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【経済面】2006年06月28日(水曜日)付
(検証・構造改革 第1部・官から民へ:1)規制緩和、万能論に影
規制と既得権が張り巡らされ、官業が幅をきかせてきた日本経済。この古い構造を壊し、バラマキ財政をやめて、より市場主義色の強い世の中に変える――。それが小泉首相が掲げた「構造改革」だった。政権の5年を経て日本経済は息を吹き返したが、格差拡大や競争至上主義の行き過ぎに不満も高まっている。改革は私たちの暮らしに何をもたらし、日本をどう変えたのか。シリーズ第1部では「官から民へ」の政策を検証する。
規制改革の例と流れ
●順風一転、格差に批判
村上ファンドに投資した日本銀行の福井俊彦総裁が国会で釈明に追われた15日。東京・永田町の合同庁舎で規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦オリックス会長も、記者会見で同ファンド問題を問われていた。
オリックスは同ファンドに約200億円を投資している。金融の規制緩和はファンド急成長の舞台装置を作った。その旗をふった宮内氏がプレーヤーに手を貸していたのでは同会議の信認に影響するのではないか、と指摘された宮内氏はコメントを避けた。
政府に規制緩和の具体策を提言して10年。追い風から一転して宮内氏への風当たりが厳しくなった。先の通常国会でもそういう場面が何度かあった。社民党の福島党首は、4年前に宮内氏が病院や文化施設の整備・維持管理を民間へ移管するよう提言したころ、オリックスグループが高知県の公立病院のPFI(民間資金活用)の契約を落札したことを追及した。
04年秋に高度医療での株式会社参入が可能になった「病院特区」制度を巡っても、横浜市で今夏、病院を開業するバイオマスター社の株主に、規制改革会議の事務局がある内閣府に出向者を出すオリックス、三菱商事、日本生命保険の系列会社が名を連ねていることが取り上げられた。共産党の塩川鉄也氏は「規制改革を推進している人間がその規制緩和でもうけようとする構図だ」と批判した。
「改革は弱い者いじめだ」。オリックスにはそんなメールや電話が来る。「格差社会」批判が強まり、それを助長する構造改革の象徴として宮内氏が批判の的になる。
●首相が後押し
「改革で格差社会が広がっているという論調があるが、むしろ規制による既得権で不公正な格差が形成されてきた。ひるまずに取り組む」。宮内氏は4月の経済財政諮問会議で強調した。
小泉政権の発足は大きな追い風だった。
「規制改革は一番抵抗の強いところからやりましょう」。就任半年の小泉首相が01年11月の諮問会議でそう言うのを聞き、宮内氏は「これで動くぞ」と思った。
規制は新規参入を阻み、既得権益を守っていることが多い。だから規制緩和には必ずと言っていいほど反対勢力がいる。それが自民党の支持団体であることも少なくないため、これまでの政権では規制緩和のスピードが上がらなかった。宮内氏は首相に「政治主導で後押ししていただきたい」と要請した。
首相はさらにこの会議で、発言を秘密にするように出席者らに念押しして言った。「医療機関、大学、農業に株式会社をどう参入させるか考えたほうがいい」
規制緩和は小泉政権のずいぶん前から議論されていた。86年、前川春雄・元日銀総裁らによる「前川リポート」ではプラザ合意後の急激な円高に伴う内外価格差の是正策として提言され、89〜90年の日米構造協議でも米側から市場開放手段として迫られた。
「カネのかからない経済活性化策」として経済政策の目玉に掲げたのは93年に発足した細川政権。当時、日本の経済活動の42%が政府規制を受け、米国の7%に比べ格段に規制が多かった。国際競争力で後れをとらないために、政財界に見直し機運が高まった。
90年代半ばから始まった運輸や電力、金融での新規参入や価格についての経済的規制の撤廃は、小泉政権発足時にある程度進んでいた。宮内氏は「次は社会的規制の緩和」と考えた。医療や農業、教育では「安全や品質維持を理由に新規参入や競争を妨げ、消費者の選択肢を奪っている」と見たからだ。
●医師会の抵抗
まず医療が主戦場になった。開業医を中心とする医師会の抵抗が激しかったからだ。
03年秋、鴻池祥肇・元特区担当相が自民党の兵庫県連会長に就任すると、同県連から2千人の党員が脱退した。医師会のメンバーたちだ。「病院特区」を認めた鴻池氏への抗議行動だった。
05年には衆院選の自民圧勝を背景に、日本医師会の力の源泉である中央社会保険医療協議会(中医協)委員の団体推薦制を廃止。これで約30兆円の医療費を事実上動かす影響力が大幅にそがれ、大病院より開業医に偏りがちな医療費の配分が変わる可能性が出てきた。
地域を限って規制改革を試す「特区」制度も導入した。各地から応募があり、まちおこしに利用する「どぶろく特区」などが実現した。特区では医療、大学、農業の株式会社参入も認められ、農業はその後全国で参入が可能になった。
「しがらみがあって自民党が言いにくいことを民間の立場で言ってくれる」。首相は宮内氏に感謝した。官僚のなかには宮内氏を議長職から外そうと画策する動きもあったが、首相は守った。
●政府の役割は
宮内氏が主導した規制緩和は6千項目を超える。そのなかには一部医薬品のコンビニ販売など、消費者が求めていたものも少なくない。
ただ、経済評論家の内橋克人氏は「消費者や労働者、中小企業を守る規制が外され、社会不安が増している」と副作用の大きさを指摘する。内橋氏は世論が規制緩和「歓迎」でほぼ一色だった90年代半ばから規制緩和万能論を批判してきた。「官僚支配や不要な規制は改めるべきだ。ただ市場競争ですべてはうまくいかない」
競争市場での不正の監視、消費者や労働者、投資家の保護、社会的弱者の安全網――。政府が果たすべき役割がある。規制緩和万能論からも、小泉政権の熱狂からも離れ、それを冷静に考えるときが来ている。(編集委員・辻陽明、平野春木)
◆キーワード
〈規制改革・民間開放推進会議〉 首相の諮問機関。任期3年(04年4月〜07年3月)で、毎年答申する。規制改革のほか、医療など官製市場の民間開放も検討。委員の経済人や学者らが各省庁と直接交渉し、提言内容を決める。その実行度合いを監視もする。
http://www.asahi.com/paper/business.html