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2006年の焦点「ドル」の鍵を握る日銀(1/13)
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/tamura/index.html
2006年の国際経済の最大の焦点はドルの安定に絞られ、その鍵を握るのが日本の金利政策という予感がする。というのは、2005年のドル高傾向を支えていた米国への過剰なまでの資本流入に異変が生じる可能性があるからだ。
米国では連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長がバーナンキ(現大統領経済諮問委員長)に交代して、グリーンスパン議長の利上げ政策に終止符を打つ公算が強い。
「ドル安定の条件」が潰える可能性も
一方で、日銀が量的緩和を解除し、ゼロ金利政策を転換するようだと、日米の金利差は縮小に向かう。これまで拡大してきた日米の金利差はドル高の主要因のひとつになっていた。ヘッジファンドは日本でゼロ金利の円資金を調達し、高い金利のドル資産で運用し、莫大な利益を上げてきた。しかし、日米金利差が縮小に向かうと予想すれば、この流れは止まるか、逆流しかねない。
もうひとつ、ブッシュ政権が打ち出した米多国籍企業の海外利益を米国に送金した場合の法人税優遇措置が2005年末で打ち切られた。すると、3000億ドル以上の規模にも上るとウオール街が見積もっていた巨額の本国送金が一挙に細る。ドル安定の大きな条件が2006年には一挙に潰えるかもしれない。
今回のドル・円の局面を考えるとき、筆者は1980年代後半に駐在していたワシントンでの体験を思い出す。筆者は懇意にしていたFRBの首脳部の一人から呼ばれ、「あなたはどう思うか」とかなり際どい内容の見解を聞かされ、議論していた。この幹部はプラザ合意の中心人物である当時のジェームス・ベーカー財務長官の腹心で、ベーカー長官の意を汲んでは筆者と月に1,2度、彼の執務室で非公式に会見していた。彼の話の大半は「日銀の金融政策批判」である。87年10月のニューヨーク株式市場大暴落(ブラックマンデー)のあとは、彼の日銀の政策分析はとりわけ微に入り細にわたっていた。
“懇談”で見せられたベーカー長官腹心のノート
88年2月末、筆者が東京に帰任すると挨拶にいくと、彼は「これを見てくれ」と膨大なデータ・ブックを開いた。そこには日本の短期市場金利の数値がびっしりと書き入れられていた。「日本はドルの安定のために協調すると口では言いながら、実際には金利を高めに誘導しており、金利差が縮小する。これではアメリカへの資本流入は起こらず、ドル相場はもっと弱くなるではなるばかりだ」。メモもとらない非公式の「懇談」だが、彼の口調は厳しく、政府・日銀や日本の金融機関、機関投資家に「アメリカの意志」を伝える意図があからさまだった。
日銀マンはワシントンには常駐していない。同じ警告は大蔵省(現財務省)のワシントン駐在を通じて日本政府にも流れていた。ベーカー・竹下ラインも強力だった。日銀には猛烈な圧力が加わった。日銀内部では異論が続出したが、結局はそれに屈し、金融引き締めを断念し、超金融緩和政策変更のタイミングを逃し、株式・不動産バブルをますます膨張させた。当時の日銀マンにとっては痛恨の極みだっただろう。
20年前より弱体化した「ドル基盤」
今や日米の金融関係は20年前に回帰する可能性が高い。基本的に、日本の対米従属色の濃厚な「対米協調」は不変である。中国、韓国との関係悪化も「日米関係さえ良好であれば」という小泉純一郎首相の発想をみれば、むしろ対米依存は強まっている。この政治的な日米関係の枠組みの中で、ドル及び米国の金融市場の安定に日本が協力することが、米国経済を支え、世界経済の拡大につながるという認識は日本の各界の指導者にしっかりと根づいている。
ドルの基盤は今、安定しているようでいて、実は20年前よりもはるかに弱体化している。米経常収支の赤字が国内総生産(GDP)比で2倍以上に悪化したばかりではない。対外投資資金を含めGDP比で十数パーセントもの資金を外部からの流入に依存する米国経済の構造的な脆さは、ドル相場を揺さぶる。
米金融市場とドルを支えてきたのは、もちろん、日本ばかりではない。中国を筆頭に日本を除く東アジア各国・地域も通貨当局が中心になってドル債を買い続け、1990年以降、15年間で7倍以上と外貨準備を増やしてきた。
だが、日本ほど、米国に忠誠を尽くす主要なパートナーは東アジアにはいない。香港を加えると日本をしのぐ外貨準備を積み上げた中国は米国債を買い増ししながらも、折りに触れて「ドル資産以外での外貨準備の運用の模索」を口にして、ワシントンを牽制する。「人民元切り上げ」をめぐり中国との摩擦を抱える米国は、日本からの支持をますます必要とする。
「日米金利差」の維持は日銀の裁量ひとつ
米国経済はと言えば、2004年後半から始めた利上げの効果で減速を予想する見方が増えている。「インテル、ウエアハウザーなど米国の主要企業の専属アナリスト19人が2005年11月に集まって2006年以降の米国景気予測をしたところ、6人がことし第3四半期まで、5人が来年前半までに後退局面に入ると回答した」と、ロンドン在住の米国人金融アナリストで友人のアーノルド・シムキン氏は言う。シムキン氏は筆者と同じく、ドルの安定が2006年の米経済最大の課題と注目し、「日銀の量的緩和解除に対する米国の警戒は日本の政界にも伝わっているはず」と読む。ドルを安定させる最後のよりどころは日本であり、ドルの梃子となる日米金利差を維持する決め手は利下げに転じる動機の強い米国にはなく、ひとえに日銀の裁量にかかるからである。
「対米協調」圧力、注目される日銀の対応
バブル崩壊後の不況の最中、筆者は当時「日銀のプリンス」として将来の総裁就任が嘱望されていた福井俊彦理事に会った。福井氏は「国際協調というものが、各国経済に大きなスウィングを生んだことは反省すべき。国際協調は今後とも必要だが、もっている実体経済への意味合いというものを、詰めながらやっていくことが重要だ」と総括していた。
福井氏が今日銀総裁として、「ゼロ金利」という中央銀行としては異常な金融政策を変更できるかどうか、市場需給に応じて金利を操作する正常な金融政策への回帰にあえて踏み切るかどうか、世間の耳目を集めている。しかし、それは国内問題では済まされない。福井日銀の本当の試練は、80年代後半の教訓を生かせるかどうか、国際協調、つまり対米協調という日米関係を背景とする巨大な政治的圧力にどう対応するか、である。
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/tamura/index.html