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波紋広がる『中古家電売買規制』
「あの名機も幻に?」のタイトルで2月12日付「こちら特報部」で掲載した、4月から大幅に販売が制限される中古家電の行方の記事以降、この問題が音楽関係者やリサイクル業界、消費者の間で大きな反響を呼んでいる。反対署名を集める動きも出始めた。なかでも楽器はビンテージ品でなければ出せない音もあり、楽器も家電品と一律に決める規制の仕方にも反発が起きている。 (吉原康和)
「僕らの音楽は、無から有を生む世界。そのための道具が楽器で、お米を炊くためだけの電気炊飯器とは違う。これから音楽を学ぼうという若い人から中古の楽器を買う機会を奪い、音楽を始める芽を摘んでしまっていいのか」
日本シンセサイザー・プログラマー協会(JSPA)本部のある東京都渋谷区のマンションの一室で、音楽家で同協会長の松武秀樹さんは、愛用のシンセサイザーを操作しながら、こう力説する。
目の前に置かれた米ARP社製のシンセサイザー「オデッセー」は、松武さんが三十年前に六十五万円で購入し、作曲家の坂本龍一さんらが結成したイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)も使った一九七五年製造の年代物だ。「今なら、百八十万円はする」(楽器店関係者)というマニア垂ぜんのお宝品の一つだが、こうした「ビンテージ」楽器も四月からは、販売できなくなる。
二〇〇一年に施行された電気用品安全法(電安法)の適用猶予期間が三月末で切れ、国の安全基準への適合を示す「PSEマーク」がない家電製品の売買は原則禁止となるためだ。
しかし、経済産業省の告知が徹底しなかったこともあり、「こちら特報部」の報道前後の今年二月ごろから楽器やオーディオ機器などの中古家電を扱う業者の間で大騒ぎになっている。
松武さんも楽器などの中古品が販売の規制対象となることを知ったのは一月中旬で、坂本龍一さんらとメールで連絡を取り合う中で「このままでは日本の楽器文化は死滅する。世論に訴えなければ」との認識で一致。松武さんや坂本さんら音楽家が発起人となって二月十八日から、インターネット上で経産省に規制緩和を求める署名活動に立ち上がった。
署名数は今月二日現在で約五万四千人。松武さんらは今月中旬にも署名簿を添えて二階俊博経産相に要望書を提出する考えだ。(1)外国製の中古楽器などの適用除外(2)中古楽器の検査を楽器団体などに委ねる方法の検討(3)告知の猶予期間の延長−の三点が要望の柱だ。
◆日本より厳しい安全基準をパス
松武さんは「中古楽器には、この楽器でしかない音色、固有の味わいがあり、専有することによって初めて得られる満足感がある。これまで三十年以上使っているが、一度も事故はなかった。誤使用を除き、楽器に起因する事故があったという話は聞いたことはない」と指摘。その上で「(〇一年以前の輸入楽器は)中古品とはいえ、過去に、日本より安全基準の厳しい外国の検査をパスしている製品。新品は別にして、過去に安全が確認された製品を再検査し、マークを統一する必要があるのか」と疑問を提示する。
こうした声に対し、経産省が普及に躍起になっているのは自主検査でPSEマークを付ける方法だ。
中古品を扱うリサイクル業者などが経産省に「製造事業者」の届け出をして、(1)商品の外観(2)電源が入る(3)千ボルトの通電試験で漏電しない−の三点を自主検査してPSEマークを付ければ販売ができる。
しかし、検査で内部の構造をいじったことが原因で事故が起きた場合、製造物責任法(PL法)の責任が問われる可能性もある。
実際に「製造事業者」の届け出をした業者でも、こうしたリスクを考えて自主検査に二の足を踏んでいるのが実情だ。
東京都内の楽器店関係者は「例えば、年代の古いビンテージの場合、検査にコストがかかることもあるが、今の安全基準を満たそうとすれば、構造を変えなければならなくなり、音も変わる。音が変われば、本物じゃなくなる。このままならば、楽器の頂点であるビンテージ市場は壊滅だ」と憤る。
中古家電全般を扱うリサイクル業者の危機感はより深刻だ。
四日から街頭での署名活動を始めた都内の古物商「しらくら」の荒井哲夫社長は「うちは自主検査をするつもりはない。店で扱う中古品の種類は多いが、電気カミソリを売るのに、検査機器だけで数十万円のコストをかける業者がいますか」と怒りをぶちまける。
■先月中旬までは協力依頼もなし
経産省の告知のあり方を問題視する声も多い。
全国に約六十万店ある古物商のうち、約半分の三十万店が電気用品の中古品も扱っているが、経産省から古物商を所管する警察庁に周知の協力依頼があったのは今年二月中旬になってからだ。それ以前には一切なかった。
塩川鉄也衆院議員(共産)は「猶予期間はそもそもメーカーの在庫を処分する経過措置だ。法改正にあたって、中古品の扱いについて一度も議論されてこなかった。(電安法の前身の)旧法の時代から、中古品を含めるとは法令のどこにも書かれておらず、中古品はもともと想定外であったのではないか」と指摘する。
経産省は「法改正以前から中古品を対象外としていない。周知が必ずしも徹底されていない点については、残り一カ月で全力を尽くしたい」とした上で「製品評価技術基盤機構の〇四年の調査結果でも、家電製品の事故は全体の四割を占め、新品、中古を問わずけっこうある。楽器やオーディオ機器が他品目に比べて飛び抜けて安全であるということを証明できない限り、例外を認めることは考えていない」と話す。
だが、リサイクル業界関係者の間では「消費者への安全というならば、個人間での売買や輸出、レンタル業務が対象外なのに、中古販売店経由だけがだめなのはおかしい。これで本当に市場の安全を保てるといえるのか」との不満が根強い。「顧客の中古商品を預かり、手数料を取って個人売買を仲介する『委託販売』などの抜け道もある。そうなれば、何のための法改正なのか、となる」と楽器店関係者は語気を強める。
松武さんも「われわれも安全や法令順守の考えに変わりはない」としながらも、こう訴える。
「文化立国やモノを大切にする国づくりを目指すというのであれば、規制緩和の流れに沿って運用でなんとかできないものか。消費者などへの周知徹底にも時間が必要で、仕切り直しのため、猶予期間も延長すべきだ」
◆メモ <電気用品安全法>
電気製品の安全性を確保するため、2001年4月に施行された。電気製品の製造業者や輸入業者は、出荷前に検査し、PSEマークを表示する。同マークには、より高い安全性が求められるテレビ、コード類などの特定電気用品(ひし形)と、それ以外の電気用品(丸形)の2種類がある。回収命令など罰則も強化した。マークがない製品の製造・販売の禁止には猶予期間があり、対象450品目のうち主要259品目は今年3月末で猶予が切れ、残りも11年3月までに段階的に猶予が終了する。対象品でも、レンタルや輸出、個人間の売買は可能だ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060306/mng_____tokuho__000.shtml