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2006年4月10日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.370 Monday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第370回】
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□津田栄 :経済評論家
□岡本慎一 :生命保険会社勤務
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
■ 読者からの回答
□水牛健太郎 :評論家、会社員
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:704への回答ありがとうございました。杭州と上海の旅から戻りました。去
年の秋に行ったときと比べても、上海はさらに変貌しているような気がしました。と
ても一口では言えない強烈な印象を持ったので、いつか長いエッセイを書きたいと思
います。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第370回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:705
偽メール問題で民主党は、執行部が責任を取って総退陣という結果になりました。
野田前国会対策委員長らは一時情報提供者への対価の支払いも検討していたそうで
す。前原代表は、政権を握っていない野党が情報提供に対して金銭を用意すること自
体は悪ではない、というようなニュアンスの発言をしました。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060402AT3S0200G02042006.html
情報の対価としての金銭について、お考えを聞かせていただければと思います。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
先ず、今回の偽メール事件に関する民主党の対応ぶりは、とても不適切だと考えま
す。当該メールの情報仲介者については、様々な人から色々なことを耳にしましたが、
同氏に対して好意的なコメントはありませんでした。むしろ、「国会議員ともあろう
人が、あのような人に簡単に騙され、しかも、野党第一党の党首までもが、それを真
に受けるとは、よく理解できない」という見方が多かったようです。
民主党の調査報告の内容や、現在報道されていることが真実だとしたら、とても信
じられないようなことが起きたのだと思います。簡単に騙されて、それを国会の場で
追求する人材には、国会議員でいて欲しくないというのが実感です。また、メールの
真偽を確認することもせず、党首討論の場で追及の材料とする姿勢には、全く失望し
ました。そのようなリーダーの下で、政権を担当するような政党にはなり得ないので
はないかと思います。
本件について、知り合いのベテラン政治記者に聞きました。彼は、「野党が、与党
サイドのスキャンダルの収集に貪欲なのはいつものことだが、これほど簡単に、しか
も、誰もが知っているような“ガセネタ”を、何も検証せず騙される失態は、長いこ
と政治記者をしていて初めて」と言っていました。それほど、お粗末な出来事だった
といえるのでしょう。今回の事件によって、国民の民主党に対するイメージが、相当
悪化したことは間違いないでしょう。
次に、情報に対する対価について考えます。事実関係を整理すると、民主党の野田
・全国会対策委員長が、情報仲介者に対して、追加情報を取得するために1千万円の
対価を払うことを検討したと報道されています。前原・前民主党党首は、その対価を
正当化する発言を行っています。この態度はおかしいと思います。一般的に情報と
言っても、今回の情報は、与党のスキャンダルネタで、それに対して多額の現金を払
うというのは、適切な行為とは思いません。それを正当化する行為は、単なる強弁に
しか映りません。
例えば、政策の策定や運営のためにフィージビリティー・スタディーをして、それ
に対して対価を支払うのは当たり前だと思います。それだけの労力をかけて、報告書
を作成したわけですから、それに対してフィーを払うのは当然です。しかし、そうし
た情報と、今回のような、スキャンダルネタの専門家による持ち込み案件とを、混同
することは適切ではないと考えます。
一般的に、スキャンダルネタの専門家といわれる人たちは、色々な情報=ネタを、
週刊誌などに売り込みしています。そうしたネタを、野党第一党が、多額の対価を支
払ってまで、貪欲に買い漁る必要はないでしょう。有力な政党が、そのようなことに
労力をかけていては、週刊誌と同じようなレベルの活動を行う主体になり下がってし
まいます。国民は、野党第一党である民主党に、そのようなことを期待しているで
しょうか。そんなことは無いはずです。
与党のスキャンダルを見つけて、与党を追い込むという姿勢は、それなりに理解で
きます。しかし、それによって民主党が、得点稼ぎをすることを期待しているのでは
ないと思います。与党に不正やおかしなところがあれば、それを糾弾して、その結果、
わが国の政治が改善することを願っているのでしょう。高い金を払って、スキャンダ
ルネタを買い漁ることを正当化することは大きな誤りだと考えます。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
永田議員にいっぱい食わした西澤氏は、伝えられるところによると元雑誌記者とい
うことで、たぶんトップ屋あるいは情報屋と呼ばれる人種なのではないかと推察しま
す。新聞で伝えられる通り、永田議員がトップ屋の情報を素直に信じたとしたのなら、
東大→大蔵省の華麗なキャリアを上ってきたエリートらしからぬというべきか、らし
いというべきか迷いますが、疑うことを知らない純真な方なのかなとも思います。こ
の2人や野田国対委員長の間に何があったのかは、今後も明かされることはないので
しょう。彼らを、ジャーナリストと政治家の風上にも置けぬと非難するのは簡単なの
ですが、私ここでトップ屋情報の擁護論を述べようと思います。
ジャーナリストがメディアに発表することなく、政治家や政党に直接情報を売るこ
とは、明らかに職業倫理上の問題があります。しかし、政治権力があるところ、金と
色にからむ暗い世界が生ずるのは避けることができず、それをありきたりの方法で暴
くことは難しいことだとも思います。ブラックジャーナリズムの闇の世界を垣間見る
ようで、あまり良い気持ちがしないのも確かですが、現実は表向きの建前だけででき
ているわけでありません。ここに、ある時は権力にすりより金の力をかりて取材をす
ることも辞さないトップ屋の存在意義があります。
政治のなかでのトップ屋情報は、国際政治のなかでのスパイ情報にも似ています。
相手もその手段を使う以上、表舞台の裏側で相手の弱みや本音を調べ上げるのは、駆
け引きには不可欠な道具となります。
日本の政治ジャーナリズムにおいて、大新聞や大手放送メディアは記者クラブと番
記者のかたちで、閉鎖的な情報独占体制をしいています。そのなかで、出版社は独自
の取材組織を持ちませんが、トップ屋といわれるフリーの傭兵グループを使って、閉
鎖的な記者クラブ経由情報の裏側に切り込んでいきます。権力の裏側に入り込み、権
力と微妙な位置関係を保ちながら、番記者たちの及ばない情報に近づき特ダネ記事を
物にしていきます。
昭和30年代、週刊文春に掲載された松本清張の「日本の黒い霧」、昭和40年代
の文藝春秋に掲載の立花隆、児玉隆也の「田中金脈問題」といった、日本のジャーナ
リズムの金字塔も彼らのようなアウトサイダーによって建てられました(今となって
は、松本清張も立花隆も大権威で彼らをトップ屋だったと言うのも気が引けますが)。
現在も、大新聞が精彩を欠くのにくらべて、相変わらず週刊誌は元気そうに政治家や
芸能人のスキャンダルを暴き、一般庶民にカタルシスを提供し続けています。
トップ屋が情報源に接したり、また政治権力に近づく時、想像ですが金の授受の話
もでるのではないでしょうか。与党側は、政府行政機構や表のメディアをフルに利用
した情報操作をできるわけですから、そういった能力に劣る野党議員がトップ屋に接
触し情報収集を図るというのは許されるのではないかと思います。会えば、金の話を
するのも自然です。得た情報の真偽をどう判断し、どう使うかは、情報を得た側の見
識が問われるのは確かです。
裏情報の収集が政治活動のすべてであるのなら問題だと思いますが、表の世界で理
念を語り、政策の議論がしっかり出来ていれば、表裏のバランスが取れていたはずで
す。今回の民主党の失敗は、表の弱さを裏で補おうとしたことに原因があるのではな
いかと思います。
ジャーナリズム側にも同じことが言えます。闇世界の裏情報の収集だけでは、単な
る情報屋にとして終わってしまいます。耳寄りなブラック情報に、ジャーナリストと
しての分析と主張が付け加りメディアで発表されて、初めて表舞台で価値を生むこと
になります。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
稀少性のある情報を得るために、金銭を含めた何らかの対価が必要なことは当然で
しょうし、それが、現実です。金銭の対価自体を問題にするのは非現実的だと思いま
す。
たとえば、与党が民間から何らかの情報を得る一方で、政府が持っている情報を提
供したり、別の政策的な便宜を提供したりするような形よりも、野党がお金で情報を
買う方がよほどスッキリしていて健全です。今回の民主党のケースは、主として情報
(らしきもの)の扱い方に誤りがあり、これに付随して、情報提供者と情報そのもの
に対する評価が甘かったこと、及び、その値段の適切性などに関して、見識を問われ
ている、ということでしょう。
また、世の中には、新聞もあれば、投資顧問業もありますし、コンサルティングと
いう商売もあります。それぞれの顧客は、新聞紙や運用資産の保管やレポートの紙の
分量に対して代金を払っているのではなく、実質的には情報に対してお金を払ってい
ます。これらのビジネスが、対価を受け取ることに関する倫理的な問題指摘は今まで
聞いたことがありません(聞いたことがないから問題はない、とは言い切れません
が)。
但し、情報に対価を払うことに関しては、二つ注意点があります。
一つは、対価の支払い自体が、情報の内容を歪める可能性がないかということです。
たとえば、取材に対して新聞社が謝礼を払うと、取材源の側で、新聞社が気に入るよ
うな内容の情報を提供しようとするのではないか(たとえば、また取材して貰うため
に)、という心配があります。こうしたケースでは、情報に対して対価を支払うこと
が不適当になる場合があるでしょう。しかし、対価を払わなければ、貴重な情報を取
れないということなら、対価を払ってでも取材するというのも報道の一つの考え方で
しょうし、傾向として、新聞・放送よりも、雑誌メディアでは後者に抵抗感が少ない
ように見受けられます。
別の問題は、情報という商品の性質上、中身を完全に確認してから代金を払うこと
が出来ないことです。今回の民主党のメール問題にも、こうした側面がありましたが、
これは少なくとも情報の買い手にとって大きな問題です。
また、この問題は、売り手にとっても大きな問題になることがあります。買い手に
情報そのものを与えずに情報の正確な価値を知って貰うことの難しさは、情報を商品
化するにあたっての基本的な難しさの一つです。今回の民主党の問題では、情報提供
者とされる西澤孝氏は、情報が真に価値のあるものである(真正なメールだ)という
ふりををするためには、高値をふっかけるしかなかったでしょうから、民主党の側で
は、高値であること自体をもって、その情報に価値ありと判断する訳には行きません
でした。
ちなみに、もう一点、情報の売り手にとっては、情報をいったん売ってしまうと、
その情報が買い手から流出することを止めにくいという、情報のコピー問題がありま
す。情報を売る、というのも、なかなか大変なビジネスであり、先に例を挙げた、投
資運用業のように、預かったお金の運用に情報を反映させて課金する、といったビジ
ネス上の工夫が必要になります。
尚、蛇足ですが、今回のメール問題に関する民主党の引責は、時機を失したことが
重大な問題でした。たとえば、ビジネスパーソンの仕事でも、期限よりも早く提出で
きる場合は仕事の完成度が高くなくても許されることが多く、これに対して提出まで
の時間を引き延ばすほど仕事には高い完成度が求められます。これと同じような意味
で、初期の段階で、永田議員を辞職させ、代表が陳謝していれば、代表辞任にまで至
らずに済んだ可能性が高いでしょうし、あるいは、初期の段階で代表辞任まで思い切
ることが出来れば、世間的にはポジティブなサプライズになるので、与党を追求する
姿勢を取り続けることが出来たでしょう。そうせずに、これだけメール問題を引き延
ばしたということは、結局、与党の問題(BSE、耐震偽装、防衛施設庁談合、ライ
ブドア、など)の追及に民主党がプライオリティーを置いていなかったことの端的な
表れであり、彼らが、政策問題に於いて純粋でなかったことを印象づける結果になり
ました。国民としては、野党第一党のあまりの情けなさに脱力しそうになりますが、
ビジネスパーソンにとっては、民主党は、またとない、分かり易い反面教師です。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
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■ 津田栄 :経済評論家
企業であれば、経済活動において貴重な情報を買うということはありえます。つま
り、情報を自ら収集するときにかかる相当の時間と費用を考えると、すでに収集され
た価値ある情報に対価を払うということは当然ありうる経済行為といえます。ただし、
企業といえども、違法に集められた情報を買うのは犯罪行為に加担することになりま
すから、許されるものではありません。
今回、政治の舞台でも収集された情報に対価を払って取得することをどう考えるか、
それは企業の経済活動と同じように考えていいのかですが、ある面同じと考えられる
のですが、本質的なところで違和感を感じます。
当然、政治においても、政党及び政治家は、国民の負託のもとで、国及び地方自治
体の政策を立案・議論し、決定し、行政の執行を監督する重責を担っており、そのた
めに、すべてではないにしても、コストと効果などにおいて経済合理性を重視し、経
営的な視点で運営されなければなりません。その中で、貴重な情報に対価を払って、
政治に生かせるなら許されるものもあります。例えば、国民の政策期待意識調査や行
政の執行問題などに関する情報でしょう。
さて、企業の場合、貴重な情報に対価を払うとき、企業価値をあげるという目的に
照らして、そのコストを上回る効果があるという判断があるはずです。それは、その
結果として、商品やサービスの向上となり、株主や消費者の満足度を高めることにつ
ながります。そして、この場合は、経済行為として合法的であり、直接、間接利用者
や関係者に利益を与える限り、情報を買うということは、容認されます。
一方、政党や政治家が貴重な情報に対価を払う場合、国民の利益という基準をもと
に判断され、最終的には、政党や政治家に対する国民の信頼を高めることにあるとい
えます。この場合、経済行為として情報を買うということは、合法的であれば、問題
がなさそうですが、まずその内容が事実であって、それが国民の知ることにより利益
につながるかで、国民の是非の判断が分かれるのではないでしょうか。
ただ、どんな情報であろうと対価を払うこと自体に道徳的問題がからみますので、
一様に国民の理解が得られるのか難しいかもしれません。もちろん、極秘な情報で、
その事実が国民の不利益につながっていたり、国民の判断を誤らせている事実があっ
たりする場合、国民は賛成するようにも思います。
その場合には、果たして政党や政治家が公表して行うことがいいのか、マスメディ
アを通じて国民の判断を仰ぐほうがいいのか難しいところです。そして、情報提供者
が政党や政治家に情報を渡す場合、対価を求めるとしたら、そのこと自体から情報の
真実性、正当性に疑義が生じ、国民から支持が得られません。まして政党や政治家に
対してそんなことまでして情報を買ってやるのかという国民の政治に対する不信につ
ながりかねません。
この場合、やはり無償の提供が少なくとも政治モラルの最低限の維持に必要なので
はないでしょうか。その意味で、今回の民主党の党首や国会対策委員長などの有償の
情報取得容認発言は、与党支持者でなくても、不快感を感じる人は多いように思いま
す。ましてや、今回のメール事件は、ライブドア事件、アメリカ産牛肉輸入再開にお
けるBSE問題、耐震偽装事件、防衛施設庁などの官制談合事件など本質的政治問題
に絡むものではなく、政治家個人攻撃の情報であったことが、国民の支持をさらに得
にくくしています。
また、情報に信憑性を持たせるには、相当の調査をしなければなりませんし、その
詳細な分析がなされて、裏づけの証拠など収集することが求められます。今回の民主
党の場合、手に入れた情報がその詳細な分析や裏づけ証拠が全くない原情報だけで、
本来そのまま提出するものではなかったことが、問題の原点であるように思います。
お粗末と言われても仕方がありません。ただ、情報を対価で買うことを認めるような
発言が政治家の能力のなさからくる政治不信をさらに強めたことは、罪が重すぎるよ
うに感じます。
したがって、企業と同じように、政治の世界で、貴重な情報に対価を払って取得す
ることを容認するのは、政治モラルの面、国民感情から困難ではないかと思います。
しかし、こうしたことは、表にならず、陰でなされていて、それが政治の常識で、当
然だから、つい民主党首脳の容認発言につながっているのかもしれません。だからこ
そ、たとえ現実に行われていたとしても、それをあからさまに容認する発言は国民の
不信を増幅させるだけで、何の利益にもなりません。
そして、やはり、政治は、本来の行政のチェック、国や地方のあり方、進む道を議
論し、より国民の利益になるような地道な活動を行うべきです。その場合に、個人攻
撃の情報に対価で払うなどせず、国民全体の利害につながる情報の取得を無償でなさ
れることを前提とすべきであり、政治モラルの維持を図るべきでしょう。
そして、貴重な情報が真実であれば、マスメディアで公表したほうが十分国民の知
る権利に応えることが出来るのであって、そこで対価を払われても国民は非難しない
でしょう。それをあえて政治家に対価を求めてくる情報提供者にはマスメディアに公
表できない理由があるはずで、それを精査し、それが妥当なのか、またその提供者の
身辺がいかがなのかなどの調査をした後で、それでも対価を払うことに国民からの支
持が得られるのか、検討すべきでしょう。私としては、たとえ真実でも、原則そうし
た情報に対価を払うべきではないように思います。
最後に、政党や政治家の仕事は一種のサービス業です。彼らは、国民に代わって、
内政・外交の決定を担うのですが、その際国民に判断する情報を提供し、その見返り
に、国民は政党や政治家を信頼し、支持を与え、選挙で投票することになります。だ
からこそ、政党や政治家は、そのリスクと責任をもって、国民に正確な情報を提供す
べきであり、今回、民主党が不確かな情報で国民の判断に混乱を与え、国民の信頼を
失ったのは、その情報の正確性や正当性を確認することを怠り、国民の信頼を維持す
るためにその現実化したリスクをできるだけ低減する努力をしなかったことによるも
のであって、企業の場合と同じです。その意味で、政治の世界も、企業と同様、そう
したリスク管理、危機管理が必要なのではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
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■ 岡本慎一 :生命保険会社勤務
現代社会は情報に対価を支払うことが当然の社会になっています。金融市場では一
つの情報が何億円もの資金を動かします。また、企業の成長も情報に左右され、子供
達の受験は情報戦争化しています。
インターネットが普及することによって、パソコンに向かって知りたい言葉を入力
すれば何らかの情報が得られる社会になりました。情報が飛び交う社会では、情報の
インフレが生じ、情報の持つ価値が希薄化します。既に情報を得ること自体の価値は
小さくなっており、氾濫する情報の中から価値ある情報を選び、価値のない情報を捨
てるという、情報選択の技術こそが必要になっています。
ほとんど無限に存在する情報の中から価値ある情報を選択するには、一種の「カン」
が必要です。カンは経験から培われ、失敗を反省することによって学習することがで
きる技術だと思います。今回の事件で紛い物の情報を掴まされた議員は、政治の世界
で必要な直感力と経験が足りなかったのではないでしょうか。
私も有価証券の運用を行うという仕事柄、情報を取捨選択することに悩まされてい
ます。目の前にあるパソコンからは秒単位でニュースが流れ、アナリストやエコノミ
スト、企業経営者の方々からたくさんの情報をいただきます。自分自身でも新しい技
術の解説書を読むなど、新しい情報を得ることにかなりの時間を割いています。
しかし、新しいと思った情報の大半は、私の耳に届く頃には「常識」になっている
ことが普通です。常識でない情報が安く手に入るほど情報社会は甘くありません。結
局、私の少ない経験から情報について言える事は、安易に手に入る情報は疑うこと、
自分の経験が蓄積された分野(カンが働く分野)の情報に集中することが重要だとい
うことです。そして最も大切な事は、情報に判断を委ねるのでなく、自分自身の手と
頭を使って、情報を更に価値あるもの、自分の使い易いものに変えることだと思いま
す。
生命保険会社勤務:岡本慎一
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
情報の価値を構成する要素としては、情報の持つ1)影響力、2)希少性、3)確
信度、4)正当性、などの要素があり、これらが情報の価値を評価する際の機軸とな
ると考えられます。
まず、情報は公開されることによって影響力を生じます。そこで、一般に広く公開
されていない段階にある情報、すなわち希少性のある情報を持つことの優位性は、情
報が公開される時点で自己を有利なポジションに置くことを可能にすると同時に、そ
のメリットを独占することを可能にします。
また、こうした情報に基づく行動が実際の利益に結びつくかは、情報の正確性に依
存するものです。しかし、事前に情報の正確性を客観的に評価することは困難である
ため、通常は、確信度によって主観的に情報の価値が評価されることになります。
そして、正当に入手された情報であることは、後述するように、情報の利用可能性
を規定するため、これも結果的に情報の価値に影響する要素となります。
それでは、現実の世界では、こうした情報の価値と対価としての金銭の関係は、ど
のようになっているのでしょうか。
そこで、個人的に身近な運用業界を例にとって考えてみることにします。運用業界
は、金融業界の他の業種と同様に、情報を経済的な価値に変換することにより対価=
金銭を得る業界と言えます。実際に、運用業界では、情報などをもとに運用会社が付
加価値として実現した超過収益の20%から30%相当を運用会社の取り分とするの
が、現在の運用報酬の相場となっています。
では、情報に基づく付加価値に対する対価を得る運用会社は、その付加価値の源泉
となる情報に対して、どの程度の対価を支払うものなのでしょうか。実は、意外に思
われるかも知れませんが、運用会社が情報そのものに対して対価を支払うことは、ほ
とんどないと言ってもよいでしょう。少なくとも、運用会社が負担するコストの中で、
情報そのものに対する対価の占める割合は決して大きなものではありません。むしろ、
情報を収集・分析するためのコストとして、調査部門の人員、システム費用、外部の
情報ベンダーからのデータ・ベース・サービスの購入などに、多額の費用を掛けてい
ます。
まず、その理由として、運用会社は必ずしも情報の価値として、情報の希少性に依
存していないことが指摘されます。むしろ、情報自体は公開情報など希少性の低い情
報であっても、大量の情報を収集し加工・分析する技術や能力、分析した情報に基づ
き的確に収益に結びつける投資行動、さらには複雑な投資行動全体を総合したリスク
管理などによって、優位性を確保し付加価値を追及しています。
特に、運用会社は自己の資金ではなく顧客の資金を運用する以上、投資判断の前提
となる情報については一定の確信度と正当性が担保できなければ、実際の投資行動を
取ることはできません。その意味で、利用する情報は、むしろ公開情報が中心となり
ます。そのため、情報そのものに対して対価を払うケースは、少ないと言えます。
また、株式や債券などのパブリックな市場取引では、不正に入手された非公開情報
(インサイダー情報)に基づく投資行動は処罰の対象となることも、利用する情報の
選別に影響します。万が一、そのような不正な情報を入手してしまった場合は、その
情報自体が公になるまで、その情報に関連した投資対象の取引を手控えなければなら
なくなるなど、却って投資行動に大きな制約を受けることになります。そのため、運
用会社を含めた金融機関では、そうした不正な情報には不用意に接しないよう、細心
の注意が払われています。
国民・有権者の負託を受ける公共の政党においても、情報に対するポリシーは基本
的に上記と共通する部分が多いのではないかと推測します。その中で、今回の偽メー
ル問題において、民主党は情報の価値を判断するに当たり、その情報が自民党に対し
て与えうる影響力と同時に、希少性を過大に評価していたように思われます。
今回のメールの内容のように対立政党の幹部のスキャンダルに関する情報は、メ
ディアなどの報道を通じて一般に公開されたとしても、対立政党に大きなダメージを
与えられるものです。なぜ、あえて自ら国会質問の場で情報を開示することで、情報
の正確性に関する責任とリスクを負ったのかは不明です。不正確な情報を基に他者を
誹謗することは不正行為となるものであり、情報の確信度と正当性を軽視していたこ
とは、そうしたリスク認識の薄さを露呈しています。
また、情報の対価として金銭を支払うことの是非を論じる以前に、情報の価値を適
切に評価することが前提であり、その価値を無視した金銭の提供自体はこれも経済行
為として不正である、との認識も必要であったと言えます。
ところで、ビジネスや投資、あるいは政治や外交など様々な分野においても、「情
報の重要性」ということがしばしば指摘されます。しかし、多くの場合、この意味を
取り違えているように感じることがあります。それは、影響力があり希少で決定的な
情報に対して過大な期待を持つ一方、幅広く正確な情報を収集し的確に分析・判断す
ることを軽視しているということです。今回、民主党が陥ったのも、そうした問題点
ではないでしょうか。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■ 読者からの回答:水牛健太郎
情報にはお金がかかることもある。一般論としてはそう言えます。しかし、今回民
主党の野田佳彦全国対委員長が、偽メールの情報提供者に1千万円もの巨額を払うこ
とを検討していたことは、実に愚かなことといわざるを得ません。前原氏がその行為
をわずかでも弁護しうると思っているのだとしたら、お話にならないと思います。
情報収集を業務とする報道機関も、情報提供にお金を払うことは基本的にはありま
せん。もしいちいちお金を払っていたら、すぐに破産してしまうでしょう。対価を払
うこともありますが、まれなケースだと思います。
民主党は国会の野党第一党なのですから、もともと多くの情報が集まる立場にあり
ます。国政調査権の行使は、政治をよくするためのものですから、国民には、意味の
ある情報であればすすんで提供する道義的な義務があるはずです。それは少しきれい
事だとしても、国会で問題が取り上げられること自体に大きな意義を感じる人は多く、
だからこそ野党には政治腐敗や社会問題などについて、多くの情報が常に寄せられて
います。また、議員が国民の要望を吸い上げる活動を地道に、真剣にやっていれば、
そうした場で情報に接する機会も多いはずです。
そうした真剣で地道な情報収集の過程でも、情報提供者にいくらかのお金を払う場
合はありえます。例えば問題の土地の登記を取ってもらったり、現地に行って写真を
撮ってもらったり、地域の人に聞き込みをしてもらったりしたような場合に、実費や
多少の日当を払うことはあるでしょう。相手が苦しい生活をしていれば、食事をお
ごったり、多少の援助をすることが自然に感じられることもありえます。たかる傾向
がある情報提供者というのも、ごく普通にいます。情報提供者との関係も人間関係で
すから、一定の法則はなく、臨機応変に対応する必要があります。
そうしたことがあったとしても、具体的な金額としてみれば、1件の情報にかかる
金額は、多くて十数万円といったところではないかと思います。それは「情報をカネ
で買う」ということとは違います。情報が流れる人間関係が基本にあり、その維持の
ために多少のお金がかかるということです。お金で買えるような情報にはやはりどこ
か、無理もあるし、危険性もあります。
こうした基準に照らしてみれば、1千万円などという額は到底正当化できないと思
います。それはまさしく「情報をカネで買う」ということでしかなく、地道な情報収
集活動とは無縁のヤクザな手段でしかありません。1千万円などという金額は、情報
提供者の動機をもゆがめてしまいます。今回のケースの情報提供者は限りなく怪しい
人物なわけですが、国会質問のための情報に1千万円を提供するような政党とこうし
た怪しい人物とでは、まさにお似合いです。たった今、日本中の、いや世界中の詐欺
師が、何とかして民主党からカネを引き出そうと一生懸命頭を振り絞っているのでは
ないかとすら思えます。詐欺師は頭の悪い人間が多額の金を持っているのを狙うわけ
ですが、いまの民主党はまさにそれでしょう。
ちなみに、かつてCIAのオフィサーをしていたロバート・ベアの『CIAは何を
していた?』(新潮文庫)には、彼が中東諸国などで行っていた情報収集活動の記述
がありますが、現地の情報提供者(「エージェント」と呼ばれます)への謝礼は一回
につき数万円程度とされています。アメリカと発展途上国の貨幣価値の違いはありま
すが、いずれにせよ、年収に相当するような額ではありません。日本の公安警察官が
情報提供者に払う謝礼なども大体これぐらいの額です。CIAや公安の活動を肯定す
るわけではありませんが、こうした「プロ」の世界の相場から見ても、1千万円など
という額がいかに馬鹿げた金額かわかると思います。
評論家、会社員:水牛健太郎
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:705への回答ありがとうございました。情報への対価ということでは、わた
しも作品の取材で情報提供者に謝礼を支払うことがあります。『半島を出よ』や現在
執筆中の『歌うクジラ』などの作品は、いろいろな意味でかなりきわどい情報を必要
とすることが多く、提供者の中には情報源の秘匿を条件にしながらかなり高額の謝礼
を要求してくる人もいます。しかし、1000万円というような対価はあり得ません。
国内はもちろん、アメリカ、欧州、東アジアなど、どのような国・地域でも、またど
んなに希少性・秘匿性の高い情報でも、その対価が日本円にして10万円を超えるこ
とは極めて稀です。
民主党が1000万円の対価を用意することも考えたという記事を読んで、目眩が
しました。「情報の対価とリスク」はあらゆる問題に通じる普遍的で象徴的なテーマ
ですが、あまりに浅はかな民主党の認識と、その閉鎖性に愕然としました。「政治家
というのはよく愚かなことをするが、いくら何でもそれほど愚かではないだろうと
思ったときに限って、裏切られて愕然とする」というような意味のことを『半島を出
よ』のある登場人物の台詞として書きましたが、まさにそういう事態を目の当たりに
した感じでした。
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Q:706
政府は「財政再建の工程表」を6月に発表するようです。もし財政再建に失敗し、
日本の国家財政が破綻するという事態を想定すると、具体的にどういったことが起こ
るのでしょうか。
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村上龍
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JMM [Japan Mail Media] No.370 Monday Edition
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