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ライブドア・ショックが依然として市場全体に大きな影を落としている。本コラムでは、1月10日の『今週の金融市場の展望』以来、日本の株式市場での小幅調整の可能性を指摘してきた。2月初旬(節分)頃を底とする調整の可能性を指摘してきた。
ライブドア・ショックは先週1週間でかなり吸収した感があったが、週末にNY株式市場で株価が急落し、週明けの東京市場の空気を大きく冷やしてしまった。23日のNY市場の動向が注目されたが、NY市場は取りあえず落ち着きを取り戻した。23日のライブドア幹部の逮捕により、東京市場も落ち着きを取り戻しつつある。内外市場は出直りに転じてゆくのではないか。
いまのところ、日本経済の基調に大きな変化は生じていない。企業業績は好調であり、株価水準は依然として割安と判断できる。筆者は2006年央に向けての株価上昇見通しを現状でも維持している。
昨年8月8日以降の株価本格上昇の第二波動が昨年10月24日から本年1月13日にかけて観測されたが、3ヶ月弱で日経平均株価が3348円上昇したのちの求められていた調整局面が、「ライブドア・ショック」をきっかけに発生したものとみなすことができる。
ライブドアの法令違反については、今後の捜査の成り行きを見守るしかないが、新聞報道などで報じられている、「偽計取引」、「風説の流布」、「粉飾決算」などの容疑が事実だとすれば、極めて深刻な問題であると言わざるをえない。
株式市場が健全に機能するための最大の条件は、(1)情報の適切な開示、(2)投資家の自己責任原則の貫徹、(3)透明なルールの設定および取引所インフラの完備、の三つである。
ライブドアにかけられている嫌疑は、(1)情報の適切な開示、に関するものである。取引を偽装し、決算を粉飾し、風説を流布して、不当な株価形成と不正な利益獲得が実行されていた可能性が高いとされている。
投資家に対する自己責任は、完全な情報開示を大前提としている。開示される情報がゆがめられていたのでは、投資家に自己責任を問うことは不可能になる。市場が健全に機能を発揮する根幹がゆがめられていたことになる。
他方、取引所の責任も重大である。当然のことだが、適正な情報開示を確保するためのルール、監視体制が市場の健全な運営には不可欠である。会計操作上の不正を排除することは、米国のエンロンやワールドコムなどの事例を見ても困難であるのかもしれないが、不正な会計処理を排除するための監査法人や取引所の機能が十分に効果をあげていたのかどうかを検証する必要があるだろう。
また、流動性の供給は証券取引所の根源的な機能である。取引所の根源的な機能において致命的な欠陥を露わにしたことについては、厳正な責任処理が求められる。市場の第一の存在意義は流動性の供給である。市場が開いている以上、投資家はいつでも株式をキャッシュに転換することができる。これが取引所の第一の機能である。取引量の増加を原因とする取引所の閉鎖は、ハイテクを駆使する現代の証券取引所の常識では理解できないお粗末な事態であった。東京証券取引所の責任が厳しく問われなければならない。
昨年8月以来の株価急騰は、8月8日終値11,787円から10月4日終値の13,738円が第一波動、10月24日終値13,106円から1月13日終値16,454円が第二波動となっている。上昇の期間と幅は第一波動が約2ヶ月で1960円、第二波動が3ヶ月弱で3348円である。1月13日から1月18日の調整が1204円となっている。
今後の焦点はNY市場である。NY市場では1月6日に4年半ぶりに11,000ドル台を回復したが、その後反落に転じている。『金利・為替・株価特報2006年1月17日号』には、「米国株価が単純に上昇できるのかどうかについては、まだ慎重に見ておくべきであると思われる」と記述した。1月20日にNYダウが前日比213ドルの下落を演じ、NY市場も株価上昇に水を差された状況となった。
米国株価の調整の背景は三つである。原油価格の上昇、追加的金利引上げの可能性、日本市場の調整である。原油価格はナイジェリア、イラン情勢の緊張感の高まりに加えて、ウサマ・ビンラディンの米国に対するテロ警告が伝えられ、先物市場中心に急騰した。米国では1月31日にFOMCが予定されているが、地区連銀の総裁などが追加利上げの可能性を繰り返し示唆している。こうしたなかで、日本市場の混乱が伝えられ、これも心理的な悪影響を与えたものと考えられる。
原油市況の動向には引き続き注意が必要であるが、基本的に1月13日以降の日本株価調整局面は大きなチャンス到来局面と見ておくべきである。1月10日、1月17日の本欄で、節分頃までの株価小幅調整の可能性を指摘したが、第三波動に移行する前の押し目が形成されている可能性が高い。
今週は国内では、24日(火)に第三次産業活動指数、26日(木)に12月貿易統計、27日(金)に12月全国、1月東京の消費者物価指数が発表される。第三次産業活動指数は前月比0.1%のプラスとなり、2ヶ月連続のプラスとなった。消費者物価指数は2005年11月に2年1ヵ月ぶりに前年比プラスを記録した。量的金融緩和の縮小、ゼロ金利政策解除の重要な指標となるだけに、関心が寄せられている。来週30日(月)には、12月鉱工業生産指数が発表される。生産活動の「踊り場脱却」が確認されるかどうかが注目される。
米国では25日(水)に12月中古住宅販売、26日(木)に12月耐久財受注、27日(金)に2005年10−12月期GDP速報および12月新築一戸建て住宅販売が発表される。GDP成長率の市場予想は前期比年率2.8%で、7−9月期の4.1%を下回ることが予想されている。住宅販売の減速と成長率低下が確認されれば、金利引上げ終結観測が補強されることになる。
原油市況の動向に注意が必要であるが、それ以外にはいまのところ日本の株式市場の基調に大きな変化は観測されていない。日本では、昨年8月以降の株価水準修正が持続していると考えられる。米国では金融引締め下での株価ボックス相場が持続している。日本では、年央に向けて株価上昇が持続すれば、株価上昇−景気心理上昇−支出活動活発化のサイクルが作動して景気回復基調が維持される可能性が高い。
米国では追加的に2回程度の金利引上げが予想されるが、金利引上げ終結後は株価が上昇波動に転じる可能性が高い。インフレが回避され、成長率は小幅低下するものの、「インフレなき成長」は持続する公算が高い。
警戒を要するのは原油市況である。イラン情勢、ナイジェリア情勢、ロシア・ウクライナ情勢、テロ発生のリスクなど、原油市況に影響する要因が流動化している。原油市況がWTIで1バレル=70ドルを突破すれば、金利引上げ強化観測、インフレ懸念が再燃するだけに十分な注意が必要である。
為替市場では、1ドル=112円から1ドル=117円のレンジ内でのボックス相場が暫く続く公算が高い。長期金利は株価の調整を受けて小幅再低下したが、2月以降、株価反発、景気回復持続となれば、金利は再上昇に転じるだろう。日本の金融政策についての論議がますます拡大してゆくことになると考えられるが、日本銀行に対する外部からの圧力を排除することが重要である。財務省による日銀支配が画策されていることが現状での最大の問題点である。十分な警戒が必要である。
ライブドア経営陣の逮捕は、日本の政治潮流の局面転換を画する非常に重要な出来事である。小泉首相も武部自民党幹事長も竹中総務相も、昨年9月11日総選挙に際して、ライブドアの堀江社長を全面支援したことについて、責任を表明せず、自己弁護を繰り返している。
日本の国権の最高機関は国会である。国会議員は国民を代表して国会に送り込まれ、国家の重要な意思決定に直接かかわる極めて重要な職責を担っている。政党は国会議員を中心に国会で活動を展開し、自らの政治的主張の実現を目指す集団である。政党は、総選挙に際して、この目的を実現するため、能力、見識を備えた政党の行動方針に適合する最良の人物を候補者として擁立して選挙戦を戦うのである。
先の総選挙で自民党は堀江候補を全面的に支援した。小泉政権の「改革」路線を主張する「旗手」として堀江候補を位置付け、武部幹事長、竹中総務相が現地入りして全面的に支援したのである。その候補者が日本の資本市場に重大な汚点を残しつつある。多数の一般投資家を欺き、自己利益の不正な増大を図っていた疑いが濃厚に持たれている。
堀江氏は自らの著書のなかで「金さえあれば人間の心さえ動かせる」との価値観を示し、また、政治については、「割に合わないから絶対に政治家にはならない」と記述していた。その堀江氏を小泉政権は「改革の旗手」として総選挙のシンボル候補者として擁立したのである。
小泉政権は一方で、高齢者の医療費を激増させる措置を着々と進め、また、障害者に対する国からの支援を冷酷に削減する、「障害者自立支援法」なる羊頭狗肉の名称をつけた法律を国会で成立させた。拝金主義を奨励し、弱者に対する冷酷な対応を是認する政策方針を「改革路線」と名づけ、小泉首相による独裁体制を強化してきたのである。
堀江氏を総選挙で全面支援したことについて、小泉政権は政治責任を明らかにすべきである。竹中総務相はこれまで「がんばった人が報われる」社会の創出を主張してきたが、現実は「運の良い人、法の抜け穴をかいくぐる人、恵まれている人だけがますます恵まれる」状況が一段と強められている。「がんばっているのに報われず、冷たい仕打ちを受けている」国民が多数存在する現実から目をそむけ、「拝金主義」、「市場原理主義」ばかりを奨励しているのが実態である。
前原民主党代表は国会での代表質問で、筆者の主張と同様の考え方を「効率的だが人に温かい政府」の創出を目指すべきだと述べた。小泉政権の推進してきた政策路線は、「さして効率的でもなく人に冷たい政府」をもたらしてきている。国民に「痛み」を受け入れることを求めるなら、まず政府が「痛み」を受け入れる姿勢を示すのは当然だ。「天下りの全面禁止」こそ官僚天国を是正するもっとも分かりやすい施策だが、小泉政権は政府系金融機関改革において、「天下り全面禁止」をいまのところ示していない。
「ライブドア」、「耐震構造偽装」、「米国産牛肉輸入解禁」の三点セットに加えて、「公務員天下り制度」が1月20日に開会された国会の重要論点である。小泉政権の基本スタンスを白日の下にさらし、その抜本的是正を国民に問う意義ある国会論戦が望まれる。
メディアはライブドア幹部の逮捕を大きく報じているが、昨年の総選挙に際して、メディア自身が堀江氏を時代の寵児として取り扱い、小泉首相の「刺客選挙」を全面的にバックアップしたことをしっかりと総括し、自己批判する必要がある。他人をその場その場で責任感もなく批判し世論を誘導し、自らの過ちについては頬かむりすることに対する「恥」を認識しなければ、メディアの堕落は是正されない。
メディアの多くは、小泉政権の「市場原理主義礼賛」路線に対して迎合してきた。メディアの報道姿勢が国民の意識形成に甚大な影響を与えてきたことは紛れもない事実である。ライブドア・ショックを契機に政治の潮流が転換し、メディアの偏向が是正され、国民意識が正しい方向に誘導されることを強く念願する。
2006年1月24日
植草 一秀
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