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身動きの出来ぬ程衰弱せる日本の財界        【時事新報 1930.9.8(昭和5)】 
http://www.asyura2.com/0601/hasan47/msg/479.html
投稿者 hou 日時 2006 年 8 月 13 日 08:49:46: HWYlsG4gs5FRk
 

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新聞記事文庫 日本(22-097)
時事新報 1930.9.8(昭和5)


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身動きの出来ぬ程衰弱せる日本の財界

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「前回の財界分析を読みましたが、どうも、六ツかしくて分りませんでした」
「そうでしょう。財界分析は六ツかしいものです。財界の叙述なら分りが良いのですが、財界分析となると專門的に過ぎますから、却却分るように書現すことが出来ませんでしてね」
「そうでしょうね」
「然し、まア、前回のを御読みになって、大体、日本の財界バランスが不釣合の状態にあるらしい、と云うようなことはお分りになったでしょう」
「左様、まア、そう云った程度までは分りますが」
「そんなら、まア、多少は、お分りになった訳です」
「然し、お医者さんの本でも読んで居るように、沢山、病名が出て来て、頭がゴチャゴチャになりましたね」
「そうですか。前回、私は日本の財界バランスの不釣合の状態を、種々な点から特色附けまして、沢山に、病名を与えましたから、読んだ方が、そう思われるのも無理はありませんが、差当り、先ず日本の財界の大きな欠陥は財界が衰弱傾向を辿って居ることだ、と御心得下さい。そして、その財界衰弱の原因は、財界が固定化して身動きが出来なくなって居る事だ、と御存知下さい」
「なるほど、結局、日本の財界は衰弱して居って、その衰弱の原因は財界が身動きもならぬように固定化して居る為めだ、と云う訳なんですね」


財界固定化の三原因とは何か
「そうです、そしてその財界の固定化して了った原因と致しまして三つの原因を数え上げたんです」
「三つの点とは」
「一つは資本家と事業家とが離ればなれになって了った点です。今、一つは、借金が、実力以上に非常に多くなったことです。もう一つは、貸借の決済が不円滑になって、期日になっても、借金が返されないことです」
「なるほど」
「以上三つが原因となって、財界を身動きのならぬようにして居る訳です、私は、夫を、統計的に示し、その程度を明かにしようとしたんです」
「前回の固定表とか借金過大表とか云うのは夫なんですね」
「そうです。財界固定表と云うのは、資本家と事業との分離の程度を現わそうとしたものですし、借金過大表と云うのは、借金が実力以上にどんなに大きいかを示そうとしたものです」
「すると、残りの決済不円滑に関する表は?」


決済不円滑表 恐慌は恐るるに足らず
「それを今回は示そうとする訳です、本紙の中央にあります決済府円滑表と云うのが夫です」
「なるほど」
「その表のうちで、縦に細かな線の引かれて居る部分があるのでしょう。それが、決済の不円滑を示すんです。従って、この部分が多くなるにつれて、決済の不円滑が激しくなる、と云う訳です。」
「なるほど。所で、この図で見ますと、大正十二年から決済の不円滑が始まって居ますが、夫は何故ですか。そこに、何か、原因があるんですか」
「大いにありますね。大正十二年は、例の関東大震災のあった年ですからね」
「なるほど」
「大正十二年に関東の大震災があったものですから、それで貸借決済の不円滑は始まったんです」
「図で見ると大正四年から大正十二年頃までは、貸借の決済は円滑だったようですね」
「そうです。大正四年から大正十一年にかけては、債権資本の方が債務資本よりも上の方にあったですから貸借の決済も円滑でした」
「どうした原因からですか」
「例の欧洲大戦に依って、正貨が日本に流入して来たからですね。それから、好景気で、国民の資力も増して、銀行預金などが激増したからですよ」
「なるほど」


恐慌回避策不可 寧ろ自然に任すが可い
「だから、御覧なさい。大正六年頃からして、大正八年頃にかけてが、一番に、決済円滑面積は大きくなって居るではありませんか。処が、大正九年には例の大恐慌があったものですから、それから後は、決済円滑面積は減少する一方でして遂に大正十二年の大震災からと云うものは今迄と正反対になって、決済不円滑の面積が増大するばかりです。殊に昭和二年頃からしてその傾向は激しいんです」
「何故昭和二年からは、そんなことになったんですか」
「昭和二年に、例の金融恐慌があったからです。金融恐慌があった際に、あわてて特別金融なんてことをやっていなければ、そうでもなかったでしょうが、恐慌の驚いて、特□□をやり恐慌を充分に出し切らなかったからです、恐慌を充分に出し切らなかったものですから、悪質の貸借関係が淘汰されず、却って、ますます、多くなった為めですよ」
「そのことで一つ大問題があるんです。それは近く恐慌が来るか何かと云うことです」
「私は方々でそれを聞かれますが、之は軽々しく答えられません。私は主眼的には平凡な問題として取扱い度いのですが、世間が無理解の為に、やはり自重せねばなりません」
「しかし傾向は?」
「それも各自の観測に御任せします。が、この機会にお断りして置き度いのは、恐慌は、今日の世界の新らしい頭脳から見れば、少しも恐る可きで無いと云うことです」
「それは何う云う訳です」
「その理由だけなら御話して差支えありません。一口に言えば、恐慌は財界には必要な作用であって時には歓迎さえして構わぬ程のものです。問題は対策です。即ち恐慌が出ても夫を膨張策によって中途半端で押え付けて了うと却って財界の未整理が多くなり不良の貸借関係が後に残り、教皇の効用が死んで了います。」
「なるほどそうすると恐慌が出たら、出たままにして置くに限りますね。」
「勿論です」
「果して、それで、悪質の貸借関係が一掃されましょうか」
「勿論、一掃されます。寧ろ恐慌が出たときにその恐慌を回避したり押え付けたりする政策を採ると事態は却って悪化するのです。」
「なるほど。そうすると、恐慌は一種の財界整理機能なんですか」
「そうです。恐慌は、財界自然の整理作用です。だからして、恐慌が出ると、悪質の貸借関係は、淘汰され、切棄てられて了うのです寧ろ悪質の貸借関係を切棄てる為めに恐慌が出るんです。恐慌は、悪質の貸借関係を切棄てようとする財界自然の生理作用ですからね」
「じア、恐慌は、財界には、必要なものですね」

[図表(決済不円滑表)あり 省略]

恐慌は財界の下剤 不良貸借を一掃する
「勿論です、恐慌は丁度下剤見たいなもので、財界の毒を一掃する為めに是非とも必要なものです」
「なるほど、恐慌は、下剤ですか」
「そうですよ。財界だって、人間の身体のように、活動して居る間に、何時しか、毒がたまるんですね。だから、その毒を排除する自然作用が必要となるんです。恐慌が夫です」
「財界の毒って何ですか」
「財界の毒と云うのは、例の不良な貸借関係のことです財界は、一個の貸借関係であって、財界の活動して居る間に、何時しか、貸借関係の中に、不良部分が出来るんですね。だから、財界は時々その不良の貸借関係を一掃する可く、恐慌を出すことになるんです」
「どうして、財貨はそうした不良な貸借関係を作るんでしょうか」
「夫は今日の財界が所謂無政府状態にあって統一がなく思惑で失敗する人もあれば経営方針を誤る人もあるからです。或はまた、蛸配当をしたり、償還期になっても支払う見込のないのに社債を発行したり、政治家と共謀して背任行為をして会社の資産状態に穴をあけたり、そんなことが沢山に積り積って貸借関係のうちに不良悪質の部分が出来上るんです」
「なるほど、そこで、夫を追い出そうとして、恐慌と云う奴が出る訳なんですね」
「そうです」
「じア、恐慌なんてものは財界自然の生理作用で、何等恐れるには足りないもんですね」


財界から見たら恐慌は良薬なり
「そうですとも、財界自体から見たら、恐慌は、決して恐ろしいもんではないのですよ。恐慌を恐れるのは、不良悪質の貸借関係に関係して居る財界人達です。斯うした人々が、恐慌を恐ろしがるのであって、財界自体としては、恐慌を恐れる理由はありません。寧ろ、恐慌が早く出て、財界の毒を一掃して了って呉れた方が、財界としては晴れ晴れとする位のもんです」
「じア、恐慌は財界を破壊しませんか」
「勿論です。恐慌は財界を破壊しません。恐慌は、財界整理の大作用に過ぎないんですからね。だから、恐慌に依って、財界は整理を促進させられたり、樹直しを刺戟されたりしますよ」
「それでは、昭和二年の恐慌で、財界の整理が出来た筈なのに、何故、出来なかったんですか」
「それは、あの時に、財界人が驚きあわてて、充分、恐慌を出し切らず特融なんかやったからです」
「なるほど」
「だから、若し、過日の恐慌時に、あんな放漫膨張の政策を採らなかったとしたら、今頃は、債務資本も少くなり、決済不円滑面積も、ズッと、少くなった筈でしょうね」
「そうですかね」


恐慌よりも膨張が財界に実害多し
「だから恐慌よりも膨張策の方が財界の為めには、よくないのですが、世人はどうしても、ここを悟らないんです。と云うのも財界人にとっては、膨張は肌ざわりがよいが、恐慌は、肌ざわるいが悪いからでしょう」
「良薬は口に苦しですね」
「そうです。全く、良薬は口に苦しです。恐慌は或る意味に於ては財界の良薬なんだが、口当りが悪いものだから、却って、財界の人人や為政者は、恐慌回避策をとるんです。為めに財界の整理が、ますます遅れて、整理す可きものが整理されず、毒が、いよいよ、大きくなるんです」
「なるほど」
「だから、いよいよ以て、その毒を一掃するためには、大きな恐慌を必要としますから、財界の人々は縮み上って、恐慌回避策を採るんです。ために、決済不円滑とか、財界未整理とかの圧迫力は、ますます大きくなり、財界はいよいよ、身動きが出来なくなるんですよ」


恐慌回避策とは 何んな内容を云うか
「恐慌回避策って、どんな策ですか」
「例の遣繰政策だとか、膨張政策だとか、と云ったようなものが、夫でしょう、近くは、新平価を実施しろ、と云うようなものも、その一つでしょう」
「では、なぜ、遣繰政策や、膨張政策や、新平価策などが、恐慌よりも良くないのですか」
「結局、恐慌は、財界を整理するが、遣繰や、膨張や、新平価やは財界の整理を将来に、大きな分量にして延長するに過ぎないからです」
「果してそうでしょうか」
「そうですよ。然し之は、財界の有機作用がよく分る人でないと、理解され難いんです。だから茲で夫を説明することは廃します」
「ではまず、その点は措くことにして、実際上、果して、恐慌で財界の整理は出来るでしょうか」
「出来ますね。但大正九年の恐慌は、好景気の反動なんで、所謂反動恐慌なんですから財界の整理を促進する力は少いのですが、然し、若し大正九年にあの恐慌が出なくなって、決済が繰延べられ、大正十年とか、大正十一年とかに、恐慌が出たとしたら、財界はモッと、大混乱に陥ったでしょうから、そう云うことを考えると、大正九年の恐慌だって、あの時に出ないよりも、出た方が良かったと云える訳ですね」
「そうでしょうか」


恐慌は財界の整理を促進する
「大正九年の恐慌は、所謂財界の反動であって、ホントウの恐慌でなかったから、具合が悪かったのです、反之、昭和二年の恐慌の様な整理恐慌になりますと、恐慌が財界の整理を促進するに与って、有力なものであることが分るのです。只、日本では、例の恐慌回避策でもって、整理恐慌までも押え付けて了ったので、それで、財界の整理も、充分なるを得なかったんです」
「なるほど」
「ですけれども、昭和二年の恐慌で一時は財界も多少整理はされたんです。現に夫は如何に掲げた固定面積や借金過多面積などが、昭和二年の恐慌の後に、一時大変に少くなって居るのでも分りましょうが、また左表に見る如く
昭和二年のモラトリアム以後に於て、逆鞘傾向がなくなって居るのを見ても分りましょう」
「なるほど。然し昭和三年頃からして再び逆鞘傾向が大となり、決済不円滑面積も増大するに至ったのは、そも如何なる理由に依るのでしょうか」
「それは田中内閣の膨張政策、放漫政策、遣繰政策による恐慌回避策の結果です。と同時に、また、近頃では、財界に穴があるのに、その穴を採り去る可き恐慌を押えつけながら、財界の収縮ばかりやりつつある為めです」
「なるほど」
「全く、近頃の様な財界に於て仮令恐慌が来ると仮定しても夫れを恐れるのは愚です。故に之を恐れつつ収縮政策を執ることは私には合点行きません。私は、収縮政策には賛成ですけれども、恐慌回避策は無用と思います」

[図表(逆鞘表)あり 省略]

「なるほど」


新平価策は良薬でない
「私を以てすればですね。穴のある日本の財界では、収縮政策を徹底してやったら必ず、収縮の結果不良債権の切棄てが行われねばならぬので、またそれでよいのですが、そこを悟らないで恐慌を回避する政策などは、実は滑稽なんです。そこをよく理解して頂きたいと思うんですが、世人は却々ここを理解しようとしません」
「何故でしょうか」
「蓋し、夫は恐慌を恐れる自然の心理からでしょう」
「なるほど」
「然し、恐慌は、人々としては恐るべきものだが、財界としては恐るべきものでなく、日本の財界の如く大穴のある場合には、恐慌こそ財界整理の最上策である訳なんです。然るに近頃では、恐慌を回避せんとする人情の弱点に乗じて叫ばれた新平価策という一種の過激な膨張政策を、却って世人は良薬と考えて歓迎しだしたかに見えます、実に残念至極ではありませんか」

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データ作成:2003.12 神戸大学附属図書館

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