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http://premium.nikkeibp.co.jp/retail/interview/10/
●米ウォルマート・ストアーズを筆頭として仏カルフールや独メトログループなど、欧米の小売業は米国や欧州各国に限らず、アジアなど様々な国に進出を果たしている。売上高30兆円を突破したウォルマートは別格としても、5兆円、 10兆円規模の小売業は何社もある。日本市場にも欧米のビッグプレーヤーが続々と参入したが、その前途は決して洋々とは言えないのが現状だ。しかし「日本の市場は欧米と違う」「日本の消費者の目は世界一厳しい」などと言って安穏としていられるほど甘くはない。
●日本の小売業も、参入する外資と戦いながら国内で展開するだけでなく、逆にアジアや欧米などへ乗り込んでいき、版図を広げていくことが必要になってくるだろう。そうして欧米の並み居る強豪に追いつき追い越すためには、何が必要なのか。IT化を中心として日本の小売業が抱えている問題点や欧米に比べて遅れている点、今後解決すべき課題などについて、野村総合研究所 ビジネスイノベーション事業部 上席コンサルタント NRI認定ビジネスアナリストの藤野直明氏に話を聞いた。
文/安藏靖志 写真/佐藤久
2005年9月15日公開
ITの導入は必ずしもすぐに効果にはつながらない
ITをどう使いこなすかが重要
──ウォルマートが西友と提携して日本市場に参入しましたが、必ずしもうまくいっていません。このため「米国流はそのままでは日本には通用しない」という考え方がありますね。
藤野: そういう意見をおっしゃる方が多いことも存じておりますが、私の見方は少し違います。もともとIT、情報システムを導入したからといって、それだけですぐに成果が顕在化するわけではないのです。 ITをどう使いこなすかが重要なのです。ウォルマートはそれをよく分かっていると思いますよ。来年には、首都圏で大型の物流センターを整備する計画が進められています。まだ仕組みを作ろうとしている過程にあると考えた方が良いのではないでしょうか。現在はプロセスの途上なので、そんなに簡単に効果が出てくるという話ではありません。そもそも業務改革やITの投資効果が顕在化するのには、ある一定以上の期間が必要なのです。
藤野直明 氏
これはどの企業にも言えることです。後から「しまった」と言っても、追いつくのには時間がかかる。これはなにも流通業だけに限ることではないのです。
トヨタ自動車が強いのはいわゆる業務オペレーションの優位性を中心とした「能力構築競争」に勝っているからだ、という考え方は、藤本隆宏先生(東京大学経済学研究科教授)の著作 (「能力構築競争──日本の自動車産業はなぜ強いのか」ほか) により広く受け入れられていることです。デルの場合もそうです。ただし後から真似をしてそれ以上の成果を出すことは非常に難しいのです。
──米国の小売流通業はIT化が進んでおり、日本はそれに比べて遅れていると言われます。日本の小売業が遅れている点や抱えている問題点はどこにあるのでしょうか。
藤野: これまでにも、いろいろな方がいろいろな側面から議論をされていますが、まず基本的にこうした国際比較は必ずしも容易ではなく、単純に一つの視点からだけで議論して理解できたと思うこと自体、避けるべきではないかと考えています。
私個人の感触としては、欧米と日本の双方の事情を、現場でのオペレーションの次元から、店舗開発などの業態遷移とその背景などの歴史的経緯までの総体として理解した上で、議論を展開されている方は少ないように思います。
藤野直明 氏
特に米国との比較では、空間的な相違や地価、人件費の相違、REIT(不動産投資信託)をはじめとする不動産証券化の金融手法などの制度的な格差、出店規制やロビンソン・パットマン法(同じ商品や数量、支払い条件、受け渡し場所など取引条件が同じであれば、すべての購入者に同じ価格で販売しなければならないという米国の法律)、特約店制などの制度的な制約の中での歴史的経緯など、単に表層の現象だけを観察していても理解できない、ビジネス環境の相違が歴然として存在するからです。お互いに簡単には理解することのない二つの世界が並立しているように思います。
さらに、IT活用の水準が基本的には企業単位のものであるとすると、米国と日本とを比較して一概に日本が遅れているという議論は少々乱暴な気もします。日本の流通業でも、ITの活用水準には大きな格差があることは事実です。このため「米国の小売流通業と日本の小売流通業と比較して」という漠然とした議論に対し、正確な回答は難しいでしょう。
──しかし一方で、米国流通業のIT装備と日本流通業のIT活用の内容とを比較した議論がよくなされていることも事実です。。
藤野: そうですね。私は、消費財流通に関わる幅広い企業を顧客としているコンサルティングファームの一人として、 “いかにして競争に勝ち抜いていくか”というテーマで、日々我が国の消費財流通に関わる多数の企業幹部の方々、トップマネジメントの方々から現場の実務に近い方々まで、比較的広い範囲で議論をする機会に恵まれています。かつ、幸いにも米国の流通業の方々や学識の方々とも議論することも多い立場におりますので、比較的両者を観察できる機会に恵まれていると思っています。ですからあくまで一般論としてですが、日本の流通業が持つ平均的な像を中心としてご回答したいと思います。