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私は、まさに「失われた十年」は、ほとんど似たようなメカニズムによって生まれたものだと考えている。【epicafe】
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投稿者 hou 日時 2006 年 1 月 09 日 15:33:45: HWYlsG4gs5FRk
 


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 著者の福田和也氏に対して、あまり品が良いとは言えない文体(週刊誌のエッセイなど)や、その風貌などで、正直言ってそれほど良い印象を抱いていなかったが,本書を読んで、その該博な知識と的確な分析に圧倒され、食わず嫌いであったことを反省した。

 本書は,石原莞爾の評伝(一部小説)という形をとりながら、昭和史(戦史)を追っていくというもので、読み手としては物語を楽しみつつ,福田氏の分析により思考に刺激を受けることができる一石二鳥的な良書である。石原と言うと,世界最終戦争論に見られるように,神がかった予言者的人物というイメージを抱いていたが,本書を読んで,彼の戦略眼の確かさや人間的暖かみも感じられて、石原に対するある種の偏見(と無知)は崩れた。

 本書は文庫本といえども,上下巻共に500ページ近い大作である。私なりに(組織論に偏っているかもしれないが)ポイントをまとめると、石原のようなエキセントリックな戦略の天才が組織の主流から追いやられ,東条英機に代表されるような,気配りに長けてはいるがヴィジョンを持たない学校秀才たちが実権を掌握し,やがて日本が集団思考麻痺に陥り,破滅していく過程を本書は詳細に描いているということができる。

 石原は,陸軍幼年学校(仙台)から陸大まで,きわめて成績優秀で,実戦においても確かな観察眼と予測能力を備えていたが、組織人としては日本的な常識や気配りに欠け,組織の傍流に置かれることになった。

 一方で,福田によれば,薩長閥に替わってエリートの主流になった学校秀才たちは,一枚岩とは言えず、その間隙を縫うような形で、東条英機のような気配りと調整に長けた人物が権力を掌握していくことになる。他の歴史書にも書かれているように、永田鉄山惨殺事件後、あるいは二・二六事件の責任をとって老幹部たちが退役した後,明確なヴィジョンをもって、統制派なり他の派閥をまとめることができるものがいなくなった。

 そして、東条のような、その濃やかな気配りにより人には好かれるが、状況を見通すこともできず、さらには適切な知識も欠いているリーダーシップ(というか、その欠如)により、辻政信のような中堅幹部たちの、危険きわまりない無責任な独断専行を助長させる結果になってしまった。

 ところで、私は中学や高校で世界史を習った時に、なぜ日中戦争を行ったのかよく理解ができなかった。しかし、本書を読むと、わからなくて当たり前に思える。なぜなら、戦争を遂行している本人たちが、なぜその戦争を行っているのか理解していないからである。

 組織論では、非常に優れた人たちが集まっても、愚かな意思決定を下してしまうという「集団浅慮」という現象が知られている。山本七平の「空気」の研究でも、日本における似たような現象が分析されており、本書でも、日中戦争から太平洋戦争開戦に至るまで、全く荒唐無稽な期待により、また、現場から突き動かされるような形で、ズルズルとなし崩し的に上層部の意思決定がなされていく過程が記述・分析されている。

 福田は、日中戦争における両国の交渉の失敗について触れ、次のように書いている。
「いったん『空気』が醸成され事態が動きだすと、その渦中で熱病のように現実感覚が剥落していく。(中略)現在のわが国が、かような自殺的現実喪失に陥っていない、と云うことが出来るだろうか。」

 私は、まさに「失われた十年」は、ほとんど似たようなメカニズムによって生まれたものだと考えている。だが、その分析は専門的に過ぎるので、別の機会に譲る。

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