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日本とマカオから見る「強まるドルの支配力」(2/10)
最近発表された米大統領予算教書からも懸念される双子の赤字増大など、ドルは弱点だらけのようだが、実際にはドルの支配力は強くなっている。本稿はI「日本の国際収支からみたドル」とII「マカオ・北朝鮮とドル」の2部に分けて報告する。
ドルへの従属が生んだ「成熟した資本輸出国」
(I)2005年の日本の国際収支は史上初めて、投資(直接投資と証券投資)所得の収支黒字がモノの貿易黒字を上回る見通しである。スゴイ、日本は今やかつての大英帝国のような「成熟した資本輸出国」、と素直に言いたいところだが、この現象は基軸通貨ドルへの円の依存、従属の裏返しであり、ドルによる世界支配の副産物とみたほうがよさそうである。
まず財務省が発表した2005年1―11月の経常収支データをみると、直接投資や証券投資の収益黒字を合計した所得収支黒字は10兆4415億円であるのに対し、モノの貿易収支黒字は9兆2903億円である。添付のグラフをみると、2001年以降所得収支黒字が力強い上昇基調を続けているのに対し、モノの貿易黒字は漸減傾向にあることがわかる。2月13日には2005年通年のデータが公表されるが、暦年ベースでの貿易と所得の黒字額逆転が確定しそうだ。
投資収益のうち、大半を占めるのが債券利子と配当による証券投資収益である。直接投資収益も企業の海外戦略強化に伴い着実に増加しているが、2004年の場合、証券投資収益は直接投資の5.4倍である。
証券投資は主に米国債で運用されている。ゼロ金利の日本の資金を米国で運用すれば容易に収益が得られる。こうした米国への資金流入はドル相場を支え、米金融市場を安定させてきたことは前回のコラムで述べた。中国を含め他のアジア諸国・地域の通貨当局も日本に追随して外貨準備を主にドル債で運用することから、ドルと米金融市場は安定してきた。
日中が「ドルへの忠誠」尽くす裏事情とは
カネの流れだけからみると、アメリカは日本などアジアに大きく依存していることになるが、投資所得収益を考えると、日本はドルの安定に大きく頼っていると言える。ドル安が急速に進めば日本の機関投資家も中国の通貨当局も莫大な損失を被る半面で、アメリカの多国籍企業は海外収益を増やし、米国製品の競争力を高められる。力関係は明らかにアメリカ優位である。
日本はしかもドルに関わる情報や政策をアメリカに依存するのだから、いくらカネを提供しても財務相はワシントンに足を運び、機関投資家はウオール街のアナリスト情報にしがみつかざるをえない。中国も事情は日本と同じく、8000億ドルを上回る外貨準備の大半の運用をウオール街に頼り基本的にはドルに忠誠を尽くすことになる。
(II)ブッシュ政権は明らかにドルの支配力を意識し、その強化に努めている。その好例が、北朝鮮の金融取引に対する金融制裁である。北朝鮮のマカオ法人はマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」を通じて、偽ドル札、麻薬や武器の闇取引をしていたと米司法当局が2005年9月に告発した。北朝鮮は激しく反発して六カ国協議再開を拒否しているが、ブッシュ政権は北京を説き伏せた。マカオは香港と同様「高度な自治」を保証されているが、政治的には北京の意向に従う。北朝鮮はマカオの出先を閉鎖し、マカオの隣の珠海に移転したようだ。その珠海には金正日総書記が1月中旬に広州、深センを視察したときに足を伸ばした。珠海は深センと並ぶ経済特区だが、金正日総書記自身が深く関与してきたマカオの北朝鮮商社の移転先を確かめたのだろう。
マカオ資本はなぜ北朝鮮にカジノを開設したか
マカオは国際金融市場に入れない国や裏社会にとってもっとも資金洗浄(マネーロンダリング)が容易な場所である。契約書類なしに個人的な信頼関係だけで資金の帳簿上の移動を行う中国の伝統「飛銭」に加え、カジノのVIPルームで賭博を偽装して資金を振り込む。さらにマカオは国際金融都市香港との間でカネやヒトの行き来が自由なので、飛銭を国際的に展開しやすい。ライブドア事件で日本の検察当局は香港法人の裏口座を調べているが、このようなケースではマカオについても当然捜査のメスが入る。
韓国の情報筋によれば、マカオと平壌間は週2度の定期便があり、金正日総書記も何度か訪問しているし、マカオのカジノ王、スタンレー・ホー氏とも親しく、ホー氏は平壌・羊角島ホテルにカジノを開設している。
アメリカのマカオ制覇は数年前に始まった。1999年12月の中国回帰前はカジノのVIPルーム利権をめぐってマフィア同士の抗争が激しかったのに懲りたマカオ特別行政区の初代行政長官の何厚カ氏は家族ぐるみで楽しめる遊楽リゾートへの転換を図ってきた。マカオ改造計画の主役は、ラスベガスを変える担い手となったのは新規参入したラスベガスのカジノ資本、「SANDS」と「WYNN」である。その投資規模はすさまじい。SANDSはマカオ・フェリーターミナル脇に2億4000万ドルを投資、2004年にカジノ・ホテルを開業した。地続きの一角にはWYNN、香港資本の「ギャラクシー・リゾート」も進出。さらにカジノ王のスタンレー・ホー氏も本拠のカジノホテル「リスボア」の向かい側に「第2リスボア」を建設中である。
遠くない「マカオがラスベガスを抜く日」
そればかりではない。SANDSやリスボアのあるマカオ半島南端と2つの海上橋で結ばれたタイパ島と、タイパの南側のコロアネ島の間の埋め立て地約5.3平方キロメートルの「コタイ地区」にSANDSが中心となって60億ドルを投資、カジノ20カ所、6万客室のホテルを建設するプロジェクトが進行中である。何しろ、2004年末のホテル客室は約1万で、2008年末には2万4000室に増え、さらにまだ建築ラッシュが切れ目なしに続く。
ラスベガスのカジノ資本がマカオを変える
本来中国人はギャンブル好き(もちろん日本人も例外ではないが)と言われる。中国本土ではギャンブルはご法度だが、マカオがカジノ賭博とドッグレースを全中国の中で独占している(香港はカジノがない代わり競馬を独占している)。ラスベガス、アトランティックシティーを代表とするアメリカのカジノ産業の売り上げは2002年で約700億ドルと言われているが、中国大陸で賭博が解禁されたとしたら賭博産業の売り上げは数千億ドルに上ると、SANDSらラスベガス資本は見込んでいる。
マカオがこのまま全中国のカジノを独占していけば、いずれラスベガスを抜いて世界一になると見込まれる。マカオの投資ブームは当然の帰結である。
スタンレー・ホー氏の経営手法の場合、カジノ・ホテルを所有し、「VIPルーム」と呼ばれるカジノ場の経営権を「オペレーター」に貸し、ホー7対オペレーター3の割合で「揚がり」を懐にする。このオペレーター利権の縄張りをめぐってマフィアが抗争する構造は返還前と現在でも同じである。この仕組みは変えようにも変えられない。特に賭博を禁じている中国の客から取りはぐれがないようにするためには、大変な手間とリスクが発生する。大陸にも地下銀行・隠し講座のネットワークを持つ黒社会(中国系マフィア)がオペレーターと旅行代理店、地下銀行業務を兼ねるケースが多い。オペレーターに集客・集金をまかせることで、スタンレー・ホー氏は「カジノ王」になった。
マカオで交錯する「米中協調」の思惑
カジノ賭博は大陸のアングラマネーのはけ口ともなる。大口の賭けをする大陸からの賭博客の中には「公金横領」の体質が染みついている党幹部もいる。汗にまみれて稼いだカネではないのだから、安易に賭博に走る。マカオ・カジノ産業が発展、繁栄することは同時に、経済成長、市場経済化のテンポに比例してひどくなる中国式資本主義の負の副産物を助長しよう。
ブッシュ政権としてはアメリカ資本が大きく関与するマカオで不法なドルが大量に取引されるのは、まさしくドルの威信に関わる。とりわけ北朝鮮が武器や麻薬取引の資金洗浄したり、偽ドル札取引をするのは阻止しなければならない。
ドルを守るアメリカ、そのドルを健全な形で経済発展に生かさなければならない中国の思惑は、マカオをめぐって一致する。北朝鮮への金融制裁はその文脈からしても、「米中協調」の一環ではないだろうか。