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平成10年9月28日(月)
貨幣流通速度に見る日本経済の深刻度
デフレスパイラルに向かう日本経済 (エコノミスト98/9/29)
貨幣流通速度に見る深刻度 根本 伸哉
最近発表された経済統計は、日本経済が単なるデフレ懸念と言った段階を通り越し、スパイラル的な縮小過程へと確実に突入しつつあることを物語っている。
98年4〜6月期の実質GNP成長率は、昨年10〜12月期以後三期連続のマイナスとなったが、特に民間内需に限れば、この間の落ち込みのペースは、実に4.5%に達する。とりわけ98年に入ってからは、民間設備投資が2四半期で年率20%強と、戦後類を見ない鋭角的な落ち込みを見せるなど、企業部門の活動が極度に低下している。
所得減税の効果を吹き飛ばす
銀行貸出に続き、戦後一貫として増勢を保ってきた所定内給与(決まって支給される分)が、7月に初めて前年水準を下回るなど、これまで下方硬直的であるとされてきた名目ベースの経済指標も減少傾向を強めている。
ちなみに、残業代、ボーナスも含めた7月分の現金給与総額は前年水準を2.5%も下まわっており、これは4兆円の所得税減税の可処分所得押し上げ効果(1.4%、実際には前年にも減税が実施されておりネットの減税分はより限定的)を大きく上回る。
労働市場の急速な悪化が消費マインドに及ぼす影響も考慮すれば、少なくとも99年度中は、国民総支出の約6割を占める個人消費が減少基調をたどり続けることを覚悟する必要があろう。
こうした中、97年度時点で、すでに6.5%に、達していたと思われるGDPギャップが10%(50兆円)を超えるのはもはや時間の問題と言わざるを得ない。このままでは、GDPギャップがデフレ圧力を増幅させ、経済の自律的な回復を一層困難にすると言う負の連鎖が一段と強まることが不可避である。
日本経済が直面しているデフレの基本的なメカニズムを理解する上で、1930年代の貨幣流通速度の大幅の低下に伴う物価の急落が、一つの類型を提供している。
貨幣流通速度は
マネー(M)×貨幣流通速度(V)=生産性×物価
という恒等式から求められる。
1930年代のアメリカ、日本、フランスと言った国々において、マネーや鉱工業生産の奇跡がある程度異なっていたにも係わらず、卸売物価の大幅な下落と貨幣流通速度の落ち込みとは密接に連動していた。
特に財政支出の急激な拡大に伴う財政赤字を、主として日銀引き受けでファイナンスし、1933年以後マネーが再拡大へと転じた日本と、現金、特に金地金に対する選好が強く、マネーがそれほど落ち込まなかったフランスでは、貨幣流通速度の低下幅は一貫してマネーの減少幅を上回った。
一方、90年代の日本の状況はというと、預金保険機構の存在や大幅な対外黒字を背景とした超低金利政策を背景にして、M1こそ堅調な拡大を続けてきたものの、貨幣流通速度は戦前を上回る落ち込みを見せている。
もちろん、30年代当時の工業国が直面していた環境と比較すると、現代の日本は、変動相場制、政府のビルトイン・スタビライザー機能の強化、賃金決定に於けるベースアップ制の導入など、様々なデフレに対する緩衝材に恵まれている。
その結果、物価の減少は、相対的に小幅に止まってきたものの、貨幣流通速度の低価に平仄を合わせる形で、卸売物価が着実に下落を続けてきたのは戦前と同じである。
貨幣流通速度は、@金利に加え、A流動性選好、B間接金融離れ、と言った要因に左右される。
90年代日本の場合、株、土地をはじめ資産価格の大幅な調整から貯蓄主体が現金退蔵の動きを強めると同時に、巨額の不良債権問題を背景とした銀行の貸出資産の圧縮が貨幣流通速度を一段と押し下げてきた。
1930年代の経験が示唆するように、貨幣流通速度が不安定化(低下)しているうちは、日銀による金融の量的拡大も必ずしもリフレーションに繋がらない公算が大きい。
マネーの拡大は、デフレスパイラルからの脱出の必要条件ではあっても、金融システム・市場の安定化を通じて、貨幣流通速度の下落に歯止めをかけるという十分条件にとって変わることは出来ない。
十数年に一度の危機
金融システムに対する内外の信認を取り戻す上で、何より重要なことは、広範なディスクロージャーに基づく、幅広い政治的コンセンサスの形成である。
しかし、金融再生法案の修正をめぐる一連の動きは、今のところ不充分なディスクロージャー、政策対応のアドホックな性格、争点の政治化と言った問題点と副作用をむしろ浮き彫りする結果となった。更に過去数年間、けんちょうを誇ってきた米の金融市場が、アジア、発展途上国に続いて、変調をきたす中で、国際資本移動が一段と不安定化している。
最悪なことは、日本の金融システムの脆弱性が、国際資本の奔流に拍車をかけ、信用収縮力として作用するケースに他ならない。
これまで曲がりなりにもマネーが増勢を続けてきた結果、先に見たように、貨幣流通速度が、戦前を上回る落ち込みを見せたにもかかわらず、経済活動の落ち込み幅自体は相対的に軽微に止まってきた。しかし、資本流出に伴いマネーが伸び悩む、ひいては縮小することになれば、物価、生産活動の落ち込みが大幅に拡大、日本経済は1930年代型の恐慌に突入することになりかねない。日本経済は数十年に一度と言う岐路に立っていると言っても過言ではない。
以上
解説
貨幣流通速度と言う尺度から見た日本経済の実相を端的に説いたレポートとして、格好のものと言える。日銀が溢れるばかりに資金を潤沢に市場に流しても、実体経済にお金が回らないと言う現状は、恒等式から貨幣流通速度が低下しているということになるのは、当然である。
それら流通速度の程度が30年代の大恐慌の時代の流通速度にほとんど同じくなっていることに驚かざるを得ない。日本経済は、デフレスパイラルの入り口に立っているとよく専門家は言うが、実態はデフレスパイラルそのものであることが解る。 また、一方で、日銀の潤沢な資金供給が日本経済においては、デフレにもかかわらず、実体経済の落ち込みに一定の歯止めをかけているものの、その副作用として、アメリカの資本市場を始め、世界にバブルを輸出しているという側面があることを忘れてはならない。極端な資金の需給緩和は、どかに弊害が出ているのである。
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