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JMM [Japan Mail Media]  過去最高益の銀行、どうやって利益を上げているか?
http://www.asyura2.com/0601/hasan47/msg/317.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 7 月 15 日 07:37:02: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2006年7月10日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.383 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/

▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第383回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □津田栄   :経済評論家
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:717への回答ありがとうございました。先週ドイツから戻りました。帰国し
て、まるで浦島太郎のような気分でした。日本が負けたのでしょうがないと言えば
しょうがないのですが、ドイツはどうだった? と聞く人はほとんどいなくて、雰囲
気は白けきっていました。出発前とはえらい違いです。大手既成メディアだけが日本
が敗退したあともW杯を煽っている感じです。W杯特集の出版物はまったく売れてい
ないと編集にたずさわる友人たちが口をそろえて言っています。日本は惨憺たる結果
に終わりましたが、わたしは個人的にW杯を楽しみました。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第383回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:718
 銀行の06年3月期の決算が過去最高益となったようです。
<http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/keizai/20060702/20060702it12-yol.html>
 直接金融が主流になり、ビジネスモデルが古いという指摘も多かった日本の銀行で
すが、どうやって利益を上げているのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 確かに、銀行の決算は、一時期と比べようがないほど回復しています。6月下旬、
全国銀行協会が発表した、全国126行の2006年3月期決算状況(単体ベース)
を見ると、当期利益の合計額は、前期対比3.2倍の4兆2037億円と大幅な増加
を示しました。これによって、銀行全体の収益額は、バブル期の1989年3月期
(2兆3400億円)以来、17年ぶりに史上最高水準を更新したことになります。

 今回の決算内容をもう少し詳しく見ると、増収をもたらした主な要因三つに注目で
きると思います。一つは、資金運用益です。これは、資金を運用した利益から、調達
等の費用を差し引いた金額です。126行全体の運用益は、前年度比565億円のプ
ラスになっています。比率にすると0.7%増、つまり、ほぼ横ばい、やや増加とい
うところでしょうか。

 次は、役務取引等利益です。ここは要注目です。役務取引等利益とは、色々な手数
料の受払いから発生した利益を意味します。この利益は全体で約2兆1000億円で
す。これは、前年対比の金額ベースで約3300億円、比率にして18.7%増と
なっています。この部分が好調だったことは、銀行の収益に大きく貢献したと言えま
す。この背景には、投信や保険商品の販売、シンジケートローンの組成が好調であっ
たことが考えられます。

 従来、銀行は預金を受けて、それを運用することによって利益の大半を稼ぎ出して
いましたから、この数字を見る限り、銀行の手数料依存度がやや高まっていると言え
るでしょう。シンジケートローンの手数料など、単純に手数料収入と考えてよいかと
言うポイントはあるものの、銀行経営が、手数料収入に目を向ける傾向を読み取るこ
とができると思います。これは、それなりに大きな変化と考えます。

 三つ目は、不良債権処理が進んだことによって、貸出金償却等が大幅に減少したこ
とです。景気の回復に伴って、銀行が行った貸出金が不良債権化するケースが大きく
減少しました。それによって、銀行は、貸出金の償却額が大幅に減ったはずです。そ
れは、銀行の収益に大きく貢献します。また、いままで、貸し倒れに備えて引き当て
ていた引当金の一部は、必要がなくなったため、収益に繰り入れています。それもま
た、銀行の収益を押し上げる要因になっています。

 これらの要因を考えると、三つ目の不良債権に関する利益は、一時的でアドホック
な要因と考えるべきです。いままで行った、多額の不良債権処理の戻し入れが大きく
影響していますから、今後、その効果は徐々に消滅することになります。問題は、こ
れを除いた基礎的な実力で、銀行が儲けられる体質になっているか否かです。

 結論からいうと、その点については、やや心配な気がします。役務取引に関する収
益は、確かに増加傾向を示していますが、その額は依然として小額です。銀行全体の
収益を背負って立てるとは考えにくいと思います。また、資金運用益は前年対比、殆
ど横ばいで、これも大きな収益寄与はしていないと考えるべきでしょう。そうすると、
貸倒れ引き当て金の戻りいれがある間はよいのですが、それがなくなってしまうと、
高い収益力を維持することは難しいことになります。

 最も考慮すべきポイントは、金融機関にとって重要な資金利鞘に大きな変化が見ら
れないことです。わが国は、伝統的に貸出し金の表面金利が低く、金融機関が収益を
上げるのは難しい環境と言われてきました。一部の専門家からは、「表面金利は、不
良債権発生の信用コストをカバーできないほど低い」との指摘もあるようです。こう
した状況が、直ぐに変化するとは考えにくいですが、徐々に、コストに見合った貸出
し金利が設定されるような市場を作っていく必要があるかもしれません。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 銀行の収益が改善した理由を一言でいえば、不良債権が減ったからです。銀行の収
益を詳しく知ろうと思うなら、複雑な会計の仕組みを理解する必要があります。20
06年3月期の決算は過去のことなので、将来の収益予想を反映する足元の株価形成
には関係がありません。証券会社のアナリストは、2007ー9年3月期の収益を予
想して、株価のフェアバリューを計算しています。銀行の収益を予想する際には、短
期金利の仮定が必要ですので、1回目の利上げが決定されるだろう7月13ー14日
の日銀政策決定会合が注目されます。短期金利が上がると、貸出と調達金利の差であ
る利鞘が拡大して、銀行の業務純益が増えます。

 銀行の本業の利益を表す実質業務純益は、大手銀行の連結ベースで、2006年3
月期に前年比で10.8%増えたに過ぎません。貸出の収益を表す資金利益は前年比
で1.3%減りました。貸出競争の激化によって、預貸金利鞘が低下しました。貸出
額は海外を中心に増えました。銀行の貸出全体は6.5%も減っていた時期がありま
したが、今年からプラスに転じて、5月は前年同月比1.2%増まで回復しました。

 投信販売手数料などが含まれる役務取引利益は前年比21.2%増えました。銀行
は98年末に投信販売を認可されましたが、今や投信全体の約半分を販売するように
なりました。銀行は証券会社と異なり、投信の販売回転率が低く、安定的な顧客層が
多いので、各運用会社は銀行に投信を販売してもらうことに腐心するようになりまし
た。大手銀行の利益規模的には、資金利益は役務取引利益の約2倍あるので、前者の
影響が大きくなります。

 不良債権の減少によって、純与信費用は前年比で69.4%も減りました。不良債
権(専門用語でいえば、金融再生法開示債権)比率は、2003年3月期の7.8%
から2006年3月期に1.8%へ低下しました。以前、銀行は持合株式を大量に保
有していましたので、株価が大幅に下落すると、評価損の計上に迫られましたが、持
合解消が進展したうえに、株価上昇によって大きな含み益を抱えるようになりました。
収益を要因分解しますと、収益改善には与信費用の低下の寄与が大きかったといえま
す。当期利益は104.2%増と、過去最高になりました。

 2006年3月期に大幅に増えた大手銀行の利益も、2007年3月期は伸び悩む
と予想されています。業績改善の主因であった貸倒引当金の戻り益が減るためです。
例えば、最大手の三菱UFJは会社側予想で、当期利益が2006年3月期の1.1
8兆円から2007年3月期の7500億円へ減る見込みになっています。しかし、
今後2年間で0.5%の利上げを前提にすれば、利鞘改善効果や手数料増加などを背
景に、2009年3月期に当期利益が再び1兆円以上に増えると予想されます。

 日本企業は年度初めに慎重な業績予想を出す傾向がありますが、銀行が特に慎重な
見通しを出しているのは、儲け過ぎ批判への対応もあると思われます。日本には、製
造業は汗水垂らして働いて、りっぱな物を作り偉いと敬う雰囲気がある一方、金融業
は人の褌で相撲をとっているだけ、お金を鞘抜いて横流するだけなどと、さげずむ潮
流があります。三菱UFJはトヨタ以上に儲けてはいけないという人もいます。メー
カーでも物を実際に作っているのはロボットで、ホワイトカラーが多くいますし、銀
行でも外周りで汗をかいている人はたくさんいます。大手銀行の中で、昔の社名が変
わっていないのは住友信託だけであるほど、銀行業界のリストラ・再編が進展しまし
た。公的資金を返済していない銀行ならともかく、公的資金を受けていない民間銀行
が株主のために、利益をあげることを感情的に批判すべきでないでしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 先般の銀行業界全体の決算は好調であり、特にメガバンクの業績は好調でした。た
だし、編集長ご指摘の記事にもあるように、かつて積んだ引当金の繰り戻しの貢献が
かなりあったようです。これは、債権区分の低かった債務者の債権区分が主に好景気
で改善したことに起因するもので、先般の不良債権処理に伴う巨額の引き当て金の一
部繰り戻しであり、今後、継続的に期待できる利益要因ではありません。この要素を
除くと、最高益にまでは達していないようですが、それでも、かなりの好業績である
ことは間違いありません。

「ビジネスモデルが古い」ことは、たとえば、現在の世界景気の拡大に乗った製鉄会
社や船会社の好決算にも見られるように、必ずしもそれだけが、儲からないことの理
由にはなりません。日本の銀行もまた、次の有力なビジネスモデルを確立し得ない間
に、調達資金のコストが低いことを主因に、不良債権の発生さえ少なければ儲かる、
という状態を通じて、「何とか儲かった」というのが現状であるように見受けられま
す。好調なメガバンクについても、総資産利益率を見ると、欧米有力行の半分くらい
であり、必ずしも経営効率は良くないようです。これには、リテールの行員にまで高
給を払いすぎだとよく言われる高コスト体質ということに加えて、公的金融も含めて
ですが、金融業界の過当競争状況が影響しているように思えます。

 懸案の「新しいビジネスモデル」についてですが、幾らか心配な現象が二つありま
す。

 先ず、先般、三井住友銀行が金融庁から行政処分を受けましたが、その際に問題に
なったのは、優越的な取引上の地位を使って、顧客に必要のない金利スワップを売り
付けたのではないか、ということでした。この問題の報道を見た、私の印象は、かつ
ての「歩積み・両建て」(融資と共に、融資額の一部を低利で預金させて、実質的な
貸出金利を上げる金融取引慣行)が、デリバティブなど、中身の見えにくい暴利商品
に置き換わったのか、というものでした。

「ミドル・リスク、ミドル・リターンの融資マーケットがあるはずだ」という理念の
下に、些か慌ただしくスタートした日本振興銀行の業績が現段階ではふるわないこと
にも表れているように、「信用リスクに応じて、融資の金利水準が決まる」というマ
ーケットは、まだ、十分形成されていないようです。借り手側の抵抗感や、金融機関
の過当競争、金融機関側でも一朝一夕に十分な審査能力を育てられないこと、など、
幾つか要因がありそうですが、これは、銀行側にとっても困った要因ですし、借り手
側にとっても、適当な価格(=金利)で資金が調達できなかったり、先のデリバティ
ブのような、別の不透明な方法での利益提供を強要されることになったり、といった、
不都合が発生する心配があります。

 また、日本の銀行は、現在、投資信託や個人年金保険(要は変額保険なのですが)
の販売などによる、「手数料収入」の増価を目指しており、これは、たとえば、投資
信託の銀行窓口販売が順調に拡大するなど、一定の成果を上げているようです。手数
料の商売、いわゆるフィー・ビジネスは、不良債権などのリスクを負わない収入源な
ので、日本の銀行が力を入れるのも、もっともだと言えます。

 しかし、最近、投資信託などの商品販売で、銀行の強引なセールスが目につくよう
になってきており、顧客の側から見て、些か心配な状況が生まれています。たとえば、
金融機関(主に銀行)向けの雑誌の今年のある号では、「面談力」をアップすること
を特集していますが、これを見ると、かなり危ない売り方をしていることが分かりま
す。

 三つほど例を挙げましょう。

(1)定期預金の継続の顧客に対して、「ほんの少し金利が上がりましたが、まだま
だ低いですよね」というトークを切り口に、かつては預金に5、6%の利息が付いた
時代があることを話し、「毎月分配金が払われる商品があるんですよ。元金は保証さ
れていないのですが、昨年1年間では6%くらいのリターンが得られているんです」
と毎月分配型の投資信託に誘導しようとするものがありました。嘘は言っていません
が、預金と外債に投資する投信は、リスクの水準が大きく異なり、ファイナンシャル
・プランニングの観点からは別物というべきですが、このセールストークに誘導され
る顧客は少なくなさそうです。

(2)お金持ちの顧客の口座に、証券会社から振り込みがあったという事実を使って、
「証券会社から振り込みがありましたね」と話を持ちかけて、このお金を、何らかの
自行で扱う商品に誘導する(この雑誌の例では、都市部の不動産に投資するファンド
に)手口もありました。銀行が持っている顧客情報をセールスに使う例ですが(それ
にしても、本当にこんなことをしても、いいのでしょうか?)、かなり強引なやり口
です。

(3)「預金においておくリスクをご存じですか」という、ある意味では凄い切り口
トークもありました。もちろん、これは、自行の信用リスクやペイオフのことを言っ
ているのではなく、インフレのリスクを説いて、手数料が稼げる商品に顧客の資金を
誘導しようとするものです。解説用の漫画の中には「また、0.08%(注:定期預
金金利)でお金を『寝かせておく』こと自体がリスクではないかと言う方もいらっ
しゃいます」という台詞もありました。これまでの、主力商品を否定してでも、フィ
ーを稼いでやろうという銀行の経営戦略と、収益目標をこなすことを命じられたリテ
ールの現場に対する不健康なプレッシャーの大きさを物語る「恐い話」だと思います。

 ちなみに、証券会社のセールスにあっては、「今、お金がない」というのが、顧客
側からのよくある断りの理由でしたが、銀行の場合、顧客の資産の大半を抱えている
ケースが多く、顧客側の事情が丸見えに近いくらいよく見えていることが少なくあり
ません。また(2)の例でも分かるように、顧客に関する情報も豊富です。加えて、
銀行の多くの顧客には、投資信託や変額保険のような商品をセールスされることに対
する「免疫」が十分に出来ていない方が多数居るのではないか、ということも心配で
す。

 銀行が儲かっていると、金融システムは安定しますし、銀行にお勤めの方々が熱心
に働いておられることは知っているつもりなので、日本の銀行が、十分に儲かるよう
な「ビジネスモデル」を確立して欲しいとは思うのですが、その確立の過程は、顧客
(個人、法人共に)の側から見ると、かなり危険なものである、ということが言えそ
うです。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>

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 ■ 津田栄  :経済評論家

 銀行の収益が改善し、昨年度は最高益と報道されていますが、実態としては、本業
による急回復というよりは会計処理による見かけ上の大幅改善といえましょう。

 全国銀行協会の発表によれば、06年3月期の全国の銀行126行の決算は、当期
純利益4兆2,037億円と、前期比2兆9,095億円、実に前期に比べ3.2倍
強の大幅な業績改善になっています。しかし、その内容を見ると、貸し出しなどによ
る利息収入を中心に、有価証券、為替などの収益を加えた資金運用益はわずか565
億円の増加、各種手数料等の受払収支である役務取引等利益は3351億円の増加で
あって、残りは株式等関係収支の改善のほか、不良債権処理が進展した結果前期に比
べて貸出金償却等が大幅に減少した分2兆1800億円と貸倒引当金の戻入れ等が収
益改善を大幅に引き上げたことが窺えます。

 すなわち、本業で利益が改善したのではなく、これまで足を引っ張ってきた不良債
権処理の問題が一段落し、これまで行なってきた、貸倒引当金繰入や貸出先の倒産等
による貸出金の償却をする必要がなくなったこと、つまり不必要な支出がなくなった
ことで、前期に比べて改善したかのように見えるだけといえます。それでは、本来の
銀行預金・融資・為替等による業務の収益はどうかというと、業務純益は、前期比
7322億円減と、前よりは改善どころか、むしろ悪化しています。それは、業務純
益の増益銀行が前期82行から53行へと、また業態別に見ても都市銀行、地銀、信
託銀行と全て減益になっていることから、本業で苦戦している姿が窺えます。

 その背景を探ると、本業の中心を占める預貸金利鞘の悪化があります。その際、低
金利が続いたために貸出利回りが伸びなかったという説明がされますが、前期よりも
0.14%ポイントもの悪化は、前期より景気が回復し、東京など都市部の地価が下
げ止まり、上昇するなかでは説明が不十分なような気がします。もちろん、前期と同
様、ゼロ金利、量的緩和政策が採られ、短期金利はほぼゼロに据え置かれていて、長
期金利も大きく変動しなかったことはありますが、預金債券等原価利回りの0.03
%ポイントの低下にくらべても大きいことから、貸出利回りの低下の問題は別にある
のではと思われます。

 つまり、景気回復といいながら、貸出利回りが低下するのは、融資先が依然危ない
ところがあり、貸出利回りを引き下げざるを得ないか、土地担保価値の上昇で融資先
企業が優位に立って、貸出利回りの低下を迫られたのではないかということです。前
者は、地方の銀行に見られるような気がします。先日もある地銀の支店長に聞くと、
景気がいいのは東京だけで、地方の田舎は、全くその兆しが見えず、貸出先が危ない
企業がたくさんあって、貸し出しに苦戦しているとのことでした。そうしたことが貸
出利回りの低下につながっているような気がします。そのことは、不良債権残高を見
ると、全体で不良債権比率2.9%(額は13兆2265億円)のうち、都銀が1.
8%に対して地銀4.4%、第二地銀5.27%と大きく開いていることにつながっ
ているように思います。

 後者は、東京などの都市部にいえることで、ジャブジャブの資金を抱えた都銀が貸
し出し競争のなかで、担保価値の上昇、景気の回復などで融資先企業に対して劣位に
立って交渉せざるを得なかった結果ではないかと思います。もちろん、住宅ローンな
ど個人向け融資が伸びていますので、銀行間競争で貸出金利の低位維持からか、この
方からの貸出金利が低下していることがあるかもしれません。

 もう一つの問題ですが、資金運用益(資金運用収益?資金調達費用)は前期比56
5億円の増加とわずか0.7%増にしかなっていません。つまり、株式市場や為替市
場が大きく変動する中で、運用における収益能力は依然高まっていないということで
す。そして、手数料収入等の役務取引等利益は確かに着実に増えていますが、この低
金利の中で預金者から不利益を与え、むしろ強い批判を受けていることを考えると、
さらに伸ばし続けることは難しく、むしろ競争のもと手数料の引き下げや無料化が今
後実施されることすらありえます。もちろん、投信販売手数料などが伸びていますが、
こちらも、市場次第であり、もし悪化すれば、投信が売れなくなり、コスト高になる
うえに、さらに既存の投信の解約が嵩めば、役務取引等利益は減少する可能性もあり
えます。

 こうしてみてくると、銀行の収益体質は、97年の金融危機における公的資金、ゼ
ロ金利・量的緩和政策によるサポートのなかで、あまり大きく改善していないことが
窺えます。結局、銀行は、不良債権処理だけに注力して、これまでの土地担保主義に
基づく融資姿勢を大きく変えず、また新しい収益源を手数料収入に求め、また資本市
場を使って新しい収益源とするノウハウ、スキルを身につけてビジネスモデル化を構
築することに成功していない、つまり古いビジネスモデルから抜け出せず、景気の回
復、地価の上昇という外部環境に助けられた経営をしているということになります。

 今後、銀行がどんな変化にあっても大きく経営悪化を招かないような収益体質に転
換しなければ、景気が減速し、地価が下がってきた時には、また再び銀行経営は低迷
するのではと危惧せざるを得ません。なぜなら、このままでは、今度の銀行の07年
3月期決算は、もはや貸出金償却など特別な増益要因は期待できず、むしろ負担とし
て増えることになれば減益要因となりえるからです。そして、再び同じ道を歩み、デ
フレを引き起こす可能性すらありえます。その時は日本には銀行を助ける体力をもは
や持ち合わせていないかもしれません。その意味で、銀行は、早く景気や土地地価に
左右されない新しい収益のビジネスモデルを構築すべきではないかと思います。

 最後に、今、ゼロ金利政策解除を日銀で検討されているようですが、先ほどの地銀
の話にもあるように景気回復はやはり地方にまでは十分行き渡っていないことが窺え
ます。先日大阪など関西の地方にも行きましたが、やはり異口同音景気はあまり良く
ないという返事でした。今、ゼロ金利解除すれば、東京など景気がいいところにはそ
れなりに冷やしになりますが、地方の景気は一層の冷却化となり、地銀の融資先の大
半が中小・零細企業であるがゆえに影響が大きく、貸し出しが難しくなり、倒産が増
えて、地銀の経営に悪影響となります。また大きく抱えている国債の利回り上昇(国
債価格低下)がさらに地銀にダブルパンチになるように思います。その意味でゼロ金
利解除は、しばらく地方の状況も踏まえて慎重にすべきではないかと強く感じます。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 景気が回復し、デフレ期に多めに見積もった不良債権の引当から、過剰に見積もっ
た分を戻し入れたので、06/3期の決算は一時的に膨らんでいます。引当を除いた、
銀行の通常営業部分の利益の業務純益は昨年度からとほとんど変わりませんので、こ
のままの経済が進めば来期07/3期は、業務純益はあまり変わらないまま引当が通
常に戻るので今期よりかなりの減益となることが予想されています。06/3期の好
決算は、過去の収益を低く見積もりすぎた分を今回修正したという会計上の見てくれ
の問題のようです。

 額自体はあまり変わらない業務純益ですが、中身は少しずつ変化をみせ、新しいビ
ジネスモデルが姿を現しつつあることも観察できます。目立つ変化としては、保険・
投信の販売手数料や投資銀行業務をあらわす役務取引利益が約20%も増加して、規
制緩和が銀行の収益に有利に働いていることがあげられます。

 今後予想される、ゼロ金利解除と金利上昇局面で旧来モデルのビジネスでは、預金
金利と貸出金利の利鞘が拡大し、また景気拡大による貸出しの増加につながることに
なり、収益の拡大する可能性が高いとおもわれます。

 新しい領域でも、銀行が金融規制緩和のメリットを一番受けることが予想されます。
現在おおきな問題となっている、消費者金融のグレーゾーン金利の問題についても、
グレーゾーン金利の廃止という方向で議論が進む限り、この分野も結局、直接、間接
に銀行の業務の拡大する方向で、決着していくように思われます。

 投信の銀行窓口販売が始まった頃は、まだデフレのさなかで株式市場も低迷してい
たことから、銀行窓口も思ったほどの売上を伸ばせなかったようですが、相場が回復
するにつれ、銀行を通じた投信販売も大きなシェアをしめるまでになっています。0
5年末には販売量残高ともに50%にまで達しているようです。個別の株式の窓口販
売も始まれば、すぐにある程度シェアを占めるようになることでしょう。

 保険商品の窓口販売もこれから本格化して、07年にはほとんど全ての商品が、銀
行の窓口で扱えることになりそうです。変額年金保険のように、銀行窓口をメインの
販路として拡大してきた商品も生まれており、保険販売のなかで銀行窓口の占める割
合は、拡大する方向にあるのは疑いをえないところです。

 日本の金融規制緩和のなかで、銀行窓口の販売チャネルとしての重要性は、疑いえ
ず確実に拡大していくようにおもわれます。日本の銀行の収益の水準が、すぐに欧米
の銀行に追いつくかどうかはわかりませんが、中期的には収益拡大の方向にあると思
われます。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:718への回答ありがとうございました。ドイツW杯が終わりました。比較す
るのはおかしいのですが、どの試合よりも、中田英寿選手の現役引退のほうがわたし
にとっては切実で重い出来事でした。

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Q:719
 ゼロ金利政策が解除される模様です。どの層が利益を受け、どんな層が不利益を被
るのでしょうか。

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                                   村上龍

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JMM [Japan Mail Media]                 No.383 Monday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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