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(回答先: 負の遺産にあえぐ米企業(上)医療費・年金、重く――生産移転し膨張回避。【日本経済新聞】 投稿者 hou 日時 2006 年 1 月 24 日 21:52:07)
2006/01/14, 日本経済新聞 朝刊, 7ページ, 有, 1371文字
米ジョージア州にあるゼネラル・モーターズ(GM)ドラビル工場が二〇〇八年閉鎖される。職場を失う社員の表情は一様にさえないが、二十八年勤続のロバート・ウッズ(58)の最大の心配事は、退職後の医療費のことだ。昨年肺がんと診断されたウッズは、会社が提供する医療保険のおかげで治療費を一切払わずに済んできた。
社員、退職者に保険料や治療費の負担をほとんどさせず、ED(ぼっき不全)治療薬まで世話するGMの医療保険は「キャデラック並み」と皮肉られるほど手厚い。
GMが「丸抱え」の医療保険を整備したのは一九六〇年代後半だ。業績が絶好調だったうえ、健康な若い社員が多く、退職者も少なかった。ところが七〇年代以降の相次ぐ工場閉鎖で、現役社員が二・五倍の退職者を支える逆ピラミッド構造に変わった。
業績にかげりが出てきたころに、会長のリチャード・ワゴナーが「制御不能」と呼んだ米医療費の急騰が、さらにGMに重くのしかかった。
公的医療保険がない米国は、基本的に医療の価格を市場に委ねている。政府が価格を規制している他の先進国に比べ、高価な最先端の治療法や新薬の開発競争が進む半面、医療費の上昇には歯止めがかかりにくい。心臓病やがんを治す高度医療の普及や、高齢化も医療費の急騰を招いた。
二〇〇五年の米国民医療費の見通しは約一兆九千三百億ドル。過去十年間で倍増し、国内総生産(GDP)比で他の先進国平均の二倍近い水準だ。
医療費負担の急騰を受けて米国内では、社員に対する医療費負担を削る企業が相次いだ。米カイザー財団によると、昨年までの五年間で、社員に医療保険を提供する企業は六九%から六〇%に減少。ゼネラル・エレクトリック(GE)は〇三年、労組の激しい抵抗を押し切って、従業員の医療費負担を増やす医療費削減を実行した。
だが、強力な全米自動車労組(UAW)の抵抗もあってGMは保険制度を維持、医療費負担は全米一の年間五十六億ドルと「フォードとクライスラー、北米トヨタの合計」(ワゴナー)にまで膨張してしまった。車一台あたりのコストにして約千五百ドル。ライバル、北米トヨタは同約二百ドルとの試算もあり、特に退職者に対する医療費負担が競争力回復の大きな足かせとなっていた。
GMはようやく昨年十月、UAWと、医療費の一部を組合員が負担することで合意した。会社側負担を年間十億ドル削減できるという。ドラビル工場のウッズにも退職後は、少なくとも月二十一ドルの保険料と年間七百五十二ドルを上限にした医療費の自己負担が生じる。
企業が社員の面倒をみる米国の医療保険制度は、第二次世界大戦までさかのぼる伝統を持つ。当時の政府が企業に対し、不足する社員確保のための過度の賃上げを規制、代わりに社員向けの医療保険制度導入を奨励したのが始まりだ。
だが、GMも経営危機に見舞われ、かたくなに守ってきた伝統をついに放棄することになった。
米国社会の足元では、医療保険のない無保険者が毎年百万人単位で増え続け、四千五百万人を超えた。公的な医療保険は高齢者と低所得者向けしかない。企業の活力を何よりも重んじるこの国で、医療保険から企業が撤退した穴を埋める処方せんは、まだ見つかっていない。
=敬称略
【図・写真】GMの医療負担費は車1台1500ドル(GMドラビル工場、昨年10月)=AP