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http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200703/502893.html
アジアで「新型インフルエンザ」が発生したら、限られた区域に感染者とともにウイルスを封じ込め、世界各地への感染拡大を阻止する。この作戦がうまくいけば、全世界で数百万人に上ると推定される死者の数を、1ケタも2ケタも少なくできるだろう。ただし、タイムリミットは、アウトブレークから2週間以内−−。
こんなハリウッド映画に出てきそうなプロジェクトを実行しようとしているのは、アジアでの世界保健機関(WHO)の活動を統括するWHO西太平洋地域事務所(WPRO、本部:フィリピン・マニラ)だ。この4月2日と3日、アジア全土を舞台に、新型インフルエンザ封じ込めに関する大規模演習を実施する。
発生時には政府と連携して住民の移動を禁止
新型インフルエンザの封じ込め策は、日本の厚生労働省も検討しているが、これは新型インフルエンザが他国で発生した後、輸入感染症として持ち込まれた場合を想定してのもの。対してWPROのプロジェクトは、発生地域がアジアのどの国か、どの地域か、いつ発生するのか、などが全く分からない中で、発生した地域・国そのものを封鎖しようというもので、難易度がはるかに高い。成功すればパンデミックを防止できる、という実施意義の大きさもワンランク上だ。
実のところ、世界の感染症対策史上、ごく初期にウイルスの封じ込めが成功した例はまだないが、「それでもチャンスがあるならやるべきだ。成否のカギはスピード」と、同事務所長を務める尾身茂氏の決意は固い。
WPROの新型インフルエンザ封じ込め計画はこうだ。
ヒト−ヒト感染を容易に起こす新型インフルエンザウイルスの発生をいち早くキャッチし、対策チームを現地に送る。迅速な情報収集は、封じ込めの成功を左右する大きなポイントとなる。発生から2週間以内に対策が打てるかどうかが、成否を分けるともいわれるからだ。
そのためWPROは、日々、インターネット上のローカルニュースから新型インフルエンザ発症の疑い例を拾い上げるなどしている。確度の低い情報であっても、とにかく迅速に集め、その真偽は独自ルートを使って検証するという、地道で労力のかかる作業を続けている。
新型インフルエンザが発生したら、当事国の政府機関と連携して発生地域を封鎖。その区域のヒトや物資の往来をコントロールする。感染者の治療を開始するとともに、域内の未発症、感染不明の人に予防薬としてオセルタミビル(商品名:タミフル)を投与する。必要な食料、医薬品などを補給し、域内の人々に引き続き地域にとどまってもらう。ウイルスの保有が疑われる人がほかの地域に移動し、感染が拡大するのを防止するのが目的だ。
現実的には、人口が密集する都市部に感染が広がってしまったら、封じ込めは難しい。しかし現在、鳥インフルエンザのヒト感染が散発しているのは主に農村部だ。新型インフルエンザが同様に農村部で発生し、都市部に拡大する前に対策が打つことができれば、封じ込めが成功する可能性はある。
演習ではカンボジアでのアウトブレークを想定
4月2〜3日にWPROが実施する迅速封じ込めの演習では、「カンボジアのトンレサップ湖西岸で新型インフルエンザがアウトブレークした」という設定だが、その後のシナリオ展開はマスコミにも、演習で対策に当たるWPROのスタッフにも知らされていない。
WPRO のマニラのオフィスビル6階の一角に設置された「演習コントロールルーム」。ここから、患者数の増加、感染地域の広がりなど、実際のアウトブレークに続いて起こる不測の事態を想定した擬似情報が流れる予定だ。情報が流れる先は、同オフィスビルの対策チームをはじめ、演習に参加する東南アジア諸国連合(ASEAN)各国など。その情報に対して、あたかも現実のアウトブレークに対処するように、即興で封じ込め計画を実行していく。
動員されるWHOのスタッフは総勢100人以上。WPROのほか、スイスのWHO本部からも人員が派遣される。また今回、擬似発生国となるカンボジアなど ASEAN各国の政府機関に加え、日本政府も電話回線を通じてこの演習に参加することになっている。「演習ではうまくいかないことが多くあるはずだが、それでいい。ボトルネックはどこか、問題点を洗い出すのが今回の目的だからだ」と尾身氏は説明する。
幸いにしてH5N1型トリインフルエンザのヒト感染さえ起こっていない日本では、新型インフルエンザの発生を切迫感を持って感じることは難しいが、最前線基地では既に臨戦態勢が整えられつつある。今回のWPROの演習の成果が、来るべき新型インフルエンザによる被害の大きさを左右することになるかもしれない。
「封じ込め成功のカギはスピードだ」
WHO・西太平洋地域事務所(WPRO)所長 尾身 茂氏
感染症のアウトブレークを待ち構えて、発生したらドンと対策を打つ。理屈上では考えられるが、成功事例はない。新型インフルエンザの「迅速封じ込め」が成功すれば、犠牲者が大幅に減るわけで、これは新しい歴史の1ページになる。H5N1型の新型インフルエンザだけへの対策ということではない。
もっとも、インフルエンザの感染力は強く、封じ込めは簡単ではない。あっという間に広がってしまうので、成功のカギはスピードだ。今回の演習で確認すべき課題の1つはそこ。新型インフルエンザが発生したのか、していないのか。そのレポートにとどまっているようでは、対策は後手になってしまう。
確定診断が付くまでには数日間かかるが、それを待ってはいられない。情報が得られたら、疫学者を集めて集中的に議論する。それで「怪しい」ということになったら「見切り発車」でも、迅速封じ込めをやるしかない。決断は私が下す。
今回の演習ではうまくいかないことが多くあるはずだが、それでいい。ボトルネックはどこか、問題点を洗い出すのが今回の目的だからだ。ちなみに、この迅速封じ込め計画が立案できたのは、日本からASEANへの支援で50万人分のタミフルがストック(シンガポールに保管中)できたからともいえる。日本の貢献は大きい。
ただし、タミフルだけで感染症が制圧できるわけではない。発生初期には、新型インフルエンザワクチンも間に合わない。成功の決め手は19世紀的な方法、つまり隔離をいかに迅速に徹底してやれるかだ。感染症というのは、感染者が感染していない人に接触し、広がる。拡大を抑えるには、感染者を未感染者に接触させないことだ。そのことを忘れてはいけない。(談)
小田 修司=日経メディカル
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