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職場から
コンビニ戦争 店長は週106時間労働
渡部宏海
http://www.bund.org/culture/20060425-1.htm
わたしは、とある大手チェーンのコンビニでアルバイトをしており、今年で2年目になる。そこでの体験から知ったことは、少なくとも巷で宣伝されているようなコンビニの明るいイメージはなかったということだ。
1週間は168時間だ
朝6時。わたしともう1人の朝勤務のアルバイトが出勤し夜勤と交代する。夜勤をやっているのは今年で42歳になるオーナーだ。今週はこれで6日目である。朝勤務者がくると、オーナーはバックルームに入り仮眠をとる。所狭しとおかれている商品の隙間にダンボールを敷いて眠る。15分あれば家に帰ることはできるが、9時からまた出勤しなければならないので、その時間がもったいないという。仮眠できるのは2、3時間である。
9時になり、朝の勤務者が交代しようとすると起きてきて、8時に廃棄された弁当をがさこそとあさる。食事はこの時と17時に家に帰るときの2回だけだ。それも少し寝た後、22時にはまた出勤しなければならない。それからは朝まで休めない。家には寝に帰るだけだ。
風呂には入る間もなくなっているようで、最近では女子店員から「なんだかにおう」と噂されている。女子店員ならまだいいが、お客さん相手には問題だ。しかし、そうしたことはもう考えられなくなっている。食欲もだんだんなくなっているようだ。
わたしの店は、オーナーとマネージャー(オーナーの奥さん)に、従業員(全てアルバイト)8人の計10人で24時間営業をしている。朝6時から9時の勤務がわたしを含めた3人。9時から18時までの勤務が3人。17時から22時までの勤務が1人。22時から深夜01時までの中夜勤が1人。24時からの深夜勤はおらず、わたしが週1回でている以外は、全て店長1人がやっている。週1回の深夜勤がもう1人いたが、つい先日引越しするといって突然やめてしまった。
店の運営のために、一番混む昼時は3人、他の時間帯でも商品搬入などがあり深夜以外2人は最低必要である。アルバイトがいない時間を店長夫婦が埋めている。最近の店長夫婦の1週間の労働時間を計算してみると、オーナーが106時間(夜勤30時間を含む)、マネージャーが67時間だ。
1週間は168時間である。オーナーは「コンビニで働いている」こと以外の時間の方が珍しいのだ。その時間もほとんど睡眠時間である。しかも、この1年オーナーには1日の休みもない。明日もあさってもでっぱなしという中で、寝る前に飲む缶ビール3本が、きついのを忘れさせてくれる唯一の楽しみである。「薬なんだよ。これは」。やつれた顔で笑う。
オーナー夫婦には高校2年生の娘1人と、小学6年生の息子が1人おり、マネージャーの方はその世話もしなければならない。なるべく家にいたいが、勤務時間が増えてきており、食事などにはだんだん手が回らなくなっているようだ。昼も出勤しなければならないときは、廃棄弁当で済ますことも多い。今の人数では夫婦どちらかは必ず店に出なくてはならないので、家族全員の団欒の時間はないだろう。
わたしたちバイトは人員を増やすように再三説得している。しかし、いつも「その余裕はない」といわれる。娘が大学にいくつもりなので、その分の学費を稼がなければならない。息子のほうもこれからどんどんお金がかかっていく。夫婦で出られるときは出て、人件費をなるべく抑えなければならないのだ。このままではいつ過労で倒れてもおかしくないと思うが。
Cタイプのフランチャイズ
店はオープンして9年以上経つ。駅の近くではないがロードサイドにあり、近くには工場、倉庫が多数立地している。近くには広い公園もあり、休日は行楽客で賑わい店は結構潤っていた。以前はバイトが17人いて、オーナーは土曜日には休みも取れた。
変わったのは、1年前100m先に他チェーンコンビニができたことだ。それで10ヶ月前に店舗を改修しリニューアルした。その際改修費を本部に出してもらう代わりに、FC契約がかわった。
FCシステムは、フランチャイザー(チェーン本部)とフランチャイジー(加盟店)という、それぞれ独立した事業体としてFC契約する。フランチャイザーはフランチャイジーにそのチェーンの営業権を与えて、商品開発、宣伝、経営指導などを行う。フランチャイジーは加盟料やロイヤリティ(チャージともいう)と呼ばれる、売り上げの一定量をフランチャイザーに支払う。主にオーナーが自分で店を所有する酒販店の転換組などに多いAタイプと、本部があらかじめ用意した店にオーナーを募って経営を任せるCタイプがある。
Cタイプはオーナーの初期投資が少なくてすむが、Aタイプよりもロイヤリティは高くつく。例えばファミリーマートだとAタイプでは総利益の35%がロイヤリティ額となるが、Cタイプになると55%から70%の率をかけるようになる。
店は当初は前オーナーが中古車屋である自分の土地の一部を使って建設し、その費用も中古車の売り上げを転用してまかなった。その際、自分では店の運営にかかわらず、知り合いである現在のオーナー(その時は店長と呼ばれていた)に店を任せていた。
1年前に大きな駐車場をもったセブンイレブンが、公園により近いところに新たにできた。売り上げが落ちたため、慌てて老朽化している店を改修することになった。前オーナーは8年経って店を手放すつもりだったので、チェーン本部が店と土地を買いとり、現在の店長とFC契約を結んだ。別の仕事をしていた奥さんも、マネージャー(これは単なる名目で実際はレジなど全ての仕事を行う)として店を手伝うことになった。
店は本部の費用で改修され駐車場も拡張して、10ヶ月前に改めてオープンした。Cタイプの店になったのである。 オープン当初は、売り上げはかなり伸びたが、それも長続きせず1ヶ月程度で改修前の状態に戻った。再オープンしたときに採用したバイトも長続きせず、採用した4人はすべて1ヶ月以内にやめてしまった。改めて採用したバイトは1人だった。さらに以前からいたバイトも、就職、引越し、受験勉強などでやめていき、結局再オープン時の人数の半分くらいの現在の人数になってしまったのだ。
店長は浮浪者とよばれるようになった
時々、廃棄弁当を求めて、ホームレスが店に来る。こうした人は最近増えたように思う。「この店は貰える」ということが知れわたってしまうとまずいので、店長からは断るようにいわれている。まあ、どうせ捨てるのだし、ごみ捨て場の倉庫から夜にこっそり持ち出すことは黙認しているようだ。バックルームでダンボールを敷いて眠り、足の匂いを煙たがられ、起きたら廃棄の弁当を食べるオーナーの生活は、もうこうした人たちと大差はないため、バイトの間では「浮浪者」と呼ばれはじめている。
人を採る余裕がないのなら、もっとロスを減らしていけばよい。大量に出る廃棄は加盟店の原価負担であるが、店では食料品だけで1日3万円近くに上る。発注の精度を上げれば、もっとそれを減らすことができる。しかしそういった経営状態の改善を考える余裕は、今の店長にはないようだ。1日1日店を維持することで一杯一杯。疲労からますますロスも増えていく。
最近は仕事が終わりきらず、残されていることが多くなった。朝来ると、本来は夜に搬入するはずの商品のケースが、大量に残されている。わたしたちが慌ててやっているが、半分ぐらい終わればいいほうだ。終わらなかった分のしわ寄せは、次へ次へと持ちこされていく。人数を増やさない以上いずれパンクしてしまう。アルバイトの中では増えていく仕事に不満もたまっている。
本部はどうしているのか。経営状態をチェーン本部は指導する義務がある。ロイヤリティは本部の加盟店に対する経営指導についての対価でもある。だが、「本部? そんなの昔から何もやっちゃくれないよ」とオーナーはいう。商品発注、接客、従業員の採用といったことについて、あるのはマニュアルだけで実質上店任せなのである。多すぎる廃棄が一向に減らないことからも、店がほっとかれているのが分かる。
たまに本部社員が抜き打ちで店舗を見にくるが、やることといえば、ちゃんと従業員はネクタイつけているのかとか、深夜にちゃんとおでんをやっているのか(深夜は維持費ばかりがかかるので店側はおでん類や中華まんなどはやりたくない)といった、チェーンイメージにかかわることについての監視である。個別の店への経営指導は行われない。
仕方がないから、先日、募集告知の紙を、勝手に店の入り口に張ることにした。手薄な夜勤と中夜勤を募集して2、3件の電話があった。何か文句をいわれるかと思ったが、店長はとりあえず面接をするようだ。予算が乏しいので実際に採るのは1人か、よくて2人だろうが。
誰でも簡単にオーナーになれてしまう
人間の限界に挑戦しているような店長の生活。こうした苦労が全て経営者の実力不足からくるものならば、仕方ないのかも知れない。確かにわたしの店長は、発注、人事の点ではかなり問題があり、お世辞にも経営者として優秀とはいいがたい。その点で自己責任の部分があると思う。
しかし、店の平均日商はセブンイレブンで減ったとはいえ53万円くらいで、同チェーン店の平均日商55万円と比べても大差ない。にもかかわらずオーナーが人を採らないのは、ロイヤリティの負担がきつすぎるからだろう。
24時間365日営業自体が、人件費の面で大きな負担になっているのだ。深夜帯はわたしの店だと売り上げ全体の10%を占めているに過ぎない。多くの加盟店オーナーが深夜になどやりたくないという気持ちであろう。しかしこの24時間経営の義務は厳しく、冠婚葬祭の場合でさえ、本部の許可なしには休業も時間短縮もできないのである。もし勝手に休めば、本部に罰金を払わなければならない。最悪の場合、法外な額の違約金をとられて契約を解除される。オーナーは否応なしに店を維持しなければならないのだ。
ほとんどのコンビニ本部は、加盟店募集の条件に夫婦あるいは親兄弟で働けることを挙げている。家族の賃金をゼロとみなして働かなければ、平均的な日販を上げても利益が出ない仕組みになっているからだ。実際、今日のコンビニはほとんどがFC店で、本部が直営する形態はほとんどみられない。店員が本部社員なら、週休2日で1日8時間勤務が原則となり、福利厚生や有給休暇も必要になってくる。それでは人件費が高くついてしまい、利益を出すのが難しいからだ。
コンビニは、1970年代前半に誕生して以来、急速な勢いで売り上げ、店舗数を拡大してきたが、これを可能にしたのはチェーン本部の負担が少ないFC契約なのである。FC契約の形態も、以前は多かったAタイプから、わたしの店のようなCタイプへと移ってきている。Aタイプは店舗建設の費用などで、1500万円から2500万円くらいの費用がかかる。Cタイプは当座の資金は加盟金などの700万円から800万円ですむ。このためCタイプのオーナーには脱サラしたサラリーマンなどが多い。経営に関しては素人であるケースが多いのだ。さらに最近は各チェーンはオーナーの年齢制限などを緩和し、拡大を図ろうとしている。例えばセブンイレブンは、2005年にそれまで50歳以下に設定されていた年齢制限を55歳に引き上げた。これにより契約期間の15年が終了する70歳まで、オーナーを務めることができるようになった。ローソンではこれまで55歳以下に限定していたが、2005年にこの年齢制限を撤廃した。20歳以上ならだれでも加盟店に募集することができるようになったのだ。中高年のリタイヤ層を取り込もうとしているのだ。中高年なら退職金や年金があるため初期投資に耐えうる資産があるからだ。
しかしこうした事態の進行に対し、経済法学者の山本晃正は『コンビニフランチャイズチェーンはどこへ行く』(花伝社)で、「フランチャイズ加盟店のおかれた環境をそのままにして、膨大な失業者などをフランチャイズ予備軍として受け入れるとすれば、事態はますます悪化し、さらに深刻な被害が発生する危険があります」と警告している。
コンビニは戦国時代に入っている
加盟店でも、なんとか利潤を増やして、適正な店舗経営が行われている店はたくさんある。しかしそうした店でも、明日もそうであるという保障がある店はどこにもない。いつ、どのような形で他店舗が新規参入してくるか、それを防ぐことは誰にもできないからだ。他チェーンのみならず、同チェーンがライバルになることもあるのだ。既存店の250mに建設されたケースもあるそうだ。そうなると客の取り合いになり、加盟店の売り上げは落ちる。チェーン本部にしてみれば、その地域でのブランドイメージを浸透させたいとの名目だが、出店させることで得られる加盟金や、ロイヤリティ収入の拡大が目的なのである。
またコンビニ同士の競争のみでなく、他業種との競争も激化している。例えばスーパーマーケットとは、これまで営業時間帯によって一定の住み分けがなされていた。しかし2000年に「大規模店舗法」が改正されたことにより、営業時間を拡大するスーパーが急増している。イオン系をはじめとした大型スーパーが、今では多数深夜営業を行っている。24時間経営は最早、コンビニの専売特許ではなくなっているのである。さらにデニーズや吉野家といった外食チェーンの進出も加速している。食品販売に儲けの多くを依存している経営上(その他のさまざまなサービスは大半が利益率は低い)、これらも大きなライバルである。
にもかかわらずコンビニ店舗は、現在もその数を増やし続けている。日本経済新聞の調査では、2004年におけるコンビニ店舗数は4万2749店。コンビニの本家であるアメリカでは、1店舗あたりの人口が3000人を切ると飽和状態になるといわれた。今や日本では2989人で、この数を下回ったことになる。そのため大手チェーンは経営不振店を積極的に閉鎖し、よりよい場所に新たな店舗を作るスクラップ・アンド・ビルドを行っている。セブンイレブンをはじめとした大手チェーンは、地方を中心に積極的に店舗拡大を進めていくという。ファミリーマートなどはアジアにも積極的に進出している。
しかし既存店舗では、現在売り上げが下がり続けているのだ。2000年以降は毎年、前年比で0・7%から2・1%の割合で下がっているのである(日本フランチャイズチェーン調べ)。全店の売上高は上がり続けているが、これは新規店舗の売り上げが上乗せされるからである。経営状態が好調だから店舗を増やしているわけではないのである。もともとコンビニの出店攻勢は「多産多死」といわれ、店舗数の増加も大多数の出店と多数の閉店舗を元に成りたっているのだ。
潰れるのを気にせず店舗を増やし、ロイヤリティ収入を増やし続けようとする各コンビニ本部は、タチの悪いサラ金みたいなものだと思う。しかし他が進出してくる以上、手をこまねいているわけにはいかないのだろう。こうした競争によって地方の中小チェーンが軒並みつぶれ、セブンイレブンなどの大手チェーンによるシェアの寡占が進んでいる。「勝ち組」と「負け組」の格差はコンビニでも拡大しているのだ。いずれにせよ各店舗はますます疲弊していくばかりだが、競争はいったいいつまで続くのだろうか。赤い目をこすって、今日もバックルームに引き上げるオーナーの姿がある。
(コンビニ店員、大学生)
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(2006年4月25日発行 『SENKI』 1210号6面から)
http://www.bund.org/culture/20060425-1.htm