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2006年4月24日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.372 Monday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第372回】
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□津田栄 :経済評論家
□岡本慎一 :生命保険会社勤務
□三ツ谷誠 :三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:706への回答ありがとうございました。17日月曜夜10時から『カンブリ
ア宮殿』という番組がテレビ東京でオンエアされます。第一回目のゲスト、トヨタの
張富士夫副会長との対談はもう済ませました。どうしてトヨタは勝ち続けることがで
きているのか。つまり、いかにして全社的な危機感をキープしているのか、非常に興
味深いお話を伺うことができました。サブアシスタントの小池栄子さんも「いい感
じ」なので、是非ご覧いただければと思います。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第371回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:707
景気という用語は定義されていなくて曖昧なので使いたくないのですが、他に思い
当たらないのでしょうがなく使います。好景気が続いていて、一部にはバブルだとい
う指摘もあります。好景気とバブルはどこがどう違うのでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
好景気は持続可能ですが、バブルは長期間持続可能ではありません。両者の大きな
違いはこの点だろうと思います。
ご指摘の通り「景気」の定義は曖昧なので、「バブル」の方から考えると、これは、
狭い意味では「長期的には持続不可能なくらい高い(主に資産)価格」を形容する言
葉のように思えます。「株価のバブル」、「地価のバブル」はこうした意味であり、
自然な使い方です。維持不能な価格であっても、「円高バブル」とは言っても、「円
安バブル」というと少し違和感があり、「ドル高バブル」と言う方が落ち着きがいい
ように感じられるのは、バブル=高過ぎる、というニュアンスがあるのだと思われま
す。
上記の意味から転じて、長期間続きそうにない活気や人気などに関しても、「○○
バブル」というような言い方(たとえば「ITバブル」や「韓流バブル」)が拡がり、
その形容の対象に、「景気」まで含まれてくることがあるので、「景気はバブル的な
様相を呈してきた」という言い方で何となく意味が通じて、「好景気」と「バブル」
の間の区別がハッキリしなくなったのではないでしょうか。
日常語としての「景気」あるいは「好景気」の定義は曖昧ですが、経済の文脈では、
実質GDPの成長率を指すことが多いように思います。経済成長率が「高い」という
意味で「好景気」という時に、将来まで(もちろん予測の上でですが)含んだ平均を
比較対象にして、「好景気」と称するなら、これは、長期的には持続不可能である公
算が大きく、「バブル景気」との意味の区別が無くなりますが、こうした意味でなく、
景気がそこそこに拡大しているという意味で使うなら、「好景気」は持続可能です。
長期的に維持できないくらいに高い資産価格という狭い意味で使う「バブル」は、
資産価格が当該資産のフロー収益に影響を受けるので、経済全般にわたって見た場合
には、「景気」の影響を受けると考えられます。
たとえば、株価について一つの考え方(オーソドックスだと思いますが、他の考え
方もあります)を示すと、益利回り(=PERの逆数を利回りとして見たもの。PE
R20倍は益利回り5%)に長期的な期待名目GDP成長率を合計したものが(上場
企業の長期的な期待利益成長率の代理変数として選んでみました。経済成長には非上
場会社分も含まれるので、上場企業の利益成長率は名目GDP成長率を若干下回るの
ではないかと言われています)、「株式の期待リターン」であり、これは「長期金
利」+「リスクプレミアム(投資家が株式のリスク負担に対して要求する追加的利回
り)」なので、益利回りが明らかに過小になるようなPERの株価は「バブル」と言
えるでしょう。
現在の長期金利は2%弱、リスクプレミアムは諸説ありますが5%〜6%くらいと
する意見が多いので(機関投資家の運用計画から逆算するとこれくらいです)、仮に
株式の期待リターンを8%と見ると、一応どこからも文句の出ない名目GDP成長率
として3%(たとえば実質2%成長に、インフレ率1%)を見込むと、益利回りは5
%、つまり、PERで20倍くらいが適正水準であるという計算が出来ます。現在の
東証一部の平均的なPERは今期の予想利益に対して24倍くらいなので、誤差の範
囲と言えますし、企業利益の来期の予想によっては、「まだまだ高くない」と言うこ
とが可能でしょうが、これ以上大きく株価だけが上昇するようだと、「バブルだ!」
と言えるレベルになりそうです。また、家賃収入と地価を考えると、都市部の一部地
域の地価は既にバブルだという意見も聞かれます。
前回の不況に関しては、なにがしかは、バブルの崩壊から生じたと思えます。市場
なり経済主体なりが合理的で正確だとは言えない以上、物価・景気・資産価格の全て
を経済政策によってちょうど良いものに調整することは至難の業でしょうから、「バ
ブル」については、先ずは個々人が注意して、自分が損をしないようにする以外にな
さそうです。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
好景気とは、経済活動が活発化して、国の経済規模=付加価値の合計額であるGD
Pが拡大傾向を辿ることを意味します。GDP統計は、毎四半期ごとに発表されるた
め、当該期のGDPが前期対比で拡大傾向を辿っていることを、一般的に景気が拡大
している=好景気と称すると考えられます。逆に、GDPの数値が、前期対比でマイ
ナス傾向を示しているときを景気後退期=不景気と呼びます。因みに、米国では、2
四半期連続でGDPが前期対比マイナスになった場合には、リセッションと呼ばれま
す。
バブルとは、一般的に、資産などの価格が、本来のフェアバリューよりも、はるか
に高い水準まで上昇することを指します。バブルという場合、景気動向を指すという
よりも、資産価格の動向などを示すケースが一般的でしょう。バブルの語源となった、
英国の南海泡沫会社の場合も、実態のない企業の株価が急騰したことを意味していま
す。バブルは、"泡沫"をとって名づけられました。オランダの球根バブルの場合も、
球根の値段が、冷静に考えると考えられないほどの高値になってしまったケースです。
バブルと好景気には、密接な関係が存在することが多いでしょう。というのは、バ
ブルが発生して、それが拡大する過程では、特定の資産価格が急上昇しますから、そ
の過程で消費が刺激され、好景気になることが想定されます。1980年代後半のわ
が国のケースをとっても、株式と不動産の価格が急速に上昇したため、多くの人や企
業が、挙って、それらに投資を行い、バブルが拡大している間は、多額の利益を上げ
ることができました。
企業の収益状況も改善し、それが従業員の給与に反映されました。株式投資で儲か
り、給与が上がるわけですから、個人の消費活動は活発化しました。また、企業も設
備投資の活動を積極化し、景気の押し上げ要因を提供することになりました。結果的
に、資産バブルが、経済活動を押し上げ、好景気を現出したと言えます。その意味で
は、バブルと好景気とは表裏の関係にあったと考えられます。
しかし、好景気の背景にバブルがあるとは限りません。好景気は、必ずしも、バブ
ルを条件として必要としないのです。資産価格が、安定的に正常な展開を示す環境下
でも、経済活動は活発化することは可能だからです。例えば、今回の景気回復が始ま
った2002年の1月以降、2003年4月までは、株式市場は下落傾向を続けまし
た。これは、好景気が、バブルという経済現象を必要としない証左といえるでしょう。
バブルが弾けた後、必ずバランスシート調整が必要になります。例えば、1億円で
買った不動産が3千万円に下落してしまうわけですから、その差額=損失を調整する
ことが必要だからです。あるいは、バブルで株価が、フェアバリューよりも圧倒的に
高い水準まで上昇した後は、当然、フェアバリューに下落しますから、多くの投資家
が、多額の損失を抱えることになります。その場合にも、バランスシート調整は避け
られないことになります。
バランスシート調整の時期は、基本的に景気が後退することになります。多額の損
失を償却することになりますから、企業も個人も、経済活動を絞ります。その結果、
景気は後退期を迎えることが想定されます。1990年代、わが国は、大規模なバラ
ンスシート調整を余儀なくされ、長期間、景気の低迷に苦しんだことを考えると、こ
の関係は、非常に明確だと思います。
こうして考えると、景気と資産価格の変動、特に、バブルと呼ばれるほど急速で、
大規模な資産価格の変動は、経済に対して大きな影響を与えることが分かります。一
般的に、バブルの発生から拡大期には、景気が拡大し、バブルの崩壊後は、景気が構
造的に低迷することが想定されます。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
好景気という言葉を使う時、ある人はマクロの経済成長率が加速する状態をイメー
ジしているかもしれないし、またある人はミクロの企業収益が好調な状態をイメージ
してるかもしれませんが、この両方が満たされなければ、好景気とは呼べないでしょ
う。
例えば、2002年以降、今日まで我が国の企業収益は顕著な改善傾向を示してい
ますが、当初はリストラによる体質改善、すなわち過剰債務、過剰設備、過剰雇用の
過剰三兄弟を解消することにより実現した収益改善でしたから、2002〜2003
年にかけての経済成長率はマイナス、ないしゼロ近傍でした。よって、企業収益の改
善はあっても、実感として好景気には程遠いものがありました。
逆に、95〜96年、99〜2000年あたりは大型の景気対策、財政刺激策の効
果から成長率は回復し、企業収益も表面的には改善していましたが、悪化したバラン
スシートを抱えたままでの収益改善ですから、利益は不良債権の引き当てに充当され
てしまい、設備投資や賃金・雇用の増加には寄与しませんでした。よって、企業に勤
めている人で当時、好景気と実感した人は余りいなかったのではないかと思います。
現状の日本経済は最大の懸案であったバランスシートの改善が実現したことにより、
収益が持続的に回復する基盤ができあがりました。そして、企業は自信を取り戻し、
新たなビジネスチャンスを求めてリスクを採る姿勢、すなわち設備投資や雇用を増や
す方向に転換しています。ミクロの企業収益の改善がマクロの経済成長率の加速上昇
を誘発して、文字通りの好景気という状況を作り出しています。
さて、そこで次に今回の質問にある「好景気とバブルはどこがどう違うか」を考え
てみたいと思います。まず、我々が好景気という用語を使っている時は、一般物価や
資産価格の上がり方がノーマルな状態を暗に想定していると思います。好景気であれ
ば、財やサービス、株や不動産などの資産、に対する需要が増大するはずですから、
需給が締まって各々の価格が上昇するのは自然なことです。
しかし、価格には持続可能な適正価格というものがあるはずですが、時として適正
価格を上回って大幅に上昇する場合が散見されます。持続可能でない水準まで上昇し、
いずれはじける運命にあるからこそ、それがバブルと呼ばれるわけです。典型的なケ
ースが1980年代後半の日本経済ですが、当時の日本は内需主導型の新しい成長経
路への移行を模索しており、設備投資・消費主導の経済成長が実現しました。そして、
この好景気をベースとして、株式市場や不動産市場に巨額の資金が流入して株価や地
価が高騰する、いわゆるバブルが発生したのです。
バブル発生に関して重要な点は、先ず、投機的な需要を支えるだけの過剰流動性が
存在していなければならないということです。過剰な流動性があるからこそ、運用先
を求めてマネーが徘徊し、目先、儲かりそうな商品に集中豪雨的に流れ込み、バブル
水準にまで価格を押し上げるのです。80年代後半はプラザ合意以降の超円高からく
るデフレ圧力に対抗する為、大幅な金融緩和が採用されました。この過剰流動性がバ
ブルの原因だったのです。
それでは現時点でバブルが発生しているのか否かを考えますと、これまで量的緩和
政策が採用されていたので、債券市場など局地的にはバブル現象も見られましたが、
好景気を背景にマネーが徘徊してバブルを生み出すような状況には到っていないと思
われます。それは量的緩和にもかかわらず、これまで銀行が不良債権を抱えて、貸し
出しに慎重であったため、マネーサプライの伸びが抑制されてきたことが影響してい
ると思います。
但し、不良債権問題は既に解消し、これから経済活動が正常化していくわけですか
ら、これまでのような緩和政策を続けていくと、将来的にはマネーサプライが急増し
てバブルを発生させる可能性を否定できません。それが、3月に日銀が量的緩和を解
除して日銀当座預金残高の縮小に動き始めた背景でしょう。過剰流動性がいつまでも
残らないように、中央銀行が適宜、量をコントロールすることはバブルを発生させな
いための基本動作ではないかと思われます。
伊藤忠商事金融部門チーフエコノミス:中島精也
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
バブルは、経済本来の実力から大きく乖離した好況、株価や地価のフェアバリュー
(公正価値)から大きく乖離した価格上昇と定義されるでしょう。経済の本来の実力
は潜在経済成長率で測られます。潜在成長力は労働投入の伸び率や生産性の伸び率な
どによって規定されます。数量的な計測方法によって、潜在成長率の推計結果は異な
ります。
悲観的なエコノミストは、今も日本の潜在成長率は1%程度しかないと言い、人口
減少によって今後マイナスに陥ると予想しています。一方、構造改革の成果によって、
日本の潜在成長率は2%以上に高まったという見方もあります。将来的にも高齢者や
女性の労働力活用や、IT活用による生産性向上によって、日本の潜在成長率は低下
しないという見方もあります。個人的にも後者の意見に近い考えをもっています。
日本の実質GDP成長率は2004年2.3%、2005年2.7%と潜在成長率
を上回る成長となっていますので、この点では実力以上の成長を遂げているといえま
す。しかし、それ以前は10年間にわたって長期不況でしたので、GDPギャップ
(物やサービスを供給できる量と実際の需要との差)はようやくプラスに転じた所で
す。内閣府は3月下旬に、昨年10−12月期の日本経済の需給ギャップがと約8年
ぶりにプラスに転じたと発表しました。昨年12月に有効求人倍率は13年ぶりによ
うやく1倍を上回った所です(90年のピークには1.45倍でした)。3月失業率
は4.1%まで低下しましたが、90年には2%だったこともあります。
80年代後半には日本経済は4−5%で成長していました。マネーサプライも10
%以上で増加していましたが、現在はようやく銀行貸出変化率がプラスになった程度
です。地価が上昇し始めたといっても、都心部や地方大都市だけで、多くの地方の地
価はまだ下落が続いています。80年代後半のバブル絶頂期には、地方の土地の方の
上昇率が高かった位です。以上を総合して考えれば、日本経済はようやく好転した程
度であり、バブルではないといえます。
私は今月、米国の機関投資家を訪問しましたが、彼らの日本経済を語るキーワード
は「正常化」でした。日本経済はようやくデフレを脱し、マイルドがインフレという
正常な経済状態に戻りました。結果、日銀も量的金融緩和という異常な政策を止めて、
短期金利を引き上げる時期も近いと予想されています。市場金利の上昇を反映して、
最近銀行は僅かながらも、預金金利を引き上げつつありますが、預金に金利がつかな
い状態が異常だったといえます。企業も人員や設備削減を発表すれば株式市場から評
価されるという異常な世界から、人員採用と設備投資増加という正常な状態も戻りつ
つあります。日本経済は正常化しつつあるのであり、バブルではないと言えます。
株式市場も80年代後半にPERは100倍近くに上昇しましたが、現在PERが
上がったといっても20倍強です。当時は日本の株式や土地の時価総額が米国を上回
り、日本が世界を席捲するというユーフォリア状態でした。他国のPERは15倍程
度が多いので、日本株のバリュエーションは国際比較で割高圏に入ってきていますが、
まだ許容範囲であり、バブルとは呼べません。80年代後半に、日本のバブルを感じ
取った外国人投資家は日本株を大幅に売り越しましたが、今年も年初来、外国人投資
家は日本株を2兆円程度買いました。外国人投資家も日本はまだバブルでないと感じ
ているようです。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 津田栄 :経済評論家
景気は、「経済活動を中心とした社会情勢」、つまり「経済のようす」であり、
「目に見えない経済の勢い」ということになります。それは、感覚的なもので、表現
としてどうしても曖昧なものになってしまいます。そして、明確で具体的な基準はあ
りませんので、GDP、鉱工業生産、個人消費、雇用、物価などマクロ的な経済指標
の裏づけのもと、体感的な面を加えて判断することになります。したがって、好景気
だという人は、マクロ的指標でいい数字があって、また自分や周りでカネ、モノ、ヒ
トの動きが活発になっていて、需要が供給を上回って取引され価格が上昇気味のため
自分の懐が暖かく、その結果経済状態がいいと感じている人です。
一方、バブルは、18世紀はじめのイギリスの南海泡沫事件に由来しており、日本
語に適当な言葉がなく、英語の「bubble」をそのまま使っています。その経済的な意
味として、株式や土地などの資産が適正な価格を大きく上回って投機的に取引されて
いる状況を言います。そして、経済がバブルだという場合、ファンダメンタルズに見
合った実態経済から大きくかけ離れた経済の状況を言いますが、それがどういった状
態なのか、具体的な基準がないため、明確にこれだとは断定できません。ただ、カネ、
モノ、ヒトの動きが激しく、価格の急騰で懐が大きく膨らんでいる状況でもあります。
その意味で、景気、バブルは、どちらも、曖昧な言葉であり、カネ、モノ、ヒトの
動きが活発で、懐が暖かいという点、需給関係で需要が旺盛で供給を上回って価格が
上昇し取引されている点では似ていますが、その間でどこが違うのか、明確に線引で
きる基準が見当たりません。むしろ、好景気が高じて、需要が過剰となって投機的に
資産が取引され、経済が過熱している状況がバブルというニュアンスで捉えているよ
うですが、その経路は一様ではありませんし、どこからバブルだという明確なものは
ありません。結局、過去に起きてきたバブル、その前にあった好景気をもとに判断せ
ざるを得ず、個々人で捉え方は異なってきます。
日本において直近で経験してきたバブル経済は、1980年代後半でしたが、当時
は、1985年のブラザ合意による急激な円高でもたらされた不況から脱するため、
公共投資と断続的な金融緩和が行なわれ、国内に大量の資金が出回ったことが、バブ
ルの発生の背景になっています。その結果、規制の枠の中で、資金が国内の隅々にま
で行き渡り、資産価格の上昇をもたらしました。それでも、当初、経済は、不況から
脱し、ようやくカネ、モノ、そしてヒトが動き始め、需要が回復して価格形成が適正
水準から大きくかけ離れず取引され、好景気といわれる状況になったといえます。
それが、国内の規制により、そして円高から公共事業を中心に内需主導型経済の移
行のなかで、金融緩和によりジャブジャブに資金供給されながら使い道が見つから
ず、資金が勢い株式や土地などの資産に向かっていった結果、バブルを形成し始めた
といえます。つまり、株式や土地などに見られたように、買いが買いを呼ぶような過
剰需要による投機的な取引につながって、価格が言い訳のつかない高値になっても資
金がやり取りされ、すなわちジャブジャブの資金が作り出した過剰流動性相場を現出
した経済に変化したといえます。結局、本来の価格から大きくかけ離れた状況は、維
持不可能であり、買いが続かなくなった時、逆に売りが売りを呼ぶ価格下落となって
バブルが弾けました。
今回の経済状況は、マクロ的指標からすると、回復し始め、好景気といわれる領域
に入りつつあるという認識が広がってきています。一方で、一部では日本経済はバブ
ルだという見方もでてきています。確かに、株式市場の動きを見ると、ここ一年で6
割近い上昇を見せ、土地価格も東京の都心部や名古屋などでは上昇傾向を強めていま
すので、バブル的という見方もできないではないといえましょう。
また、バブル崩壊に伴い起こったデフレの解消に向けて、この5年近い量的緩和に
よるゼロ金利政策は、過剰なまでの資金供給を生み、過剰流動性を現出してきた点は、
80年代後半のバブルに似ています。しかし、今の日本があの当時と異なる点は、規
制の緩和・撤廃により経済がグローバル化して、日本が一律同じ状況ではなくなった
こと、その結果、効率を追求したがために、個人間、企業間、地域間に大きな格差が
生じ、ヒト、モノ、カネが一極に集中することになったこと、そうした中で需要と供
給の関係は80年代後半の時とは様変わりしてしまったことなどが挙げられます。ま
た、過剰流動性も当時の国内中心ではなく、今回は世界へ拡散している点では大きく
異なります。
そして、当時と比べて、経済のファンダメンタルズが大きく変化している点でも、
異なっています。財政がこれほどまで悪化しているなかで経済が回復してきている点、
人口減と少子高齢化、雇用形態の多様化、ニートの存在など社会的、経済的条件で質
的な変化をしてきている点などを考えると、80年代に比べて、GDP成長率でみて
も好景気、バブルの判断基準は異なってきます。当時の3%成長で好景気であったこ
とと比べて、現在は1、2%成長でも好景気に感じられています。
今回、格差ある社会の中で、今の日本経済は、東京や名古屋などの一部の都市部
や、大企業、そしてそこに働く従業員、あるいはIT企業など一部の企業の創業者や
従業員などにとっては、好景気と映っているといえますが、地方や中小企業、そこに
働く従業員は、まだ好景気には映っていないかもしれません。そして、上場企業にと
って、全ての株式が上昇しているわけでもなく、また最高益を上げながら成長してい
る企業の株価が上昇するのは当然の帰結であって、それがPERやPBRなどで適正
価格から大きく外れていなければバブルといえません。同時に、地方を離れ、東京な
ど一部の都心部にヒトやカネが集中して、そこだけの土地価格が上昇するのは、需要
があるからこそであって、大きくかけ離れていなければバブルといえません。
結局、需給関係で価格形成されている経済である限り、需要が適正規模から大きく
かけ離れなければ、そして経済としてゆっくりと健全に成長していれば、私たちの受
ける感覚は好景気であるといえ、早く手に入れ儲けたいという欲が働き需要が過剰な
までの規模となって価格形成されるようになれば、バブルの領域に入っていくといえ
るのではないでしょうか。ただし、その適正という基準は最後まで分かりません。そ
して、好景気、バブルの捉え方は、経済の基礎的な条件が異なれば、あるいは時代や
環境などが変化していれば、大きく異なってきます。その意味で、この両者を明確に
区別する基準を規定することは難しいですし、個人、企業、地域でも格差がある中で
は共通な認識を持つことは、難しくなっているといえます。
経済評論家:津田栄
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■ 岡本慎一 :生命保険会社勤務
「バブル」という言葉は、資産価格の急騰や、それによってもたらされる景気過熱状
態を表現するときに使用されます。バブルとはいつかは「はじける」という意味であ
り、バブルか否かとは、資産価格の高騰や好景気が持続可能かどうかという点にかか
っています。
バブルは好景気の最終局面で生まれることが多い様です。景気拡大は人々の楽観を
生み、経済はインフレ的になります。通常はこうした局面では、中央銀行が金融引締
を行い、事前にインフレの芽を摘み取るのですが、何らかの要因で引き締めが遅れる
と、余った資金が資産市場に流れ込み、資産価格を適正値以上に引き上げてしまいま
す。
資産価格の上昇は更なる熱狂を生み、景気と資産価格を一層過熱させます。しかし、
人々の「欲」は自己増殖的に無制限に拡大しますが、景気や資産価格には「適正値」
があり、無制限には拡大できません。何かのきっかけで人々の見方が少し変わるだけ
で、資産価格の修正が起こりバブルははじけます。
しかし、バブルかどうかの見極めはとても難しいことです。簡単に見極められるな
ら、始めからバブルは生まれません。言い方を変えると資産価格の適正値を判断する
のは難しいということです。バブル期では上昇した資産価格を正当化する方法がたく
さん生み出されます。例えば、ITバブル時にはインターネットへのアクセス件数で
ネット企業の価値が正当化されましたが、結局、水脹れした企業価値の大半はわずか
一年余りではじけて無くなりました。振り返れば、明らかにおかしな論理もバブルの
渦中では正当化されてしまうのです。
市場参加者がバブルの渦中でバブルを見抜くのが難しい様に、中央銀行がバブルの
芽を摘み取るということも後知恵で言うほど簡単ではありません。あのグリーンスパ
ン議長すらITバブル期のアメリカ経済を「ニューエコノミー」として礼賛していた
のですから。しかし、バブルは人々の期待だけで生じるのではなく、バブルが生まれ
やすい土壌というものがあると思います。政策当局は予めバブルが発生しにくい経済
環境を整備する必要があるでしょう。
バブルは、何らかの理由で大量の貨幣供給が行われていたり、持続不可能な政策が
何らの理由で正当化されている時に生じやすいと思います。株価が急激に上昇したと
いう現象を捉えて日本株はバブルに入ったという見方もある様ですが、私はデフレ脱
却と財政再建の両立を目指してきた日本経済にとって、最もバブルの生まれやすい土
壌は債券市場にあったと考えます。金利に対する人々の「見方」は変化しつつあると
感じます。今後の債券市場には要注目ではないでしょうか。
生命保険会社勤務:岡本慎一
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■ 三ツ谷誠 :三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長
「<過剰さ>の制御 〜バブルとファシズム」
白川静に拠れば、景気の気とは、活力の源になる米を中に入れた生命の源泉を意味
し(もともとは雲の流れる様)、すべての活動力の源泉という意味を持つ漢字となり
ます。一方、景の字は光のある状態を意味し、光によって照らし出されるけしき、よ
うす、という意味が派生するので、つまり景気とは、活動力の源泉である気の様子を
表現する言葉となります。だから、景気が良いとは、世間をめぐる活動力の源泉が躍
動している、という意味になり、一方で景気が悪いとは、なんとなくその目には見え
ない妖精のような気が沈み込んでいるという意味となります。
私が言うまでもなく学術の世界や法曹の世界を別にすれば、言葉は生きており、様
々な曖昧さの中で定義付けられることもなく、その時々に生きる人々の共通幻想のよ
うなものを写しだし流通する訳ですが、好景気と言う言葉には、なんとなくその、人
々が生き生きと躍動感に溢れ立ち働いている、元気がある(また、気です)状態とい
う暗黙の合意があるような気が(また気です)します。また、その言葉には、予定調
和を感じさせるニュアンスが存在し、魚屋の富蔵を活気づかせた妖精が今度は富蔵が
魚を届けた井筒屋の手代を活気づかせていくという連鎖性も内包している感じがしま
す。
一方でバブルという言葉には、「過ぎたるは及ばざるが如し」とでもいった、なに
か病的な制御できない気の盛り上がりというニュアンスが含まれる感じがします。そ
れは行き場のないマグマがそのエネルギーを噴出する回路を見つけ、広大なエネルギ
ーで噴出する火山噴火にも似ています。それは過剰さの表出です。
そう、バブルを支えるものは<過剰さ>であり、そのような<過剰さ>は実は既に
世界に満ちています。
例えば端的に言って蓄積された資本は既に過剰であり、その過剰さは常にマグマの
ように流出する回路を求め、世界を瞬時に駆け回っています。そのような過剰さをど
う制御するかこそが、実は我々に課せられた課題なのでしょう。そして、その答えの
一つが投資機会の創出と考えられるでしょう。世界中の至る場所で企図される様々な
投資機会は、或る一瞬その過剰さの一部を鎮み込め、そこに多くの人々や多くの資材、
多くの才能を凝縮させ、何か新しいもの、人々にとって価値のあるものを創造させる
のです。
例えば、化学会社が中東に大規模なプラントを膨大な資金を投じて行うという時、
地下水脈に滞留するマグマの一部はそこで初めて人間が制御する「力」として顕現し、
人々は苦労してそこに街を築き、プラントを作り、そのプラントが操業され、やがて
また新しいマグマがしかも増殖されて地下に還るのです。それが制御されてあれば、
その企画が進行する中で、企画に携わる人々には利益がもたらされ、その制御された
調和ある世界を指して景気が良いと表現するということでしょう。
しかし、マグマは常に地上に噴出の機会を求めて蠢いているので、投資機会が減少
する世界では、或る一元的な「期待」に全体が拠りかかり、そこに合理性を欠いたバ
ブルが形成されるのです。勿論、期待が全く見出せず、自己撞着のような貨幣愛の世
界に陥り、マグマが地下に滞留し地上を不景気が覆うこともありますが、基本的には
貨幣は貨幣以外の何かに憧れるので、何故ならば貨幣は貨幣以外の何かに置き換わる
ことでしか、自己実現ができないので、フロリダの土地であれ、チューリップの球根
であれ、湾岸に土地を持つ企業の株式であれ、自分をもっと違う自分に変えてくれそ
うな異性に狂おしい情熱で一時身を任そうと考えるのです。
ところで、資本主義=貨幣による交換を軸に置いた経済、貨幣経済の世界、は双子
の兄弟として自由主義、民主主義という政治的な世界を持っています(いや実際は双
頭の怪物の姿なのかも知れませんが)。と言う意味では、<過剰さ>の経済的な表出
がバブルであるように、<過剰さ>の政治的表出はファシズムということになるでし
ょう。
バブルもファシズムも貴族的な高みから冷静さを失わずに観察する知性からは、そ
の渦中にあってさえ、合理性を欠いた、しかし巨大なエネルギーの表出と感じられる
事象という共通点があります。そしてまた、それが大衆性を帯びた現象であることも、
結局双方に共通するものが、突き詰めてしまえば人間の欲望であることにも類似性が
あります。もっと資産を増やしたい、貨幣に化体された(或いは封じ込められてい
る)可能性そのもの、を増殖させたい、少なくとも減価させたくない、というバブル
を支える欲望も、何か満たされていない、巧くやっている連中や、民族の枠組みを超
えて利益を享受している連中から政治的に収奪を図りたいと願う欲望も、同質なもの
だと思います。そのような欲望が単一の価値観に染められ巨大な規模で表出する、そ
れがバブルでありファシズムです。
と言う意味では結局は欲望(出た!リビドー!!)の制御こそが、重要であり、そ
の制御の方法こそ、我々が歴史から問われていることだと思います。
その一つの方向に、経済の世界では多様な投資機会の創出があるでしょうし、政治
の世界でも多元的な価値観を代表する政党の育成というものがあるでしょう。また、
経済への政治の関与を示唆したケインズの思想は、このような考察からは高く評価さ
れるべきものであると思います。
また、例えばいまこの瞬間にソマリアで飢餓によって死にゆく少女の存在を想うと
き、この<過剰さ>をどうにかして巧く水路付けてこの飢餓自体を、人間の尊厳を脅
かす絶対的な貧困からの人類の救済を考えられないか、と問い掛けることを、忘れて
はいけないと思います。それは単純に寄付を行うとか、ルポルタージュで感動し涙す
る心を忘れないとかいったレベルの話ではなく、制御の技術論の問題として我々の前
にある、と感じます。
三菱UFJ証券 IRコンサルティング室長:三ツ谷誠
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:707への回答ありがとうございました。執筆でまた箱根に来ています。林の
中ではずっとウグイスが鳴いていましたが、今日は嵐のような天候です。
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Q:708
竹中総務相の私的研究会である「地方分権21世紀ビジョン懇談会」では地方自治
体の「破綻法制」が検討されていると聞きます。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20060422AT3S2102721042006.html
将来的に地方債を市場に委ねるということだと思われますが、そういった方向性は
地方自治体にとって「良いこと」なのでしょうか。
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村上龍
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