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(06年を読む 世界と日本経済:3)競争力、共通政策で
主な国のGDP(国内総生産)と実質成長率
◆仏首相経済諮問委員フィリップ・ヘルツォグ氏
●EU 自助と連帯、均衡重要
――昨年12月、欧州中央銀行(ECB)が5年2カ月ぶりとなる利上げに踏み切りました。欧州経済の復調ぶりをどうみていますか。
「06年も回復は続くと見ているが、力強さはない。潜在成長率は徐々に下がり、いまは2%程度だと思う。しかも、ドイツやフランスなどは輸出を頼りにしている。勢い、世界経済の動きに左右されることになる」
●最先端で後れ
――ドイツの自動車大手を筆頭に、人員削減によるコスト削減に必死です。競争力は高まっているのでしょうか。
「労働コストを減らす人員減だけでは、競争力は回復しない。モノ、サービス、その組み合わせなど様々な面での革新が必要だが、欧州は情報技術(IT)やバイオといった最先端の分野で米国などに後れをとっている。しかも、高い教育水準と技術力に、安い労働力をあわせ持つ中国のような国が競争相手になってきている」
――では、どうすればいいと。
「資源をどこに振り向けるかをよく考える必要がある。英国が金融分野に、フィンランドやスウェーデンがIT分野に集中して成功しているのがよい手本だ。小さな国が集まる欧州の中で、それぞれのナンバーワンが競いあったところで、お互いにつぶしあうだけだ。技術者を集め、研究開発のコストを分かち合えるようにするため、共通の政策を持って取り組む必要があるだろう。さもなければ、欧州は衰退するだろう」
●貧困が固定化
――欧州連合(EU)憲法条約の批准で、フランス国民の答えは「ノン」でした。EU予算などでも域内の対立が目立ちますね。
「各国バラバラの状態だ。これではグローバル化に対応できない。政治家は『国民を守る』と説明したが、高い失業率を目の当たりにしていては信用できない。だからこそ、『ノン』を突きつけた。欧州は変わらなければならない。必要なのは『守る』というメッセージではなく、『変化』というメッセージだ」
――パリ郊外での暴動は、他市や近隣国へと広がりました。経済格差の拡大による不満や不安が根っこにあるのでは。
「暴動を支持した人たちが確かにいた。フランスの移民政策の失敗ということに加えて、経済の問題でもある。失業や貧困な住宅などが特定の地域に集中し、固定化してしまっている。移動や変化を嫌がるという『労働文化』の問題も根深い」
「日本経済の回復に10年かかったように、欧州も、生まれ変わるのに、これから10年はかかるだろう。(労働コストの低い)旧東欧諸国がEUに加わり、労働市場は変わり始めている。ある程度の犠牲は必要だが、長い目で見れば正しい道だ」
――貧富の差の拡大をはじめとする「犠牲」には、目をつぶらざるを得ないのでしょうか。
「とても難しい問題だが、貧しい人たちを置き去りにすることはない。それが証拠に、欧州では高い税率が受け入れられている。ただし、あまりに高い税金は労働意欲を損なうし、税による再配分だけでは不十分だ。生涯を通して労働者が新たな技能を身につける機会を設け、新しい職を得るチャンスを与えることで、社会の溝を埋められるのではないか」
――社会保障に優れた欧州モデルで、競争に勝ち残れますか。
「問題は、自助努力と社会の連帯とのバランスだ。フランスを例にとれば、大量の退職者を抱えて、社会保障システムは苦しくなっている。労働市場をもっと柔軟にして支え手を増やすとともに、医療費などの無駄を減らすことが車の両輪となる。今はまだ答えがないが、グローバルな競争に耐えうる新しい欧州モデルをつくり出せると信じている」(ロンドン=青田秀樹)
◇ ◇
◆フィリップ・ヘルツォグ氏 65歳。フランスの国立理工科学校卒。国家統計局勤務、パリ第10大教授などを経て、97年から首相直属の経済諮問委員会委員。欧州議会議員(左派系)も3期務めた。著書に「欧州後の欧州」など。
http://www.asahi.com/paper/business.html