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ネット投資家バッシングのワケ
ライブドア前社長・堀江貴文容疑者の逮捕以来、インターネットの株売買でもうけるネット投資家バッシングが強まっている。批判しているのは旧来のエリート層を代表する財界長老や評論家、ワイドショーのコメンテーターなど。ホリエモンは逮捕されたが、ネット投資家は犯罪者ではない。なのに、彼らのいったい、どこが、エスタブリッシュメントたちのカンに障ったのか。
(市川隆太)
「働きもせず、デイトレーダーなど株取引ばかりに夢中になっている人も多いが、『自分さえよければ』という教育によるところが大きい」「きちんとした教育に支えられてきた人は、やはりきちんと働いている」−。ある財界長老は今月上旬、在京紙のインタビューで、ネット投資家をこう非難した。
■「今や一大勢力 無視できない」
一株当たりの値段を手ごろにするという東京証券取引所の方針を受け、株式分割を行った企業が続出した結果、政府の目算通り、証券市場に大量の個人投資家が参入した。素人の大量参入は、仕手筋による市場コントロールを防ぐ効果も期待されていた。その屋台骨が、手数料が安価なネット投資。「今や機関投資家も無視し得ない一大勢力」(証券マン)だ。
東証マザーズに新規上場した人材派遣会社「ジェイコム」株をめぐり、みずほ証券の担当者が「六十一万円で一株」の売り注文を「一円で六十一万株」と発注ミスした際は機関投資家とともにネット投資家が買いに殺到し、億単位をもうけた人も出た。
ネット投資と言えば、カンと反射神経を頼りに、買いの直後に売り抜ける「回転売買」を繰り返し、小まめな利食い(利益確定)でもうける「デイトレーダー」がクローズアップされている。しかし、買った翌日から数日後に売る「スウィンガー」型、数年間以上の長期保有型、これらの複合型も多く実態はさまざまだ。にもかかわらず、「みずほ証券問題」とホリエモン騒動の相乗効果なのか、ネット投資家への視線は日増しに冷たくなっている。
前出の財界長老も「額に汗して働け」とネット投資家をしかり付け、評論家やコメンテーターもさかんに、このセリフを口にする。ライブドア事件を捜査指揮する大鶴基成東京地検特捜部長の発言をまねたらしい。
大鶴氏は昨春の部長就任会見で「額に汗して働く人、リストラされ働けない人、違反すればもうかると分かっていても法律を順守している企業の人たちが憤慨するような事案を摘発したい」と言ったのだが、発言の一部だけ引用してネット投資家たたきに使われている感もある。
■スポーツ感覚の瞬間売買で利益
デイトレーダーが毛嫌いされるのは、財務諸表とにらめっこするファンダメンタルズ分析や、株価チャートから未来の株価を予想するテクニカル分析といった伝統手法に逆らい、カンと反射神経を総動員したスポーツ感覚の“瞬間売買”で利益をもぎとっていると思われているかららしい。
■違法ではないが擁護論は少なく
経済評論家の奥村宏氏は「デイトレーダーは株価がどう形成されるかも知らない。働かないのは自由だが、あれでは投機であり、ギャンブル。一週間以内の同一株売買のキャピタルゲインには90%ぐらい課税するなど、規制が必要だ」と断じる。「そこまでいじめる必要はないのでは」と言う経済アナリストの森永卓郎氏も「企業に資金を与え、配当を得るのが株式市場の役割なのに、デイトレーダーは一千万円買って一秒後に売ってもうける。違法行為じゃないから『やるならやれば』とは思うが、私は好きじゃないなあ」。
メディアでも「投機家だってリスク分散に寄与している」との擁護論は少なく、「企業業績を分析してやるのが投資。みんなが買うから買うのは投機」といった批判が支配的だ。
こうした逆風を、当のネット投資家たちはどう感じているのだろう。
二十代のネット投資家は「暴落した株を買い支え、市場安定に寄与してきたのは僕たち。追い出せば、大金を投じて寝ころんでもうける金持ちが得する世の中に戻る」と反論する。
最近、増えている大学生投資グループの一つで、慶大生が中心の「genesis」は、著書「株のすゝめ」の中でもファンダメンタルズ分析やテクニカル分析を重視し、“瞬間売買”とは一線を画す。それでも、メンバーたちは「デイトレーダーも市場参加者であり企業への資金提供者。財界長老が資金提供者をけなすなんて、どうかしている」とあきれる。「生産者が汗をかくための前提条件は、資金提供者の存在なのに。経営者失格ですね」
先月末、「貧乏でなんのとりえもない高卒フリーター 株で2億!」というタイトルの本が扶桑社から出された。著者の「ひろっぴ」氏は、年収四百万円の父、専業主婦の母とともに大阪市内で家賃七万円のアパートに暮らす二十四歳男性。「工業高校を卒業後、鉄鋼工場に勤めたが月給は十二万円でした。『あかん、このまま、ここにおったら一生貧乏なままや』と。その時、心に『株』という文字が灯(とも)ったんです」と話す。二〇〇二年末、百万円を元手にネット投資の短期売買を繰り返し、〇四年暮れに五千万円弱まで増やした。昨年秋に一億円を超え、昨年暮れに約二億一千万円を達成した。
ひろっぴ氏は「株は夢を与えてくれる」と言ってはばからない。「僕も、自分がやっているのは投機だと思うが、投資家だって値上がりを期待している。お金を稼ぐことも立派な目標だと思う。若者だって、お金は欲しい。今は企業の求人がないし、預貯金の利回りも悪い。株をやってなかったら(アパートの)大家さんになりたいという漠然とした夢も持たなかったと思う」と、淡々と語る。
元証券会社ディーラーで個人向け投資顧問会社を運営する東保(とうぼ)裕之(ゆうじ)氏は「デイトレする人全員が勝てるわけではない」と警告したうえで、ネット投資家バッシングを「まるで、自分は動物嫌いだからペットショップも許せない、というレベルの話では?」と話す。
「成功した若者の足を引っ張るのは、いけないですよ。資本主義なんだから金もうけが悪いとも言えない。証券市場に関心を持った影響で起業、就職する人だっているかもしれないし」
外資系投資銀行OBで金融コンサルタント会社「インフィニティ」代表の岩崎日出俊氏は「デイトレはギャンブルだ。個人投資家は、企業の将来性を調べて、優良株を長期保有すべきです」と話す。しかし、「デイトレーダーも企業を見る目を養ってほしいが、そうでないからと言って悪者にするのはいかがなものか。市場主義経済を否定するような風潮には納得いかない」と明快だ。
■2億円達成24歳 「両親に家を」
前出のひろっぴ氏は、両親から「生活が苦しい」という言葉を何度となく聞いたと、自著で告白している。二億円トレーダーであることは両親にも知らせていないが、家を買ってあげるのが夢だという。夕方、証券市場が閉まると、総菜店のアルバイトに、そそくさと出かける。「人と話さないとおかしくなってしまいそうで。普通に働いている人々が、意外にトレーダーかもしれませんね」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060212/mng_____tokuho__000.shtml