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■【正論】早稲田大学大学院教授・上村達男 改悪としか思えぬ新会社法の施行
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既存概念変え意味混同の恐れも
≪ルーズな有限会社の出現≫
この五月より新会社法が施行された。内容はどうあれ、成立した以上は実務的に対応しなければならない。しかしながら、新会社法は既存の概念を大幅に変え、通常の理解とはまったく異なるどころか、正反対の意味に使用される場合もある。マスコミを含め、立法担当者の解説がそのまま無批判に伝えられる傾向もあるが、私は多くの点で強い批判を有している。
第一の問題は、有限会社を廃止して株式会社に一本化した際、有限会社の方が規制が厳しかった部分までなくしたことである。この結果、「株式会社とはもっともルーズな有限会社」という逆立ちした会社法の出現を許した。
ベンチャー企業向けの法制は、株主がベンチャーキャピタルというプロであることを前提に、自身も株主である経営者との間で自由な株主間契約を認める。それはいいのだが、一般会社にも適用して株式会社の基本形としたことで、今日の経済社会に制御不能なほど過度な自由を与えてしまったのである。
第二は、ベンチャー向けに時限立法として認められていた最低資本金制度を廃止し、資本金一円企業を一般化させたことである。株式会社について失敗と挫折の遺伝子をもたない日本では、欧州で今も堅持する最低資本金制度を廃止する必要も合理性もない。
「資本金は現実の財産の多寡と無関係」「日本の資本金制度はどうせルーズ」だから不要という立法姿勢には疑問がある。欧州の最低資本金制度が「純資産が資本金の半分以下になった会社は存在できない(強制解散)」という厳しいものであることに照らしても、説得力を持たない。
新会社法では、ある制度を堅持すべきだとの主張に対して、それと同様のことが別の手法でも可能なのだから維持する意味はない−といった論法が多用されている。その手法を違法視して原則を守るという発想は初めから放棄されている。たとえば法務省令では、会社の設立当初から資本金はゼロでもマイナスでも構わないとされているが、会社法本体に違反しているのではないかという批判も強い。
≪「高度化」より「コード化」≫
第三に、法的概念にはある事象に対する本質的把握が表現されているが、新会社法は法的概念を文化的事象の表現とは考えず、さまざまな概念を構成する諸要素に因数分解し、共通項として新しい記号的な言語を当て、「共通項プラス残余」という理数的な整理を行ったことである。新会社法に好意的な学者ですら、これを「高度化」ならぬ「コード化」と呼んでいる。
株式譲渡制限とは、外に門戸を閉ざす閉鎖的会社の本質的概念だが、これも株式譲渡制限の性格をもった種類株式と割り切ったことで、問題の本質が見えなくなった。
公開会社も証券市場で公開した会社という常識的な概念ではない。すべての発行済み普通株式に譲渡制限があっても、定款で譲渡制限のない種類株式を発行する予定−と書いてあれば公開会社とされた。こうした不合理な定義を前提に、公開会社には取締役会が必要といった規制分化がなされるのであるから、概念を無用に変えたことによる弊害が今後山積されるはずだ。
新株発行という言葉も新株引受権という言葉もなくなった。従来の新株発行と自己株式の処分を無理に共通化しようとすると、新株という言葉は使えない。そこで、どちらも募集をするとして、募集株式というおかしな言葉で共通化した。発行側からは「募集株式の募集」ということになる。しかも、ここでの募集とは証券取引法の募集とは似ても似つかぬもので、相手が一人で足りるために私募を募集と呼んでいる。ここでも会話が成り立たなくなっている。
≪再び元に戻す過程必要に≫
募集せずタダで株式を与える場合は新株の無償発行といえばよいのであるが、募集株式を基本にしたために、募集しない場合をとくに株式の無償割当と呼ぶことになった。新株引受権も、将来の譲渡を予定するものはその期間がいかに短くても新株予約権で賄うこととされ、廃止された。
こうした例は枚挙にいとまがない。この度の新会社法による数々の概念破壊は、官僚が鉛筆なめなめ由緒ある町の名を勝手に変えた、かつての町名変更に匹敵する蛮行のように思えてならない。
近い将来、これを再び構成し、国民に分かりやすいいくつかの会社の「型」を再構築する過程が必要になっていくだろう。そうした過程が短期間であれば、新会社法は経験不足を補う学習効果のある反面教材であったという皮肉なことになるかもしれない。
(うえむら たつお)
http://www.sankei.co.jp/news/seiron.htm