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大手塾『日能研』が学校警備事業
相変わらず後を絶たない小学生を狙った犯罪。全国的に児童の登下校時の警戒強化が叫ばれているが、大手中学受験塾の「日能研」が今春から私立小中学校での警備事業に乗り出すという。塾周辺から学校周辺の住宅、商店街の不審者まで目を光らせるという狙いはどこに。 (浅井正智、宮崎美紀子)
「子どもたちを預かる塾として、安全確保のため何ができるかをずっと考えてきた。事業として赤字にならなければいい」
日能研の高木幹夫代表(51)は進学塾が警備事業に乗り出す理由をこう語る。
日能研は関東、関西を中心に全国百十九教室を展開する中学受験の最大手塾だ。塾生は約四万人。今春も首都圏難関中学の開成に九十九人の合格者(定員三百人)を出したのをはじめ、麻布九十三人(同三百人)、桜蔭六十六人(同二百四十人)、女子学院七十三人(同二百四十人)という成績を収めている。
■住宅や商店訪問 不審者情報収集
日能研が考える警備事業とはこうだ。
顧客相手は私立小中学校。定年退職した警官OBが警備スタッフになり、登下校時に学校の周辺や最寄り駅までのルートで子どもたちを見守る。このほか、沿道の住宅や商店を訪問して安全上問題となる死角や不審者の情報を集めたり、子どもたちに声掛けをしてくれるよう呼びかける。
子どもたちの警備というと、集団登校に付き添っていくイメージがあるが、高木氏は「現実にそこまではできないし、ボディーガードのようなことをしたら、かえって子どもを押し込めることになる」と強調し「警備スタッフが地域社会との接触を密にすることで、塾が地域に解け込み、子どもたちが地域の温かい目に守られるような街にしていきたい」と期待する。
塾では、職員はもちろん子どもも地域の住民でないことが多い。「地元の人は塾に通う子を知らないので声を掛けない。塾は地域の中で一種の“異物”。まずそこを変えなければ」
警官OBのスタッフに期待されるのは、地域の人とのコミュニケーション。交番勤務を経験した警官OBならこうしたコミュニケーションはお手の物だからだ。だから「スタッフとしては、幹部OBではなく、外勤や交通、刑事など現場をよく知っている人の方が望ましい」という。
日能研は既に一昨年十月以来、警官OB二十三人を採用。首都圏の約八十教室で通塾時の警備に当たっている。警官OBは警備だけでなく、避難訓練でも主導的役割を果たしているという。「校庭のない塾では避難訓練の実施は困難だったが、警官OBの指導でできるようなった」という。
■私立小中学校の引き合い相次ぐ
スタッフは公募ではなく、警視庁、神奈川、千葉両県警にOBをあっせんしてもらったり、口コミで採用している。こうした取り組みが保護者の好評を博したことから、私立小中学校からも「うちの学校の周辺でもやってほしい」との引き合いがきたという。
自社警備ならともかく、ほかから請け負うとなると警備事業として認可を受ける必要があるため、今年五月をめどに別会社「日本エキスパートセキュリティー」(仮称)を設立する。事業化に伴い、スタッフも三十−三十五人程度に拡充し、二年後には四十−五十校から警備を請け負うことを目標とする。高木氏はこう抱負を語る。「量は力であり、そこまで参加校が増えれば、日能研の教室と合わせて関東圏の広いエリアをかなりカバーできる。子どもたちにとってもメリットになる」
日能研の警備事業進出について、全国警備業協会は「学習塾が、というのは聞いたことがない」と驚く。協会によると、大阪の池田小学校事件以来、公立、私立を問わず、学校警備のニーズは高くなっているという。「私立は既に警備員が常駐していることが多い。別契約で、その警備会社が地域の巡回もしている場合もある」
実際、国も同様の対策を既に導入している。文部科学省が、本年度から始めた「地域ぐるみの学校安全体制整備推進事業」は、保護者や住民による「地域ボランティア」の養成や、警察OBら専門家への「スクールガードリーダー」の委嘱、各自治体でのモデル地域の指定が三本柱だ。
現在約九百人のスクールガードリーダーが活動。来年度は二千四百人に拡大する予定で公立だけではなく、私立も対象だという。
犯罪予防相談センターの梅本正行理事長は、日能研の試みをこう評価する。
「防犯はボランティアが当たり前だと思われがちだが、それでは普及の足かせ。有償である以上、責任が出てくる。この犯罪多発時代に、さまざまな業種や企業が、自分たちのノウハウを生かし何ができるのかを考え警備事業に参入するのはいいこと。地域の人たちも『商売でやっているんだから』とか『あそこは私学だから』という考えは捨てて、協力してほしい」
■信頼感を与える優れたノウハウ
教育評論家の古川のぼる氏は「学習塾は今や学習指導だけではなく、地域や保護者の心のつかみ方に関しても優れたノウハウを持っている」と指摘する。
「保護者や地域と、どれだけ親密な関係が築けるかが、塾経営の重要なポイント。子どもが万引など悪い事をすると、保護者は学校ではなく塾の先生に相談するくらいになっている。塾が子どもの安全対策にまで進出するのが良いか悪いかではなく、そういう時代だということを認識しないといけない。文部科学省や学校関係者には、いい刺激になるのでは」
日能研の狙いには「お金が目的ではなく、父母、自治会、商店街と結びつくことで信頼度を高めるためでは」と推測する。
森上教育研究所の森上展安代表は「公共教育にも貢献できるという安全対策のアピールが目的では。小規模の塾なら外部のニーズにまで応えられないので、企業イメージとしてもメリットがある」と分析する。
■危機意識が高く「お迎え」を依頼
子ども二人を日能研に通わせた横浜市内の会社員は「うちには関係ないんじゃないかと思うほど遠い場所での不審者情報でも知らせてきて、今日はお迎えに来てくださいと言われる」と、防犯意識の高さを実感する。一方で、受験生を抱えた親には「新事業に進出するくらいなら、もっと学習指導に力を割いてほしい」という思いもあるようだ。
東京私学教育研究所の堀一郎所長は「一部都心の学校は別だが、今は私立も地域とのつながりを重視している。親しまれる学校でないと生徒は集まらない。地域を無視した学校経営はない、というのは常識」と断言する。その一方で「日能研の進出に異論はないが、学校内の警備はプロである警備会社に頼むとしても、地域との連携は、学校自身が自らやるべき」と話す。
先の梅本氏は、こう注文する。
「犯罪者が最も嫌がるのは防犯カメラではなく人の目。犯罪者が徘徊(はいかい)しにくい町をつくることが地域の安全につながる。本当は国こそが『第二の警察』をつくるくらいの意識で防犯体制をつくらなくてはいけない。地域の情報収集やパトロールは拳銃を持った警察官でなくてもできるんだから」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060207/mng_____tokuho__000.shtml