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3月9日の日銀による量的金融緩和解除は大きな波乱をもたらさなかった。事前の見解は完全に二つに割れていた。筆者は一貫して量的金融緩和解除は実体上の変化をもたらさず、日銀があらかじめ提示してきた条件をクリアするなら、量的金融緩和解除が順当な政策であると主張してきた。
これに対して、竹中総務相、中川自民党政調会長などが中心になって、量的金融緩和解除反対の主張が提示されてきた。こうした政策論議では、事後の検証が大切である。誰が何を主張していたのか。現実には何が起きたのか。この検証を厳格に行なうことにより、それぞれの「専門家」とされる人々の力量が明らかになる。経済政策は国民生活に直結する重要な判断事項である。小泉政権発足後、政府の経済政策が大失敗を演じ、株価暴落、地価暴落、景気超停滞、企業倒産続発、失業者急増、自殺者激増の結果が生じた。
小泉政権が正しい政策運営を実行していたなら、国民の犠牲ははるかに軽微で済んだはずである。この意味で、政策論議においては、事後の検証が非常に重要なのである。1994年後半の金融引締め政策の是非をめぐる論議、1997年の増税実施に関する論議、2000年度の財政運営、2000年8月のゼロ金利政策解除に関する論議、2001年度の小泉政権の政策をめぐる論議、そして今回の量的金融緩和解除に関する論議。これらの重要な局面での「関係者」の発言と結果をしっかり検証する必要がある。
日本の株式市場調整完了に関して、量的金融緩和解除が第一のハードルであった。第二のハードルは米国物価統計と米国金融政策に関する見通しだ。先週16日に発表された2月米国消費者物価指数では、焦点のコアインフレ率(食品・エネルギーを除くインフレ率)が前月比で+0.1%となった。市場予測+0.2%を下回った。3月28日と5月10日にFRBが追加利上げを実施する可能性はいまのところ高いが、米国金利引上げ政策の終結観測が補強された。NYダウは11,000ドルの節目を上方に抜けつつあり、2000年1月14日の史上最高値11,722ドルが視界に入り始めている。
第三のハードルは中東を中心とする国際情勢である。イラクの政情は混乱を極めており、イラクに侵攻している米国軍は大規模な空爆を実行した。中東情勢の緊張が高まり、原油価格が上昇することは株式市場の波乱要因になる。もっとも見通ししにくいのがこの部分であるが、いまのところなんとか小康状態が保たれている。
日本の株式市場は1月13日以降、調整局面を経過してきている。1月13日の16,454円を高値にして、1月16日夕刻のライブドアへの強制捜査着手を契機に株価調整が始動した。1月18日に15,341円の安値を記録したが、その後株価は上昇に転じて1月27日には1月13日の株価を上回り、2月7日に16,747円の高値を記録した。
ところが、2月13日以降、ライブドアの上場廃止観測が広がり株価は再反落し2月20日に15,437円を記録した。2月28日には16,205円まで反発したものの、3月に入り量的金融緩和解除観測が広がり、3月8日には15,627円に反落した。
3月9日に日銀は量的金融緩和解除を決定した。3月16日の米国2月消費者物価上昇率はコア指数上昇率が+0.1%と市場予想を下回った。こうした状況を受けて、1月13日以降の調整局面を脱する可能性が高まっている。
3月19日付日本経済新聞「サンデー・ニッケイ」の市場アウトルックでは、今週の株式市場について「材料不足でもみ合いか」としている。しかし、筆者はかねてより予測しているように、3月中旬以降、株価上昇第三波動に移行する可能性が高いと考えている。2月7日の16,747円を突破すれば、チャート上の調整完了シグナルが示される。3月20日終値が16,624円で、調整完了まであと一歩というところに迫っている。
今週は、まず20日(月)に水野日銀審議委員が米国シカゴで講演を行なう。水野氏は野村時代の筆者の同僚であるが、最近の動きを見ると量的金融緩和解除、ゼロ金利政策解除に積極的な発言が目立っていた。やや市場の関心を引こうとする傾向もあり、シカゴでの発言では、ゼロ金利解除にやや前のめりの発言が示される可能性がある。為替市場でのドル安、米国長期金利上昇、米国株価下落の反応が生まれる恐れがある。前のめりの発言が出れば、日本国債先物と日経平均先物指数も下落する可能性が高く、この意味で注意の必要な講演である。
福井日銀総裁は、水野審議委員よりも安定感の強い政策運営を意図していると思われる。当面はゼロ金利政策を維持し、金融政策に関する思惑が市場のかく乱要因にならないように配慮してゆくものと考えられる。市場は水野発言に反応するかも知れないが、冷静な対応が重要である。
23日(木)には、中原日銀審議委員が富山で記者会見を開く。また。同日、1月1日基準の公示地価が発表される。昨年9月20日に発表された7月1日基準での基準地価では、東京23区で15年ぶりに住宅地、商業地のいずれもが上昇に転じたことが示されたが、今回は上昇率が拡大する可能性が高い。1990年から2004年まで続いた日本の資産価格下落トレンドが資産価格上昇トレンドに転じたことが強く印象付けられる統計数値になる可能性が高い。
米国では、20日(月)にバーナンキ・FRB議長の講演が予定されている。演題は「イールドカーブと金融政策」である。米国では2004年6月以降の短期金利大幅引上げ政策が市場のインフレ心理を完全に抑圧し、長期金利上昇が回避されてきた。このことについて、どのような論評が示されるのかが注目される。日本政府がもし長期金利の低位安定を望むのなら、米国の金融引締めとその下での長期金利低位安定のメカニズムをしっかりと学ぶ必要がある。
竹中総務相などが主張する、金融超緩和政策の維持は長期金利の低位安定をもたらさないことを知らねばならない。金融政策当局がインフレ懸念に対して毅然とした姿勢で対応してきたことが、米国長期金利低位安定の最大の背景である。
米国では、21日(火)に2月卸売物価指数、23日(木)に2月中古住宅販売、24日(金)に2月耐久財受注、2月新築1戸建て住宅販売が発表される。景気の緩やかな減速、物価統計の落ち着きが確認されることは、米国金利引上げ政策が近い将来終結するとの見通しを補強することにつながる。
筆者は、米国での金利引上げ政策終結観測の広がりがNYダウのボックス上離れをもたらす可能性が高いことを繰り返し述べてきた。日本の金融政策がゼロ金利解除に向けて前のめりになること、中東情勢の思わぬ波乱の広がり、などが表面化しなければ、NYダウの上昇が期待される局面である。
米国で、インフレ防止、成長持続、金利引上げ政策の一巡が確保されることを「ソフトランディング」と表現してきたが、いまのところ「ソフトランディング」実現の可能性は高まっていると言える。
米国での金利引上げ一巡、インフレ顕在化回避、成長持続観測の広がりに加えて、日本での量的金融緩和解除の円滑な決定、ライブドア・ショックの収束、経済成長の持続が重なり、日本の株式市場では、昨年5月17日以降の株価上昇中波動のなかでの第三小波動が始動する環境が整いつつある。
筆者は昨年来、一貫して2006年半ばの日経平均株価19,000円から20,000円到達見通しを提示し続けているが、現状でもこの基本シナリオを変更していない。1月10日の本欄で、短期間の株価調整局面到来の可能性を示唆した。1月13日以降日本の株式市場は調整局面を経過した。
3月中旬まで調整局面が持続する可能性が高いことを述べてきたが、米国インフレ懸念、日本金融政策、中東情勢の三つのハードルをそれなりにクリアし、日本の株式市場は株価上昇第三波動に移行しかかっているように考える。
年後半の最大の懸案は「ゼロ金利解除」である。「ゼロ金利解除」については、十分慎重な論議が必要である。『金利・為替・株価特報2006年3月16日号』に詳論したように、『ミニ・ブラックマンデー』発生のリスクが存在する。2006年後半にかけてのリスク・ファクターとして日銀の政策、米国の双子の赤字問題、ドルの地合い変化を注意深く見守ってゆく必要がある。
日本経済のファンダメンタルズは比較的良好である。経済改善の恩恵はまだ、地方経済、中小企業には十分に波及していない。政府は「経済成長持続」を経済政策の中心にすえて、今後の政策運営を進めてゆく必要がある。経済成長が持続するなら、やがて景気改善の恩恵は、地方経済、中小企業にまで波及してゆくことになる。今後の経済政策運営に誤りが生じないように監視してゆく必要がある。
いくつもの留意事項は存在するものの、日本の株価上昇持続の条件は整いつつある。現在の日本の長期金利水準を踏まえると、日経平均株価の水準が20,000円程度に修正されても、まったく割高ではない。昨年8月8日以降進展しているのは、日本株価の割安修正である。諸条件が整い、株価再上昇が始動する可能性が高いのではないだろうか。
為替市場では、ドルの地合いに微妙な変化が生まれ始めている。米国の金融政策では5月10日のFOMCまで金利引上げ観測が残存する。日本の短期金利が依然としてゼロであるのに対して、米国のFFレートは1.0%から4.5%にまで引き上げられてきた。この大きな金利差がドル堅調の基本背景である。
だが、米国金利は引上げ政策が最終段階に差しかかっている。欧州は3月に昨年12月に引き続き2度目の利上げを実施した。日本でも年後半にゼロ金利解除が論議されることになる。
また、米国で対中制裁関税法案を共同提出した米国上院議員二人が訪中を予定している。4月には中国の胡錦濤総書記が訪米する予定である。中国が人民元を小幅切り上げる可能性もある。
米国の双子の赤字問題の規模は依然として大きく、ドルの地合いがこれまでの「堅調」から、「軟調」に転換する可能性があることを念頭に入れておくべきである。
日本の政治状況では、自民党、民主党の次期党首選びが焦点である。自民党は小泉首相が秋の総裁選挙まで求心力を維持できるのかどうかが焦点である。民主党は党内幹部が2007年央の参議院選挙に向けての党の体制を強化するために、挙党一致で新体制を構築できるかが焦点である。
客観的には、小沢一郎氏が党首に就任し、鳩山由紀夫氏、菅直人氏が補佐役に就任して挙党一致体制を構築するのが順当と考えられる。この体制が構築されれば、2007年の参議院選挙では民主党は自民党と互角の勝負を演じることができると考えられる。この場合には、民主党と国民新党、新党日本の連携も考えられる。
2007年にヤマ場を迎える政局の方向感を強く規定するのが、この秋までに予定されている自民党、民主党の新党首選びである。民主党幹部は個人の利益を優先するのでなく、有権者の声を最大に尊重して、自民党と真っ向勝負するための最強の体制構築を目指すべきである。
2006年3月20日
植草 一秀
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