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□中国やインドが先進国の情報産業を駆逐する日 [ゲンダイ]
http://gendai.net/?m=view&g=syakai&c=020&no=26241
【日垣隆のどこへ行くのかニッポン!】
2006年5月11日掲載
中国やインドが先進国の情報産業を駆逐する日
かつて日本で起きたことが、いま中国やインドで起きている。農村部からの出稼ぎのことだ。その過酷な労働条件を非難する声も共通している。
近ごろの新聞に、こんな記事が載った。出典は、中国の国務院である。
《農村からの出稼ぎ労働者の約半数が、雇用契約もなく劣悪な労働環境に置かれていることが分かった。》
近現代史や各国事情を学べば、出稼ぎが正規社員より好条件であったためしなど一度もないことに、すぐ気がつく。むしろ約半数が《劣悪》でないことに疑問符を投げかけておいたほうがいい。
もちろん感情的には、劣悪でないほうがいいに決まっている。しかし、こんなことを国務院研究室に勤める座学エリートに言われたくはない。実際のところ、違法でない限り、そのような条件でも働きたいという人々が大勢おり、なおかつ良い条件(=できるだけ安価)で雇いたい会社がある限り、両者に需給が生じるのはあたりまえだ。競争や経営を無視して、「すべての労働者が平等で何の不足もない賃金」を目指すのは、20世紀を通じて地獄的失敗が証明され、今まさに中国が脱出せんとしている体制なのである。
さて、生真面目な記事はさらにこう続く。《雇用契約を「締結している」のは53.7%にすぎず、「締結していない」が30.6%、「雇用契約とは何のことかわからない」が15.7%に上った。》(以上「東京新聞」5月9日夕刊)
記事の末尾に(笑)を入れたほうがいいのではないか。このような事態を笑い飛ばすのはむしろ健全だと思う。彼ら彼女らには、何より現金が切実なのだ。
他方で、減給すら経験したことがない、1年に1本程度の論文を書いていれば済む日本人学者がやたら「格差の是正」を偽善的に嘆いてみせている昨今であるが、「格差の是正」は正社員の給与体系を引き下げることでしか実現しえない事実には口をつぐんでいる。
だが実際のところ、ネットが世界を切り結ぶ主要な手段になると、この賃金格差は日本人にも他人事ではなくなる。国内における格差のことを言っているのではない。例えば5000ドルは、日本では私学の入学金にも満たなくても、多くの国では別荘をもてる金額だ。そのような国々に住む優秀な人材が、先進国に移住することなく、ネットを通じて5000ドル稼ぐことは、日本人が国内で年収60万円を得る程度に簡単にできる。
日本の識者は相変わらずドメスティックな格差を嘆いてみせているけれども、ネットを通じて充分な財を蓄え始めた発展途上国在住の優秀な人材に、かつて「第3の波」には乗った先進国の情報産業従事者が駆逐されるのは、ほとんど時間の問題なのである。
●日垣隆(ひがき・たかし) 1958年生まれ。東北大法卒。コピーライターなどを経て、ジャーナリスト、作家活動に。「そして殺人者は野に放たれる」「現代日本の問題集」など著書多数。最新刊は「使えるレファ本150選」(筑摩書房)、「いい加減にしろよ(笑)」(文芸春秋)。