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『ニッポン貧困最前線 ケースワーカーと呼ばれる人々』(貴山じゅん 読書)
http://www.asyura2.com/0601/hasan45/msg/999.html
投稿者 gataro 日時 2006 年 4 月 21 日 19:48:42: KbIx4LOvH6Ccw
 

(回答先: 増える餓死 / 電気、ガス、水道とめないで / 都生連が命を守る運動(しんぶん赤旗) 投稿者 gataro 日時 2006 年 4 月 21 日 19:27:35)

http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/4775/read/read-25.html から転載。

No.25 『ニッポン貧困最前線 ケースワーカーと呼ばれる人々』
・・・・・・・久田 恵著 (文春文庫 ¥552(税別)) 2003.1.15

 「母のいる場所 シルバーヴィラ向山物語」を読んで以来、久田恵さんの書いたものに惹かれるようになった。何といっても、人間を見つめる眼差しが、暖かく、まともだ。
この本は、第一部東京・K福祉事務所、第二部なぜ母さんは死んだのか?札幌母親餓死事件の真相、第三部忘れられた故郷 築豊の町から、第四部ケースワークという希望に向けての4章からなる。

 目次を見て、まず目を奪われるのは第二部の副題「札幌母親餓死事件」の餓死という文字だろう。不況、リストラ、殺人などなど社会問題に枚挙にいとまがない今日ですら
「餓死」という事態は異様だ。事件が起こったのは昭和62年の冬。札幌の市営住宅で母子家庭の39才の母親が3人の子どもを残し、餓死したのだというのだ。「生活保護を申請したが受けられなかった」という情報が飛び交い、報道機関はこぞって福祉事務所などを叩き、市民の間でも福祉は何をしているのか、という強い非難が起こった。戦後間もなくという時代であったら「餓死」はそれ程、強烈なインパクトはなかったかもしれない。しかし、少なくとも国民の「食」に関しては満たされていると思われる時に、「餓死」は起こり得ない、と誰しもが思っていただけに事件はセンセーショナルだったのだろう。久田さんの取材は丹念に事件を追っている。込み入った人間関係や背景などまるでミステリーを読み解いていくようなプロセスである。ことの真相は・・・亡くなった母親以外は真相を話せないのだが、その男関係に落胆した母親の意思だったようだ。

 この「餓死事件」を読み、直ぐに思い起こしたのが沢木耕太郎の「人の砂漠」(新潮文庫¥560)の「おばあさんが死んだ」である。この事件は昭和47年、浜松で起こった。この事件は老女の家にもう一体のミイラがあったということで全国版で報道されたそうだ。沢木さんは、世間がミイラに注目している中、「他人の世話になるのはいやだ」と餓死を目前にしながらも、なお他人の施しは受けたくないとする老女の意志に心を動かされる。そして「拒絶の意志に撃たれた」と、老女の生涯に迫るような取材を行うのである。この「おばあさんが死んだ」を読み、私は深く考えてしまった。福祉を受けようと思えば、受けられた。手はそこまで差し伸べられているのだが、それをかたくなに拒否する老女の自尊心の高さ。彼女の前には誰も越えることができないバリアーのようなものがある、としか思えなかった。「人間とは何か」を考えさせられる作品だった。

 しかし、札幌の場合は、自尊心が死を招いたとは考え難い。久田さんの取材で事件の裏には、真相を知られたくなかった人物が関与していることがうかがえた。「餓死」という言葉を楯に、ある人物の言葉に右往左往するマスコミ、そのマスコミの一方的な報道に踊らされる社会や人間のもろさを考えさせられる作品である。

 第一部にはアルコール依存症の対象者を抱える新米ケースワーカーを中心にK福祉事務所の日常、人間模様、福祉の矛盾などが描かれているのだが、ケースワーカーの仕事のハードさに改めて驚いてしまった。病院には病気だけでなくさまざまな問題を抱えた患者が多いのだが、福祉事務所も深刻な問題を抱えた人が相談にいく。一人のワーカーが関れる問題や人数には限界があるのだが、対応を間違えば問題は更に深刻化するし、信頼関係にも影響がでるなど人間が人間の問題を扱う組織の難しさがある。しかし、久田さんの文章にはユーモアがあるので読み易い。

 この本は通勤の電車の中で読んだ。周囲の若者たちは「日本にも貧しい時代があった」ということすら知らない様子で、ひたすらケータイで遊んでいる。こんなことでは行く末が・・などと案じるのは私が年をとったという証拠なのだろう。

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