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ドビルパン仏首相がCPE(新雇用制度)を撤回
ヨーロッパ 雇用・福祉政策が内包する矛盾
グローバル化する世界で、労働人口の移動が引き起こす問題をどのように解決するかは、国内の失業や貧困、格差の問題と密接に絡んでくる。フランスやアメリカで大規模なデモが政権を揺るがしているが、少子化で労働人口不足が予測される日本にとっても痛切な問題だ。
移民・雇用問題が世界を揺り動かす
フランスのドビルパン首相は26歳未満の若者を雇った場合、2年間は理由を示さず解雇できるとする新雇用制度(CPE)の撤回を発表した。CPEは、昨秋フランスに広がった旧移民の若者らによる暴動を受けて、1月16日に突如として打ち出された若者向けの雇用政策である。若者の雇用拡大を狙った法案だが、十分な議論も尽くさぬまま3月初めにはCPEを軸とする機会平等法として成立し、月末にはシラク大統領によって公布された。これに抗議する若者や労働者のデモやストライキが全国を席巻し、ついに撤回に追い込んだのである。
ソルボンヌをはじめとする各大学では、68年のパリ5月革命以来といわれるバリケード封鎖が行われ、2度にわたるゼネストと最大で300万人の街頭デモが組織された。CPE撤回を受け、若者代表は「街頭行動の勝利」と語り、労組も「社会運動の勝利」とコメントしている。
撤回は来年の大統領選挙をめぐる、ドビルパン首相とサルコジ内相との軋轢が作用したともいわれる。だが、街頭に圧倒的な力があったことは否定しようがない。かつてルソーが直接民主主義の「一般意志」こそ国家の理性たり得るとした、フランスの伝統がまさに今に生きているのである。
その一方でアメリカでは、4月10日、移民規制強化に抗議する移民らのデモがワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルスなど全米100カ所以上で行われた。350万人が「移民に職の機会を」「われわれはテロリストではない」と訴えた。
米下院は昨年末、不法移民対策としてメキシコ国境沿いにフェンスを設置すること、不法移民であることを知りながら雇用すれば、雇用者に1件あたり2万5千ドル(約295万円)の罰金を科すことなどを内容とする移民改革法案を可決した。デモ参加者らはこの法案に反対し、法律化阻止を訴えている。
もともと移民大国であるアメリカは移民に対する寛容度は高く、制限付きとはいえ年間67万5千人の移民を受け入れ、グリーンカード(永住権)を取得する道も開かれている。問題は1200万人を突破したといわれる不法移民だ。これを治安対策の対象としたのである。劣悪な労働条件で雇用される不法移民は、建設現場やビルの清掃などに従事し、事実上米国経済を下支えしている。治安対策を理由に彼らを一方的に閉め出せば、社会的な混乱は避けられない。
フランスは終身雇用制度から若者の雇用をためらう企業に、解雇を「自由化」することで雇用を促すという規制緩和を目指した。これに対しアメリカの場合は、治安志向型の規制強化をその内容とする。その意味で位相は180度異なっているのだが、共通しているのは雇用の安全を脅かす国権の強行に対して、労働者の激しい抵抗が生み出されたということである。
EUにせよNAFTA(北米自由貿易協定)にせよ、経済のグローバル化のもとでは域内の労働力移動は制限しきれるものではない。好景気で労働力が不足すれば、移民を必要とする企業サイドの圧力が高まる。労働者はより有利な条件を求めて移動する。しかし一旦国内で失業がすすめば移民は排斥の標的となる。ネオナチなど極端なナショナリズムが台頭するのも、国内労働者の失業問題と直結している。
日本でも3K労働を中心に外国人労働者を受け入れている。加えて、減少に転じた労働人口をカバーするための施策として、移民受け入れについて本格的検討の時を迎えている。移民をめぐる国境と民族の問題は、21世紀の世界で新たな火種を醸成しようとしているのである。
福祉から労働への転換は道半ば
フランス政府はCPEに代わる失業対策として、16〜25歳の若者を雇った企業への補助金を拡充することを発表した。無資格などの理由で就職できない若者と無期限雇用の契約を結んだ雇用者に対し、国が支給する補助金を増額する案が軸になる。規制緩和による解雇自由化から、いわば「大きな政府」型の対策へゆり戻った格好だ。
若者や労組代表は歓迎の意志を示しているが、欧州諸国のメディアの反応は冷ややかである。 昨秋フランス全土に広がった移民系住民の若者らによる暴動が、これらの事態の背景にあることだ。
フランスでは1960年代に、アルジェリアやチュニジアなどアフリカの旧植民地から出稼ぎ者が大挙移住してきた。現在、移民は431万人に達し、総人口の7・4%を占める。フランス政府は法律により宗教的背景の統計をとれないが、イスラム系住民が多い。
暴動の中心となったのは、これら移民系住民の2世3世の若者たちだった。移民に対するフランスの基本的政策は「同化」である。フランスではイスラム系住民に対する公共教育の場での「スカーフ禁止」のように、政教分離原則から宗教的、民族的独自性は認められない。そのかわり「出生国主義」をとっているために、移民の子でもフランスで生まれれば国籍が与えられる。
フランスには、「不安定都市区域」(ZUS)と呼ばれる地区がある。暴動が起きた多くの町は、これら移民の多い貧困地区で、一般のフランス社会に比べ格差が著しい。失業率をみても国全体のほぼ2倍、若年層では約40%に達する地域もある。ZUSに住む若者が職を求めても「移民系の名前と郊外の住所」で差別される。サルコジ内相が彼らを「社会のくず」と呼び、侮蔑的な姿勢をとったことも若者の怒りに火をつけた。
だが、問題はそれほど単純ではない。フランスは社会福祉制度が充実しているため、子供1人あたり10万円の補助金がでる。福祉対象者は高度医療も無料で受けられ、成績が優秀であれば、大学まで学費もかからない。このため失業者でも、生活がそれほど困窮しているわけではない。
にもかかわらず、ZUS地区の治安が悪化するのは移民家庭の子供の養育放棄の問題が大きいといわれる。政府は養育義務を果たさない親に対しては、家族手当を支給しないとの強硬方針で臨んでいる。そのためこれらの家庭は福祉から取り残されてしまっている。「社会の中に居場所がない」という若者たちにとっては、それは差別と格差固定化に映ずるのである。
だがそれをふまえたうえでなお、給付行政に依存し活力を失ってしまっている、社会の一面を見ないわけにもいかない。その意味でCPEは、巷にあふれる若者失業者に「福祉」を与えるのではなく、「労働」に吸収することを、とりあえずは志向したということができる。だがそれは移民だけでなく、すべての若者にも支持されることはなかった。
「理由なく解雇できる」という、とてつもなく乱暴で雇用者にばかり有利な内容もさることながら、フランスの政治家の官僚的な体質による対話不足が起因している。サルコジ内相の「社会のくず」発言が端的だ。英エコノミスト誌は「仏の政治家は過去20年間、なぜ仏が(グローバル化に)適応する必要があるのか、有権者に率直に説明することを怠ってきた」と批判している。
もともとフランスではグローバル化への警戒心が強く、2005年には移民増加への不安から、EU憲法批准が国民投票で否決された。しかし労働市場流動化はEUの経済・政治統合のためには避けて通れないことでもある。イギリスやスウェーデンでは移民の受け入れが好景気を支えているという成功例もある。移民が税収や消費を向上させているのだ。
ハンガリーのペテルEU問題担当相は「今は欧州の競争力を向上させるべき時期だ。(移民制限のような)矛盾は放置できない」と述べている。フランスが再び国内を活性化させていくためには、グローバル経済を見据えたフランスなりの「第3の道」の選択が不可欠だろう。
「万能の政府」に依存する福祉の給付システムを転換しつつ、移民に対する差別的な対応を改め、格差を固定化する政治のあり方を刷新していく以外に解決の方途はないのだ。そのとき街頭にあふれ出た若者のエネルギーは、有効な力として社会に活きていくだろう。
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就学援助を受ける児童・生徒が急増
格差拡大は教育機会の平等も奪っている
中国脅威論を背景に、集団的自衛権容認では自民党と何ら変わらない姿勢を見せていた前原民主党が、スキャンダルに寄りかかった「メール問題」で自滅した。かわって代表に就任した小沢一郎氏は、A級戦犯の靖国合祀を批判し、「勝ち組だけが得をする社会を変える」と表明している。小泉改革ですすんだ格差社会を是正し、近隣諸国との友好を取り戻すことは何より喫緊の課題である。
格差社会の進行を象徴するものとして「就学援助」の増加が注目されている。朝日新聞が報道して反響を呼んだが、その概要は次のようなものだ。公立の小中学校で文房具代や給食費、修学旅行費などの援助を受ける児童・生徒の数は、04年度までの4年間で4割近くも増え133万7千人に達している。
都道府県で最も受給率が高いのは大阪府の27・9%で、東京都の24・8%、山口県の23・2%と続く。大阪や東京では4人に1人が援助を受けていることになる。市区町村別では東京都足立区が突出しており、93年度は15・8%だったのが、04年度には42・5%に達した。同区内には受給率が7割に達した小学校もある。
給付の基準は自治体によって異なるが、前年の所得が生活保護水準の1・1倍から1・5倍の範囲に設定されている場合が多い。支給額は年平均で小学生が7万円、中学生が12万円である。つまり低所得家庭が圧倒的に増えているのである。
問題は、格差の拡大が子供の学力に影響することだ。塾に1カ月に何万円もかける家庭がある一方で、学用品や給食費の補助を受けざるを得ない子供が133万人を超えているのである。義務教育課程においてこれだけの格差があるのだ。今や日本では「機会の平等」が失われているというしかないだろう。
義務教育の保護者はおおむね若い世代であると言われる。この世代の格差進行は非正規雇用の拡大と無縁ではない。子供たちに教育機会の平等を保障するには、イギリスのブレア政権が貧しい家庭の子供たちが経済的に自立できるように導入したCTF(チャイルド・トラスト・ファンド)などが参考に値するだろう。
同時に、保護者が子育てのための収入を確保できるように、就業の保障、良質な保育の提供、賃金格差の是正なども欠かせない。小泉首相は「格差が出るのは別に悪いことだとは思っていない」(2月1日、衆院予算委)とうそぶいている。「構造改革」によって、公平に競争できるという機会の平等が実現され、既存の格差はなくなると思っているのだ。
こうした中で、一昨年度から国は補助金を一般財源化してしまった。このために就学援助の実態を一律に把握することも困難になった。昨年度からは、「準要保護」(生活保護に準ずる程度に困窮している)への援助に対する国庫補助がなくなった。
そのため一部の自治体では、「準要保護」の資格要件を厳しくするなど、縮小への動きも始まっている。しかし平等に教育を受ける機会が奪われれば、公正な競争など絵に描いた餅でしかなくなるだろう。
小沢民主党は、小泉首相の「小さな政府」に対抗する現実的な政策を、はたして打ち出すことができるのであろうか。
(2006年4月25日発行 『SENKI』 1210号1面から)
http://www.bund.org/editorial/20060425-1.htm