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職場から  コスト削減圧力が生み出すもの 【SENKI】
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 3 月 03 日 20:38:42: ogcGl0q1DMbpk
 

職場から

コスト削減圧力が生み出すもの

http://www.bund.org/culture/20060305-1.htm

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危ないのは鉄筋だけじゃない―シャブコン

久保田誠

 私はまた転職をした。これまでは制御盤屋といって、工場設備や大型ビルなどの電機関係の仕事をしていたが、こんどはマンションなどの電気工事を請け負う仕事だ。制御盤屋以前は、食品関係の工場での設備保守を主に10年以上やっていた。いずれも共通するのは、工場やビル、マンションなどの建築現場にしょっちゅう出入りすることだ。

 最近、姉歯元建築士による耐震偽装問題が表面化して以降、他にも同様のマンションがあるのだろうかとか、自分の住んでいる建物は大丈夫なんだろうかといった質問によく出会う。私自身は鉄筋や構造については専門ではないが、素人ながらも、あれほど鉄筋の量を減らしている建物はそうそうないだろうと思う。すくなくとも私の経験の中では、目にしたことも聞いたこともなかった。

 では今回の偽装で問題になっている建物以外は大丈夫かというと、正直そうともいえない。むしろ耐震性能に関することとしては、コンクリートの強度に関する問題、いわゆるシャブコンの方が、業界的には蔓延していて根が深いだろうと思う。

コンクリートも危ない!

 鉄筋コンクリート(RC)造というのは、適正な数量の鉄筋と適正な品質のコンクリートがくみ合わさることで、はじめて所定の強度を得ることができる。そもそも鉄筋は引っ張る力には強いが圧縮する力には弱い。コンクリートは逆に圧縮する力には強いが引っ張る力には弱い。この二つがくみ合わさってお互いの弱点を補い合うことにより、はじめて柱などの構造の強度は保たれるのである。その場合、コンクリートは質の善し悪しで差が大きく、なおかつ施工方法によっても、仕上がりの強度には大きく差ができてしまう。

 コンクリートは、セメントに砂利と砂からなる骨材と水を加え練りあげて作られる。その材質に関することで有名なのは「アルカリ骨材反応」で、質の悪い骨材を使うことにより、年数が経つとコンクリートがボロボロにひび割れてしまう問題がある。一方、近年新幹線トンネルでのコンクリ片崩落事故でクローズアップされたのが、施工不良に伴う「コールドジョイント」で、これはコンクリート打設の継ぎ足し面で強度が保たれない問題だ。

 こうした点に関しては、問題が明るみに出ると、生コンメーカーに対して出荷時に品質検査を厳しく義務づけたり、施工時にも写真撮影などで管理を徹底したりする対策がとられる。

 しかしどんなに生コンメーカーが適正な品質のコンクリートを出荷していても、現場で打たれるコンクリートの質に問題がないとは限らない。その代表格がシャブコンである。

 シャブコンというのは、加水量を適正値以上に増やして「シャブシャブに」柔らかく練ったコンクリートのことだ。当然加える水の量が増えただけコンクリートの量も増える。だがこれを用いるメリットはそんなことよりも、適正に練られた固いコンクリートに比べ、格段に型枠への流し込みが容易になることにある。

 適正なコンクリートは粘りが強く、その打設時にはたくさんの作業員がついて、棒でつついたり、バイブレーターをあてたり、型枠を叩いたりして、隅々までコンクリートを流し込む。気泡を追い出さなければならないのだ。それでも難しい形状ならば、何回かにわけてコンクリートを打つ。そうするとその度に合間に養生期間をおき、型枠・鉄筋を継ぎ足すことになる。工期は大幅に延びてしまうのだ。

 シャブコンを使えば手間=人件費も工期も、大幅に減らすことができるのである。しかもやっかいなことに、打ち終わってしまえば、適正なコンクリートとの比較・判別は困難なのだ。

 加水量の多いシャブコンは、乾けばスポンジのように細かい気泡状の隙間ができてしまう。また、骨材として均一に拡がっているべき砂利が、型枠への注入後に分離してしまい、下の方に沈んで偏ってしまう。砂利の少ない上の方は当然強度が落ちる(図参照)。どんなに適正な量の鉄筋が入っていたとしても、コンクリートの質が悪ければ、できあがった建物の柱や梁の強度は落ちてしまうのだ。鉄筋の量を減らすのと同様、本来の耐震性能などは期待できない。

 この問題はずいぶん前からクローズアップされ、阪神大震災などでも社会問題となった。そのため規制も強化されてきた。にもかかわらず、いまだにあちこちの現場でシャブコンは横行している。

 その手口はこうだ。現場に到着したコンクリートミキサー車には品質保証書付きの適正なコンクリートが積まれている。最初にちょこっとだけ強度試験用のサンプルを採取し、不正がない証として写真を撮った後、ミキサードラムに上からホースで水が注入される。

 本来でも、予定より輸送時間や待機時間が長くなってしまった場合、コンクリの粘りが強くなってしまうので、多少の水を加えることはあるのだが、そこで必要以上に大量の水を加えてしまうのである。あとはミキサー車がエンジンをふかし、ドラムをしばらく高速で回転して攪拌するだけだ。きわめて簡単かつ巧妙にできるのである。

 残念ながら、ポンプ車に尻付けする前、待機しているミキサー車がこうしてシャブコンをつくっている場面には、比較的頻繁に遭遇する。「あぁ、またやっているな」というのが実感だ。ほとんどの場合、現場の所長や監督の判断・指示によるものであろう。

 でも私には、彼らだけを責める気にはなれない。おそらくコスト削減と工期短縮の強力なプレッシャーを受ける中で、ギリギリの判断としてやらざるを得ないのだ。そんな気持ちもわからなくはない。結果がはっきりせず、わかりにくい品質や安全性よりも、結果が明白に数字となって現れる納期やコストの方が優先される風潮は、いまやどこの現場にも蔓延しているのだ。

偽装は建築業界だけではない

 私が以前いた食品業界でも、いろいろな偽装が行われていた。雪印事件のように、メーカーが食品の原産地を偽ったり、表示されていない添加物や材料を使ったりといった例は、枚挙にいとまがない。流通業でも、賞味期限を張り替えたりということは、日常的な体質となっていた。

 最近ではブームにのって、「無農薬・有機」とか謳いながら、実際には農薬を多投した野菜も問題になっている。私も、国産のワイン工場で安い輸入ワインがドボドボとブレンドされる現場や、回収された商品を再パッケージして、あたかも新しいもののように装うような場面に何度となく出くわしてきた。直接目にするだけではなく、そうした類の業界内でのうわさ話も数多く耳にしてきた。

 そんな商品を騙されて買ってしまう消費者の立場を思えば心苦しい限りだ。だが現場で本来の仕事をはずれて、こうした不正な作業に携わっている労働者の心中もまた穏やかではないだろうと思う。誰でもそんなことはやりたくないに決まっている。不正に手を染めたくなくても、「代わりはいくらでもいる」と取引先や上層部から圧力をかけられれば、追い込まれてやらざるをえなくなってしまうのだ。だれでもまた、生活のために仕事をしているのである。

 とりわけ、こうした構造は中規模以上の事業者におこりやすいというのも、経験的にみてとれる。小規模や零細の業者は末端消費者との距離も近く、相対的に少ない顧客に依拠する割合が大きいから、常にその信用を失わないようにとのプレッシャーは強い。たとえば商店街の八百屋さんで何か変な商品をあつかっていれば、たちまちに噂は町中に拡がる。しかも狭い社会でのこと。古い田舎町だったら年月が経ち世代交代しても、「あそこの店では…」と語り継がれてしまうことも多い。農家が、自分の家の食卓では食べられないような農薬漬けの野菜を、日常的に接する機会の多い近所の家に売ることもないだろう。

 逆にある程度以上の規模になると客の顔は遠ざかる。信用を得て受注を取ってくるのは営業職の仕事。自分たちは指示通りのことをやればいいという意識が、どうしても現場にははびこってしまう。また大量生産になれば、消費者との間に何段階もの流通業者が介在する。客の顔はさらに遠のいてしまいがちだ。流通業者が求めてくるのはまず値段。扱う商品の品質に何か問題が生じても、最後には「そんなものを作ったメーカーが悪い」ということで切り捨てられるからだ。

 建築業界でも同様のようだ。個人宅などの小さな現場では、シャブコンなどが使われるケースは少ないと思う。品質や安全性に関わる問題が生ずれば、現場を監督するものが直接施主と交渉し、コストや工期を調整することも可能だ。

 しかし大きくなれば、施主との交渉は、まず会社の上層部に話を通し、つづいて営業を説得してもらいと、どんどん難しくなってしまう。

 規制や罰則が強化されても、そうした構造に手がつけられない限り、問題は再生産され続けるだろう。環境やエネルギーコストの問題からクローズアップされる地産地消といった規模の経済は、こうした品質や安全問題の解決の一方策にもなるのではと思っている。

(電気工事士)


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建設業界の体質と耐震強度偽装

吉永一矢

 かつて工業高校の建築科を卒業した私は、建築事務所を開くことを夢見ていた。そのための経験を現場で積むべく、建築施工を専門とする会社に就職した。この間の報道で明らかになっているように、建設業界は、建築設計、構造設計、設備設計、施工の4分野に専門化されている。私のいた会社でも元請けとなり、設計・施工・販売まで手掛けることがあったが、その場合でも構造設計は外注に出すことが一般的であった。

 私の経験からいって、今回の耐震偽装問題は見抜けなかったのかを考えてみた。結論からいえば、あらゆる段階で偽装を見抜ける可能性は大いにあっただろうと思うのだ。

 検査会社の段階。今回姉歯元建築士の設計を検査した会社は、「巧妙に偽装されており見抜くのがむずかしかった。適正な検査が行われていたからこそ、偽装を発見できた」とコメントしている。確かにマニュアルどおりの検査をしていれば発覚されないように、偽装されていたのであろう。しかし、適正に設計された図面を何回も検査している経験豊富な建築士が、姉歯氏が設計した図面に目を通していれば、その段階で疑問に思うのが当然であろう。なぜなら姉歯氏の設計は、適正な鉄筋量の3分の2から半分近くしかなかったのだから。

 次に施工の段階。施工会社では設計図を元に、各職人が施工できるように施工図というものを起こす。私自身も、施工図を起こし、これを元に現場で施工を監督する仕事をしていた。私のように経験のない見習いならまだしも、責任者は建築士の資格を持っていなければならない。職務上の専門外とはいえ資格試験には構造設計も含まれている。経験豊かな現場監督が鉄筋量が極端に少ないということについて、疑問を感じないということはありえないだろう。

 おそらく、建築士の資格など持っていない現場の職人でさえ、鉄筋量が少ないということには気がついていたであろう。鉄筋工はもとより、鉄筋があるがゆえに苦労をしている(通常、柱と梁の取り合い部分などは手が入らないほど鉄筋が密集していて、ここに配管や配線のスペースを確保しなければならないこともある)職種の、電気工や設備工も気がついていたであろう。

 では、さまざまな場面で偽装発覚の可能性があったにもかかわらず、なぜ表面化しなかったのか。ひとつには姉歯氏も語っているように、コスト削減の圧力が常に存在しているということである。コスト削減の圧力は何も構造設計にだけではなく、検査機関や施工業者、その下請けというように、建設業界全ての業者に重くのしかかっている。私のいた会社でも、高校を卒業したての世間知らずの私には信じられないようなコスト削減の「努力」が行われていた。

 会社では数十種におよぶ業種ごとに数社の下請けを抱えており、それぞれの業種ごとに一番安い見積もりを出した業者に仕事を出していた。偽装事件で問題になっている鉄筋工事を例にすると、鉄筋単価×鉄筋重量+一人工(一人の職人が1日働いてこなせる仕事の量)当たりの単価×工事に必要な人工数で、請け負い額が算出される。工事が順調に終われば、見積もり通りの金額が下請けに払われるが、工期が延びたり不具合箇所が出たりすればペナルティが科せられる。

 会社ではこのペナルティの部分でコスト削減の「努力」を行っていた。例えば予定通りの工期で終わりそうにない場合は、現場に入る職人の数を増やして対応させるのだが、その人員を確保できない下請け業者は往々にしてある。そこに私のような下っ端を職人として入れ、その人工数を請け負い額から引かせた。あるいは、不具合箇所を職人を入れて手直しさせるのではなく、私たちが手直しをして、その人工数を差し引くということが行われた。

 私たちが職人の代わりに働いた分が、まるまるコスト削減になっていた。不具合箇所の手直しは、通常業務が終わった7時とか8時以降行われていたため、工期が迫ってくると午前様になるのは当たり前で、時には徹夜になり、コンクリートの床に断熱材を敷いて仮眠を取るなんていうこともあった。休日手当てや残業代は一切付かなかったので、私たちが休日出勤や残業をすればするほど、会社はコストを削減できる構造にあったのだ。

 このおかげで様々な職種の職人の仕事について、手直しや補修程度のことはなんとかこなせるようになった。それでもただ働きすることに納得できなかったので、抗議したこともあったが、「おまえがきちんと監督しなかったんだから責任をとれ」の一言で済まされてしまった。

 元請の会社でさえこのような状況であったのだから、その元請会社の社員が鉄筋量が少ないことに気がついたとしても、コストが下がり工期が短縮されるのであれば、「検査機関のお墨付きをもらっているんだから、だいじょうぶなんだ」と自分を納得させて、目をつぶってしまうということがあったとしても不思議ではない。

 翻って、では、私がこのような建設現場の責任者であったら何ができたのだろうか。まずは構造設計をした建築事務所と検査をした事務所に、不安と思われる根拠を提示して再度確認させるということはできるだろう。それでも安全だと言われたら何ができるのか。セカンド・オピニオン的に別の構造屋に検査を依頼するか、自分で不慣れな構造計算をするということは考えられる。しかし工期がつまっていたり、会社にそんな予算は出せないと拒否されたり、自分自身が通常業務に忙殺されていれば、これらのことは不可能だ。結局個人としてできるのは限られている。

 それでも、建築士として社会的・道義的責任を追及されることは免れ得ないであろう。早急に検査体制の強化と、内部告発が生かされるようなシステムを確立していく必要があるのだ。その場合も行政が全て行うというのは無理がある。全ての建築物について綿密に検査するには、予算も人員も不足しているからだ。法的規制のもと、建設業界として運営していく方向で考えられるべきであろう。

 低賃金と長時間労働などで、2年足らずで辞めてしまった建設業界だが、内部事情を知っているがゆえに、今回の耐震強度偽装問題はとても他人事とは思えない。

(元施行現場監督)


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(2006年3月5日発行 『SENKI』 1205号5面から)


http://www.bund.org/culture/20060305-1.htm

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