中氏にはあったと思いま
す。しかし、議員辞職によって竹中氏がこの5年半にわたって行ってきた政策プロモ
ーターとしての力量と、政治家としての実績は色褪せることはないでしょう。

 小泉改革の推進力はほぼ全て竹中氏が生み出してきたと言えると思います。不良債
権処理や郵政民営化など、小泉改革の目に見える成果の中心には常に竹中氏がいまし
た。

 小泉改革の成果については評価が分かれるところだと思います。ただ、50年ぶり
に政治に「対立」という当たり前の概念を蘇らせたことの意義はこの上なく大きかっ
たのではないでしょうか。私はこの5年間で、経済が成熟化した国家における政治と
は、異なるグループや階層間における資源配分問題だという点を間のあたりにしまし
た。

 そして、その資源配分問題という難しい問題を「市場原理」というキーワードと人
並みならぬ行動力で支えたのが竹中氏でした。

 竹中氏の政策は多くの経済学者の間で批判され、いくつかの論争を巻き起こしまし
た。例えば、不況脱出には、不良債権処理が先か金融政策(総需要政策)が先か、と
いう論争には多くの経済学者やエコノミストが参加しました。その結果、不況時に銀
行部門がどういう経路で経済に悪影響を与えるかという点など、多くの知見が新たに
見いだされました。

 私は政治と同じく、学問の発展の基本原理は「対立」だと思います。経済学が社会
に役立つ科学として発展するためには、健全な対立と論争が欠かせません。竹中氏の
壮大な経済実験の成果は今後評価されることになりますが、竹中氏のお陰で「戦う経
済学者」が増えるでしょう。市場原理主義に対して、所得格差問題という新たな課題
が提示される中、第2、第3の竹中氏が本格的経済学者の中から生まれることを期待
しています。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 竹中氏が参議院議員を辞めるというニュースに接した時、私は、正直なところ、身
勝手なような、或いは、参議院議員という立場を軽視しているような、好ましくない
印象・先入観を抱きました。しかし、よく考えてみると、辞めること自体は個人の選
択であり、他人が「正しくない」と言えるようなものではないことに気が付きまし
た。

 考えた内容は以下の通りです。

 竹中氏のこの選択が「正しくない」との非難に値するとすれば、任期が6年ある参
議院議員を途中で辞めるという点なのでしょう。しかし、小泉政権が参議院議員の任
期中に終わることは、ほぼ確実でしたから、それなら、参議院議員を辞めることより
も、参議院議員に立候補したこと自体が良くなかったのではないか、ということにな
ります。

 しかし、竹中氏が参議院に立候補した経緯を考えてみると、もともと組閣の目玉と
して民間から起用された竹中氏が、議員として選挙の洗礼を受けていないことが問題
だといった、妙な自民党内世論を背景に、ついでに、参議院選挙での票稼ぎを期待さ
れて、立候補したのだった、と理解しています。本来、民間人が大臣を務めることに
何ら問題はないはずで(総理大臣は憲法上無理ですが)、この点は、任命者であっ
た、小泉首相が、毅然として竹中氏の立場を庇うべきであったのではないか、と思い
ます。ある意味では、竹中氏は、薄情な上司に仕えたことで、余計な苦労をしたと言
えるでしょう。

 それでも、参議院議員選挙に立候補したのは、竹中氏ご本人の意思決定なので、竹
中氏に行為の責任が無いわけではありませんが、仮に立候補の動機が「閣僚を務める
ために必要だったから」ということであれば、それ自体は、政治家が目的を達成する
ために行使する政治的な手段なので、これも、責められないと思います。

 加えて、仮に、竹中氏が、政治家・議員としてのやる気を失ったのであれば、議員
に留まる事の方が、辞めることよりも問題でしょう。議員として十分な働きがない場
合には、批判と共に「辞任要求」が出るのでしょうから、自ら辞めること自体に問題
はなさそうです。

 敢えて言えば、参議院議員選挙で彼に投票した人々の期待に十分応えていないとい
うことになるのでしょうが、一個人が、他人の期待に全て応えられる訳でも、応えな
ければならない訳でもないので、これは、彼の支持者にとって、「残念だった」とい
う問題に留まります。

 また、職業選択として、竹中氏の今回の決断を見ると、議員の収入は、平均的には
2200万円程度(それ以外に、各種のメリットがありそうですが)であり、これ
は、スポーツ選手でいうと、大相撲の幕内力士の平均年収にほぼ匹敵するそうです
が、相撲で言えば、平幕ではなく、たぶん横綱レベルの稼ぎを得る能力をお持ちの竹
中氏にとってあまり魅力的な条件とは思えません。一民間人の立場に戻って自由に稼
ぐ方が、遙かに得でしょうし、名誉の点でも、これまで閣僚を務めてきたのに、明ら
かに格下の一参議院議員というのは、魅力的とは思えません。

 このように考えると、竹中氏が参議院議員を辞めたいというのは、無理からぬ話で
はあります。

 しかし、このように参議院議員の「軽さ」を分かりやすい形で見せられると、「政
治家は国民のために最善を尽くす」という国民が政治家に期待する感情(政治の世界
が大切にしているフィクション)を、「現実は、そうでもないよ」と否定されたよう
な気がして、言わずもがなの事を言われたような、しらけた気持ちになるのは否めま
せん。冒頭に述べた、私の先入観の背景を敢えて説明すると、こういうことなのだろ
うと思います。

 しかし、竹中氏に、「軽さ」を暴かれてしまった参議院ですが、国政レベルで民意
を問う場としての意味と政治的な影響は小さくありませんし、小選挙区制で極端に触
れやすくなった衆議院の暴走を防ぐための、ブレーキとして、一定の政治的「重み」
を持っていることも事実です。実際、安倍政権が長期政権になるか否かの大きな鍵
は、来年の参議院選挙にあるといえそうです。竹中氏の今回の行動は、参議院は、
「軽い」のか、「重い」のか、どうあるべきなのかを考えるきっかけになった辞任と
いえるでしょう。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授

 竹中氏は、当大学の教授から大臣、さらには参議院議員に転出されましたが、「復
職条件付」であるやに聞いております。私も経験したのですが、「復職条件付」とい
うのは、転出した本人が当大学に復職できる権利を有するという意味ではなく、大学
に(1日でも)復職する義務があるという条件なのだそうです(私は復職してからそ
れを教えられましたが)。議員辞職は、それを全うされたということになるのかもし
れません。これは冗談として…

 議員辞職の学界での受け止め方は、政治家としてではなく、一研究者あるいは一大
臣経験者として、再び自由に発言できる立場で論壇に戻ってこられるということでは
ないか、と見る人が多いようです。やはり、組織に属していると何かと発言に制約を
受けるわけで、大学人を経験すれば、自由に発言できることの恩恵は何ものにも代え
がたいものだと思います。参議院自民党は、ただでさえヒエラルキーがありますか
ら、小泉首相でさえ黙認したそのヒエラルキーに抗して、一参議院議員として自由に
活動するのは、相当なリスクを伴うと容易に想像できます。それと、竹中氏が常々述
べておられましたが、政策形成に役立つ人材を育てることにもたずさわろうとするな
ら、政治家の立場を離れた方がやりやすいということはあるでしょう。

 ただ、政界関係者、報道関係者のみならず、学界関係者にも、竹中氏が議員を辞職
するのは、自由に発言できる立場を得て、講演等の収益機会を多く得たいからではな
いか、と現時点で見る向きがある点には、留意すべきではないかと思います。ご本人
の本意がそこにないとしても、周囲が(看過できないほどに)そう見ていることで、
竹中氏の今後の行動や発言を正しく受け止めてもらえないことになるのは、お互いに
とって望ましいことではないでしょう。

 最後に、任期途中で参議院議員を辞職するのは無責任とする言動に対しては、私
は、非拘束名簿方式の投票の本質を理解していない主張だと考えます。そもそも、比
例代表区の選挙は、候補者個人を選択する選挙ではなく、政党に対して投票する選挙
です。当初、拘束名簿方式で始まった我が国参議院の比例代表区の選挙は、政党が名
簿搭載順位を決めていたわけですが、それが不評だったので、現在の非拘束名簿方式
に変えられた経緯を理解すべきです。確かに、非拘束名簿方式にして、候補者の順位
を政党ではなく投票で決めることになったとはいえ、あくまでも比例代表区なので
す。「竹中平蔵」と記入して投票した有権者が、どんな思いを抱いて投票したかはい
ざ知らず、本質的には、その投票は、「竹中平蔵」に対してではなく「自由民主党」
に対して投票したものなのです。竹中氏の順位が1位になったというのは、極言すれ
ば非拘束名簿方式に伴うおまけに過ぎないのです。政党が名簿搭載順位を決めるのが
嫌だと多くの有権者が言ったから、非拘束名簿方式にしてそうしたまでのことという
わけです。そこは、参議院選挙の全国区とは根本的に異なることであり、それを有権
者は理解していなければなりません。したがって、竹中氏が辞職すれば、当然ながら
次の順位の者が繰り上がって参議院議員となるのです。

 先進国における現代的な国政選挙は、昨年の衆議院選挙でも顕著であったように、
候補者本位よりも政党本位の選挙になる傾向が明確にあります。どんな主張をしてど
の政党に属しているかはいざ知らず、その候補者が気に入ったから投票する、という
のではなく、どの政党に政権与党になってもらいたいか、選挙区でのその政党の候補
者は落下傘候補だろうが(刺客!?候補だろうが)その政党の公約内容が気に入った
なら投票する、という傾向がますます強くなってゆくでしょう。そう考えれば、一議
員の辞職でその政党の議席数が減るなら「無責任」といえなくはないにしても、政党
の議席数は不変のまま一議員が辞職する(要は議員の職を別の人と「交代する」)こ
とが本質なのですから、目下の巷間の批判は的を射ていないと考えます。

                    慶應義塾大学経済学部助教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/>

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 ■ 北野一  :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 竹中批判には、「これから損する(失敗する)ところを見たかったのに、ちょうど
良いところで利食いやがって」という妬みやらやっかみが、ほんのちょっと混じって
いるかもしれませんね。相場に喩えるなら、竹中さんは今回の辞任(利食い)でキャ
ピタル・ゲインを得た格好になっているのだと思います。このポリティカル・キャピ
タルは、いずれまた何らかの格好で使うことが可能でしょう。それを恐れる反竹中側
からすると、そのポリティカル・キャピタルを何とか貶めておきたいという気分にな
っても不思議ではないと思います。

 ところで、人の評価というものは、評価される側の絶対的な業績もさることなが
ら、評価する側の思想信条・立場によって、ずいぶん相対化されるものだと思いま
す。小泉・竹中路線と呼ばれるここ数年間の経済政策についてもそれは言えるでしょ
う。こうした評価する側の立場を上手く整理していたのは、ロナルド・ドーアの「誰
のための会社にするか」(岩波新書)でした。過去15年間の日本経済については、
次の二つの物語があると書いてありました。

 物語1:バブルの後遺症からの回復が遅く、経済の低迷が続いたのは、主として、
日本企業が効率に欠けて競争力を失ったためである。治療策として、規制緩和による
国内競争の激化、リストラの断行、機能不全になっていた企業ガバナンス・システム
の改善などを通じて、企業の体質をよくしたおかげで、ようやく景気回復が可能とな
った。

 物語2:経済の低迷は、供給面における企業の体質というミクロ構造の欠陥による
ものではなかった。主として総需要不足というマクロ経済的な原因によるものだっ
た。当初はバブルの後遺症、1990年代の後半からはデフレおよび金融危機がもた
らした消費者の将来見通しへの不安からの買い控え、および企業の投資する意欲・自
信の喪失がその需要不足の根本原因であった。

 著者によると、日本経済新聞や英エコノミスト誌は、この「物語1」の語べであ
り、経団連・奥田元会長の2006年の新年メッセージ「日本経済は、ようやく曙光
を見出せる局面に至った。企業による経営革新の努力に加え、構造改革に向けた小泉
総理の情熱と国民の旧弊打破への意思がこれを可能にした」は、この立場を代表する
発言ということになります。

 もっとも、「物語2」が正しいとする著者は、「企業のリストラには技術や市場の
長期的変化への長期的対応という面ももちろんあった」が、「今回のリストラの深刻
さは、主として不景気に対する一時的な対応で、基本的な企業体質の変革には至るも
のではなかった。コーポレート・ガバナンスの変革もパフォーマンスへの影響は少な
かった」と言います。

 私は、ロナルド・ドーアに賛成です。確かに、コーポレート・ガバナンスの変化を
象徴するように、日本企業の配当金支払額は昨年度12兆円と、1990年代の平均
(4兆円)の三倍にも膨らみました。付加価値の分配は大きく変わったのですが、肝
心の付加価値生産性は3年連続で低下しております。一方、自動車産業の収益性はこ
こ数年で目覚しく改善しましたが、こちらはマクロ経済政策の結果としての実質円相
場の下落によって説明することが可能です。

 なお、付加価値の70%は人件費です。付加価値生産性が落ちているのは、要する
に一人当り人件費が3年連続で減少しているからに他なりません。経団連の奥田元会
長は、「企業による経営革新の努力」、「小泉総理の情熱」、「国民の旧弊打破への
意思」を日本経済回復の三つの条件としましたが、最後の一つは、「国民の我慢」と
いった方が適切ではないかと思います。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 竹中大臣は、小泉内閣の総辞職に伴い、自民党内で自分の居場所がないことを十分
理解していたため、今回の参議院議員辞職に至ったと思います。それは、昨年の総選
挙において小泉構造改革の目標であった郵政民営化に対する国民の支持を得て、小泉
首相とともに総務大臣として郵政民営化の道筋をつけ、今年初め小泉首相の退陣が確
実になった時に決めたのではないでしょうか。(そのことは、1月に議員辞職を小泉
首相に打診していたとの噂に表れています。)

 その布石は、昨年の総選挙後の内閣改造において、竹中氏は、経済財政政策担当大
臣から外れて総務大臣にシフトした時点で敷かれていたように思います。それ以降
は、経済財政が担当外として自分の意見が政策に反映されなくなったといわれます。
見方によれば、小泉首相の最後の仕事である郵政民営化に一応の目途(内容の是非は
別ですが)がたった時点で、自分の役目が終わったことを自覚したのではないかと思
います。

 さらに、以前から言っていますように、小泉首相の退陣が明確になった時から、改
革に対する巻き戻しの動きが見られ、その流れが大きくなってきています。それを竹
中氏は内閣にいて感じ取っていたものと思います。そうした観点から、構造改革を政
策に落とし込んできた立場にある竹中氏にとって、小泉首相とともに行ってきた構造
改革に終止符が打たれ、閣僚から一国会議員となっては、改革に対して反感を持つ議
員の多い自民党のなかで孤立し、何もできないと判断したのではないでしょうか。

 つまり、竹中氏が、自分の知識と経験を活かすには、議員であることよりも経済学
者であることのほうが、自分にとっても、社会にとってもいいという判断をしたから
こそ、大臣として終えると同時に議員という地位に固執しなかったといえます。見方
によれば、竹中氏は、構造改革という旗印を掲げて国のリーダーとなった小泉首相と
ともに歩み、ここにきて小泉首相の終焉、改革の終局という歴史の流れを悟り、潔く
政治の世界から身を引いたといえます。

 もちろん、2004年の参議院選挙で72万票も獲得して、大臣ができなくなった
ら議員も辞めるなんて職務放棄で無責任だという批判もあり、一面正しくもありま
す。しかし、竹中氏が議員になった経緯には、当時民間から登用されたため、自民党
のなかで閣僚のポストを奪われたということで、竹中氏に議員でもないくせにという
批判があったと記憶しています。また、竹中氏は比例区で立候補しましたが、国民は
構造改革を掲げる自民党を支持し、その代表である竹中氏に投票したという面もあっ
たといえます。

 そう考えると、小泉首相の退陣のなか構造改革も終えるのであれば、国民の支持に
応えられなくなったと判断して議員を辞職しても、職務放棄で無責任だとはいえない
と思います。また、昔に比べれば、首相の権限が強まり、自民党など政党の縛りが厳
しくなった現在、国会議員は、以前のように自由に意見が言え、行動できるわけでは
なく、首相、自民党の決定に従い、法案に投票する役割となりつつあることを考えれ
ば、議員として国民の期待に応える活動はそれほど大きくないといえます。

 そして、竹中氏が議員辞職しても繰り上げ当選する次点候補者が議員となりますの
で、自民党に投票した国民を裏切ったということにはならないはずです。むしろ、構
造改革を支持して竹中氏に投票した国民にとって、自民党が構造改革の路線を変更し
たとなれば、それに従う竹中氏は自分の信念を曲げることになり、それこそ期待に応
えられなくなった竹中氏に失望することになるのではないでしょうか。

 竹中氏は、大臣を辞めて一議員に戻るよりも、経済学者、大学教授になって講演や
評論などによる収入が大きいので、議員辞職したという見方もありますが、それは、
そういう能力があるからであって、妬みにしか聞こえません。むしろ、竹中氏は、自
分が活躍する場がなければ、自らの活躍する場を求めて職業を選んだといえます。

 竹中氏は、この5年あまりの間、小泉首相の右腕として、官僚や政治家などの既得
権益層の抵抗を抑え、経済学の理論を構造改革を通じて現実の政治に反映させてきま
した。その手法は、政治家顔負けといわれるほどでした。その結果、金融機関の不良
債権処理を急がせて金融不安を解消し、デフレ脱却への道筋をつけ、その他金融・財
政に関わる諸問題を主導的に対処し、規制の撤廃・緩和を推進してきました。

 そうした竹中氏の功績は、その是非の判断を別にして大きかったといえます。しか
しながら、その功績を持ってしても、これからの政治は、構造改革から一歩後退した
動きとなって、竹中氏をもはや必要としなくなっています。結局、竹中氏が、改革に
対する後退など取り巻く環境が変化するなかにあって、議員の限界を熟知し、自分が
活躍する場がないことに気付いて、今回の参議院議員辞職という決断に至ったとすれ
ば、個人的にはその選択は正しかったと思います。

 最後に、竹中氏の議員辞職のニュースは、一瞬株式市場に悪影響を与えましたが、
それも長く続かなかったようです。ただ、竹中大臣が政治の舞台から去ることの影響
は、海外の投資家が構造改革の後退したことを確認できたとして、これからじわじわ
出てくるかもしれません。したがって、海外の投資家は、今後安倍内閣がこれを払拭
するような政策を打ち出すのか、注目しているといえましょう。

 そして、願うならば、アメリカなど欧米で見られるように、竹中氏のような経済や
財政の学者や民間人を閣僚に登用し、理論を現実の政治に反映させることで、より国
民や国に経済的利益をもたらすことになればと思います。そして、学問が政治に参加
して、理論と現実のギャップからより現実にあわせた理論を探求し、それが政策に反
映されるならば、経済・社会はダイナミズムを取り戻せることになるのではと期待し
ています。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 読者からの回答:水牛健太郎

「正しい」という言葉には色々な意味がありえますが、まずは竹中氏自身の立場から
見た、今回の議員辞職の合理性を考えてみます。(4年の任期を残して議員辞職する
ことの政治倫理上の問題は後で論じます)

 竹中氏の行動からまず言えることは、次期安倍政権の経済政策が、小泉政権の改革
路線に対する反動になると、竹中氏は確信しているということだと思います。今回、
竹中氏の処遇については様々な説が飛び交い、小泉政権に引き続き重要閣僚に起用さ
れるという観測も決して少なくありませんでした。議員辞職はその可能性をゼロにし
ます。小泉政権の初期の竹中氏のように、議員でなくても閣僚にはなれますが、今回
の辞職表明は安倍氏から距離を置くという意思表示とも受け止められるからです。

 辞職表明以前、竹中氏の前には大まかに言って3つの可能性がありました。
1)議員職に留まり、引き続き閣僚に起用され、改革の責任を担う。
2)議員職に留まるが、起用されない。小泉政権で竹中氏が担った役割の大きさから
言って、起用されない」=「冷遇される」ということになります。政治家として、意
に沿わない、不愉快なことが多くなります。
3)議員辞職し、私人になる。政治家ではないため、言論・行動面で自由度が高くな
ります。

 議員辞職表明は1)と2)の可能性をゼロにし、3)を実現することになります。
このように見ると、竹中氏は、議員職に留まった場合、1)よりも2)の可能性が高
いと見ていたということになると思います。あるいは、仮にいったん起用され、1)
が実現しても、だんだん冷遇されていくという読みだったかもしれません。そのため
に辞職により先手を打ち、私人としてのフリーハンドを狙ったと考えられます。

 竹中氏は慶応大学に設置されるシンクタンクの理事長に就任すると報じられていま
す。小泉政権で果たした決定的な役割から見て、言論人として相当な発言力を持つこ
とは間違いありません。ただ、このような形で議員辞職した以上、今後情勢が変わっ
ても、政治家としての復活は難しくなります。そのことは当然本人は分かっているは
ずで、竹中氏自身の人生設計上、政治家としてのキャリアはもう必要ないと考えてい
るのだと思います。あるいは政治家としての生活に疲れたということもあるかもしれ
ません。

 竹中氏の行動が氏自身にとって正しかったのかどうかーーそれは現時点ではなかな
か判断がつきません。その意味から今後ポイントになるのは、2点でしょう。
(1) 竹中氏の予測通り、安倍政権が改革への反動政権になるかどうか
(2) 竹中氏が言論人としての発言力を維持し続けることができるかどうか

 私としては、あれほど改革にコミットしてきた竹中氏が反動への流れを感じている
以上、その予測は根拠があるものだと考えています。その場合、竹中氏が私人として
の立場を生かし、発言力を維持することができれば、竹中氏の立場から見て、辞職は
正しい選択だったということになりそうです。

 続いて、4年の任期を残して参議院議員を辞職することの政治倫理上の問題です
が、問題のあるケースだと言わざるを得ないでしょう。竹中氏は学者が政治の現場で
大きな役割を果たすという、日本では前例のないモデルケースでした。その意味から
言っても、議員職に留まって責任を果たすべきだったと思います。今後、他の学者が
政治に進出する際に、竹中氏の途中辞職の前例が障害になる可能性はあると思います。

 ただ、ここ数年、竹中氏は改革の旗手として風圧を一身に受けてきました。平均的
な参議院議員よりは間違いなく消耗は激しかったでしょう。そのように考えると、言
語道断というほどのことはないと思います。今回の辞職表明への非難も、竹中氏への
反対派が積もり積もった憤懣をぶつけているという風情もなくはありません。時間が
経てば、沈静化していくのではないでしょうか。

                         評論家、会社員:水牛健太郎

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:729への回答ありがとうございました。JMMを発刊してから約7年が経
ち、現在記念行事を計画しています。今月中にその概要をみなさんにもお伝えできる
はずです。発刊当時のことで、印象に強く残っているのは、最初に寄稿家のみなさん
にお会いしたときのことです。現在のJMM寄稿家の核になっていただいている方々
に最初にお会いしたときは、ただひたすら自らの「無知」を思いました。当時は盛ん
に座談会を催していたのですが、集合場所のホテルのロビーで、河野龍太郎さんが、
「ゼロ、ゼロ」とやや興奮した面持ちで言っていたのを妙によく覚えています。その
日に日銀がゼロ金利政策を発表したのでした。

 発刊当時のJMM座談会のテーマは「日本経済の復活」でした。あれから7年が経
過したわけですが、「日本経済」が「復活」したのかどうか明確ではないような気が
しています。大手銀行の不良債権はとりあえず処理が終わり、デフレ傾向に一応の歯
止めがかかり、輸出産業を中心に企業業績は回復し、失業率もピークから減少しつつ
あります。でも「日本経済の復活」というイメージからは乖離があるのではないでし
ょうか。その理由としては、「日本経済」の構成要素の内実がそれぞれ劇的に、ある
いは微妙に変化してしまったこと、したがって「復活」というイメージが喚起されに
くいこと、が挙げられるのかも知れません。

 JMMを始めて、いろいろなことがあり、いろいろな人からいろいろな印象深い言
葉を得てきました。JMMそのものについては、IT座談会に参加してくれた友人の
伊藤穣一から「profitではなくvalue」と言われたことがもっとも印象に残っていま
す。「儲かると言われて始めたメールマガジンだけど全然お金にならなくて、それど
ころかときどき持ち出しになるし、参ったよ」とわたしがだらしない発言をして、伊
藤穣一から「村上さん、それは間違ってるよ」と指摘されたのです。

「インターネットはあまりに民主的なメディアなので儲からないし、儲けようと思う
のは間違いだ。儲からなくても、つまりprofitがなくても、JMMによって、村上
さんは、またJMMそのものも、valueを獲得している。それが大事なんじゃないか
な」というようなニュアンスのことを言われて、目が覚めたような気がしました。わ
たし自身に自分のvalueを獲得しようという意図はありませんでしたし、そういう意
識は今もありません。ただし、たとえば冷泉さんのレポート「form 911」は文字通
り01年の9月、NYからの「投稿」として始まりました。また安武さんの「揺れる
モザイク社会」のような「レバノン内部」からのレポートは他ではなかなか読めない
ものだと自負しています。その他の海外レポートも、「投稿」や「紹介」で自然に始
まったもので、インターネットの「増殖」という概念を実感しています。valueを獲
得したかどうかはともかく、そういうメディアを運営していることに対しては、密か
に快感と興奮を覚えます。 

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Q:730
 厚生労働省は、少子化対策の一環として、将来の合計特殊出生率を現在の1.25
から1.40程度まで高める目標値を新設することを決めたようです。経済合理性の
面から考えて、政府による出生率の目標値設定というのは、効果が期待できるものな
のでしょうか。

============================================================================

                                   村上龍

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.394 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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