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参照投稿:農民のために何をすべきか:北京師範大学経済学院教授 鐘偉[中国経済新論]【所得再分配を合理的に行った戦後日本の農業政策に学ぶべき】
以下は、国立感染症研究所名誉所員の本庄重男氏が代表幹事を勤めるバイオハザード予防市民センターのニュースレター第32号(2005年5月) より引用
李昌平著、吉田富夫監訳/北村稔・周俊訳、NHK出版、2004年6月刊、2,000円
実に衝撃的な表題の翻訳本である。中国に少しでも関心のある人ならば、誰しも読んでみたいと思うのではないか。
1949年、毛沢東率いる中国共産党による革命運動の成功で中華人民共和国が成立した。それを聞いたとき、私は未だ20歳の旧制高校3年生であったが、感激で胸が一杯になった。苛酷な封建的地主制から解放された中国農民の幸せを思い、やがて彼らが世界平和と社会進歩にとり絶大な貢献をするであろうことを心から期待した。それから56年後の今日、この本の著者によると、中国の三農(サンノン)、つまり農業・農村・農民はほとんど壊滅状態にあるという。恐るべき激変と申すべきか。解放の喜びを表わす中国農民の面影と、絶望に打ちひしがれ農村を去って行く農民の姿とが交錯し、一体この現実をどう考えればよいのか私には答えが得られない。多くの難問を抱えているとは言え、日本の三農の情況の方が未だ希望がもてるのではないかと思ったりもする。
さてこの本は、中国共産党の中堅幹部(湖北省監利県棋盤郷の党書記、人口4万の郷)であった著者が書いたものである。1963年生まれの著者は、華中農業大学を卒業してから中南経済大学で経済学修士の学位を得、1983年1月から2000年9月まで17年余を農村の党機関幹部として人民公社解体以後の三農の変遷過程を経験してきた。著者は、2000年3月、湖北省の三農が直面している崩壊寸前の状況を訴え、中央政府が三農問題に十分な関心を持つよう求める手紙を、朱総理宛てに出したのである。そして、同年9月に党書記を辞任するまでのさまざまな経緯を書いたのがこの本である。それは決して中国農村の実情の単なる暴露本でも告発本でもない。農業経済学や経営学・農政学の素養が滲み出る分析力豊かな著者の三農の発展を願う熱情溢れる本であり、経済統計数字が不断に引用されている学問的にも十分通用する本であると私は思う。
この本の主部は15の章からなる。それに加えて、2つの序文(@“われわれは農民に借りを作り過ぎた”、杜潤生:元中央農村政策室主任;A“時代の代弁者”、泰朔:政治経済誌‘南風窓’編集長)、および加藤青延NHK中国総局長の“「中国農村崩壊」に寄せて”と題する序文、並びに監訳者吉田富夫仏教大学教授の“あとがき”も、この本の意図・内容を理解し、中国三農の現状を知るうえで大変有益である。
15の章のうち「ついに出された一通の手紙」と題する第2章は、著者の思いを凝縮して示している。つまり、著者が朱総理に出した手紙の全文ばかりか、手紙を書くまでの内心の葛藤や出すことを促した直接の動因がきわめて率直に書かれている。党内や中央・地方政府機関内における事勿れ主義・表面糊塗主義的風潮の充満、さらにもっと甚だしい汚職行為の横行等々に耐え切れなくなった著者は、朱総理こそが我が思いを理解し支持し農民たちを再び真に解放するための施策を行なって呉れるであろうと信じて、直訴をしたのである。妻の意見を求めて手紙を見せたところ、涙を流して読み終えた妻は著者を止めようとせず、進んでその手紙を発送してくれたと言う。別の章では、手紙に対する中央政府・地方政府の反応や、党と政府の官僚たちの著者への対応態度、農民の反応等が詳しく紹介されている。
ひとくちに言って、人口13億の中国人民のうち9億は農民である。その農民が今や農業では生きて行けないと自分たちの田や畑を捨て、つぎつぎに都会へと移動して行く。辿り着く先の都会でも恵まれた生活条件は得難く、ついには浮浪者のようになってしまったり、犯罪者集団に巻き込まれてしまう。驚くべきことに、農村地域で横行する高利貸しをしている人の多くは地元の共産党幹部や地方官庁の役人たちだとのことである。著者が党書記であった時期に友人から叫ばれた次ぎのような言葉さえ引用されている(40頁):「謀反を起こす者がいれば俺は諸手を挙げて参加するね。投獄も首切りも屁でもないさ。俺が失うのは貧困と鎖と卑賎だけだ。俺が喉から手が出るほど欲しいのは、平凡な暮らしと自由と尊厳なのだ!」。実に驚愕させられる意見ではないか。
蛇足を付け加える。中国農民が捨てた田畑の多くは、日本を含む外国資本の力による資本主義的経営の農場と化し、そこでは大量の化学肥料や農薬類を使用する農法が行なわれている模様である。その結果、土壌劣化・水質汚染等の環境問題さらには食品汚染による健康障害の発生を懸念せざるを得ない。日本資本による中国産の食品がわれわれ日本人の健康を蝕むという構図が成り立つ。「中国農村崩壊」は他人事ではないのだ。
この本を多くの人々が、決して反中国の視点からではなく、中国の農業・農村・農民の健全な再興・発展を願う立場で、是非読んで欲しいと思う次第である。