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□なけなしの金で株を買っている人はカモネギチャン|ゲンダイ
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【日垣隆のどこへ行くのかニッポン!】
2006年4月13日掲載
なけなしの金で株を買っている人はカモネギチャン
海外でカジノをやっていて、確信することがある。強いものが勝つ。
強いかどうかの物差しは、確率に対する習熟と、1回の掛け金がどれほど当人にとって「大したことがないか」による。たとえ5億円を手元に持っていても、所詮カジノを経営する側の資金力にはまったくかなわない。だからハウスが必ず総体として勝ち、税金も払えるようになっている。
あなたがもし、100人から1万円ずつ合計100万円を集め、1等の当選金は60万円、それ以外は胴元の手数料という商売を刑法改正後に始めたら、それだけで生活が成り立つだろう。そもそも、博打(ギャンブル)には2種類ある。勝率を自ら高められるものと、そうでないものと、だ。
麻雀やブラックジャックや競馬や株は前者であり、丁半博打や宝くじは後者に属する。宝くじの当選を願って雨乞いしたり、銀座の某店で買うのが良いと本気で信じている人は小学生からやりなおすほかない。後者の勝率は常に一定なのだ。したがって、必ず一定数の勝者と敗者が出る。それだけの話なのである。
対照的に例えば麻雀が「勝率を自ら高められる」ゲームであるのは、ビギナーズラックがあっても100回勝負すれば必ずプロ的に強い人が圧勝する事実を見れば明らかだろう。引いてくる牌は人智のあずかり知らぬところ(そうでなければイカサマ)だが、より速くより高い点数でアガるのは、もっぱら確率計算の習熟度に依存する。競馬新聞もよく外れるが、あの予想は確率を高めるためのデータであり、丁半博打とは異なる。
刑法を当面度外視してあくまで論理的な例としてさらに述べておけば、月収150万円の人が5万円を、月収15万円の人が同じ額を賭けている場合、1回の掛け金に対する期待と絶望の深さは、単純に10倍以上違う。
安心して動かせる資金の「ゆとり」が多ければ多いほど、沈みにくいのである。同様に、なけなしの金を株に投じている人は、長い目で見るとほぼ確実に負ける。あたりまえだ。株もギャンブルも、波のように必ず浮き沈みがある。投下するものが「ぎりぎり」なら、波線が簡単に底辺に抵触して財産を失う。
資産運用の手法としてポートフォリオ(リスク分散)が奨励されてきたわけだが、よほど資産がある人を除いてポートフォリオもくそもない。一般人は堅実に仕事をこなし、本業で稼ぐこと、万一の倒産やリストラに備えて転職できるように自己研鑽しておくこと。これしかない。
株を経済の勉強や企業のファンクラブとしてやるなら、結構なことだ。が、小金持ち程度が株やギャンブルでマジに儲けようとするのは、ようこそカモネギチャンと思われるだけである。どうぞ勝手に沈んでいただきたい。
◆日垣隆(ひがき・たかし) 1958年生まれ。東北大法卒。コピーライターなどを経て、ジャーナリスト、作家活動に。「そして殺人者は野に放たれる」「現代日本の問題集」など著書多数。最新刊は「使えるレファ本150選」(筑摩書房)、「いい加減にしろよ(笑)」(文芸春秋)。